第六話 Obey
しかし、気づいた時には沖田の左右の隊士達が声もたてずに昏倒し、死体が斜めに重なった。
沖田は背後から振り下ろされた大刀を、咄嗟に抜き身で受け止めて、かろうじてその場に留まった。
けれども斜めに傾いだ身体ごと、あっという間に店の外まで押し出された。
摩擦で一瞬、草鞋の底が火がついたように熱くなる。
刀の圧を受け続ける沖田の踵が乾いた路地にわだちを作り、土埃を白く舞い上げた。
「うっ、くっ、……」
沖田は額の前で刀を支えて唸り出す。
渾身の力で柄を握る沖田の腕が震え出し、仰け反った半身が更に九の字に折れ曲がる。
沖田の刀に十字に刀を当てた少年の長い前髪が沖田の額に触れていた。
まるで鉛のように重い剣。
相手の刀をこんなに重いと感じたことは一度もない。
逆光になった少年の人相まではわからない。
だが、なぜまだ前髪の子供の刀がこんなにと、沖田は奥歯を食いしばる。
戦慄く沖田に刻一刻と、彼は容赦なく刀を寄せてくる。
このまま額を割られるのか。
沖田の脳裏を死の一文字が見え隠れした時だった。
「佑輔、やめろ!」
先刻まで鍔競り合いを交わしていた、若い男が沖田の前に割り入って、前髪の刀を脇差の切っ先で右に跳ね上げた。
そして直後に返し刀で胴を打たれ、沖田はがくんと膝をつく。
「He is an exception!」
沖田はなぜか叫んだ男に庇われる。
だが、前髪の少年は無言で彼を突き飛ばし、沖田に再び切っ先を向け、中段に刀を身構えた。
「佑輔!」
「Why is it (なぜです)!」
「You do not need to know it(お前には関係ないことだ)!」
「He injured you(奴はあなたに怪我をさせた)! I do not forgive him(私は絶対に許さない)!」
要所要所で異国語を使い、二人は沖田にはわかならい言い争いを続けていた。
「It is an order(やめろと言ったら、やめるんだ)!」
総髪の若い男が痺れを切らしたかのように、前髪の少年を怒鳴りつけた。
すると、彼は一瞬怯んだ顔をしたものの、程なく微かに失笑し、したり顔で頷いた。
「So、……I see(なるほど。わかりました)」
不気味な薄笑いを浮かべたまま、少年が沖田を振り返る。
「I can’t do that(それなら『言う通り』には、できません)」
改めて刀を上段に構え、無邪気なまでに澄んだ目で人を殺めようとする。
沖田は右手に刀を握ったまま、少年の魔力に魅入られでもしたかのように身動くこともできずにいた。
と、その時、店の中まで突き飛ばされた若い男が佑輔という少年を睨み据え、起き上がりながら呟いた。
「Obey、dear……」