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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第五章 久藤祐輔
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第四話 私がやります

 つい先日まで、諸外国から仕入れた安価な生地で割安に商う蔦屋を国賊と呼び、忌避きひし続けた都人ばかりか、反幕勢力の長州薩摩の藩士の出入りもあるらしい。

 

 とはいえ、閑古鳥かんこどりが鳴いていた自分の店に客を呼びたいためだけに、あんな騒ぎを起こすのか。

 土方は自分の憶測を内心自分で疑った。

 客を呼びたいだけならば、浪士組を巻き込むほどの面倒事など起こさずに、もっと穏便で狡猾な手を打つだろう。

 蔦屋なら。


 少女のように可憐で品よく整った、あの呉服屋の野性味溢れる双眸が、嘲るようにゆるんだ紅い唇が、一瞬脳裏をよぎった刹那、思わず鋭く舌打ちした。

 答えの出ない問いかけに無理やり蓋をするために、何らかの理由を欲すると、引きずり出されるようにして蔦屋の目つきが蘇る。

 肩をそびやかせたまま踵を返す土方に、沖田は黙って従った。


 五条橋にさしかかると、川面を渡った涼風が二人の男の髷を揺らし、のぼせた頭を冷やしてくれる。

 澄んだ鴨川の清涼な流れ。

 そのせせらぎに数羽のさぎが脚を浸し、時折水草をついばんだ。

 沖田は一人で足を止め、朱塗りの欄干らんかんに手をかける。


「私がやります。いざとなれば」

 

 誰に言うともなく呟いた沖田を土方が振り返る。

 すると、前方からやって来た舞妓が沖田に近づくにつれ歩幅を落とし、俯く沖田を覗き込む。そして言葉をかけるでもなく、はにかみながら会釈した。


 おそらくどこかの宴席で沖田に侍った女だろう。

 しかし、舞妓の秋波に気がつきもせず、陰鬱な面持ちで川の流れを見つめている。

 土方は、袖にされて消沈する美形の舞妓を顎でしゃくって追いやると、沖田の隣に並んで続けた。


「何の話だ」

「土方さんは斬るおつもりでしょう」

「当たり前だ」

 

 土方は即答した。


「だが、工夫がいる」

 

 壬生組の痕跡を残さずやれとの意味合いだ。


「承知しています」

「助けはいるか?」

「いえ。私一人の方が動きやすい」

「お前が一人で?」


 問い返しながら、土方の胸に俄かに疑念が湧き起こる。

 沖田は生来、こういう鬼謀策略に乗じる事態をひどく嫌って避けてきた。

 人間の色と欲とを極端にいとたちなのだ。


「総司」

 

 土方は言葉を継ごうとした。

 けれども顔を伏せた沖田は無言で一礼し、足早に橋を縦断した。


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