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カノトキ巣食うは超進化恐竜  作者: ズーマ
第1章『血塗れの丸鋸』 第2編『衛星候補』
8/14

第6話「練度 vsクラン」

あ、報告遅れましたが、無事第一志望の大学に受かりました。


私事は置いておいて、どうぞ。



追記:2024/9/19 改稿

 俺が誘った。それは事実だよ、うん。でも深夜にコーヒーを飲んだことで一睡もできなかった。ギンは俺の部屋で熟睡している。彼女が飲んだのはココアだ。

 ソファの上で寝ることになって身体がバキバキだ。疲労も少しあるし、今日の戦闘訓練に支障が生じないと良いけれど。

「もう二度と人は泊めねぇ……」

 今夜は何とか理性を保つことに成功したが、一瞬の気の迷いで一線を越える可能性だってあるんだ。理性って神経関連になるよな? 変幻自在で制御できないよな?

 ……まぁ越えたら騒乱幽霊ポルターガイストかジューンの刺薔薇シバラでズッタズタにされるだろう。

「……刺薔薇って結局なんなんだ……?」

 薔薇の茎には棘がある。そのツルがどうのこうのだと思うんだけど……。多分そんな植物がカノトキには生えているのだろう。

 まぁここで憶測を考えても真実には至らないんだけれども。

「あぁ~っ……クッソ、眠ぃ……」

 ホントは死ぬ様に寝ていたい。でも説教&延長コースの方が避けるべきだ。


「……早いね。比較的」

「おはよ、クラン。どこぞの誰かさんの影響で寝不足なもので一周回って……」

 ここで言う「どこぞの誰かさん」ってのは無論俺自身のことだけれども。ダメ元でもギンに頼んだのは俺だから。

「……睡眠不足はかえって身体に毒でしょ? 早く寝なさいよ。今日の予定は知ってる?」

「あぁ。延長を防ぐために早く来たんだって」

「なら話が早いわ。今日は私も参加するから。それからジューンと、クコとクロック」

「また新しい名前だな……。クコに? クロック?」

「えぇ。きっと初対面ね。それから対人戦闘である程度動きに慣れた後に超進化恐竜と戦ってもらう。その辺から捕まえた何頭かの野生の超進化恐竜とも」

 わざわざ「野生の」と言うあたり、グーズの影響を受けていないらしい。つまり、制御できない怪物ってワケだ。

「クラン先生、質問でーす」

「……何?」

 先生って言い方は嫌そうだな。やめよう。

「その野生の超進化恐竜は何を喰べますか?」

「えっと……植物喰が1種に肉喰が2種ね。1種だけ特殊能力をもっているみたいだけれど……大丈夫、アキロバトルほど凶悪な特殊能力じゃない。ちゃんと凶暴な種、個体を厳選したからただただ純粋に危険なだけ」

 ……どこに大丈夫な要素が? それに1日に7戦て。治せると思って無茶させてないか?

「野生の超進化恐竜って簡単に捕まるの?」

 どうやら今日は会議室じゃないらしい。行くまでに時間がかかりそう。

「麻酔を打ち込めばね」

 そう言って背中に掛けているライフルを示した。

「……そう言えばちゃんと銃の紹介はしていなかったわね。君の吸血鬼と同じく、特殊武器の『対超進化恐竜特化型銃RVS4810』よ」

「……名前長くね?」

「そうね。私はRVSって呼んでるわ」

「……外硬殻があったら弾丸はどうなるんだ? 麻酔弾は効果あるのか?」

「致命傷にならない程度の殺気を銃に込めれば貫けるわ。そこは微細な感覚頼りよ」

「……この集落って局所的に科学的なところあるよな。武器とか建造物とか上下水道の設備とか。大型重機とか発電所とか無いだろ」

 屋外の照明は専ら油を使っている。けれど屋内は蛍光灯もある。分かんねぇー。

「そういったことができる能力者がいるからね。彼女の特殊能力にかかれば、どんなものも造りだせる。壁も建造物もあなたの言った設備も、全て彼女が造ったものよ」

 ……科学がどれほど絶対的かは知らないが、きっと科学で説明が成り立たないモノなんだろう。郷に入れば郷に従え。地球の常識や科学がカノトキで通用する根拠は何一つ示されていない。

「……どこに向かっているのか教えてくれるか?」

「闘技場」

「……コロッセオみたいな?」

「どこよそれ。地球の地名なら誰にも通じないわよ?」

「……分かってる」

 そういえば適当に散策した時に見かけたような。確かに闘技場なら戦いに向いているだろうが……。

「闘技場に超進化恐竜って入るのか? アキロバトルだって6mだろ?」

 まぁ高さが6mってワケではないけれども。そんなにデカくなかった。

「開拓した場所を使っているから闘技場自体が広いからね。それ相応の設計がされているはず。大抵の拘束を解けるアキロバトルは当然、大型種も入らないと思うわ。今回のはアキロバトルより大きい種もいるけれど余裕で入っているわよ」

「超進化恐竜って大きい種類が多いのか?」

「……そうね。あなたの感覚からしたらそうなのかもね」

「そもそも超進化恐竜っていつからいるんだ?」

「残念でした。私は博識じゃないわ。そういう歴史的な物語はチェッカーさんに聞いてみれば?」

「はいはい俺が悪かった」


 至る闘技場。外観はまさしくコロッセオ。

「やっぱりココか……。にしても規模デカいな……」

「住民寮全体に次いで2番目に大規模かな?」

 収容人数は500人らしい。コロッセオの中に入ったことはないけれど……どんな感じなんだろうか。

「おはよー。遅刻癖があるみたいだから覚悟してたけど、思ったより早かったみたいだねー」

「よぉ……。眠いのに変わりないけどな……」

「よろしく。噂には聞いてるよ。碧月君だったよね」

 赤髪を後ろで束ねた女性から握手を求められた。

「よろしくです。えっと……」

「敬語は不要さ。名前はクロック。特殊能力は爆速駆走ダッシュ。世界に存在するほとんど……自分自身と身に付けている物、それを除いて指定した3つ以外の物体の経過時間を私達の経過時間の5分の1にする特殊能力だ。私が私を早くするんじゃなく、私が世界きみたちを遅くするんだ。……分かる?」

「いや、分からない」

「喰い気味かぁ……。長くなるねコレ」

 誰かがボソッと発言したが、聞こえていないのかクロックは話せて嬉しそうな表情。

「説明上、君は立ち止まって私を見ていると仮定する。言った通り、特殊能力を使っている間は私が普通に歩いていても世界の方が遅くなるから私からしたら止まっている君が視界から消える速さが通常の5倍になる。では問題。私が特殊能力を使わずに歩いているとする。途中から特殊能力を使った場合、君から私を見るとどう見えるらしいでしょーか?」

 らしい、ってのは他人から見えてるからか。

「それまでと比べて5倍速く歩いている様に見える」

「正解だ。じゃあ次の問題。私が特殊能力関係なく、歩く速度をさっきの2倍にする。他の条件は一緒。さて、特殊能力を使う私は君からどう見えるらしい?」

 ……それもう走ってないか?

「……10倍速く見える」

「正解。10倍速く攻撃してくる私を避けるのは大変だろ?」

「サイクルとの相性良さそうだな。……でも制御が効かなくなったり?」

 するとどこか嬉しそうな表情になった。

「良いね、特殊能力の弱点を上手く突こうとしてる。確かにそう思うだろ? けれど残念、私達以外が遅くなる感覚だから、制御は問題ない」

 どうやら俺の着眼点と読みが外れたことを純粋に喜び、ドヤりたいらしい。

「それってあれか? 宇宙に行くと時間の流れが違う的な?」

 正しくは光速に近付くと、なはずだけど。

「う~ん……。君の言う、宇宙ってのが何かは分からないけれど、私はここにいるよ?」

「突き詰めるとなかなか難しいな……。ところで、弱点は数の指定だけじゃなかったり?」

「……そう思った根拠は?」

「俺の特殊能力の変幻自在は変化対象を指定しているだけでなく、それでいてかつ変化幅も無限じゃない。色々試してみたけれど、超進化恐竜の全身の模倣は無理だった。せいぜいゴリラで限界だった」

 つまり、人間の姿から著しく逸脱しない範囲で、ってワケだ。……ゴリラと人間って生物としての構造的にも結構違いがあるはずだけど。

「そのゴリラってのも分からないな、ハハッ」

「代償性がどうかは分からないけれど、少なくとも制限性には複数の弱点がある場合があると推察した」

 クランの場合は接続部品アタッチメントの種類に制限がかかって、かつ構築に時間がかかる。複数の弱点だ。でもグーズの刷込テイムやジューンの刺薔薇、ギンの騒乱幽霊の場合はそうでもないかもしれない。

「……良い推察だね。その推察が完璧かどうかはこの際置いておくとして、私の答えを教えよう」

 すると彼女は素直に拍手をした。

「私の返答はイエスだ。君の経過時間で30秒。これが1日の限界だ。故に常には使えない」

「弱点って面倒だよな……」

「そうかい? 制限性弱点は3つの弱点の中でも一番良心的だと思うな」

 3つの弱点、か。確か双方性弱点ってのがあるんだっけか。どっちにも気を配らないといけないとか大変だな。

「……話は終わりで良い?」

 ずっと黙って流していたクランが止めてきた。思ったよりも話し込んでしまった。クロックも続けようとしない。

 ……で、彼女がクロックならこっちの子がクコってことか。

 ……初対面のはずなのに誰かの面影が……。

「この子はギンの妹のクコちゃん。れっきとした衛星よ」

 なるほど。そう言えば妹がいるって昨晩言ってたな。それでも多少面影があるだけで知らなければ他人と思っていたかもしれない。

 流石に本人には聞けないが、ギンは俺と然程年齢は変わらないだろう。けれどクコはせいぜい中学生ぐらい。小学生と言われても疑わない。それくらい華奢でハッキリ言って弱々しい。ギンは青紫色のショートヘアだったがクコは焦茶色の髪を背中まで伸ばしている。面影があるのは目元だけれど、俺に怯えているのか、クランの後ろに隠れて目線を逸らされるので断言できない。あいつも初めて会った時はそんな感じだったな。

「よろしくな」

「ひっ……」

 ……気を遣って屈んで話し掛けたけれど、寧ろビビって更に後ろに隠れられた。逆効果だったか。

「この悪人面は流羽。ギリギリ悪い人じゃないわ」

「評判落としてくれるな……。ただでさえ妙な噂も蔓延したのに……」

 今では風に流されて消えた噂だけど。そして素の顔をディスってくれるな。どうにでもできるとはいえ傷付くぞ。

「……クコです。噂には聞いています。よろしくお願いします」

 律儀に頭を下げられた。もしかして衛星にしては珍しい常識人枠か?

 とりあえずマナーらしいし握手しておくか。

「あっ……」

「?」

「…………」「…………」「…………」「…………」

 え。何この空気。俺何かやっちゃいました?

「……良い? カノトキでの握手は目上の立場の者から手を差し伸べるのが礼儀なの。あなたが衛星に向かってそれをするのは相手への不敬、場合によっては挑発ともとれるの。次から気を付けて」

「……分かった」

 即座にクランが耳打ちしてクコに弁解してくれたお陰で問題にはならなかった。常識の違いには気を付けないとな。

「悪かった。この行為が不敬だとは知らなかったんだ」

「……分かりました。そういうことなら一度は容認します」

 でもやっぱり、衛星ってのは高い地位にいるんだな。彼女が強いようには見えないけれども。

「……何ですか? そんなにジロジロと……失礼な思考を感じざるを得ません……」

「大丈夫、年下には興味無い」

「……いちいち癪に障る言動しますね……。言わないつもりでしたが……碧月さんからお姉ちゃんの匂いがします」

「……え?」

【ズオッ……】

 刹那、有無を言わせぬ速度で首筋に鋭い物体が近付くのが見えた。血の気が引いていくリアルな感覚。下手に動いたら殺される。

「……説明してくれるよね? ね?」

 微笑んだまま殺意を向けるジューンの姿が視界の端に映る。この首筋の物体は刺薔薇のトゲだな。

 大人しく両腕を上げて降参する。

「何でもないです」

【ズ……】

 トゲが首筋に触れる。ジューンに話を聞く気がなければとっくに死んでいた。

 てか喋ったら死ぬんだが?

「……ジューン、この距離じゃ話せないと思う」

【ズズ……】

「ありがとなクロック。助かっ……てはないですね」

 ジューンは恐怖の微笑み。クランはジト目。クコはその陰から黙って見ている。涙目やめろよ。ちゃんと見れば誰でも分かる、これ噓泣きだろ。手は出してないのに罪悪感湧くからやめろよ。クロックだけが楽しそうにニヤニヤしている。

「昨日の座学の時に付いた匂いなんじゃ?」

「……朝起きたらお姉ちゃんがいませんでした。いつも夜勤の後は帰ってくるのに、です。知らないではなく何でもないってことは無関係ではないってことですよね? お姉ちゃんと何かシたんですか?」

(……「と」?)

 涙目で伝えてくる。けれど意見は冷静だな。嘘を言って矛盾が生じたら首に穴が開くだろう。

「正直に言う。確かにギンは昨晩俺の部屋に来た。でも同じ部屋では寝てない。と言うか俺はベッドで寝れてない。ソファで寝た。だから身体がバキバキだし疲労もある」

「バキバキ……それって……」

 ちょっと待て。何か変な想像してないか? やっぱり前言撤回。候補の俺含めて衛星に常識人はいない。もうそれでいい。姉さんで変な想像するなよ妹。

「一線は越えてません。こうなること分かってるから」

「……じゃあギンが君の部屋に行ったのは何故か、理由を聞かせて」

「特殊能力が昼間は使えないって言われたから。見てみたかったんだ。その流れで一泊させただけ。一晩理性を保つだけの倫理観ぐらいはある」

「それは事実ですか……?」

「後でギンに聞け。妹に嘘つく人間には見えないし」

「……そうだね。それはそうだと思う。誤解してごめん。刺薔薇引っ込めるからジッとしててね」

 ……ジューンはカノトキの風紀委員だな。偏見だが容姿もソレっぽい。普段は親しげ……まぁ実際に親しくしてると思うけれど、こういう話になると俺に非が無くても豹変して攻撃してくる。正直怒らせたら一番怖い。

「……いざこざは全部終わった? 今日の本題に入っていいかしら?」

「あぁ。気が重いけれど……7戦だろ?」

「えぇ。今回は単純に倒すことだけが目的。おさらいするけど、まずは私達全員とタイマン。それから3頭の超進化恐竜と」

「クランさん……普通は身体能力のテストから始めるんじゃないんですか? 確かやったのは座学だけでしたよね?」

「それはそうだけど彼は普通じゃないから。彼の身体能力が抜群なのは、サーモノプスとの戦いで見てとれた。昨日の座学で外硬殻の斬り方も学んで特殊能力の扱いも十分だから、実戦教育でも問題無いはずよ」

「そうなんですか……」

 疑いの目で見られている。

「殺気を流して、フィーリングスパッと斬るんだろ?」

「まぁ……それで良いわ」

「斬れなきゃ最悪殺されるよー。一応ヤバい時には助けるけどね」

「そういう状況を脱する能力も教育するんだよ」

 フラグ止めろ。


 一旦皆と別れて更衣室で着替える。ここに来る時に着ていた、一番動きやすい服。いわゆる勝負服というヤツである。競馬の意味ではなく、普段着でもあるけれども。

「……良し。準備万端、っと!」

 今回、1つだけ物を持ち込むことが許可されている。吸血鬼が妥当だろう。Wレスリュックとゼフォンは留守番させる。自分で相手の特殊能力を見極めて倒すのに重きを置いているのだろう。……それにしては着眼点を注視させたクロックはあっさり話してくれたな。

「……クコの能力が未知数だな……。仮にもあの歳で衛星をやってるんだ、それだけの実力はあるはずだし……」

 断言しても良い。彼女がいくら本気でも、格闘で俺に勝てる確率はゼロだ。あまりに体格差がある。たとえ彼女の特殊能力が身体強化系でも、筋肉量や体格は俺だって自由なワケだし、技術面や経験面でも俺がまさっているだろう。

 俺が負けるとすれば、それを覆すだけの能力があるってことになる。あとは特殊武器を持ち込んだり、一番有り得るのはとんでもない気の才能があるって場合かな。

 他に未知の能力が無いことを祈る。

【コンコンコンッ】

「……流羽さん、入っても良いですか?」

「ん? クコか?」

「……呼び捨てですか」

「ヘイヘイ悪かったな。入っていいぞ」

「ホントに失礼ですね……失礼します」

 肩越しでも薄々分かっていたが、少し声が震えている。

「…………」

「……?」

「…………」

「……何かあったのか?」

 互いに黙ったまま時間だけが過ぎそうなので、俺から切り出すことにした。

「……訓練が始まってしまったら、ゆっくり話し合う時間もとれそうにないので。今のうちに話しておきたいことがあるんです」

「話しておきたいこと?」

「はい。流羽さんは推薦という形で本来の衛星になる過程を一部省略しています。普通は衛星に弟子入りして基礎能力のテストを衛星と共にして、それから本格的な訓練が始まります。途中で諦める人もいる、厳しい道のりです」

「ほぅ……」

「……それを前提として、ホントに言いたいことを言っておきますよね。何度も蒸し返す様で申し訳なくも思うのですが……ラズさんの件に関してです」

「……あぁ」

「クコの師匠はラズさんです」

「!!」

「ホントは許せない気で一杯ですが、それでも感情を抑えて考えました。最前線に出て戦う衛星なので死はすぐ隣にあると認識しています。状況的に流羽さんは悪くないので、仕方のないことだと何とか割り切りました」

「…………」

「でも、ラズさんに恩を感じている人はクコ以外にも数多くいます。それこそラズさん直属の衛星候補の人もいました。クコのように皆が皆、割り切れるわけではないです。誤解は解けても、中には流羽さんに対する憎悪もあるかもしれません。なので……」

「……なので?」

「衛星になってください。なったら、ラズさんが無念のまま失ってしまった彼女らの人生を救うこともできるかもしれません」

 ……少し飛躍したが、彼女は真剣だ。

 この件に関しても、俺は逃げない姿勢を貫く意志がある。

「なので今日は、お兄さんを衛星にすべく容赦なくいかせてもらいます」

「あぁ。それは当然だ」


「なぁ……ここホントに建物の中なんだよな? 集落の外ってワケじゃないんだろ?」

 庭、と形容すれば良いのだろうか。勾配もあれば崖もある。地面は石材と土の部分が混在しており、ただでさえ歩きにくいのに背の高い草や樹々が茂っている。要は障害物が多くて動きにくい環境が再現されている。

「そ。より過酷な状況下での訓練を目指した結果だよ。平原だけが戦場だとは限らないからね」

「なるほど、環境に応じた判断力も大事ってワケか……」

 にしても建築技術に関しては科学技術に比べて抜きん出て発展している。特殊能力って言ってたけれど、考え方のスケールの問題でもあるのだろうか。

 内側から見る闘技場は不思議な感覚だ。空は開けていて広いはずなのに、閉塞感がある。

「詳しいルールについて説明するわね」

 1つだけ物の持ち込みが許可されている。制限時間は無く、相手が気絶もしくは降参するまで続ける。闘技場のエリア内なら戦略的撤退は黙認されているが、戦意を無くした逃亡は禁止。死や極端な後遺症に繋がる行為は無論禁止されている。当然これは相手が衛星の場合に限る。戦闘後は治療が行われて次の戦闘に流れていく。それ以外の明確な途中休憩は無い。順番はクラン、クロック、ジューン、クコ、そして超進化恐竜。

 曰く、超進化恐竜は自然災害と同じ存在。休憩が無いのは時も場合も関係無いかららしい。正論ではあるが、少しは気遣ってほしいものだ。肉体はともかく、精神的に辛そうだ。

「説明は以上。何か質問は?」

【ガドォォン……】

「……今のは?」

「恐らく捕らえた超進化恐竜の頭突きね。……大丈夫、心配いらない」

「ホントかねぇ……」


「……用意っ!!」

【ビィッッ!!!】

「音デカっ!!」

 ゼフォンから流れた爆音アラームが、闘技場に響き渡る。開戦の合図だ。

 他の面子は場外の観覧席から眺めているらしい。今日非番の衛星も来るかもしれないとのことだ。

(さて、どこから来る……?)

 まずは相手の様子見から。カウンターが上手く決まれば良いが、クランは俺の身体能力をかなり買っている。そうそう上手くはことが進まないだろう。

(そもそも、どこにいるんだ……?)

 スタート地点は互いに知らされていない。相手はスナイパー。早めに高い位置を占めておかないと。

「うっわぁ……高ぇ……。でもここなら……」

 辺りに気を配りつつ、今見えている一番高い断崖を目指す。

(ここが最高地点、ってワケじゃなさそうだな……。先に索敵しないと。一方的に気付かれたら、その時点でアウトだからな……)

 俺と同じく、クランもまたRVS以外の持ち込みを禁じられている。けれどクランには不明瞭な手札がある。

 特殊能力、接続部品アタッチメント。10個の接続部品のうち、分かっているのは暗視とスコープのみ。

 傾向から考えて……。仮説が成った。

「接続部品は目に見えない……」

【プシューーッ】

「な!?」

 少し離れた場所から煙幕が放たれた。恐らくあの周辺なのだろう。けれど煙のせいで全く……

【ビュンッ、ガッッ!!】

「今度は何だよ!」

【ガチャッ】

「はい、おしまい」

 額に銃口。何が起こったか全く理解できない間に俺は敗北した。

「まずは盗聴器。作戦を盗み、どこにいるのかの目処をつける役割。始まる前に仕込んでおく。次に煙幕。相手に意識を集中させることで実質相手がどこにいても視界を奪える。事実、私の接近に気付いていなかったしね」

 そして腰に着けていた接続部品を取り外した。それと同時に接続部品は消失した。

「最後にコレ、ロープウェイ。高低差のある地形の移動に適した接続部品よ。扱いは困難で危険だけど、使い続ければいずれ慣れる」

「な~るほど……。バグってる」

「特殊能力に相性はあっても、洗練されたそれには強弱がない。練度によって、いかようにも豹変する。勉強する様に」

「了~解っ……。で?」

「ん?」

「おぅらよっと……」

 相手が気を抜いた瞬間に銃口を払い、無理矢理奪う。それを後方に放り捨て、後ろに回り込み、クランの両腕を後ろに回して拘束する。脚も塞いでゆっくり地面に抑えつける。

「失礼しまーす」

 うつ伏せのクランの背中に座る。大丈夫、健全な座り方だから。でもこれで簡単には動けないはず。降参すればすぐにでもどこう。

 俺の動きは対人格闘術に慣れていれば楽に反撃できた。でもその練度が違う。超進化恐竜殺しか、対人格闘術か。特殊能力か、身体能力か。その違いが今回は結果を決めた。

「何度向こうで爺ちゃんにシゴかれたと思ってんだ……。爺ちゃん歳に見合わねぇバカみてぇな強さしてっから、俺だって強くなるように教育されたんだよ……」

 無意味な技術ではなかったが、どうやらあの日々は美少女を拘束するためにあったらしい。作業の様に慣れた動きは、バキバキの身体でも問題なくこなせる。

 にしても不自然なほどに圧勝した。大丈夫か? 夜通し練った奥の手も使わなかった。

 ……抵抗する気力はないみたいだな。気絶してないよな?

「大丈夫か?」

 服も身体も泥だらけだが、恐らく手首に違和感が残るくらいで極端な後遺症は残らない。ルール上はセーフ。

「はぁっ、はぁっ……卑怯者……」

 げ、否定できない。

「……隙を見せたのはどっちだ? 降参の意思は示してなかったぞ」

 隙ではなく、クランが加害覚悟で撃ってくるかどうかの賭けだった。……いや、賭けにもならない。もし撃てば、対超進化恐竜のライフルが人間に風穴を開ける。その場合は即死。例え俺でも回復は無理だ。

「…………」

「いつまでこの体勢でいる気だ? 長引くと負担来るぞ」

「……降参……します」

「了解」

 拘束を解いた後、不用意に身体に触れた罰を甘んじて受け入れ、背中に乗る拘束は禁止された。……対価としては見合わないと思うぞ。感覚は消えにくいモンだから。


 観覧席に戻ると、そこは称賛と冷めた目のサラダボウル。

「いやー、ビックリしたよー! あの状況で逆転起こすなんて、前例無いんじゃないかな?」

「素晴らしかったよ。かなり練られた無駄の一切ない動き。判断力も申し分ない。スピード対決がもう待ちきれないねっ。ま、次なんだけど」

「……お疲れ様です」

 クコがタオルを持ってくれていた。ありがたく使わせてもらう。

「ありがとうクコ。どうだった?」

「……正直、想像以上の身体能力でした。ですが」

「待った。どうせなら一緒に行こうぜ。せーのっ」

「勝ちます」「負かす」

 俺達の視線の間に闘志の稲妻が走る。

「……とりあえず、準備してね。流羽君」

「了解っ」

 次からの相手は学習してくる。苦戦は免れそうにない。

流羽に足りていない物。それは特殊能力への理解度。

対人にせよ対超進化恐竜にせよ、凶悪な特殊能力はまだまだ登場します。それにどう対処するか。最強が許されない種族が最強の地位を得た種族をどのように倒すのか。まだ彼にも彼女らにも伸び代はあります。


ズーマ

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