第玖話 激動のポセイディア
そのころ臨時本部にある会議室ではフィッツェ家のギュンター、ヴァイス家のエリック、そしてグレンヴィル家のイアンが円卓を囲み話していた。
「エリック、現在北部地方はどうなっている? 急進派の反乱が起きたらしいが」
「あっちからの情報が錯綜しているから不確かではあるが、北部地方派遣軍からの情報だとざっくり二十万程だそうだ」
「二十万だと!?」
エリックが放った反乱の規模にギュンターが驚いた声を上げる。
「北部地方派遣軍の4倍以上じゃないか……」
その横ではギュンターが机に肘をつき頭を抱えながらそう小さく呟いた。
「多くは手砲すら持たない貧民の群れだが、そいつらが寄せ集めの鈍器で武装し、列をなして帝国の統治機構に襲撃し、すでに要人や貴族の死亡や脱走の報告が相次いでいるそうだ」
手元にある用紙を見ながらエリックは淡々と話し続ける。そして説明する老人に割り込むように
「反乱勢力はひとまとまりになっているのか?」
そうイアンが声を上げ聞いた。エリックはカバンから書類を取り出して
「いや、バラバラだ。真正水平派や立憲君主制を望む者、共和主義者、少数民族など主義主張は千差万別。おまけに司令部も各地方に連立してという噂付きだ。その中でもAAFに支援を受けた武装勢力が優勢とのことで、もし放置したらあと1か月程度で首都管区にも火の手が回ると…」
「もういっそ軍事介入すべきだ!」
勢いよく椅子から立ち上がりそう叫んだのはギュンターだった。
「北部地方における住民の反逆は明らかだ!」
「軍事介入はまだ駄目だ」
興奮するギュンターを諫めるようイアンは言う。
「なぜですか!?これ以上帝国の被害は出せないのに!」
「それぞれの地区の治安維持はそこの委員会が担っている。これに介入するには国防軍最高司令官である"皇帝"の指示がなければならない」
「しかしここで叩かなければ!」
「新皇帝の摂政に嵌められて処刑にでもされるぞ」
「……っ」
「君たちも、私も軍部の政治に不満があるのはよくわかっている。そこで一つ提案したい」
唐突にそう言いだしたギュンターの言葉にイアンが小さく反応する。
「提案…?」
「新しい総統に帝国水軍のトオルを据えるのはどうだろう?」
「軍とも貴族ともいい関係を持っているからか?」
イアンがその丸眼鏡をくいっと上げならそうギュンターに聞く。
「ああ、彼の両者に属さない中立な視点から軍と貴族の意見をまとめればいいと思うのだ。"協力"をしてくれるか?」
「何についての協力だ?」
「IWとIMAを倒すための協力だ。奴らは幼い女帝を操って俺達貴族を弾圧しようと図ってやがる。だがトオルは両者の癒着と腐敗を知っている。私は帝国衛兵と結んで奴らを倒す。帝国衛兵には俺達貴族と繋がりが深いやつが多いからな。少なくとも帝国衛兵は仲間に対し簡単に反旗を翻すバカ共の集まりでは無い筈だからな」
ギュンターはイアンとエリックを見据えながらそう言った。
「貴族は皇帝あっての組織ですので、新たな皇帝に従うまでです」
「よし、ならよかった。IWとIMAだけには絶対に女帝を渡してはならない!それでいいな!」
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