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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第一章 OBEY
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第九話 捕縛

「どうか、お願い致します。蔦屋の主人は私が兄とも師とも慕う者。本間様の御力で、私も供にお連れ下さい」

「ですが、久藤様に御同行願っても、蔦屋の詮議は行わなければなりません。御触おふれによりけり、蔦屋を処罰せざるを得ない場合もあるのですよ?」

「もちろんです。私とて、あくまで御上の詮議に従う所存でございます」


 なだめすかそうと試みる本間の言葉尻を奪うように、少年がすかさず言い返す。

 やがて本間も根負けしたのか、高貴な身分の少年に勝ち目はないと判断したのか、肩で深い息を吐く。


「……仕方がございません。あなた様が、そこまでおっしゃるのなら」

「やめろ! 佑輔ゆうすけには何の咎もない……っ!」


 すると、千尋という名の蔦屋の主人が金切声を張りあげる。

 直後に下引き達に押さえ込まれ、ぬかるむ路地に無理やり膝を付かされた。そうして息を喘がせる千尋を振り向き、令息は冷笑しながら反論する。


「あなた一人が罪人つみびとで、私には咎はないとは言わせません。あなたと私は一蓮托生いちれんたくしょうなんですから」

「……一蓮托生だと?」

「言った通りの意味ですよ」


 口調に棘を含ませながらも、愛しむように双眸を細める。 

 御三家水戸藩の附家老久藤家の若君と、しがない呉服屋。本来ならば同席はもとより、会話ができる相手ですらない。

 久藤佑輔は、当惑気味の顔をした蔦屋を伏し目にしながら一笑したのち、ぬかるんだ路地に正座をさせられ、後ろ手に縛られた蔦屋の前に進み出る。

 

 と同時に、縄をかけた下引きが気圧されるように後ずさり、久藤と蔦屋を遠巻きにして息を呑む。


「千尋さんの縄を今すぐ外せ」


 久藤は十手を持った下引き達に下知をした。

 彼等は目顔で上役の本間に伺いを立てている。本間は無言で顎でしゃくり、『言う通りにしろ』と、指示をした。


 蔦屋に縄をかけられないのは癪に障って忌々しい。

 しかし、水戸藩附家老家の若殿様の命とあれば、従わざるを得ないだろう。

 やがて蔦屋は捕縛を解かれ、久藤の方へと肩を突かれて投げ出された。たたらを踏んでよろめく蔦屋を久藤が胸で受け止める。


「……大丈夫ですか? 千尋さん」

 

 縄目の跡が赤く残った手首をそっと持ち上げて、若君は気遣わしげに問いかけた。


「千尋さんに、こんなにきつく縄をしたのは誰だ、一体!」

 

 久藤は役人達をぐるりと見渡し、切れ長の目で威嚇した。

 与力の本間も下引き達もギクリと肩を波打たせたが、蔦屋が声高に叱責する。


「もう、よせ。佑輔! 子供のくせに出しゃばりすぎだと、いつも言っているだろう!」

「千尋さん」

「本間の旦那も、さっさと俺をしょっぴいてくれ」


 一瞬しょげて眉を下げた仔犬のような若君が、腹立たしげに踵を返した蔦屋の後を、慌てて追って走り出す。

 そんな二人に与力と下引き達が続くという、一種異様な光景を、沖田はなす術もなく見つめていた。


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