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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第七章 LOSE一LOSE
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第七話 遅すぎる

 八月十八日の政変同日。

 正午過ぎに浅葱あさぎのだんだら模様の染め抜きをそろいで羽織り、市中を行軍する壬生組の姿があった。


 総勢五十余名。火消しにも満たない頭数だ。

 先陣を切る近藤の、小具足こぐそく烏帽子えぼし姿という時代遅れの扮装ふんそうが、

市井しせいの失笑をかってさえいた。

 

「……遅すぎる」


 千尋は傍らに添う佑輔に、言うともなしに呟いた。


 路地にあふれた野次馬の後列で様子見をする千尋と佑輔に、鉢金入りの白鉢巻を締めた沖田が会釈をして行く。

 彼は屈託のない晴れやかな笑みをたたえていた。

 仕事の貴腐きふを選別しないたちなのだろう。


 だが、今更御所に出張でばったところで、しゅたる御門は会津や薩摩などの有力藩士で固められてしまっている。

 実際、公武合体派の諸藩と公卿が深夜一時に参内し、すべての門を閉じさせたのち、長州藩に閉め出しを食らわせたまま朝廷で参議が行われ、孝明天皇の大和行幸やまとぎょうこうは、決行直前で辛くも延期とされた。

 

 この時点で長州藩は帝を御所からおびき出し、大和国経由で長州へ奪還だっかんせしめる夢をはかなく散らしたことになる。

 

 そのうえ、長州藩の後ろ盾にもなっていた三条実美さんじょうさねとみなどの攘夷派公卿の参内禁止。事実上の更迭こうてつとみなされた。

 そして、長州藩の堺町御門警護の罷免ひめんおよび、

 長州藩士のすみやかな退京を明記した朝議は、午前十時に可決されてしまっていた。

 

「いい面の皮だ」

 

 苦々しげに吐き捨てる千尋を横目にしながら佑輔は思う。

 沖田は千尋にとって今も『特別』なのだろうか。

 だから、こんなに我が事のように気を揉みながら歯噛みするのか。

 今、そのわけを尋ねたら、千尋は答えてくれるのか。

 

「俺はこれから人に会う。今日は戻らないから、花村さんにも伝えてくれ」


 行きかけた千尋は足を止め、振り向きざまに言いつける。


「それから、今夜はお前も堤さんも門下生全員も、蔦屋に呼んで籠らせろ。外の様子を気にして見に行くような真似はするな。絶対だ」


 未だ長屋住まいの堤や門下生の安全を案じた上での判断だ。

 万が一、長州藩に襲撃されても、佑輔、堤、花村の手練てだれがいれば、自分が戻って来るまでの時間稼ぎになるだろう。

 言いながら、早々に人混みに紛れる後姿に佑輔は何も答えない。

 あえて返事をせずにいたことにすら、きっと千尋は気づかない。


 佑輔は言われた通り長屋に向かい、子供のようにいじけて眉を寄せていた。

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