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カノトキ巣食うは超進化恐竜  作者: ズーマ
第1章『血塗れの丸鋸』 第2編『衛星候補』
6/14

第5話「外硬殻の有無」

やっと5話です。

あまりに長い期間待たせました。


ではどうぞ。



追記:2024/9/19 改稿

「おはよう流羽。昨晩はさぞよく眠れたみたいね」

 あー、これは完全に皮肉ってますね。今日から本格的な訓練が始まるってのに寝坊したから。

「おはようクラン。遅れてすまん」

「軽すぎ。……謝罪に誠意を感じない。昨日あれだけ言ったのに……。次寝坊したら……分かってるわね?」

「はい……」

 時間の流れとはあっという間で、ラズが亡くなってから早くも1週間が経過した。俺はラズの件の後始末が済んでからはずっと喰事と男風呂の占領以外は引き籠ってトレーニングや特殊能力の検証、文字の読み書きにいそしんでいた。

 俺に関する情勢としては俺の存在、ラズの最期に立ち会ったこと、俺が素手でアキロバトル1頭と互角に戦ったこと、ラズが俺を衛星に推薦したことなどが知れ渡り、あることないこと様々な憶測や噂が流れ消え始めた。だが結果的に日常の一部として馴染めたのは良いこと。ただ当たり前の様に寝坊したのは話が別。

「悪かったって。悪意は無いんだって」

「あったら斬首」

 ラズの代わりをクランが引き継ぎ、教育係という名の世話係になった。主に起こしてもらう役目なんだけど。

 相変わらず朝は苦手だ。グーズのこと言えない。

「……今朝から訓練を始めるわ。朝喰を摂ったらこの前の会議室に行くから。道分かる?」

「いや?」

「早く覚えてね。常に一緒とは限らないから。私も仕事で忙しいし」

 ……わざわざ時間を工面してくれてるのか。ちゃんと反省しないとな。

「……質問しても?」

「何?」

「今日の訓練の内容は?」

「……言ってなかったかしら」

「言ってない」

「妙なところで自信持つのね……今日は座学よ」

「へ?」

 訓練とだけ聞いてたからもっと実戦的なヤツかと思ってたんだが。

「あなたは圧倒的に知識不足でしょう? 基礎から教えるの」


 クランと別れて喰堂にて朝喰。寝起きの状態から目が覚めて空腹を顕著に感じる時間帯。席はあまり空いていない。タイミング良く空いたテーブル席に着くことができた。

 サーモノプスの大量消費期間は2日ほど前に終了し、露骨に質素なメニューに変わっていた。白米にサーモノプスの骨からとった出汁をかけただけの料理。切り身どころか野菜すら乗っていない、お粥と言ってもいい料理。別に体調は悪くない。これから3喰コレの可能性があるのがプチ拷問なんだが、特に不満が聞こえないところを察するに、これまでが豪華だった可能性すらある。俺は独力でサーモノプスを狩れないし……死ぬて。

「相席しても良いですか?」

「? あぁ、良いよ」

 彼女のことは覚えている。あの夜出会った、タオルと水筒をくれた少女だ。

あのタオルは洗濯した後にクランに返してもらった。

「久しぶり。この前はありがとう」

「あ、お久しぶりです。名前お聞きしました、流羽りゅうはさん……でしたよね。衛星になるってお聞きしました」

「そ。……あのさ、敬語使わなくて良いよ。上下関係じゃないんだから。寧ろ俺の方が使うべきなまである」

「いえ、謙遜しないでください。生身で超進化恐竜と渡り合うのは無論、特殊能力があるって時点で凄いことなので」

 そっか。特殊能力の発現は20人に1人だっけ。先天的だから俺みたいなのはまず例外なんだよな……。彼女らには悪いが、持ってる側の衛星に会いすぎて、そうでない側の存在が薄らいでいた。……ラズがいたら叱られてたかもなぁ……。

「……君の方が優れてるところはいくらでもあるよ。俺は君ほど優しくも、気遣いができる人間でもない」

「……ありがとうございます?」

「ところで……助けてもらったお礼の話なんだけど……」

「あぁ……確かに言われましたね。期待していない……は語弊がありますね。大きな見返りは求めていないので大して気を遣わなくても構いませんよ」

「……そうか。何か希望ができた時にいつでも言ってくれよ。頑張って応えるから」

「ありがとうございます。でしたら……」

「ん?」

「よっ! 流羽るはねクン、またえたねぇ!」「ぶっ!」

 いきなり背後から肩を組まれた。タイミングが悪ければ危なかった。

 ……振り向かなくても分かる。声だけではない。未だに印象の悪い俺に朝からこんなハイテンションで絡んでかつ遭遇が2回以上。俺を流羽るはねの名で呼ぶ人物。……やっぱり。

 漆黒のロングヘア。瞳は血よりも紅い鮮紅で、全てを見透かした様な強気な表情によく似合っている。きっと20代前半だが、ちょいウザい絡み方が同級生のそれ。こうやって間近で見ると顔立ち整っててかなりの美人だな。……あと胸が当たっている。気にしてないのか故意か。……前者だろう。正直邪魔で嬉しくない。

 そうして地味にカノトキに2人しかいない、地球とカノトキ双方を知る、奇しくも俺の1番の理解者でもある。

 正直、何も知らない他の衛星より遥かに警戒心を抱いてしまう。

「覚えてくれているかな?」

「……覚えているさ、ベラドンナだろ? いきなり正体を暴いた人間を、そう簡単に忘れられると思うか? あと俺の本名は流羽りゅうは

 ……俺の本名は実際に広まってるんだが? そもそも記憶で知ってるだろ。

「ん~……忘れられないね。覚えてもらえてて嬉しいよ」

「ええと……お2人は面識があるのですか?」

「そうだよアサマ。前に1度だけ会ってる。彼の正体を暴いたのさ。まぁそれは今となっては何の脅しにもならないけどねー」

 そう言うと躊躇無く隣の席に座った。肘を付いて脚を組んでこちらに身体を向けて。

 少女……改めアサマは邪魔になると思ったのか、足早に去ってしまった。まだお礼の内容を聞けてなかったのに。

「ここは美少女がいっぱい……。良かったなっ、天国だなっ」

 きっと共感してほしいのだろう。美少女が多いのは強く肯定するが、天国とも地獄とも思っていない。大抵性格に難アリだもん。……俺が言えないよな。

「……聞こうと思ってたんだ。死者の過去を見れる能力者が、それだけで衛星になれるのか?」

 どう答えても地雷を踏み抜きそうだったのでシカトする。この質問、決してバカにする気は無い……が、役に立つのはどんな時なのだろうか。単純に興味がある。

「……まぁその能力は本来の特殊能力のオマケだよ。遺体を見れば死因が分かる、つまりどこにどんな能力を持った超進化恐竜がいるのか分かるんだよ」

「ある種の探知能力ってワケか……。って、本来のはまた別にあるのか?」

「うんそうだよ。初めて会った時、一部って言ったよ」

 ……そうだったっけ。あれから1週間経ったし衝撃的で情動的な出来事がわんさかだったしで記憶に無い。結局あの日からクランとジューン以外の衛星と全く関わっていない。混乱が落ち着くまでは行動の自粛が要請されたからな。

「教えてくれないか? いつか同じく衛星になるかもなんだし」

「お~豪語するねぇ~……だから君が気に入ったんだ。でも残念、なおさら秘密にしたくなっちゃった」

「えぇ……」

「楽しみは取っておかせる派なんだ。けど私は君の特殊能力について知ってるし……少しアンフェアだな、1つヒントをあげるよ」

「ヒント?」

 彼女は黙って手を差し出した。握手がヒントになるのか?

「……外硬殻……」

 彼女の手に触れることはできず、直前で止まった。否、接触自体はしているが、硬くて冷たい感覚があった。

「流石だね、正解だよ。誤解を防ぐために言っとくけど、私は超進化恐竜ではないし君に協力的な姿勢をとるつもりでいる。さ、これで能力がまた1つ見れたね。いつか全てを知る日が来るのを待とう」

「……どうして俺に協力してくれるんだ? 俺はまだ見返りを……」

「そうだね、今の状態じゃせいぜい協力者はクランとジューン、グーズぐらいだろう。まぁ何でかって言うとね……君の記憶を見たからさ。君、結構やるじゃん。で、彼女のこと、まだ後悔してたり?」

「……何のことだか。あいつとの関係はただの友人関係だ。恋人じゃないし、後悔もしてない」

「……今のは私が悪かったね。さて、時間を喰いすぎた。私を言い訳にしな、それで大丈夫だから。またね、流羽りゅうはクン」


 喰堂を出て、クランと合流する。

「遅かったわね。サボるのかと思ったわ。行くわよ」

 答えさせる間もなく、クランは会議室に向かった。まだ土地勘が無いので逸れたら終わりだ。大人しく着いていかないと。

「……遅れた理由を言った方が?」

「……好きにしたら?」

「……お宅のベラドンナに絡まれてた」

「あぁなるほど」

 怒ってる様子は無い。免罪符になってしまう様だ。

「……あなたの記憶を知っているからかしらね……彼女なりに気遣っているらしいわ。下手に情報を漏らす人じゃないし、気持ちも分からないでもないけれど、あまり邪険に扱うのは彼女に失礼よ。ほどほどにね」

「……そうだよなぁ……」

 改めて考えれば、異分子の俺に積極的に絡んで来たりと、決して悪い人間じゃない。やっぱり人間関係って難しいな。

「最近の調子はどう? 皆とは仲良くやっていけそうかしら?」

「そうだな……あんまり交流が無いから難しいけど、仲良くしていきたいよ。全員と仲良くやっていけるほど器用じゃないけど、長い付き合いになりそうだし、最期には涙を流してやりたいんだ」

「…………」

「……どうかしたか?」

 不思議そうな、けれどもどこか悲しそうな目でこちらを見ていた。

「……何でもないわ。……いや、言わなきゃよね」

 何か覚悟を決めた様子で、立ち止まって口を開いた。

「……?」

「……じ、実は……」

「……??」

「……わ、悪かったと思ってるわ。ごめんなさい」

 通りのど真ん中で、何の脈絡も無く、唐突に頭を下げられた。文脈ちょっとおかしかったぞ。

「えっと……」

「あなたに平手打ちしてしまった件。あの時の私の発言に間違いは無いわ、本心だもの。でも暴力を振るう理由にはならない」

 そう言って黙って頭を上げ、まっすぐ向き直った。

 ……じっくり顔を見る機会はあまり無かったが、改めて見るとやっぱり顔立ち良いな。ベラドンナが言ってたのはやはり正しい。どんな遺伝子集団で受け継いでんだ。

「……仕返ししないの?」

「ん? 俺が君に?」

「えぇ」

 迷いは無い、といった様子。

「いいよ、別に」

「え? でも私の気が……」

「あれがなきゃ、俺は前を向けなかったよ。傷も治ったし」

 そう、あの傷は自然に任せた。そう簡単に治してはいけないと解釈して、自戒として残しておいた。

「……ありがとな、俺を見捨てないでくれて」

「……それぐらい良いわよ。私はあなたの教育係で感謝もしてるわ。見捨てる訳がないでしょう?」

「……なぁ、もし気が収まらないんだったら、1つ質問しても?」

「別に貸し借りじゃなくて良いわよ。何?」

「初めて会った時、向こう岸に何がいた」

 それを口にした途端にそれまで優しかったクランの表情が真剣な表情に変わった。やっぱりシリアスな話題か。

 遠い対岸から響いた地響き。肉眼では分からなかったが、きっとかなりの大型の生物だろう。

「……あんまり声を大にして話す話題じゃないわ。行きながら話しましょう」

「OK」

「……あなたには言ってなかったわね」

「何かヤバいモノが見えたんだろ?」

「ハッキリ言うと……十災よ。情報は少ないけれど、間違いなく超進化恐竜の中でも最強の1頭よ」

「……マジ? ちなみに特殊能力は……」

「不明よ。ベラドンナの能力なら遺体があれば手掛かりが掴めるけれど、彼女が殺した遺体は無い。故に被害者総数は不明よ」

 彼女、ってのはその超進化恐竜に対してなのか。雌雄は判明してるのか。

「……それで十災最強認定ってのは過大評価なんじゃ?」

「それはない」

 即答っスか。

「でも断定できるってことは見た目に特徴があったり?」

「えぇ。歴史書の挿絵でしか見たことなかったけれど、すぐに分かったわ。全身がまるで染められた様に青く、荒々しいトゲで全身が覆われてるの」

「……アクロカントサウルスと関係があったり?」

「う~ん……似てる気もするから種族は近いと思うわ。けれど別物よ、戦う必要もないわ。自殺行為なら誰も巻き込まないで。意地でも逃げ延びて」

「そりゃそうだ。どっちの方が強い?」

「そうね……戦うたびに結果は変わると思うわ。この2頭に関しては、簡単に優劣はつけられない」

 アイツに勝てる相手か。とんでもないヤツが近くにいたらしい。確かにこんな情報、下手に漏らしたらパニック状態は不可避だろう。

 だがそんな生物が動いたら、常に地響きがしているはず。近付いてくる感覚も無かったし、その目立つ身体を目視できなかった。

 俺の恐竜に関する知識は乏しいし、名前を聞いても分からないだろう。あまり気にしすぎるのも毒か。極論、アキロバトルとアクロカントサウルスさえ殺せば良いのだから。

「個体名――、二つ名は『――』。それがその十災よ」


 これから座学だ。わざわざクランに聞いておくべきこともなかったので特に会話は無く会議室に到着した。

「お待たせ。じゃ、あとは頑張って」

「え? クランがやるんじゃないのか? 教育係だろ?」

「言ったでしょ? 私は忙しいの」

「早くしろ。待たせ過ぎだ」

 躊躇いなくクランは去っていった。待って、気まずいって。

 そしてこの声。覚えがある。

「たしか君は……」

「ギンだ。流石に覚えているか」

 やっぱり。あの日ここで出会い、威圧と脅しと拘束をしてきた殺気立ってた彼女。ほとんど俺が悪かったことだが。

「忙しいだろうに、わざわざありがとうな」

「陽が昇っている間は特殊能力が使えない。だから今回、流羽の座学担当になった。以上。よろしく」

 やはり相変わらずな性格だな……。グーズの髪色がコバルトブルーなら彼女はラベンダーブルーって感じのショートカット。長身でヒョウの様にスラッとしているが、外見からは分からないスゴい力を秘めていた。

 容姿からも声色からも必要以上話さない簡素な話し方からも、至極冷たい印象を抱いた。言ってること自体は間違っていないんだが……言い方に難がある。それでも握手を求められる。握手多いな、この世界。

「よろしく」

 これを拒めば俺は無知蒙昧のままだ。たとえ理不尽に投げ飛ばされようとも、ここは拒めない。

 ……そして何も起きることなく、簡単に握手を交わした。正直かなり警戒していただけに意外だった。

「……それからあなたは……」

「チェッカーじゃ。悪いがワシは失礼なガキと馴れ合う気はない。理解しとくれ」

 部屋の隅の椅子に腰掛け、何かしらの本を読みながら目も向けることなく言い放った。失礼な自覚があるからそっとしておこう。

「そこに座れ。さてと……どういう風に進めるか……。希望はあるか?」

 やっぱり例の席に座らされた。床に正座じゃないんスね。ホワイトボードも席から見やすい位置に移動してあるし、最低限の優しさはあるらしい。

 目の前の席に座って脚を組む。パンツスーツなのでベラドンナとは別の意味で気にしていない様子。

「……特にない」

「……そうか。ならひとまず質疑応答形式でいくか。特にジャンルは問わない」

「……座学担当はどう決まったんだ?」

「ワタシが立候補した」

「それまたどうして?」

「衛星をナメてるバカがいると思ったからな。自分勝手な主張ばかりして、それが通らないとなれば暴力に走ろうとする。クランから聞いたぞ、アキロバトルの外硬殻の上からダメージを与えたとか。そんな力で暴力を振るえばどうなるか……分からねぇとは言わせない。お前は自分を制御できておらず、何も分かっていない。ただのバカだ」

「……それはよく分からされた。もう考えも改めた。一定の敬意も抱いてる」

「…………」

「君が言う様に、自身の利益しか考えていなかった。あの時の主張はひどくバカだった。……けど目的を譲れない理由がある。だからこそ、俺自身が誰よりも強くなって認められないといけない。……頼む。殺す気でも何でも、俺に訓練を叩き込んでくれ。俺は本気だ」

「……そう簡単に頭を下げるな。……ふっ、良いね。覚悟決まってる眼をしてる。お望み通り、叩き込んでやるよ。さぁ、座学を始めよう」

 どうやら認められたらしい。

「よろしくお願いしますっ!」

「……君は何も知らない、と認識しても良いか?」

「あぁ。そもそも超進化恐竜についての知識が乏しい。何から何まで説明してくれると助かる」

「はいはい……」

 ホワイトボードに文字を書き込んでいく。局所的に文明が発達してんの何なん?

「……チェッカーさんは何もしてくれないのか?」

「ワシは補足説明だけじゃ。ワシを気にするな。ちゃんと学んでおけ。お前の言う強さには辿り着けんぞ」

 ……冷たい優しさ、と解釈しても良いよな?

「見聞きしたことを絶対に忘れない特殊能力、だったっけ?」

「……そう、名前は『知憶ナレッジ』じゃ。見聞きした事柄全て、永遠に記憶することができる能力じゃ。すぐに思い出せるかどうかは別じゃがな」

【タッタッタッタッ……キュ】

 どうやら書き終えた様だ。話し言葉も含め、地球に存在しない言語のはずだが自然に理解できる。ゼフォンの翻訳にある拡張機能らしく、見聞きする言語を自分の母国語に同時通訳するとか。しかもゼフォンを所持していなくとも、だ。仕組みはまったくの不明だが非常に便利。常にオンにしている。つまりは彼女が書く文字が何を意味するのか容易に理解できる。そして俺が話す日本語も彼女らは理解できている。

 もうワケが分からない。そういうモノだと思っていちいち考えることはとっくに諦めた。

「……流羽は超進化恐竜をどう認識している?」

「いきなり難しい質問をするなぁ……。そうだなぁ……神に愛されてる、かな。俺達よりかは断然」

「ほぅ。詳しく聞かせろ」

「……弱点があるとは限らない特殊能力、全身を覆う簡単には斬れない外硬殻、多種の追随を許さない圧倒的な強さ、凶暴性……。どこをとっても常人は敵わないだろ」

「あぁ、そうだな……。異論は無い。まず人類が勝てる相手じゃない」

「……人類が? ギンはそう思うのか?」

「言ったろ? 昼間は弱点による制限で特殊能力が使えない。故に十分な戦闘はできない。たとえそうでなくともワタシは楽々と勝てる相手だとは思わない」

「……質問良いか?」

「答えられるかどうかは分からないけどな。言ってみろ」

「誰でも抱く疑問だろうさ。勝てないと思ってなぜギンは衛星になったんだ?」

「……答える以前に、君の認識が間違っているな。そもそも衛星に戦う義務はない。あるのは権利だ。考えてもみろ、チェッカーさんが超進化恐竜相手に戦えると思うか?」

「思えない」

「クソガキが」

 えぇ……何で俺だけ……?

「何じゃ、「思えない」とは。そこは「思わない」で十分じゃろ」

 ……この会話は……あぁ、あの時の。懐かしいな。

「ならギンは戦わない衛星ってことか?」

 チェッカーさんに関しては……もういいや、無視しよ。そっちが俺を嫌うなら俺も塩くなるだけだ。

【チャラッ】

 あぁ、ネックレス。勝利経験はあるのか。

「……昼間は難しい。ワタシなりに必死に努力はしている。成長も感じる。実績もある。……ラズやクランと比べたら少ないが」

 確かに彼女のネックレスには飾りが付いているが、彼女の言う通りだ。それは彼女のコンプレックスらしい。

「……彼女らは上澄みじゃ。代償性弱点は制限性弱点と違って時間や回数、種類に縛られない。その問題でもある。決して謙遜するでない。……それにお前も分かってやりな。皆が皆、お前の様に秀でた運動能力や戦闘センスを持っている訳じゃない。楽して衛星になった者などおらぬ。大切な人を喪った者もいる。……分かってやりな」

「……ごめん、俺が無神経だった」

「……必要以上に気負わなくていい。卑下したのは自分自身だ。悪かった」

「……特殊能力だけが、お前の弱点なのか?」

「……分かって聞いてないか? こういうことだ」

 暑いだろうに、ずっと羽織っていた上着を脱ぐ。

「拘束の時に悟った。冷静じゃなかったけれども」

 彼女には左腕が無い。恐らく超進化恐竜の仕業だろう。

「5年前だったかな……夜勤で壁の外に行った時に喰われた……が、今となっては特段強い敵ではない」

「一応聞くが……アキロバトルとどっちが?」

「強い、という意味か? ならアキロバトルの方が脅威に決まってるだろ。特殊能力の有無は相当な格差を生む。勿論能力の性質や弱点、相性なんかの要素もあるが……。とにかくワタシの左腕は超進化恐竜に殺された。怨んで当然、ワタシは生涯現役だ」

「頼もしいねぇ……」

「そう言うお前のひとまずの目標はアキロバトルを倒せるレベルになることだろ?」

「そうだ。外硬殻の斬り方を教えてくれ」

「随分と大きく出たな……。例のダメージ貫通で倒せないのか?」

 ……こいつ俺ができないの分かってて聞いてるな。ニヤニヤしてる。

「無理だ。膝が砕ける。治せるけど……神経は操れないから激痛は残るんだ」

 まぁその点は俺だからどうにかなってる節はある。

「OK。クランに聞いたところ、素質はあるけど斬り方は知らないんだろ?」

「そうみたいだな」

 ラズは斬れる様になった、って言ってたな……。自覚がないから心配だ。

「特殊能力とは別に、戦闘もする衛星が身に付ける能力がある。それは『気』だ。クランが言ってた素質ってのは気のことだろう」

「……き?」

「そうだ。気は全ての人間が持っているが、その素質は個人差がある。故に使いこなすには高度な技術と個別に特化した訓練が要る。そして気には大きく3種類がある。邪気、狂気、殺気だ」

 外硬殻と何の関係があるのか掴めないが黙ってメモを取る。とりあえず用語は記憶しなくちゃ。咄嗟の指示で使われて、分かりませんでしたじゃ話にならないからな。

「狂気はより凶悪な効果を。殺気は武器の殺傷能力を。邪気はその効果や能力を大幅に上げる」

「……それで、気と外硬殻との関係は?」

「超進化恐竜の最大の弱点は寧ろ外硬殻があることにある。外側から強固な防御をするが故に、外硬殻の下はただの柔らかい皮膚に留まっている。だから一度斬ってしまえば大抵の超進化恐竜は攻め落とせる」

「なるほどねぇ……」

 鎧を纏った騎士みたいなモンか。鎧を切り壊せばそれで何とかなるものなのか。……でもそう簡単にいけるのか?

「でも流羽の吸血鬼は特殊武器だったよな? もう1種類、気を習得する必要がある。ワタシ含め、大抵の者は無駄になるから身に付けないけどな」

「もう1種類……何だ?」

「妖気だ。まぁまともに教えられるのは……クランだけだろうね」

「……なーんかオカルトチックだな」

 あまりに今更過ぎるけど。超進化恐竜を見て特殊能力を見てゼフォンを見て吸血鬼を見てから言うのは遅いけれども。

「これらを武器に流し込み、上手く組み合わせて外硬殻を斬る、以上!」

「……え?」

「感覚的な話なので座学では説明できない」

 まぁ『気』って言われた時点で察したけれども。

「吸血鬼に殺気を流し込み、斬る。シンプルだろ?」

「つまり……ガチで殺しにいく、ってことか?」

「そんな感じで良いんじゃないか?」

「一応聞いとくが……何で殺気を流せば外硬殻を斬れるんだ?」

「知らん」

 さいですか。

「相手が超進化恐竜だったら容赦なくできる……だろ?」

「……それはまぁ……そうだな……」

 脳裏に浮かんだのはエウストレプトスポンディルスの母親だ。彼女には同情してしまった。再び敵として対峙する時が来たら、俺は容赦なく殺気を流せるだろうか。

 ……誰に対しても、ってのは無理だな。

「お前の目的は殺戮ではないんじゃろ? 誰も彼も殺す必要は無い。護りたい時に護る、切り替えることも大切じゃ」

「それもそうだな。ありがとう」

「……他に話すことは決めてなかったが、お前から聞きたいことあるか?」

「あぁ……そうだな、アクロカントサウルスについて。不確かでも良い、知っていることをできるだけ教えてほしい」

「チェッカーさん、頼めるか?」

「歴史書の記述じゃから新しさと正確さに欠けるじゃろうが……それで良いんじゃな?」


[アクロカントサウルス]

○特殊能力……追駆斬撃エッジストーカー

→非持弱点。指定した物体の線状の箇所を追い続け、斬り断つ空気の刃を生み出すことができる。指定した箇所にあたるまで物理干渉できずにどこまでも追い続ける。その速度は非常に速く、ガリミムスの最高速度を優に超える

○体長・体重……13m・6.5t

○生息域……森林

○喰性……肉喰。ハンター

○種族……カルカロドントサウルス科

○繁殖……詳細不明瞭

○危険度……肉喰超進化恐竜の中でも最大級の大型種であり、特殊能力の危険性から星18

○身体的特徴……両前肢と高く張った背ビレが丸鋸型。不透明超硬外硬殻でできている

○その他……十災


「……これぐらいじゃな……」

「待て待て待て……聞いてねぇよ……」

 13mだと? どういうことだ? 俺を殺したのは違ったのか? でも身体的特徴は間違ってなさそうだし……。いや、それより危険度18だって? アキロバトルでも10だったろ?

 何が恐竜だ。マジモンのバケモンじゃねぇか……。

「ど、どうした? 極端に体調悪そうだが……?」

「な、何でもない……平気だ。時をようやく理解した……」

 あの時は角を曲がる前から俺の脚を指定して斬ったのか。

「危険度18って……十災の中だと何位ぐらいだ?」

「3位じゃな」

「ハハハ……ヤバ過ぎだろ……」

 規模がデカすぎて最早笑いが出る。回避不可能の特殊能力より強いヤツが2種類もいるのかよ……。どうりでカノトキが星10になるはずだ。

「大丈夫か?」

「……心折れそうだ」

 変幻自在なら斬られた箇所もすぐに治せるかもしれない。でも首や頭を狙われたら即死だろう。

 やりすぎるぐらいの入念な対策をしないと。

 それから質疑応答形式で座学が進んでいった。今日だけでも多くのことが学べた。ギンとチェッカーさんには感謝しないと。初めは警戒されていたから冷たい目に見えたけれど、根は真面目で優しかった。



 そして夜を迎えた。深夜2時。

 本来ならこれまでの反省から早い時間に眠り、朝早くに起きるのが利口だろう。

 なら俺は利口じゃないな。

「何時頃になるかな……」

 ギンの特殊能力が昼は使えないってのが気になって、夜に能力を見せてもらえる様に頼んでおいた。流石に部屋の場所は教えてくれなかったのでずっと待っているが、一向に音沙汰がない。忘れて寝てないといいけれど。

「……コーヒー飲むかぁ……」

 これは徹夜コースだろう。

 眠い身体を酷使してキッチンに行き、戸棚からカップを取り出す。お湯は沸かしてある。置いてあった袋からココアパウダーをカップに入れ……

 おいちょっと待った。

「…………」

 確かに俺はキッチンに来て、カップを取り出した。ここまでは間違いない。だがココアパウダーなんて置いてなかった。飲もうとしていたのはコーヒーなのだから置くはずがない。戸棚の中にあったはず。

 目を擦ってもう一度。

「……何でだよ……」

 ココアパウダーどころか、カップすら無くなっていた。完全に心霊現象ですね、これ。

「バグってる……」

「お前何でまだ起きてんだよ……」

「ウワッ!!」

 後ろから突然声を掛けられて、思わず跳ねとんだ。

「もう2時だろ。反省する気ねぇだろ」

「それより……これお前の特殊能力か? 何の特殊能力だよ……」

騒乱幽霊ポルターガイスト。見えないけど幽霊はここにいる」

「なるほどな……」

 これで帰るのかと思いきや、彼女は部屋の奥に入り、ベッドに腰掛けた。

「今夜は夜更かしするんだろ? コーヒー淹れさせてるから待ってな。それともココアの方がお好み?」

「……寝させる選択肢は無いのな。……コーヒーで良い」

 振り返ると2つのカップが宙を舞っていた。多分ここに例の幽霊が……

「触れないよ」

「……分かってる」

 そしてカップがテーブルに置かれた。

 ……悪くない味だ。

「……あの様子だと不安で寝られないかもしれないと思ってな。やっぱり起きてたし……少し話をしよう」

「……俺から聞くことはもう無いぞ」

 無神経にプライベートに踏み込むのも良くない。

「誰でも抱く疑問だろうさ。地球で死んでここに来た、ってどういうことなんだ?」

「あぁ……何から説明すれば良いのか……。俺が産まれ育ったのは地球って惑星……まぁ世界?でな。気候や環境はカノトキと似てるんだけど、超進化恐竜はいないし特殊能力も存在しない世界だ」

「平和だな……」

「一概には言えないけどな……。でも戻りたいよ」

「……それで地球で死んだのか?」

「あぁ。アクロカントサウルスにズタボロにされた」

「……ん? 超進化恐竜はいないんだろ?」

「そうだ。それについては全く理解できない。曰く俺の運命がバグったらしい」

「死んだら普通来れるのか?」

「来れない。多分そのバグでこっちに来ることになっちまったみたいなんだ。あとは前に言った通り、アクロカントサウルスを倒せば俺は地球に戻れるらしい」

「……何でそれは知ってるんだ?」

「知った経緯は記憶に無い。多分ベラドンナでも。でも倒せばどうにかなる、ってのは分かるんだ。何と言うか……神のお告げ的な?」

 ……わざわざ仮の地獄での出来事を話してややこしくするのは面倒だからな。俺も分かってないこと多いんだし、知らないで通せるだろう。

 神のお告げではなく悪魔の囁きだったけれども。

「お前はそんな不確かなことに命を賭けるのか?」

「あぁ。今の俺にできるのはそれだけだからな」

「……命は大切にしろよ。遺された立場は味わったんだから。お前に死なれたら、目覚めが悪くなる」

「…………」

「ところで、戻りたい戻りたいって言ってるけど、地球に家族は?」

「いるけど……1人暮らしだった。兄弟も……彼女もいないし。結構1人暮らしにも慣れてた時期だったからなぁ……。でも戻らない理由は無いよ。俺の唯一無二の故郷だし、良くも悪くも思い出だってあるしまだまだ作りたい。……ギンに家族は?」

「両親は他界した。妹が1人。衛星だけど……まだ流羽とは会っていないはずだ。それから……」

「……それから?」

「……弟もいる」

 男性は行ってしまったんだったな……。

「無論生きていてくれるのが1番だが、あいつはワタシとは違って優しい奴だったからな。誰かを見捨てて逃げる様な性格してなかった。寧ろ犠牲になることをいとわない性格だった。だから覚悟はしてる。もし弟が死んでいたとして、殺した超進化恐竜に出会う時があれば……分からないとは思うが、その時は頼むよ。復讐はしたいが、きっとワタシじゃ役に立てない」

「……あんまり自分を低く評価するな。ギンは意外と優しいし、俺のここでの初めての先生でもある。こういうこと言うの照れくさいけど……スゴく尊敬してるから」

「……まさかお前に励ましてもらえるとはな。……あぁ、そうだ」

「ん?」

「明日……いや今日か。戦闘訓練の予定が入ってる。詳しくは聞いてないが、もしかすると外に行くかもしれないな。まぁ遅れたら延長されるしそもそも見限る可能性だってあるから嫌なら早く起きて挑めよ」

「……それ今言うか?」

「ワタシが来たんじゃない、お前が呼んだんだろ? 文句言われる筋合いはない」

「……正論だけどさぁ……。あ~っ、何も言えねぇ」

「……昨日教えたこと、忘れてくれるなよ」

「……あぁ、分かってるって、先生」

 そうして固くグータッチを交わした。

 俺に衛星になれるだけの技能があるってこと、絶対に解らせてやる。

「……ところでギンの部屋、ここからどの200文字以上70,000文字以内で入力

文字数(空白・改行含む):13196字 ぐらい離れてんだ」

「……来られるのはシンプルに嫌だけど……まぁ近くはないね」

「……わざわざ夜中に来てくれたんだし、お前が良ければ泊まってけよ。俺は別の部屋で寝るから」

「……何かあったら斬首な」

「へいへい」

 ……残念ながら、そういう趣味は無い。

……もう遅れてすみませんの待たせ方じゃないですね。

これまでの後書きのテンションの高さにビビります。

今回はネームドキャラが増えました。アサマ、ギン、チェッカー……キャラ設定に嗜好が見え隠れしてますね。そろそろベリーのストックが消えそうです。

そしてアクロカントサウルスや謎の十災の情報が出ました。さて、どうやって殺してやりましょう……。難題ですね。特に戻ってからが。まぁある程度は決まっているので何とか軌道に乗せたいです。

ベラドンナの特殊能力はとっくに決まっています。死者の記憶を見て外硬殻を発現させる……意外と限られているのでは? ぜひ考えてみてください。答え合わせはまた遅くなりそうですが。

この調子だとあと何話ぐらいで流羽は衛星になれるのか…… 。まぁ衛星になったところでまた壁を建てて心を壊すだけですが……。


今回更新が遅れ、内容がスッカスカな事。落とし所を悩みました。なので中途半端です。


ではまた次回、筆が進むことを祈って!

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