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奪われた禁書

ガラテアが大学に来てから数日たったある日、私は夕方まで魔法史に関する本を読んでいた。私のほかには数人しかおらず、とても静かだったので集中することができた。

私はガラテアのことが気になり、彼女の母国ビザンツ帝国における魔法研究について調べていたのだ。


ビザンツ帝国は、詠唱魔法を組織的に教える大学を作り、世界で初めて魔法を軍事において組織的に使用した国家である。

これまで、戦争において魔法は、数人の魔法使いが各自殺傷能力のある魔法を放つような使われ方をしていた。このような使い方では、魔法使いは数で押されたり、飛び道具で集中的にねらわれたりして無力化されてしまい、特段脅威になる存在ではなかった。


しかし、ビザンツ帝国は、軍隊の中に魔法専門の兵科をつくり、戦場で組織的に魔法を利用したのである。

特にビザンツ帝国の魔法軽騎兵は、その機動性と長距離の攻撃力が有名であり、彼らは交互に魔法を放つことで、詠唱時間という弱点を補った戦法で、周辺諸国を恐怖に陥れたのである。


私は本を読み進めていくうちに、ビザンツには何人かの無詠唱魔法の使い手が歴史に名を残していることに気づいた。


帝国の版図を押し広げたユスティニアヌス帝に仕えた将軍ベリサリウスは無詠唱魔法の使い手、オスマン帝国から多くの領土を奪還し帝国中興の祖と呼ばれるコンスタンティノス13世も彼自身有能な無詠唱魔法の使い手だったそうだ。

コンスタンティノス13世は、大量の石を空高く投擲し、敵軍の頭上に大量の石を降らせることで、一人で敵軍を蹴散らしたという記録もある。


しかしどの程度強い無詠唱魔法を使えるかは才能によるところが大きく、継続的に強力な無詠唱魔法を使用できる魔法使いを輩出することは難しいようだ。現在では、ビザンツ帝国は詠唱魔法の研究と教育に国家を取り組んでいるため、無詠唱魔法は教えられていない。


ガラテアが無詠唱魔法を学びにオーストリアまで来たのはそのためだろう。ただオーストリアで教えられている無詠唱魔法も物を浮かせたり、火や水をすこし操ったり、彫刻を作ったりするくらいしかできず、わざわざ学びに来るまでもない気もする。


本を読んだり考えをぐらしていたせいか私はどっと疲れを感じた。



私がふと周囲を見渡すと、周りにいる人が待ったく動いていないことに気づいた。すぐに何の魔法が使用されていることに気がついた。周囲の魔力の流れがいつもとは明らかに違い、非常に強力な魔法が発動されている。


おそらく私だけに魔法が効いていない様だ。


すぐに立ち上がり、助けを求めようかと思ったが、下手に動くと魔法を使った人物と戦闘になるかもしれないと思い、私も魔法にかかったふりをして、しばらくじっとすることにした。



楽しそうな少女の歌声が聞こえてきた。ビザンツからの留学生ガラテアの声だ。


ギリシャ語の歌のようなので歌詞は分からないが、どこか物悲しいような懐かしいような歌だった。


彼女は私のそばを通り過ぎ、まっすぐ禁書が保管されている部屋に向かっていった。彼女は以前見た時よりも色白く、まるで幽霊か石像のようだった。彼女の長い髪が揺れる。

彼女の狙いは、おそらく帝立魔法学校附属図書館に保管されている禁書であろう。父上から中世の写本は非常に価値の高いものと噂で聞いたことがあるが、実際にどのくらいの価値があるのかは分からない。


彼女は、禁書が保管されている部屋のドア付近の壁の前で立ち止まると呪文を唱え始めた。5分ほど経つと、壁は轟音と共に破壊された。意識があるのはおそらく彼女と私だけなのだろう。轟音を立てて壁が崩壊しても、だれも身じろぎしない。


彼女は、楽しそうに声を上げて笑いながら、部屋に入っていった。彼女が着ている美しい紫色のドレスは、今の状況に全くあっていない。としばらくすると、彼女は3冊の本をもって部屋を出ていった。


「ふふふふ、オーストリアの警備はどうなっているのかしらね。扉には対魔法の鍵をして封印していたようだけど、壁はただのレンガ造りだったわ。ええそうね、私たちが強盗にでもなったらたちまち大金持ちでしょうね。」


そういいながら、彼女は再度私のそばを通って、部屋を出ていった。


彼女が立ち去ってしばらくすると、一人一人と魔法の効力がきれていった。もちろん大騒ぎになった。禁書の車庫が破壊されてていることに気づいた図書館の職員が大学警察に通報、教授と魔法犯罪に特化した警察がきて、事情聴取….とお決まりの流れだ。



私は、警察に私が見たことを話そうか迷っていた。彼女に協力者がいれば、彼女はすでに盗んだ本を所持していないだろう。

取り調べを行っても証拠が見つからず、ガラテアを逮捕できなかった場合、留学生に濡れ衣が着せられたとして外交問題に発展する可能性がある。ましてや私はエルストハージ家のものだ。逮捕できなかった場合、家名にも傷がつく。

そもそも、図書館にいる全員の動きや意識を完全に封じる魔法の存在など誰が信じるだろうか。


私は迷った結果、私が見たことは警察には話さないことにした。


もちろん何もしないわけではない。現状、彼女が非常に強力な魔力をもち、複雑な魔法を使用できるということしかわかっていない。彼女と戦うには、彼女を徹底的に調べ、弱点を見つける必要がある。


まずは、彼女と会話して何か情報を聞き出せないか試してみることと、盗まれた禁書が何なのか、どのようなことが書かれているのかを調べることから始めよう。


「私もそれなりに腕は立つけど、一人でガラテアには勝てないわね。それに彼女と戦うには戦力が必要だわ。私の取り巻きを徹底的に鍛え上げるしかないかしら。」


そう独り言を言いながら私は帰路についた。

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