苦しい恋心を何とかしたい令嬢の話
「スマイリー様!」
「ごめん。リリア、これから生徒会で勉強会があるから今月のお茶会は無しで」
「そ、そんな」
最近、婚約者のスマイリー様がおかしい。
全然構ってくれなくて悲しい。
胸がキュウと苦しい。
そんな時はどうしたら良いのかしら。
私がお手紙を書いてもそっけない返事しかこない。
友人に相談しても。
「婚約者なのですから大丈夫ですわ」
「そうかしら」
「リリア様はグイグイ行きすぎです。少し引いて見たら・・」
「はい」
しばらく声をかけなくても、スマイリー様の素っ気なさは変わりないわ。
思わずメイドに愚痴ってしまいましたわ。
「どうしたらいいかしら・・・」
「お嬢様、とっても良い方法がございます」
「まあ、メリー、何かしら」
「私が懇意にしている先生がおります。今度、一緒に参りましょう」
「いいわ」
☆☆☆王都大戦果報告会
連れて行かれたのは、王都の一等地にある変わった教会ですわ。
そこで直々に偉い先生に面会しましたの。
年配の女性ですわ。
「いいですか?恋心が苦しいと言うのは宿業の問題です。過去世に何か酷く男を振った事があるのかもしれませんね」
「そうでしょうか?」
「実践です。まず。大戦果!と唱えて下さい」
「はい!」
「大戦果!大戦果!大戦果!・・・・・」
☆三時間後
「・・・・大戦果!」
チーン!
「もう、いいでしょう。過去世の宿業が少し浄化されました。来世では婚約者とラブラブになるでしょう。でも、現世でもラブラブになりたいのなら、もっと教会の活動に協力しなければなりません。
素晴らしい壺がこざいます。え?お金がない。大丈夫です。この手形にサインをして下さいませ」
「さあ、お嬢様、恋の苦しさを何とかするチャンスですよ」
「はあ、はあ、意識がもうろうとして・・・考える力がないですわ・・」
「さあ、サインを、それと機関誌大戦果新聞を五部ほど取ってくださいませ」
「・・・はあ、はあ、では・・・ってなりませんわ!!!」
「「ヒィ」」
「メリー、貴女はクビよ!」
「そ、そんな!」
・・・・・
危なかったですわ。
あれは新興宗教のようですわね。
もう、他人は信じられませんわ。家族ですわ。
お兄様に聞きますわ。
「う・・・ん。それは剣を振ると嫌なことを忘れる・・・婚約者殿に注意しようか?」
「いいえ。それは結構ですわ。剣ですね」
☆
「1.2.3!・・・・・」
☆数時間後
「・・・999。1000・・・はあ、はあ、はあって!ダメですわ。忘れられませんわ!!!」
・・・・・
学園でモヤモヤしていたら、声をかけられましたの。
もう、騙されませんわ。
「リリア様、リリア様」
ツン!
「私、エリザベートですわ」
「ヒィ、ゴルド辺境伯令嬢エリザベート様!失礼しましたわ」
一学年上のお姉様だわ。王子殿下の婚約者ね。
「リリア様、ごめんなさい。噂になっていますわ。恋心を何とかしたいとの悩みなら、とても良い先生を紹介出来ますわ」
「誰ですか?もう・・・私、騙されたくなくて、ヒィ、ごめんなさい」
「大丈夫ですわ。ただ、婚約者殿のスマイリー様へのお手紙に男爵令嬢サリー様に弟子入りをしたと書けば良いのです」
「はあ、そんなことですか?」
スマイリー様にお手紙を書いて、サリー様を紹介してもらいましたわ。一学年上の男爵令嬢。
裏庭で会いましたの。
まあ、ピンクの髪、ピンクブロンドですわ。可愛いらしい方ですわね。
「ちょっと、貴女、下級生じゃない?何をしに来たのよ。エリザの紹介だから仕方なく会っているのだからね!」
「はい、婚約者が素っ気なくて、もう苦しくてどうしたら良いか方法を教えて下さいませ」
「馬鹿にしているの?!」
「いいえ。本気です。お礼も払えます」
「分かったのだからね。苦しかったら、グイグイ行くべきよ!私はそれしか方法を知らないわ!」
「はい、それで結構ですわ」
「まずね。ハンカチ落としよ!」
「ええ、ハンカチを落とす?」
意中の殿方の前を歩き。ハンカチを落とす。
それでハンカチを拾ってもらって会話のきっかけになるとの方法?
☆
「違う!もっと自然に!」
「はい、サリーお姉様!」
他にもいろいろな方法を教えてもらった。
「殿方の前でダイブ!」
ズトーンと倒れる。やだ。ドレス汚れないかしら。
でも、これで良いのかもしれない。
皆、抽象的な事しか言わない。
当たって砕けろ。
殿方の気を引く方法ね。やるわ。
「裸足で木登り!猫ちゃんがいたら尚可!」
「裸足で木登り。猫ちゃんがいたら可!」
「キャー!キャー!バラのトゲが髪に挟まっちゃった!」
「キャー!キャー!バラのトゲが髪に挟まりましたわ!」
「ツンデレ言葉よ。基本、~~~だからね!じゃないんだからね!が語尾。男は馬鹿だからデレをしなくても勝手に脳内で想像するのだからねっ!」
「はい、サリーお姉様!」
「あんたなんか好きじゃないのだからねっ!」
「はい、貴方などお慕いしていないのですわっ!」
「いいじゃない。アレンジいいじゃない!」
「有難うございます!」
先生から楽しく殿方の気を引く方法を学んでいたら。
スマイリー様がいらしたわ。
何を今更・・・
【リリア!】
「あら、スマイリー様」
「手紙を読んだ。そこまで思い詰めていたなんて・・・すまない今、王宮に仕官出来るか瀬戸際なのだ」
「まあ、そうでしたの?」
「ああ、ダメだったらガッカリさせるから言わなかった・・・今度、婚約者同伴でパーティーがある。これから一緒にマナーを学ぼう。一日中ずっと一緒になる。だから、ピンク髪の弟子になるなんて恐ろしい事を言わないでくれ!」
「分かりましたわ。でも、サリー様はとても良い方ですわ」
「まあ・・・そうだろうよ。チィ!」
「まあ、お礼は必ず渡しますわ」
サリーの方に向かって、チィと舌打ちをしてスマイリーはリリアの腰に手を回して、裏庭から去った。
入れ違いのように、裏庭にエリザベートが現れた。
「フフフフフ、まあ、サリー様、ご高名ね」
「ちょっと、私を当て馬にしたわねっ!許さないのだから!」
「あ~ら。殿方にはキツいお仕置きになるわ。婚約者が貴女に弟子入りすると書けば大慌てなのよ。では。ごめんあそばせ!」
「コラ!待つんだからね!」
「フフフフフ、まあ、サリー様、怖いですわ。私、いじめられていますわ!」
「キャア!待て!」
「ウフフフフフ、待ちませんわ!」
「キャ!」「ウフフフフ」
「「キャハウフフフフ」」
中庭で追いかけっこをしている辺境伯令嬢エリザベートと男爵令嬢サリーの様子を見たエリザベートの婚約者ヘンドリック殿下はつぶやいた。
「見ろ。また、追いかけっこをしている。仲良き事は美しいな」
側近の侍従候補も同調する。
「ええ、エリザベート様は男爵令嬢とも胸襟を開きますね」
「ミャン!」
殿下達の後ろの木の上で猫が鳴いた。
今日も王国は平和である。
最後までお読み頂き有難うございました。