第十話 土方歳三
負傷した壬生組隊士が搬送された療養所の門を土方がくぐると、玄関先で待ち構えていた沖田が沈痛な面持ちで駆けつける。
「土方さん、あの……」
「話は後だ。とにかく怪我人の状態が見たい」
動揺している沖田を脇に押しのけて、土方は草履を脱いで廊下に上がる。
廊下から奥の間に近づくにつれ、血の匂いと、苦痛に喘ぐ男達の呻き声が鼻にも耳にも入ってくる。
「負傷者は何名だ?」
「はい、今の時点で六名です」
「死者は?」
「九名」
後に続く沖田に端的に問い質し、死傷者達が寝かされた板間に上った土方に、隊士等は固唾を呑む。
沖田もそれなりに長身なのだが、土方は彼より頭ひとつ背が高い。
加えて役者のような面長で額も広く、鼻梁も高い。
やや目尻の垂れた優しげな双眸といい、ふっくらとした形のいい唇といい、これほど凄惨な現場にあってさえ、滴るような色気と華が彼にはある。
「お勤め、お疲れ様でございます」
土方歳三は芹沢鴨、水戸藩脱藩士の新見錦、近藤勇ら三名の局長に継ぐ副長だ。
それでも彼に接する者はみな、局長陣に接する以上に畏敬の念をあらわにする。
土方は白い布を被せられた隊士の顔を一人一人見てまわり、最後に深い溜息を吐く。
「とんでもねぇ奴がいたもんだ……」
瀕死の重傷を負った隊士の苦悶の喘ぎが地を這うように響き渡り、地獄絵図と化した板間の中央に仁王立ちして眉を寄せた。
夏の蒸した宵闇に、鼻をつくような死臭が既に蔓延している。
「蔦屋の調べはついたか」
土方は諸士取調役兼監察方の宮迫を近くに招いて詰問した。
「生国などの詳細は掴めませず、孤児ではないかということです。十七で生糸問屋を一人で興し、得意の異国語を駆使して諸外国から暴利を得たと聞き及びました。京には半年ほど前に移り住み、呉服屋を始めています。どれも市場の三割安ということで、話題にはなっていたようです」
「年はいくつだ?」
「二十二です」
「若いな」
背後に控える沖田とほとんど変わらない。土方は監察方に更に報告を促した。
「もう一人、前髪がいたそうだな」