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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第一章 OBEY
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第四話 町人が武士を?

 柱やはりを避けるため、店の外に出ようにも、出口は主人だという青年が、刀を抜いて構えている。

 奥に戻れば番頭がいて胴を斬られ、壬生浪達は逃げ惑う。

 同志のむくろばかりが土間を激打し、血の海の中へ伏せられた。

 

 この店は、こうした大立ち回りを前提にした要塞ようさいだ。

 そのための低い天井であり梁であり、数多く立てられた柱であり、足場を取られる物を置かない簡素なしつらえだったのだ。


 芹沢が肩で息を喘がせていると、白い顔に返り血を浴びた青年が振り返り、険のある目で芹沢だけを射すくめる。

 握った刀を上段に構え、不敵な笑みを浮かべていた。


「……斬るつもりか?」

 

 芹沢は呟きながら退いた。

 町人が武士を?


 茫然自失の芹沢は、それでも背後に迫った花村の殺気を感じて、振り向いた。

 しかし、大立ち回りで酔いが回った芹沢は、たたらを踏んで態勢を崩し、冷たい土間に転倒する。

 思わず肩越しに仰ぎ見れば、店の奥を守るように、番頭の花村が刀を向けて立っている。

 また、前方では店の間口を塞ぐように、若い男がぬるい笑みを浮かべている。


 その彼が頭上で構える長脇差の切っ先が、夏の日射しを照り返すように閃いた。

 芹沢は、吹き出す汗が額から首にかけて血のように、噴流するのを感じていた。


 もはや、自分もこれまでか。


 かっと目を見開いた芹沢は、肩で息を喘がせた。

 けれども振り下ろされた若い男の脇差に、別の長い刀身が滑り込むように差し込まれ、蔦屋の刀を十文字型に遮った。

 そして、やにわに、


「先生、早く!」

 

 壬生浪士組副長助勤の沖田総司が蔦屋の主人と刀を交わしてり合いつつ、あっけにとられて座り込む芹沢に、何度も声高に訴えた。

 そのかんずっと沖田の額の真上では、二人のつばが焦れるようにキリキリと音を立てている。 

 それはまるできつく奥歯を食いしばる、 互いの歯ののようだった。


 突如として修羅場と化した蔦屋の前では、沖田とともに駆けつけた壬生浪士組の隊士らが、救護を求める呼び子をけたたましく吹き鳴らし、人々はみな悲鳴をあげ、三々五々に散って行く。

 

 泥酔している芹沢も若い隊士に脇を抱え上げられて、木偶でくのように引きずられながら店を出た。


 沖田は逃げる芹沢を視界の端で確認し、顔の前で合わせた刀を跳ね上げた。

 そしてそのまま刀を返すと、背後の男のみぞおちを柄で突き、振り返りざまに若い男の細い首を殴打した。


 青年は打ち据えられて土間に倒れたその直後、バネのように飛び起きて、自身の右手を肌けた単衣の内懐うちふところに突っ込んだ。


「動くな!」

 

 沖田は刃先を若い男の喉元に突きつける。


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