表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死か降伏か  作者: 手塚エマ
第二章 土方歳三
12/43

第十二話 接点

「また、蔦屋つたやは江戸にいた頃から、同じく江戸で私塾を開いた蘭学者の堤永嗣つつみながつぐとも懇意にしています。蔦屋の番頭の花村は、堤の私塾の門下生でした。堤と蔦屋が共に江戸を出て亰に移る際、花村が蔦屋の番頭を務めるようになったと聞きました。堤は、蔦屋の近隣で一軒家を借りて洋学塾を開設し、亰でも蘭学らんがくや英語を教えるなどしています。久藤佑輔は、現在この堤の洋学塾の門下生となっておりまして、英語や蘭語を教えることもあるようです」


「なるほどな。そこが蔦屋と久藤佑輔の接点か。……だが、江戸にいた頃はどうなんだ? 一介の町人の呉服屋ふぜいと、水戸藩附家老久藤家の若君、どんな親交があったんだ」

「申し訳ございません。今のところ、そこまでは……」


 語尾を濁した宮迫は、即答できない己の不甲斐なさを恥じ入るように目を伏せる。


「まあ、いい。急な話だったんだ。これだけわかれば充分だ」


 監察方にねぎらいの声をかけ、下がらせようとした土方は、最後に思い出したように付け足した。


「そういえば、その久藤佑輔って奴はいくつなんだ。前髪らしいが、そろそろ元服してもいいはずの歳だろう?」

「数えで十五だそうですが、何しろあの顔ですからね。前髪を落とさせるのは惜しいと、慶喜公がごねておいでのようですよ」

「えっ……!?」

 

 それまで沖田は無言で背後に控えていた。

 しかし、十五と耳にするなり思わず声を張っていた。


 豊かな総髪を、ひとくくりにした長いまげ

 濡れたような黒い前髪。

 品の良い瓜実顔に切れ長の目と一文字の眉。

 濃い紅を引いたような赤い唇。

 繊細で妖艶な面立ちが、今も沖田の目の裏に焼きついたまま離れない。


「あれで、十五……」

「何だ? 総司」


 土方が肩越しに振り返り、ギロリと横目で睨んできた。


「いえ、……すみません。まさか、まだそんなに若いだなんて」

「お前と互角にやりあったらしいじゃねえか。十五と聞けば心外だろう」


 失笑混じりに皮肉を言われ、沖田は拳を握り込む。

 土方の物言いに腹が立ったわけではない。

 互角にやりあったなどと口が裂けても言えないことは、自分がいちばんわかっていた。

 あの時、蔦屋が仲裁に入って来なければ、確実に頭を割られていた。


 幼少時から剣聖などとおだてられ、いつしか奢りが生じていた。

 だからこそ十五の子供に打ち負かされた現実に、こんなにも動揺するのだろう。

 沖田は自身の未熟さに、ほぞを噛むような思いでいた。

 しかし、その間にも病人部屋から顔を出した町医者が、新たな死者の人数を二人に告げる。


「合わせて死人は十一か……」

 

 これでまた、隊士の補充をかけなければならなくなった。

 時間も費用も余分にかかる。

 日々のまかないにさえ事欠く今の壬生浪士組に、捻出できるとは思えない。

 腕を組んで深刻に黙り込む土方に、沖田はいてもたってもいられなくなり、板間に咄嗟に額づいた。


「申し訳ございませんでした! 私が応戦した為に、事を大きくしてしまい……」

「もういい、総司そうじ。お前が詫びる筋でもねぇ。元はといえば、芹沢が押し借りなんかするからだ」

「ですが、場合によっては、水戸藩附家老久藤家みとはんふかろうくどうけの若君に抜刀ばっとうしたとがに私も問われるはず……」

「そうなりゃ、何としてでも総司そうじは俺が守ってやる。だが、それはそうなったらの話だろう。今は奉行所の詮議を待つしかねぇ」


 土方は青ざめる弟分を無骨ぶこつに慰め、叱咤した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ