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死か降伏か  作者: 手塚エマ
第三章 沖田総司
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第十四話 沖田総司

「お前が蔦屋つたやにとって特別ってのは、どういう意味だ」

「わかりません。私は面識もありませんし」

 

 くぐもる声で呟きながら爪を噛む沖田の手首を土方が取る。


「悪い癖だ。早く直せと言ってるだろう」

「わかっています」

 

 言いながら、沖田はもう片方の人差し指を虚ろな目をして噛み続けている。

 顎の細い優美な輪郭の面立ちで、品の良い柳眉やなぎまゆ

 奥二重の涼しげな目元に長い睫毛。

 鼻筋はすっきりと細く高く、唇は上下ともに薄かった。

 そんな沖田が思案げに眉をひそめていると、生来の色の白さもあいまって、色街の女のように妖しくもあり、儚げでもある。


 二十歳になったこの若者には、剣聖のような技と知性が裏目に出るのか、あらゆることに目端が利いて才知が働き、己を無駄に消耗させるところがある。

 土方は舌打ちだけして座を蹴った。

 監察方の宮迫も大八車の引手の枠の中へと戻り、前傾していた荷台を起こす。そのとき荷台から滑り落ちた腕を拾い、


「それじゃあ、私はこれで」

 

 と、人好きのする会釈を寄越した。けれども沖田が再び彼を呼び止める。


「すみません。最後にもうひとつだけ」

「はい。何でしょう」

「もうよせ、総司。関わるな」


 土方は沖田の肩を掴んだが、沖田は無意識のように肘でその手をかき除ける。


「『おべーい』って、どういう意味なんでしょう?」


 訊ねた沖田の脳裏にふいに、閨の睦言のように甘く掠れた蔦屋の声が蘇る。

 人間味のない整いすぎた顔立ちながら、冷たく底光りした目だけが鮮明に浮かぶのだ。

 首をすくめた沖田は思わず自分の二の腕を握っていた。


「『おべい』?」

 

 問い返した宮迫の顔がやにわに曇る。

 宮迫は居づまいを正して沖田を見据え、声を一段低くした。


「沖田さん。最初に断っておきますが、そんな言葉は知る必要はないですよ」

「なぜです?」

「相手の感情を害するからです」


 宮迫は沖田に答えたが、今度はその傍らの土方が身を乗り出せて問いを重ねる。


「それで、その言葉の意味は何だ。宮迫」

「『従え』ですよ、土方さん」 


 険しい顔で続けると、宮迫は瞠目をした沖田と土方に向き直る。


「これは、絶対的な権力者が奴隷や卑賤の下々《しもじも》に下知する時の言葉です」


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