第伍話 突然に
便所で用を足し、洗面所にある鏡で髪を整えていると、4日前、皇帝陛下の指示で作戦概要を説明していた、アンナがやってきた。アンナが少し低いながら透き通った声で話しかける。
「あなたは、こないだの新人ね?」
「は、はい。そうです先輩。」
反射的にカレンが反応する。するとアンナは、衝撃の回答をしてきた。
「先輩だなんて~も~恥ずかし~『アンナ』で良いし、そんなかしこまんなくて良いよ~!」
ええええええええええええええ⁉そう来たか~
しかし今は、この状況を受け入れてなんとなく受け入れるしかない…
「そういやアンナは、側近議会歴何年ぐらいなの?」
「まあ、4~5年ぐらいかな?シランガナ」
覚えとらんのかい‼
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翌朝、私は宮殿の端の部屋で目を覚ますと、そこには漣の如く大陸中の種族が行き交う中央駅とその周囲の街並みが見えた。時計は"5"を指していて、別に出勤時間ではないのに人がこれでもかというほど多い事を、クイフレゴと比べてみた。
コンコン。
部屋の扉を誰かがノックした。はーい、と答えると、ゆっくりと扉が開き、そこには、寝癖で大事故を起こしているアンナの普段と違う姿があった。
「おはよー。」
「おはよ。どうしたの?」
「暇だったから、ちょっと来ただけ。」
窓の外を脇目に、アンナと話す。街の方を見てみると、煙を上げているビルと、デモ隊と機動隊が衝突している物騒な状態が見えた。
「アンナ、あれは何?」
「あ~あれね。あっちでニュースとかで見たでしょ。この街で共和派と機動隊がぶつかってんのよ。物騒だね~」
横断幕には、アトランティス共通語で『皇帝の独裁に終焉を!労働者に自由と食料と娯楽を!』と書いてあるのが、双眼鏡越しに見えた。独裁とはなんだ独裁とは!側近議会を知らないとは。無知にもほどがある。
「それじゃあ、このくらいで失礼する。あ、そうだ。"誰が聞いているか分からない"から、不用意な独り言は気を付けて。『口は禍の元』だから……ね」
そう言ってアンナは私の部屋を後にしようとした。その時
「失礼します! アンナお嬢様、カレンさん!」
そう叫ぶ一人の男が勢いよくドアを開け放った。すると、アンナがしゃべりかける。
「ちょっと!クラウゼ君!部屋に入る時はノックぐらいしてくれないかしら!」
そうアンナが注意したが彼は聞く耳を持たず
「それどころじゃないんです!落ち着いて聞いて下さい。」
動揺した表情を浮かべながら叫ぶように話し続ける。カレンは朝のティータイムとしてコーヒーを飲んでいたが、
「皇帝陛下が、宮殿内で倒れて意識不明の状態に陥りました!」
あまりの驚きに、カレンは口の中のコーヒーを吹き出してしまった。
「え…?」
逆にアンナはすぐに信じる事が出来ずに、その場で石像の様に硬直した。
「……嘘……? 陛下が?」
アンナは大きく目を見開き絶句している。それはカレンも同じであり、彼女もアンナのように目を見開いて言葉を失っていた。
カレンの部屋を、何とも言えない冷たい空気が流れる。数十秒して
「陛下に…持病でも…あったという…のか…?」
途切れ途切れになりながらもアンナが身震いしながら召使に聞いている。
「はい。とある消息筋によると、陛下は生まれつき母と同じく心臓病を患っていた様です。」
そのニュースが報道機関に伝わるや否や、ポセイディアどころか、アトランティス全域で混乱が発生した。動乱を憂いた"従者たち"は、戒厳令を発令し、市内の主要交通や王宮に通じる道の完全封鎖を開始した。国の未来は、若き王にかかっている…
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