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カノトキ巣食うは超進化恐竜  作者: ズーマ
第1章『血塗れの丸鋸』 第2編『衛星候補』
9/14

第7話「隠蔽 vsクロック、vsジューン」

前回までのあらすじ


自身を殺した超進化恐竜であり、十災と称されるアクロカントサウルスを倒す為、碧月流羽は異世界であるカノトキへ至る。

だがアクロカントサウルスを倒すことで集落のリーダー格であるラズと対立、超進化恐竜により目の前で彼女を亡くす。彼は衛星と呼ばれる精鋭組織に加わる決意を高めたのであった。

その為の戦闘訓練初戦。流羽はお得意の技で衛星のクランを倒す。次なる相手はスピード特化のクロック。戦いが開戦する。



追記:2024/9/19 改稿

【コン、コンッ】

「……どちら様でしょうか?」

「今日誰か来る予定は無かったな。……ちょうど今はあのガキの実戦教育をやってる時間じゃな。来る者は限られておる」

【コン、コンッ】

「おーい、誰もいないのか~? こちとら割と大事な話なんだけど~っ?」

「……ベラドンナじゃな。はぁ~っ……開けてやりな」

「は~いっ」

「おはよう、チェッカーさん。突然で悪いんだけど、新しい情報が入ったんだ。多分、十災に関して」

「……多分、とは?」

「今回明確に確認できたのは2種。1種はデータがあるが、もう1種の姿は恐らく未確認なんだ。だから確かめようと思って。けどあれは完全に十災にカテゴライズされるね。確か6位と4位が空席だろ?」

「あぁ。遺体はどこで見つかった?」

「データありは北西3km、データなしは壁外の川に流れてやってきた。ちなみに私は第一発見者じゃないから詳しい状況は分からない。彼女らも驚いて冷静じゃいられなかったみたいなんだ」

「そこに文句は言うまい。そして北西3km……その地域は勢力図だと空白じゃったな。常識的に考えて縄張りを拡大した、とみるべきか……。あまりに近すぎるな」

「あぁ。それに……」

「……何じゃ?」

「未確認の十災に殺されたのは、男性だったよ。……視てしまった。あの様子じゃ恐らく……」

「…………」

「……分かった。ワシから報告しておく。ほら、そうかげるな。いつもの調子でおらんとこっちまで調子が狂うわ」

「……ところで、その未確認超進化恐竜の特殊能力は分かったの?」

「おぉ、ブルー。相変わらずシャイだなぁ。久々に顔が見たいな~、どこにいるんだい?」

「切り替え早っ……。って、だから違うってば。あなた、す~ぐダル絡みしようとするし訓練のためにも隠れてるだけだって」

「んで、特殊能力だけど……視た感じ私や君、バーン君、ついでに一部の超進化恐竜と同じ系列だね」

「……私達とあなたは厳密には違うでしょ? でもまぁ意味は分かったわ。なら何の動物なの?」

「詳しくないからなぁ……正確な名称は私には分からない。でも見た目はインパクトあったから覚えてるよ。長い両腕にトゲが生えていて、身体は緑と茶色でうまく自然の風景に隠れてる。それから外硬殻を喰い破れる超強力な顎。喰い破ること自体が特殊能力の可能性は……低いかな。その顎は横に裂ける奇怪な形体。そして2対の翅があって飛べる。恐らく非持弱点かな。以上」

「飛べる捕喰者……記録にあったな。その超進化恐竜、名前だけなら決まっておる。テリジノサウルス。特殊能力は……『蟷螂(カマキリ)』と名付けられている」

「カマキリ? 何それ」

「虫。流してたけれど、データありの超進化恐竜は?」

「……個体名メグ。荒陸の猛鮫って言った方が通じたり?」

「カルカロドントサウルスって言いなよ」

「……いずれにせよ、対策は必至じゃな」

「あぁ。攻撃と防御、極端に振ればどうなるか、もう結果が出てしまった。ここまで近付かれたからにはいよいよ籠城にも限界が見えてきた」

「……あのガキを利用する算段はあるのか?」

「さぁ。彼を無条件で助けるのは到底無理だ。彼にも目的があるのは重々承知しているし想いは汲んであげたいけど、ここに居座るつもりなら仕方ないよね。……護るためにも、流羽クンにはこんなところで躓いてもらっちゃ困るんだよねぇ……」

「……私は会ったことまだないけど、そんなに魅力的なの?」

「……どうやら身体能力に長けているのも、特殊武器を持っているのも事実。じゃがワシは抜きん出た者だとは思えない。一番株を買っておるのはベラドンナ、お前じゃろう?」

「そだね。土壇場の爆発力とアツさは随一だと思うよ。過去を視させてもらったから分かるんだけどね。まぁ色々含めて、彼は魅力的だね。何よりゴキブリみたいなトコが」

「はぁ?」

「足速くて、斬っても生きてる生えてくる。特殊能力を抜きにしても素の生命力が尋常じゃない。服も黒が多いしね」



「ヘブシッッ!!」

「!! ビックリしたぁ……。大丈夫? 風邪でも引いた?」

「あぁ、大丈夫……。花粉かなぁ……」

 俺の花粉症眼にくるタイプだけれども。特に痒くない。

 かなりヒドい悪口を言われた様な感覚。

「なら良いけど……。体調崩さないように、気を遣いなさいよ?」

「……お前がそれ言うか? さっきの訓練、これまでのクランから考えると、あまりにあっさりやられすぎじゃなかったか?」

「……体調が悪かったのは否めないわ。でも、今はあなたの訓練に力を注ぎたいの」

「大丈夫かよ……。……何でそんなに肩入れしてくれるんだ? ラズの件とか互いの利益がどうとか抜きにして」

「あなた、放っておくと単身特攻でアクロカントサウルスに挑みかねないでしょ? 自ら犠牲となって傷を治すことで囮になろうとしたり。仲間を喪わせないために、肩入れするのはそんなにおかしいことかしら?」

 囮。……エウストレプトスポンディルスの時か。そういえばそんなこともあったな。

「もう……知り合いがいなくなるのは耐えられないのよ……」

「…………」

 冷静に見えて、案外心に弱みはあるらしい。ラズだけじゃない。これまでの犠牲はきっと、計り知れないだろう。

 にしても、仲間と認識してくれている様で。嬉しいことだ。

 さてと。思考に戻りますか……。

「……どうかしたの?」

「んにゃ、どうやってクロックに対抗するか考えてた」

「ふぅん……。今のところ、まだ思いついてない感じ?」

「……一応言うが、告げ口するなよ」

「わざわざトラブルの原因作るようなマネ、私しないわよ……」

「なら良かった。……俺の予想だと、クロックは武器としてサイクルを持ち込むだろう。だがあの場所だとサイクルの武器である俊敏な動きが制限されてしまう。単純に刃物や銃器を持ち込む可能性もある。どちらの可能性が高いか……」

 いずれにせよ、対策を練らなければ……。

「もっとも、30秒間相手に特殊能力を使わせれば済む話だが……。そんなに分かりやすい策にハマるほど、浅はかでもなさそうだった。卑怯なカウンターも、もう通用しないと考えるべきだし……」

「ところでいつまでここにいるつもり?」

「……一応、クランの治療が完了するまで待っとこうかな~、と。負傷させたのは俺だし」

 それも無論あるが、正直なところ、身体が疲労し始めている。昨晩、十分に休めなかったのも理由の1つだ。それを癒したい。

「別に良いわよ……大丈夫だから。さ、早く行きなさい」

「……何か問題があれば、遠慮なく言えよ」

「だから大丈……」

「負傷に関してだけじゃなくて。調子が悪かったら、無理して付き合わなくていい。俺は無策で突っ込んでくほど死にたがりじゃないし、俺だって誰かに頼られたいんだよ。だから、問題あれば遠慮なく言えよ」

「……分かった」

「じゃ、行ってくるわ」

「……――たい」

「ん? 何か言ったか?」

「……いいえ、良いわ。大丈夫だから、気にしないで」

「……なら良いけど」



 流羽が去り、クランだけが残された処置室。

 白衣を纏った女医が入ってきた。名前はフシャ。集落で最も医術に長けた人物である。

「検査した結果、何も問題なかったよ。ところで最近の調子はどう?」

「……悟られない程度には大丈夫ね」

「私は医師だ。それを大丈夫、と放っておけるか……。で、今後も隠していくつもりかい?」

「……心配かけたくない、から……」

「はぁ~っっ……。主治医として、改めて言っておくぞ。病は確実に悪化している。このままだと、想定よりも近いうちに限界を迎えるだろう。最悪、寝たきりになる」

「……死の可能性は薄い、……だったわよね?」

「死ぬより辛い目に遭う、と言った。その寿命が尽きるまで、身体全身が硬直していく。意識はあれど、動くことは勿論、話すこともできなくなる。故に、生き地獄って呼ぶんだ」

「……どうして私がこんな病に……」

「……知らない」

「……動けなくなるまで何年ぐらい?」

「早ければ、彼が衛星になる姿を見れなくなるだろうね」

「そう……」


 生き地獄に関しては、クランとフシャだけの秘密。

 だがクランは知らない。生き地獄が、彼女の家系にのみ受け継がれる病であることを。クランの両親も、クランが幼い時に彼女を遺して望んで殺されたことを。

 動けない両親が最期に自殺の協力者として頼み、薬を盛った相手がフシャであることを。



「待たせて悪い。スタート位置に変更無いか?」

「いや、変える。さっきと違って障害物の少ない平原のステージだ。少し移動しよう」

「ち、ちょっと待ってくれ。ステージって言ったか? 複数の闘技場があるのか?」

 俺がさっき戦った場所にはかなりの障害物があった。

「……いや、もしかして」

 あそこの特殊な構造。1つの仮説が成った。

「?」

「あの障壁が他の区間と分かつためにもあるとすれば……複数のステージがあるということにも納得がいく」

 例えるなら、集合住宅。大きな建物の中に、いくつかに別れた部屋がある。部屋には基本構造はあれど、細かな装飾や家具の配置、用途は様々。

「流石っ、正解っ!」

 そして連れられるがまま、スタート位置に着いた。

 先に俺が到着したので、クロックの武器は不明なままだ。クランに使えなかった奥の手を念頭に、臨機応変に策戦しよう。



「用意っ!」

【ビィッッ!!!!】

 舞台は平原ステージ。さっきと違って視界が開けているが、それにしても広い。軽く起伏があり、少しばかり岩がある。足首ぐらいまで草が茂っており、隠れるには足りない高さだ。迷彩服でもないし。隠れるなら岩だろうが、それ自体が目立つリスクと天秤にかけると、結局意味は無さそうだ。

(あらかじめ接近を感じとれても、クロックが来るのに時間はかからない。かと言って逃走は最悪手だし……)

 迎え撃つ戦法が適しているだろう。だが動きが速いのは単純であり厄介である。仮に同じ火力、機動力が桁違いな格ゲーがあれば低評価が少なくない。

(サイクルだったとしても、特殊能力が無いのは嬉しい限りだな……)

 しかも爆速駆走ダッシュの対戦するうえで最もタチの悪い点は、クロックから見た世界が遅くなる点だ。故に彼女の脳の情報処理は寧ろ楽になる。俺だけが処理に頭を使う羽目になる。

(せめてハンミョウみたいにさぁ……。確かハンミョウって、速すぎて情報処理が追い付いていないんだろ? その現象が起こらないってやっぱり、バグってる)

 運動神経も情報処理も、変幻自在の範疇じゃないが。


 一方のクロックも、流羽の対応を思案している。

(……ま、とりあえずサイクルを持ち込むことを真っ先に思い付く作戦だろうね。武器を持ち込む、ってことも。もう奇襲は通用しないだろうし、万が一のカウンターも……。はぁ、クラン、なかなか厄介な影響残してくれたね……)

 変幻自在は幅が効く。ゴリラがどんな生き物なのか知らないし……もしかして十災並みの可能性も……って、それなら記録があるか。さて、どう対応しよう。

(まずは場所を認識しないと、無駄に時間を浪費するだけだからね……。彼が望むはずの消耗戦に備えて、爆速駆走は接敵まで極力使いたくないし……)

 クランの盗聴器、できるなら私も使いたかったなぁ。

(積極的に攻め込む戦法はしないだろうから……やっぱり出向く方が良いのかねぇ)


(……!!)

 淡く覚えていた違和感が、突如露呈した。

(サイクルすら見えないってのはおかしくないか?)

 体長6m、頭頂約4m。ここは草原、見晴らし良好。あのサイズのサイクルが、見えないなんてことが有り得るのか?

(もしかして、いないとか?)

 待てよ……。持ち込める物が、武器やサイクルのみとは決まっていない。サイクルが許されるのであれば、刷込テイム済みの超進化恐竜なら持ち込みは許可されていると考えるべきだ。全ての超進化恐竜が大きいとは限らない。たとえ乗れないサイズでも、懐に仕舞うなどやりようはいくらでもある。その特殊能力によっては本体より厄介だ。

 あくまで絶対ではない可能性、されど絶対でもない可能性。

 これが事実なら、常識破りのあいつの作戦はバグってる。それもかなり厄介なバグだ。


(気付いてるかな~、私がサイクルを持ち込んでいないってことに)

 戦いは開戦前に始まっている。相性については言及した。だが私は一度も「サイクルを所有している」と言っていない。全ては彼の勝手な想像だ。

 私はサイクルを使わない。

(さてと。相手が気付いて整理する前に、突撃してやりますか。届く距離まで行けば良い。この想定はしていないだろうからね……)

 太ももに着けたベルトに手を掛けた。


(サイクルを使わない策、かぁ……。あいつの能力を活かすには……やっぱり接近か)

 今のうちに吸血鬼を抜く。

 吸血鬼の妖刀としての真価を発揮するには、妖気が必要になる。それが使えない今はただリーチに長けただけの日本刀だ。その大きさ故に振るうのに力を使い、かつ速度も遅い。クロック相手には不利な武器だ。

 だが、残念ながら唯一の攻撃手段でもある。さっきの様にゴリ押すスタイルは、通用しても警戒されているはずだ。避けることも容易いだろう。


【ジャッ……】

 来た。凄まじい接近能力だ。全く気付かれることなく、背後に忍び寄る。特殊能力は関係ない、単純な技術だろう。

「……何秒経過した?」

「……13秒だね」

 残り17秒か。

「徒歩で来たこと、驚きはしないんだ」

「あぁ。何かしらの超進化恐竜の持ち込みって策だと考えたんだが……その様子じゃ、可能性は低そうだな」

「そうだね。手ブラだよ」

「あぁそうかいっ!」

 かなりの大振り。だが避けさせることが目的だ。そもそも振るう筋肉ぐらいは調整できる。

「早速消耗戦かい? 楽しむ気はないみたいだね」


―18秒経過 残り12秒―


「避けてばかりか? 反撃は良いのかよ!?」


―20秒経過 残り10秒―


「それを許す君じゃないだろう?」

 ちょこまかと避けるおかげで掠りすらしない。

 クロックの時間も俺の体力も着々と削れている。


―23秒経過 残り7秒―


(逆転狙いなら最後の最後……! 27、8ぐらいだろ)

 流羽もクロックも、言わずとも経過時間を正確に認識している。

 4秒後の未来のために、隙を潰す。


―25秒経過 残り5秒―


(やはり仕掛けるなら27秒だね! それで全てを覆す!)


―27秒経過 残り3秒―


「うおおおぉぉっっっ!!!!」「うおおおぉぉっっっ!!!」


―28秒経過 残り2秒―


「!!?」


―29秒経過 残り1秒―

―30秒経過 残り0秒―




―30秒+1秒経過 残り秒数不明―



「ひ、卑怯だ……」

「誰が言うんだか……。殺傷用じゃないから安心しな。さ、締めようか」


―計30秒経過 残り0秒―


「……クッソ……。降参だ」



 クロックの策はこうだ。

 得意の接近術で俺の背後に近付き、わざと音を立てる。気付いた俺に偽の経過時間を伝え、消耗戦を強いる。ここで嘘だと感づいても、もし真実だったら不意の一撃を食らうことになる。真偽に関係なく、俺は制限時間が切れるタイミングで応戦せざるを得ない。けれどもまんまと騙された俺は、俺の17秒間を戦い抜いた。が、彼女にはまだ時間の猶予があった。

 俺の27秒で攻撃すると見せかけ、フェイントをかける。そして俺の30秒が経過すると即座に、彼女が太もものベルトに隠していた投げナイフを投擲。しかもナイフは加速対象。避けられるはずもなかった。

 よく考えれば分かることだ。等速で動く彼女の時間軸では吸血鬼の様な大きな武器を扱うなら攻撃時に減速を避けられない。自らアドバンテージを殺しにいっている。特殊能力との相性を考えれば、小型の武器を使うのが最適。ならば隠すに違いない。

 サイクル、能力、そして武器。ある程度相手に情報を与えたうえで、一番大事な部分は隠蔽する。

 俺の完敗だった。



「幸い急所を外れていたから、次の戦闘に支障は出ないと思うよ。自分でも治せるだろ?」

「あぁ……。助かったよ、フシャ」

「今日はきちんと診てやるから、思う存分負傷して学んでこい」

「それ医者の言うことかよ」

「はぁ……。はら、いつまでも引きずるな。敗北ぐらい、誰しもが味わうんだから」

「……そうだな……」


「すぅ~~っ……はぁ~~っ……」

 深呼吸したら少しは気分が落ち着いた。いつまでも下を向いてちゃいられない。

 ステージは再び庭。どこにせよ、非常に面倒な立地に変わりないけれども。

「次はジューンか。刺薔薇……条件は確か……」

 光、水、空気。って、絶ったら俺にも影響出るな。まだ陽は落ちていないから完封は難しい。



「用意っ!」

【ビィッッ!!!!】

 今回はスタイルを変えてみる。まず前々回とは違って崖には登らず、崖下にある迷路の様な石壁のエリアで戦う。石壁は半壊していて風化している。湿度が高くてコケやツタがしている。

 ここなら障壁が多くて索敵に適さない。無論それは俺からも。

 そして最大の違いは、持ち込んだ武器が吸血鬼でなく単なる短刀であるということ。刺薔薇を斬るのに特別な技術は要らない。それにこの狭い場所で振るうにはこちらの方が向いている。

「さてと」

 その代わりに、俺は大きな変化を自らに施した。

 昨晩から考え、クランとの戦いの後に完成した。変幻自在をフルに活用した、今の俺に可能な最大限の策。

 あの鋼鉄の様にガッチガチの刺薔薇の棘。たかが植物と侮る勿れ。きっとコレなら抵抗できる。

 しかも視認が難しい。見えているが見えない。先程学んだ隠蔽である。

「ついでに戦法も変えてみるか……」

 思う存分負傷して、最期に大きく学べばそれは勝利。

 強気に攻める。ここまで読めたらドン引きしてやる。


(さ~て、どうするのが正解かなー……)

 流羽君は一度ここでクランと戦って勝った。彼が同じ手段で戦うとは思えない。入念に策を練ることの重要さを、よくよく学んでいるはず。

(これ、遅くなればなるほど厄介だよねー……。相手は確実に成長してるんだもん……)

 既に作戦は開始している。彼が知らない、棘の少ない細いツルの刺薔薇を、現在進行形で広く広く伸ばしている。気付かれぬようゆっくりと、でもいずれ全体に届くよね。まずは悟られにくい石壁エリアに。

 その細さゆえに踏めば簡単に切れる。伸ばす感覚が断たれれば、その元を辿れば場所が粗方特定できる。

(待ちの施設だと泥試合間違いなしだなー……。彼がどう動くかに重きがかかってる……)

 戦況を握られている様で何だか嫌な気分になるな。

(……あっ、止まった。早かったなー……)

 居るのは石壁エリアで間違いないね。しかも移動し続けてるっぽい。攻めてるねー。


(どこにいるんだ……? まさか動く気がないとか?)

 地球の頃も含め、ずっと待ちの姿勢だったから攻める戦法は難しいな……。結局相手を探すために闇雲に動くことになっちまった。

索敵用の道具も作れないし、無音の接近能力もない。どうやってジューンを見つけよう。

(……コレ改良必死だな。動きづらいや……)

 超進化恐竜は全身に外硬殻を纏って、どうやってああも素早く動けてるんだか。

「っ……。ここもかよ……」

 迷路構造は伊達じゃない。何ヶ所も行き止まりが存在している。崩れかけた部分をロッククライミングの要領でよじ登れるが、登ったところで。下手すれば崩壊するし、見つかるリスクが非常に高い。追い詰められれば逃走も難しい。よって、引き返すしかない。

 既に方向は失っている。さて、どうしたものか。


 ひとまず迷路には着いたけど、簡単に見つかれば苦労しないよね。

(闇雲に動き続けてるっぽかったし……。これじゃ完全な特定はできないね……。まぁ想定内、次の作戦に移りますか)

 2種目しゅめの種子を握り締め、適当に道を塞ぐ。これで簡単には抜けられない。

 そしてこれを何度も何度も繰り返す。今頃彼はどこかで進路を阻まれて困ってるだろうね。


「クッソ、完っ全にハメられた……」

 ここだけに絞っているならもう攻撃されてもおかしくない。どこに行っても同じ光景が広がっているだろう。

 突如生えたビッシリと大きく鋭い棘の生えた太い赤紫色のツル。それが複雑に絡まり、障壁を構成している。クラン自身は見えなかったが、確実に刺薔薇だ。

 これじゃってもキリがないし、かと言って登ったり無理に通ったりするわけにはいかない。痛みは能力で消せないからな。

(そういえば何種も操れるって言ってた気が……。にしても、これじゃ袋のネズミか……)

 ならばいっそ。

「おーいっ、俺はここだぁ~っ!!」

 袋に巻き込めば良い。


(……血迷ったのかな?)

 ついさっき刺薔薇を仕込んだ位置から、彼の叫び声が聞こえた。単純に同じ土俵に連れ込む為か、それとも土俵に落とし穴を仕込んだのか。

 いずれにしても、行かないと進まないね。


「やぁ流羽君。意外と近くにいてくれた様で助かったよー」

「それはこっちのセリフだな。喉が潰れる前で良かった。降りてくる気は……まぁ無いわな」

 絶叫して喉が潰れる経験は1度で十分だ。

 道幅2m、長さ約40m、壁の高さは3mといったところ。相手に好都合なのは変わらない。

「へぇ、吸血鬼を持ち込んでいないんだね。でもそれじゃ脱出は難しいでしょ。降参を勧めるよ?」

「俺が応じないことくらい学んでんだろ……」

「まぁね~」

 緊張感が無い。それほどに圧倒的な優劣の差がある。ジューンがその気になれば、俺を圧死させることもできるはず。まぁそれは反則だからできないが。

(何か覆せる弱点は……。刺薔薇は制限性弱点、条件はあるがそれを阻むのは困難。何か策は、他に刺薔薇の弱点は……)

「これじゃ泥試合だね。せめて攻撃するかされるか、選ぶぐらいはしてほしいな」

(何か弱点……。導け、何かヒントが、きっと!)

「されると解釈しても?」

(……反則?)

「!!」

 仮説が成った。ジューンの弱点を導いた。

「変幻自在っ!」

 声帯のみを流羽るはねに変える。そして一声。

「あぁっ……やめて、流羽りゅうはっ……。それ以上は、ダメっ……。あっ、い゛っ……」

 ただの一人芝居だ。女声で犯罪臭のするエロい言葉を出すだけ。だがこの芝居は、彼女の逆鱗を何より激しく刺激する。

「何のつもり!!? 碧月流羽ぁっ!!」

 爆速で伸びた太く鋭い刺薔薇。それはいとも簡単に俺の身体に刺さった。殺傷能力を持った強力な技。だがこの戦闘訓練において。

【ピィィィッッ!!!!】

「終了っ!! 生命の危険性のある攻撃により、ジューンの反則負けとする!」

「あっ……。って、流羽君っ!! 大丈夫!?」

「あぁ、前提だったから。多少は対策してたけど、ちょっと刺さった。謝らなくて良いよ。死にはしねぇ、さ……」

「ち、ちょっと!?」



「……処置室……?」

「そうだ。結構危なかったんだ」

 確かジューンに反則勝ちして、それから意識を失って……。

「碧月君さぁ……。君の治癒能力は完璧じゃない。大事な部分が治ってたから助かったものの、手術は避けられなかったぞ」

 どうやら外傷は治しきれなかったらしい。先に意識を失ったからか。

「……悪いなフシャ。また迷惑かけて……」

「それに関しては良い。でもまさか、わざと逆鱗に触れて危険な技を出させるとは……。本番なら通用しないからな。この場合でだけだからな!」

「分かってるって……」

 ジューンの弱点。それは性犯罪に厳しく、怒りが沸点に達すると暴走すること。それが未遂でも冤罪でも演技でも、必ず反応すると判断した。

 特殊能力の弱点ではなく、彼女自身の弱点。だがフシャの言う通り、実戦では何の役にも立たない。

「それにしても君の手術には手こずったよ……。まさかあんな仕掛けをしていたとは」

「……言うなよ。特にクコには」

「言わないさ。私の口の固さは一等級だよ」


 1時間もすれば自己回復も相まって完璧に元通り。寝たおかげで、体力も回復できた。

「じゃ、行ってくるわ」

「行ってら。今日は来るなよ?」

「……気を付ける」


「にしても……この短期間であれほどの発想が出来るとは……。彼はやっぱり逸材だ。もしかして、今日で気を習得したり?」

誰にでも隠し事があります。

恋愛関係を隠す意味。特殊能力が何なのか。定まった自身の終末。戦闘における策謀……。

今回はそんな隠し事に焦点を当てた回でした。


そして明らかになっていく十災について。迫る彼女らの脅威。


ちなみにさらっと医者のフシャが出て来ましたが、彼女は医術の他に特殊能力を持っていますが、衛星ではありません。流羽はラズの件でお世話になっていたので面識があります。何だかんだ理解者です。



それでは次回、vsクコで会いましょう。では。

ズーマ

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