歴史に名を残す監督
「えー、あ、まず今回はお話を聞かせて下さるということで小波監督、ありがとうございます」
『はいはぃ、こちらこそどうも』
「あ、もう少しマイクのお近くに。あ、はい、ありがとうございます。大丈夫です。えー、小波監督の名が歴史に残るのは確実だ、などと、と世間で言われていますが監督自身はいかがお考えでしょうか……?」
『んー、まあ、そりゃあ残るでしょうね。光栄ですよ。世間ってどこって話ではありますけどね、はい』
「ではここで監督に就任されてから打ち出した政策と言いますか、取り組みを振り返りたいのですがよろしいでしょうか」
『いいですよ』
「はい、ありがとうございます。えーまず、ベンチ、ロッカールームでの私語を禁止したことについて、どのような意図があったのでしょうか」
『当然、試合に集中してもらうためですよ。投資話とかね、ほっておくとねぇし出すんですよ選手はね』
「なるほど……しかし、寮やプライベートでの交流も禁止するのは少しやり過ぎな気はするのですが……」
『まあ、そうお考えの人もいるでしょうね。ま、それだけです』
「あ、そうですか……えー、次に試合前に監督が選手を集め、自作のポエムを聞かせるというのは……」
『ポエムというか、大宇宙からのメッセージですね』
「……はい?」
『大宇宙の神様からもらったお言葉を選手に伝えているだけですよ私は』
「アドバイス……ということなんでしょうか。その、大宇宙の神様は野球にお詳しいのですか……?」
『野球のバットってね。惑星なんですよ』
「え、ボールじゃなくて、あ、はい。あ、時間もないので次の質問に、はい、すみません……。えー、次に、あ、じゃあ選手にお祈りの時間を与えたり、休日に神社に行かせたりも」
『まあ、そういうことですね。僕はね、宇宙を感じて欲しいんですよ。選手たちにね。そうすれば――』
「あ、あの、すみません。次の質問に、はい……えーっとじゃあ試合前に二人一組でお互いの悪口を言い合うように指示したのは……」
『ええ、人間ね、二人もいれば愛し合えたったり喧嘩できたりするものじゃないですか。で、相手に対する不満というのはね、誰しも必ず持っているもんなんですよ。それをね、吐き出させてね。で、ハグさせるんですよ。絆をね、深めるんですよ。涙を流している選手もいるくらいで、僕もね思わずウルッてきちゃうんですよねぇ』
「なるほど……あと、飲食の話ですとプライベートも水以外の飲み物を禁止したりとか米を禁止するなど、少々時代錯誤ともファンの間では声が上がっているのですが……」
『欲しがりません。勝つまではってやつですよねははははは! 上手いこと言うなぁ。でも、そうですよね。プロなんだから勝たないとねぇ』
「はい……打てなかった選手、打たれた投手、エラーをした選手などに罰金を科すのも……」
『勝利のためですね』
「選手を歳や入った順など関係なしに後輩と先輩の二つに分け、接しさせているのは……」
『僕もねぇ、甲子園行ったけどもまあ、上下関係がね厳しい野球部だったんですよ。先輩の命令は絶対服従。聞き返すことも許されず、むしろ言われる前にやれだなんて、できないと殴られてねあっはっはっは!
まあ、その辺は他にも出身のね、選手とかいますから知っているでしょう。数十年経った今思い出しても体が震えてきますけど、でもまあ、野球は強かったですからねぇ。正しかったのかもしれませんねぇ』
「今、その野球部は不祥事で廃部ですけども……その、それで大変言いにくいんですけども度重なる改革の末、歴史に残る連敗ぶり、黒星の数を監督はどうお考えでしょうか……」
『……わかっていますよ』
「はい……?」
『僕は首になるでしょう』
「え、まあ、その……」
『……全て狙い通りです』
「え、それはどういう……」
『ご存じの通り、僕が監督に就任する前、元々このチームは連敗続き。プロ野球最弱チームと呼ばれていました。選手たちの士気も低い。それに準じてファンもね。
でもね、次のシーズン。新監督が改善、僕がしたことを元に戻すだけで選手からの支持を簡単に得ることができ、一気に士気が上がるでしょう。
ファンの同情心も育みました。僕が去るだけで全て、前よりも上手く行くことでしょう』
「反動、バネということだったんですね……苦肉の策だったんでしょうけどもすごい……。じゃあ、あのポエム。大宇宙云々というのも頭のおかしい振りだったんですね」
『いや、あれは本気です』
「あ、すみません……えっと、今夜はお忙しいところをオンラインによる取材を受けてくださりありがとうございました。
それで最後に一つ……。あの今、選手たちが暴動を起こしている件も監督の計算通りで、あ、あ、後ろ、あ、あ、違うみたいですね、あ、あ、あ首が、あ、あ、うわ……」