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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第一章 OBEY
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第八話 水戸藩附家老の若君様

 つまり、同じ京都守護職の会津若松藩主配下とはいえ、事実上、壬生浪士組はろくを受けない無頼者の集団だ。


「幕府の歴とした遠国奉行おんごくぶぎょうであらせられる京都町奉行の与力殿が、非正規の壬生浪士組に検断権を譲渡するなどできないと?」

 

 温厚な沖田が珍しくいきりたったその刹那、店の中から前髪が駆けつけるなり、番傘を差す与力の袖に縋りつく。


「でしたら、私も千尋ちひろさんと一緒にお連れ下さい!」

久藤くどう様……っ!?」

「お願いですから、どうか私も……」

 

 先程までの殺気を葬り去り、可憐な上目使いで哀訴する。


「馬鹿を言うな!」

 

 蔦屋つたやは、すぐさま怒鳴りつけた。

 だが、彼は蔦屋の主人をいさめるように冷然とした目で一瞥し、再び与力よりきに詰め寄った。


「私も二人斬りました。ですから私も同罪です」

「しかし、……久藤くどう様を町人の蔦屋と同罪という訳には参りません」

「ですから、この通り。後生でございます。本間ほんま様!」

 

 蔦屋に対しては傲然として振る舞った与力の本間の腰が引けている。

 そのうち久藤と呼ばれた少年は、困惑顔の与力に痺れを切らしたかのように、ぬかるんだ道に直に座ると平伏した。


「私もお連れ頂けないのでしたなら、千尋さんが戻って来るまで、こうしてここで待つまでです」

佑輔ゆうすけ、やめろ……!」

「ですが、あなた様は水戸藩附家老みとはんふかろう久藤家の御三男であらせられます。抜刀ばっとうして、とがを受ける御身分ではございません」


  沖田は与力の口から少年の水戸藩附家老の身分を明かされ、絶句した。


 尾張、紀州、水戸の、いわゆる御三家水戸藩附家老の若君が、町奉行如きに平身低頭せがんでいる。

与力の本間は惑乱し、下座する彼と目線をあわせて膝をつく。

 たかが奉行所勤めの分際で、水戸藩附家老の若君に、下座などさせては切腹もの。

 少年の土下座を解くために、本間は血眼になってあがいたが、少年が頑として動かない。


「水戸藩附家老の若君様……」


 沖田もまた徳川家親藩とくがわけしんぱん御三家の水戸藩と聞き及び、思わず声を上擦らせた。

 だとしたら、壬生浪士は名門中の名門の若君にやいばを向けた狼藉者。

 とはいえ、そんな名家の若君が供も連れずに、なぜ亰に。

 

 そのうえ言葉使いも対応も、彼の方が与力や町人の蔦屋より下の身分のそれだった。


 次々疑念がよぎる中、沖田は冷たい汗をふき出させた。

 蔦屋の所業の詮議どころか、こちらの首が飛びかねない。

 けれども彼は沖田を含めた壬生浪士の蛮行は、既に眼中にないように、与力の本間を凝視する。


 雨に打たれた前髪が額に張りつき、気品高い顔ばせから水滴を路地に滴らせている。

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