第六話 姦計
「あなたの話だと、私は会津に恩を売り、土方からは解放されたとしても、今度は長州藩を敵に回すことになります。結局、誰かを敵に回すんです。あなた方は朝廷を切り崩せずに、こんな子供まで政局の道具にしようとしている。違いませんか?」
「……その心配は無用です」
「その心配とやらは?」
「長州藩の報復です」
「なぜですか? 断言出来る根拠を明白にして頂きたい」
沖田はテーブルに肘をつき、顔の前で手を組んだ。
この涼しげな若者にしては珍しく、鷹にも似た鋭い視線を千尋に注いで揺るがない。
「あなたが協力して下さるのなら話します」
「協力するかどうかは、その話とやら次第です」
千尋は冷笑混じりに応酬した。
それでいて、隣で居すくまる佑輔の眼差しをひしひし感じて辛かった。
こんな殺伐とした会話は一刻も早く切り上げたい。
こんな悪どい姦計に身をやつす横顔を、佑輔に見られているかと思っただけでやるせない。
すると、沖田は組んだ両手で口元を覆い隠して言明する。
「朝廷を攻略出来れば、長州藩は失脚します」
とても静かに勧告した沖田と千尋は睨み合う。まるで鍔迫り合いのようだった。
「長州藩士は京から一掃されることになる。そして、あなた方の身の安全は壬生浪士組が保障します。今の時点で私がお話し出来るのは、ここまでです」
「沖田さん」
千尋を見ていた佑輔が視線を移して呼びかけた。
直近までの戸惑いに強固な意思で蓋をして、我劣らじと答申する。
「それを聞いてしまった以上、どのみち協力しない訳にはいかないのでしょう?」
「佑輔……?」
「宮には江戸にいた頃、慶勝公に伴われて幾度かお会い申し上げています。面識が全くない訳ではありません。慶喜公の名を出せば、お会い下さるはずですよ」
千尋の手から力が抜けた瞬間に、自分の手を引き、立ち上がる。
「佑輔! お前……」
そのまま廊下に向かう佑輔を千尋が慌てて後を追う。
けれども襖の引き手に手をかけてた佑輔が、千尋の追従を跳ね除ける。
糾弾に近い面持ちで。
「あなたが隠そうとするからですよ」
もうこれ以上、関係ないとは言わせない。
千尋が修羅にいるのなら、自分も飛び込む。千の剣も万の剣も受けて立つ。目顔で語る佑輔に、千尋は慄き、絶句した。
「……わかりました」
程なく千尋は顔を伏せ、拳をぎゅっと握り込む。
手の甲に筋が浮き出るほど強く。
「朝廷の攻略は私がお引き受け致します。帝の大和行幸を思い留まらせればいいんですね?」
「どうなさるおつもりです」
二人につられて腰を上げ、沖田が前に進み出た。
テーブルの角に沖田の腰が当たった拍子に卓上の洋磁器が硬質な音を響かせる。
「あなたは中川宮をとおっしゃいますが、公卿をいくらせっついても詮ないことです。彼らが危ない橋を渡ることはありません」
沖田に食ってかかる千尋の顔には殺気がみなぎり、一挙手一投足にも激怒が宿る。
体中から蒼い炎が立ち昇るかのようだった。
「その代わり、あなた方に一切佑輔は使わせない。それだけは申し受けたい。よろしいですね!」
千尋は続いて佑輔の胸を指先で突く。
「お前もだ。いいな? 佑輔。俺が引き受けたからには、余計な手出しはするんじゃねえぞ! わかったか!」
「千尋さん……っ」
佑輔は反論しようとしたものの、千尋は佑輔を押し退ける。
そして口汚い罵詈雑言を英語で吐き散らしながら座敷を出た。




