第十四話 沖田総司
「お前が蔦屋にとって特別ってのは、どういう意味だ」
「わかりません。私は面識もありませんし」
くぐもる声で呟きながら爪を噛む沖田の手首を土方が取る。
「悪い癖だ。早く直せと言ってるだろう」
「わかっています」
言いながら、沖田はもう片方の人差し指を虚ろな目をして噛み続けている。
顎の細い優美な輪郭の面立ちで、品の良い柳眉。
奥二重の涼しげな目元に長い睫毛。
鼻筋はすっきりと細く高く、唇は上下ともに薄かった。
そんな沖田が思案げに眉をひそめていると、生来の色の白さもあいまって、色街の女のように妖しくもあり、儚げでもある。
二十歳になったこの若者には、剣聖のような技と知性が裏目に出るのか、あらゆることに目端が利いて才知が働き、己を無駄に消耗させるところがある。
土方は舌打ちだけして座を蹴った。
監察方の宮迫も大八車の引手の枠の中へと戻り、前傾していた荷台を起こす。そのとき荷台から滑り落ちた腕を拾い、
「それじゃあ、私はこれで」
と、人好きのする会釈を寄越した。けれども沖田が再び彼を呼び止める。
「すみません。最後にもうひとつだけ」
「はい。何でしょう」
「もうよせ、総司。関わるな」
土方は沖田の肩を掴んだが、沖田は無意識のように肘でその手をかき除ける。
「『おべーい』って、どういう意味なんでしょう?」
訊ねた沖田の脳裏にふいに、閨の睦言のように甘く掠れた蔦屋の声が蘇る。
人間味のない整いすぎた顔立ちながら、冷たく底光りした目だけが鮮明に浮かぶのだ。
首をすくめた沖田は思わず自分の二の腕を握っていた。
「『おべい』?」
問い返した宮迫の顔がやにわに曇る。
宮迫は居づまいを正して沖田を見据え、声を一段低くした。
「沖田さん。最初に断っておきますが、そんな言葉は知る必要はないですよ」
「なぜです?」
「相手の感情を害するからです」
宮迫は沖田に答えたが、今度はその傍らの土方が身を乗り出せて問いを重ねる。
「それで、その言葉の意味は何だ。宮迫」
「『従え』ですよ、土方さん」
険しい顔で続けると、宮迫は瞠目をした沖田と土方に向き直る。
「これは、絶対的な権力者が奴隷や卑賤の下々《しもじも》に下知する時の言葉です」




