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カノトキ巣食うは超進化恐竜  作者: ズーマ
第1章『血塗れの丸鋸』 第1編『芽生える殺意』
5/14

第4話「今晩の天気は荒天のち快晴。星の綺麗な夜になるでしょう。急激な気圧の変化にご注意ください」

※食事中の方、食後の方、これから食事の方。とりあえず、そういった方は少しは考え直した方が良いかと。そういう回なので。



タイトルは天気予報風。長いね〜。



追記:2024/9/19 改稿


アクセス数を見て、自分の想像をグングン超えていくカノエヴォ(略称です。ご自由にお呼び下さい)を見て、最近は「この作品って世界中の人が見れるんだよな? ワンチャン知り合いが見てるってこともあるんじゃね? 恥っず……」と、勝手に心配してます。

確実な心当たりがある方は、本人に直接連絡を。


……え? もしかして「編」の中に「章」が含まれる?

なら逆張りで。第1章第1編「序章」の完結です。


では、どうぞ。

 昔から、雨は嫌いじゃなかった。

 雨も風も、嫌な記憶を洗い流してくれる様で。夏の雨は暑くてウザったかったが、秋の雨は涼しかった。

 雷もロマンがあって好きだったな。厨二病なら嫌いなヤツいないだろ。

 なら晴天は? それも嫌いじゃなかった。


 そう、なかった。



「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 10分程走り続けただろうか。いつの間にか陽が沈んだ様で、辺りは暗くなっていた。俺は出て行ったラズを追い駆けている。

 この集落は無駄に広い。ラズの部屋にも行ったがいなかった。場所も分からないくせに、必死に探している。

「バカ野郎……」

 自分勝手に相手にリスクだけ負わせて、自分は何も負わずに恩恵を得ようとした。戦いに要る特殊能力に代償があることも分かった上で、だ。

 自分への怒りと情けなさに苛まれながら、謝罪し、再び話をする為に駆ける。

「どこに行ったんだ……ラズ!!」

 周りの目も気にせずに走る。だが灯りが無い道をいつまでも走り続けるのも無理がある。

「そうだ、ライト……」

 ……どうやらリュックを置き忘れて来たらしい。それに吸血鬼も。だが取りに帰る暇は無い。

「クッソ……」

「あの、そこのお兄さん!」

「!?」

 中学生ぐらいの茶髪の女の子だ。面識は無い。手にタオルと水筒を持っている。

「あの、さっきから何度も見かけたので……」

「ガチ?」

「ガチです。さっきからずっと必死に走ってるので気になって……。良ければ少し休んではどうですか? あ、干し肉でもあれば良かったですかね……。すみません、気遣いが足りなくて……」

「謝らないで。寧ろ遣いすぎだよ。……1つ聞いても? ラズを見かけてないか?」

「ラズ先輩ですか? 確か……15分程前にあっちに歩いて行きましたよ」

 恐らくもうあっちにはいないだろうが、行って損は無いだろう。

「よし、色々ありがとな! 今度お礼させてくれ!」

「あ、ありがとうございます!」


「クッソ……こんな時に……」

 ラズを見つけるより先に、雨が降り始めた。月明かりも雲に遮られ、灯りも消火される。地面もぬかるんで走りづらくなる。

 降り止む気配も無く、貰ったタオルもすぐにビショビショになった。ずっと走ってはいるものの、豪雨は視界も音も邪魔する。

「マジでどこに行ったんだ……」

 早いとこ見つけないと、面倒なことになる。できれば今すぐにでも謝罪したいのだが。

【グルルルル……】

「!? クッソ、こんな時に……!」

 過去最悪の遭遇だ。明らかに肉喰の超進化恐竜が現れた。しかも3頭の群れ。

「伏線回収か……? 残念だけど、あの卵はお前らのじゃねぇし、今は持ってない」

【ガルッ!!】

「持ってないと怒る、か……」

 見た感じ、某恐竜映画に出たラプトルっぽい。目線の高さは俺の方が若干高いが、圧倒的に俺が不利だ。サーモノプスよりもエウストレプトスポンディルスよりも小さいのにバケモン感が底知れない。戦う前から分かる。明らかにソイツらより強い。

「ちょっと待てよ……。まさかコイツら……」

 コイツらの臭い吐息が臭う。血と肉の臭いだ。

「エウストレプトスポンディルスを襲った……」

 だとしたら。……結局することは変わらないが。

 そもそも、コイツらはどうやって入って来た? この集落は周囲を高い石壁で囲まれている。門はあるが素通りできるはずがない。まさか越えたのか?

「チッ……」

 吸血鬼も無い。ゼフォンも無い。勝算も無い。

 逃げるにしても、俺の方が速いのは何となくで分かる。野生の、被喰者としての勘。

 刹那、後ろに控えていたラプトルが飛び掛かってきた。

【ズオッ……】

(避けるのみ!!)

【ズパッ!!!!】

「ラズ!!」

 ラプトルの喉元目掛けて短刀を振り、鮮紅色に染まった白髪の少女。ラズだ。

「お待たせ、下がって」

「了解っ!!」

 よろめいた隙を狙って頭蓋骨に深く突き刺す。ラプトルは雑に震えてやがて完全に停止した。あとの2頭はこの状況を踏まえて様子見らしく、じっとこちらを伺っている。

「……え、吸血鬼は?」

「それが……誰かさんを急いで追って出たので……」

「……にしては時間かかってない? 君に会ったっていう子に聞いて駆け付けたけど?」

「だって視界が悪いんだもん……」

 てか彼女にはガチ感謝だな。間接的な命の恩人。

「文句言わない。刀忘れてよく衛星になるって言えたね……もう呆れる気も失せたし。まぁ……私が低気圧で降らせた雨だけど」

 何でや。味方の目潰ししてどうするん。

「……コイツ何か分かる?」

「はぁ!? マジで何してたの!? 私が来てなかったら死ぬつもりだったの!?」

「まぁ……つってもサーモノプスの時も死の淵だったやん? 最後に勝てば良いんだよ、勝てば。どんな手段でも、絶望と一緒でも」

「……そういうところ。やっぱり今のままじゃ十災狩りは無理」

「……じゃあ何をしろって……」

「それくらい自分で考えろ。……ったく、この廃人ギャンブラーが……」

「違う。誤解を招くから。競馬には一銭も賭けてない」

「何よ競馬って……今関係ある話?」

「…………」

「無いんかい」

「ナイスツッコミ」

「あんまり調子に乗ってると斬るよ。……変幻自在は使える?」

「おう。サポート必要?」

「特殊能力の相性は良い。詳しく話す暇は与えてくれない様だけど……」

【ガッ】

 暗闇高速のサーモノプスと地上最速のサイクルの影響でスピードタイプには慣れた。これぐらいの動き、寧ろ遅く見える。

 飛び掛かりを完璧に見切って真正面に対峙した。相手は急な状況に困惑して下手に手が出せずにいる。リーダー格はラズの相手か。

「油断は禁物よ!!」

「ご忠告……どうもっ!!」

【ゴッッ!!!!】【グッ……ゲヴォッッ!!】

 相手の腹に本気の膝蹴りを食らわす。相手は蹌踉よろめいて胃の中身を吐き出した。かなり臭いしグロい。思わず喉から噴き出すところだった。

「クソ硬ぇ……マジで膝が砕けるって……」

 吐き気と激痛に耐えて相手の喉元を掴み、思いきり地面に向かって倒した。悲痛な叫びを上げて相手は倒れた。

「どんな当たり方したら外硬殻をダメージが貫通するの……? そして何で平気で立ってるの?」

「流石に砕けたな。平気じゃねぇさ……。でもまだコイツは死んでねぇ!!」

 ここで倒せば被害は止まる。トドメを刺さない理由は無い。

 だが俺には決定打は打てない。だからとりあえず、足首を踏み付け……

「は?」

 ……られなかった。バランスを失い、俺は倒れた。

「ぐっ……またかよ……」

 だがズパッと脚が斬れたワケでもなく、尻尾で折れたワケでも無い。今度は完全に、喰われたワケでもなく、


 無くなっている。まるで初めから無かったかの様に、虚空に消えた。


「バグってる……」

 無くなった断面から鮮血が溢れ出てくる。これで短期間のうちに3回目だ。ある程度の耐性はあるが、流石に脚を失う痛みには慣れない。慣れたくない。痛みに悶える間は集中して戻せない。

【ガルッ……】

 立ち上がったラプトルは、俺の頭目掛けて勢いよく脚を降ろした。

「はぁっ!? バグってる……」

 回転して上手く躱せたが、頭があった場所、すぐ隣の地面が半球状にえぐれていた。まさしくクレーターの様に、そこだけが元から何も無かった様に。

「消す能力、ってことかよ……」

 消された範囲を見てみると、俺の頭があった範囲より狭い。限られた範囲内の物体を消せるっぽい。直立して立っているところから、常時発動の特殊能力ってワケでもない。何か条件、もしかしたら弱点もあるかもしれない。

(なら消す中心は……足元っ!)

 何より危険視すべきはそこだ。見るからに危険そうな爪が生えている。顎も牙も危険なのは当然だが、地球にいた恐竜は超進化恐竜と戦っても勝てないだろう。特殊能力とそれを理解して使いこなす優れた知能、それに外硬殻の有無が軍配を下す。

(良しっ!)

 冷静さを取り戻せた。即座に脚を治し、立ち上がった。

 狙うべきは上半身。刃物を使わず、肉体フィジカルで対抗する。外硬殻があっても、肉を斬らせて骨を断つ作戦で何とかなる。

 ラズも有効な一撃をできずにいる。ラズの相手はリーダー格で、俺の相手より一回り大きく速い。

【グヴォヮラ!! グヴォヮラ!!】

 ラプトルが文字起こししにくい奇怪な声を上げた。

「マズい!! 仲間を呼び集めてる!!」

「マジかよ……」

 2対2で押され気味なのに、更に敵が増えるのは厄介以外の何でもない。マジで死の危険を孕んでいる。

「面倒ね……さっさと片付けたいから、ちょっと危険な攻撃して良い? 被害が及ぶ可能性もあるけど!」

「俺は気にしなくて良い!! 片付くならやってくれ!!」

 消す能力と生み出す能力。一進一退で結局プラマイゼロだ。首と頭に目掛けた攻撃を避けるだけの、新人にはちと厳しい簡単な( ? )お仕事。展開が進まない。

「大技だからちょっと発動に時間がかかる……5分もかからないけど。時間稼ぎを任せて良い?」

「……その間、特殊能力は使えない的な?」

「そうね。短刀も。ダメ元で預けるわ」

「……分かった。こっちに来い。そっちの方が守りやすい」

「OK、ありがとう」

 ラズに背中を預け、俺は2頭のラプトル達に向き直った。何を悟ったか、距離を開けてこちらを見ている。

「これを放てば衛星の誰かが気付くはず。少なくとも1人は心当たりがある」

「その衛星がいれば勝てそう?」

「……いて絶対に勝てる衛星がいたら良いわね。私達が今身を削って戦う必要が無くなるもの」

「そりゃそうだ……」

「だから防衛にも人数が要るの。十災狩りに下手に人数は割けない。2頭同時に襲われたら……考えたくもない」

「ラズって結構優しいよな。集落の皆のことを常に案じてる」

「君は育った場所が危険な状況下にあったらどうする? ……って、そんなことも起きないか」

「悪かったな」

「仮に行けたとして。君の世界がそれだけ安全だろうと、私は皆を護る」

「なぁ……コイツら倒せば認めてもらえるか?」

「寧ろ引く。……やりたい?」

「あぁ」

「ふっ……。ま、もう発動できるけどね?」

「……なら頼む」

「了解!! 耳塞いで、屈んで!!」

 言われた通り、耳を塞いで屈んだ瞬間……閃光が走り、

【ゴドドドロロロロ!!!!!!!!…………】

 雷が落ちた。直撃したラプトルは即死した。

「……って、危なすぎっ!!!! 倒せたから良かったものの、落雷起こすなら言ってくれよ!! 心臓止まった!! 結構痺れた!!」

「っ……被害が及ぶって言ったよ?」

「うっ……言ったけどさぁ……てか落雷できたんだ」

「……えぇ……低気圧で積乱雲作って、電圧弄れば? まぁ感覚だから詳しい原理とかは理解してな……」

 そこまで言って、ラズは倒れた。何とか抱え止めることはできたが、頭と腹部を抑えて、苦悶の表情を浮かべている。

 この状態は……特殊能力の代償だ。

「だ、大丈夫か!? しっかりしろ、ラズ!!」

「……大丈夫じゃない。落雷はハイリスクハイリターンだからあんまりやりたくないけど、君がいたから……。……ごめん、色々出そうだ。ヘルプ」

【ギュルルルルゥ……】

「立ては……しないな。歩くぞ、マジでヤバかったら遠慮せず言えよ」

「うぅ……。ごめんね……」

 悶えるラズを抱えて行こうとした、時。

【ガブッ】

「っ……またかよ……」

 強く肩を噛まれた。振り返ると2頭のラプトル。呼ばれた増援だ。

「うっ!」

 相手が離れる勢いで強烈な蹴りをもろに食らった。ラズは落とさなかったものの、重心が崩れかけた。ギリギリ転倒せずに済んだ。

「大丈夫……?」

「こ、こっちのセリフだよ……。無事か? ごめんな」

「気にしないで……」

 負傷した肩を庇って体勢を立て直す。不思議と消された箇所が無いのが不幸中の幸いだ。傷はかなり深いが、脚よりは早く治せる。

「ラズ、後ろにいてくれ。俺が何とかする……」

「分かった……両後肢第2指の爪……あの1番大きい爪……の半径5cmが特殊能力の効果範囲。能力発動中は自分以外の全てを選ぶから、地面に近いと発動しないことが多い……。つまり、飛び蹴りのタイミングが1番危険……」

「アドバイスありがとう。大丈夫そうか?」

「大丈夫じゃない」

「即答かよ……」

「外硬殻を斬るのは特別な技術がどうのこうのの問題じゃない。君ならいずれ斬れる」

「……マジ?」

「えぇ。不要な感情を捨てて、容赦も同情もせずに斬ること。ポイントはそれだけ。吸血鬼に比べたらその短刀は単純だから、深く気にしなくていいよ……うぅ……」

「……分かった。容赦も同情もせずに……」

 ただ、斬るのみ。


……見えた世界全てがスローモーションに見えた。外硬殻に刃が触れる寸前にラプトルは高く飛び上がり、俺の背中を軽々と飛び越え、その先へ……

【ガッ……】

 ラプトルがラズの腹部を抉り消したのと、俺が振り向いたのが同時に起こった。

「ラ、ラズ……?」

 思わず敵を忘れて駆け寄ろうとすると、

「っ……クソが……」

 すぐ後ろにいたラプトルが噛み付いてきた。俺の傷はどうでもいい。引き摺ってでも行ってやる。

【グワォン!!】

「――――……!!!!」

 死ぬまで忘れないだろう、過去一の悲痛な絶叫。

「ラ、ラズ……」

【パァァァン!!!!】

「……え?」

「ラズ!! 大丈夫!? 酷い傷じゃない!!」

 ライフルを構えた金髪の少女、クラン。その銃弾が、ラズを襲うラプトルの脳を貫いた。残り1頭、俺の相手。

 クランは俺のリュックをその場に放り捨ててラズの下に駆け寄った。

【グワォォン!!】

「クッソ……待ちやがれ!!!!」

 ラプトルは危険を察したのか、急に去って行き、石壁に開いた穴から走り去っていった。

「あの穴から……」

 ラプトルの通り道だ。特殊能力で直接開けたらしい。

「ラズ!! しっかりして、ラズ!!」

 半泣きでクランが叫んでいる。身体を起こして石壁にもたれかからせて座らせる。ラズは薄っすらと目を開けているが、かろうじて息ができている状態。言わずもがな危険な状態だ。

「ラズ、しっかりしろ……そうだ、変幻自在で……」

【ピコン♪】

[特殊能力『変幻自在』は、他人の身体に干渉できません]

「はぁ? クソッ、クソッ!!」

【ピコン♪】

【ピコン♪】

【ピコン♪】

 何度通知音が鳴ろうと、何度同じメッセージを受信しようが、ラズの傷は癒えない。もうほとんど腸も残っていない。出血も治まらない。

「ゲホッ……」

 吐血が服に付こうが、雨がそれを流そうが。

 傷を負わせたラプトルが死のうが、残党が逃げようが、俺達が嘆き悲しもうが、自状況は何も変わらない。

 2人共悟っている。もう、助からない。……ラズは死ぬ。

「流羽君……めて……」

「でも、けど!!」

「クラン…………流羽君…………聞こえる…………?」

 無い腹に手を当てて、呟く様なか細い声で。

「!? 聞こえるわ、何?」

「――――」

 クランの耳元で、ラズは何か話した。雨はもう勢いが無くなり、雲も去りつつある。

「……えぇ。分かったわ」

「…………ありがとう、流羽…………。外硬殻を斬れるようになったね…………」

「……まだだ。あの時に俺が斬れていれば……」

 俺が斬れていれば、少なくともあの場で相打ちにできた。更に深い傷を負わせることになった。

「それは違うよ…………。グーズから聞いた。君は超進化恐竜に同情したって。勿論その意思の否定はしない。でも君は、今回の件で容赦も同情もしない心を手に入れたはず。君は…………衛星になれる。誰かを護れる…………十災をも倒せる可能性がある…………」

「へ……?」

「保証するよ。…………君には素質がある。外硬殻の上からダメージを与えたのは別にしても…………ね。君は生き残る素質がある。超進化恐竜の巣食うカノトキで、君のいなかった理不尽な世界で、生き残れる」

「ラズ……すまない」

 そう言って、俺は土下座した。碧月流羽史上、最も丁寧で深々とした土下座だ。

「俺の失態で、君が死ぬかもしれない。俺の私情で、多くの命を犠牲にしようとした。君が正しかった。君に手も出しかけた。本当に……すまない」

「はは……言ったでしょ? 君の事情は分かってる…………今更気にしないよ…………。ついでに言うのも申し訳ないけど、助けてくれてありがとう」

「……当たり前だろ? 衛星ってのは護る立場なんだから」

「皮肉かい? シンプルに受け取っておくよ、君は強い男だな…………。…………クラン、これまで本当にありがとう。君達がいたからとても楽しかった、心強かった。それから……皆に感謝を伝えてくれ。兄さんが帰ってきたら……大好きって伝えて。あ~っ、そろそろ限界かも…………」

「……ラズ。……衛星として数々の命を護り、生涯現役を貫いて、名誉の中で逝く人。我々は永代、あなたの意志と栄光を後世へ遺すことを誓います……」

「まさか生きて聞くことになるとは…………」

「あなたは強い人よ。誇って」

 形式上の、事務的な文言。泣くのを必死に堪えている。

「うっ……。……ラズ……逝かないでよ、ラズ……」

 耐えきれず、クランはラズに縋って号泣している。雨天でも分かる、彼女の泣く姿。それを優しい眼差しで見るラズ。

 俺はこんなに幸せに逝けるだろうか。

「……ラズ、今までありがとう……」

「こちらこそありがとう…………じゃあね…………」


 ラズ、死去。享年17。


 雲は消え去り、月光が降り注ぐ。現在の天候は快晴だ。



「……衛星が死ぬのは初めて?」

 ラズが火葬され、翌日の朝を迎えた。俺とクランの間で重い空気が流れていたが、ようやく泣き止んだクランと2人きりで話せる状態になった。首には遺骨のネックレスを提げて。

「……いいえ。……あなたの故郷ではこんなこと、滅多に起こらないって言ってたかしら?」

「俺の見てない所では散々悲しい最期を迎えた人だって毎日いるだろうさ」

 ……ゼフォンの通知によれば、ラズの死はこっちの世界の運命によって定められたものだったらしい。たとえ俺がいなくとも、ラズはあの死に方をした。それでも罪悪感は拭えないが。

「……俺のこと、恨んでる……よな?」

「いや全く。寧ろ感謝してるわ」

「……何で?」

「ラズはあなたがいたから安心して落雷を起こして一度は敵を倒せたの。あなたがいたことで犠牲を抑えることができたわ。感謝すべきことよ」

「でも……1番護るべき人を、俺は救えなかった。倒すべき相手だった。それにラズの方が護る意思が強くて実力も……」

「っ!!」【パァン!!】

「!?」

 いきなりクランに平手打ちされた。目には涙を浮かべて怒っているのが伝わる。

「ラズに後悔は無かった。ラズは君の弱さを否定した。私もそれを否定する! 今回あなたは護るべきモノを学べたの! だから……あなたを肯定したラズを、否定する様なことはしないであげて……流羽君……」

「……そうだよな……」【ゴッ!!】

「ちょっ……」

 平手打ちされた箇所を思いきり殴った。痕になるだろうけど関係無い。

「正論言われてばかりだな、俺。ずっと分かっていないバカ野郎に制裁を下しといた。それと……呼び捨てで良いよ」

「……分かったわ。あなたにはラズの推薦で衛星候補生になってもらう。衛星になるには訓練を積んで、最終テストでは実際にアキロバトルを倒してもらうわ」

「あぁ」


[アキロバトル]

○特殊能力……堕凶爪抉裂半球ガウジングアウトクレーター

→非持弱点。意識している間、自身の後肢第2指の爪の先端から半径5cm以内の球状の範囲内にある、自身を除く全てを抉り、そこにあった物体そのものを消滅させる。

○体長・体重……6m・測定不可

○生息域……広く分布している

○喰性……肉喰。ハンター

○種族……ドロマエオサウルス科

○繁殖……雌雄交配

○危険度……超進化恐竜としては中型に分類されるが、ドロマエオサウルス科としては比較的大型であり、単純な戦闘能力及び特殊能力の危険性、群れでの連携などでの本領発揮を踏まえ星10

○身体的特徴……両後脚第2指の爪が非常に発達している。全身が羽毛に覆われている

○その他……特になし


 アキロバトル。俺の最終目的はアクロカントサウルスの討伐だが、コイツも必ず殺す。



 俺はこの日を境に、快晴が少し嫌になった。

 彼女の最期を思い出すから。


「あっちで見ていてくれよ、ラズ……」

ありがとうございました。今回はキリが良いので短めに収めました。

では今回のキャラ説明を。


[ラズ]

 年齢……享年17

 性別……女

 特殊能力……圧加

 身長/体重……164/??

 その他数値データ……不明瞭。Aカップ。

 誕生日……8/17

 死因……アキロバトルによる失血死。

 武器……短刀

 血液型……O型

 好きな物……兄、集落の皆(ギリギリ流羽を含む)

 嫌いな物……理性の無い男、ストレス

 その他(裏設定)……16歳の時に望まず子供を妊娠。本人にとって深いトラウマとなった。その後も複数回せがまれ、時には初めと同じく無理矢理された。孕んだ子供を堕ろすこともできず、能力によるリスクを考えたものの、衛星としての活動を優先。また、それを知っているのはクランとジューン、孕ませた本人のみ。以降、男に対して危機意識を持ち時に冷たい態度で接したが、本来は本人はそういった性格ではない。産む前にアキロバトル戦で子供は巻き込まれて消え去った。

また、本来は黒髪だったが、能力の代償で次第に白髪になった。


……はい。ラズの裏設定は考えてたのですが、これからクランとかジューンとか流羽も誰も彼も裏設定を掘るのは面倒……否、大変ですね。年齢以外の数字に意味は無いですし(流羽はちゃんと考えた)、血液型はルーレットです。

 あと、アキロバトルの事を今回は「ラプトル」と呼称していますが、ゼフォンを持ってなかった流羽が勝手に言ってるだけなので。ヴェロキラプトルでもデイノニクスでもないので、許してやってあげてよ。次回からはアキロバトルって呼ぶはずだから。

 だって自分、あんまり恐竜のこと詳しくないな〜って書いてて思いますから。前回のデルタドロメウスにしてもそうですし。十災の最後の1頭を誰にするかも中々出てきませんでした。決めましたが。

 十災の設定は、ほぼほぼ出来ました。登場する章とか、危険度とか、特殊能力とか。あとはどう殺すかですね。正直、敵だけがインフレするので殺して良いのか? でも殺さなきゃバットエンドだぞ? ってなってます。マジで大変だなコレ。自分の本来考えてた結末に上手くハマるかどうか……。


 長い長いサブタイトルの名前の由来は、「文字通り」「星の綺麗な夜→亡くなった(=星になった)衛星、ラズ」「圧加の影響」ってだけです。


 さて、物語は第1章第2編「衛星のバトル」に移る所ですが…………

 筆者の私事情により、今後の更新が遅くなる可能性があります。と言うかなります。理由? 受験生なのに勉強よりコレの方が楽しいから! ほんとコイツヤベーよ。勉強しろよ。集中しろよ。他人事じゃねぇよ。10月の競馬(GI)を楽しみにするな。せめて勉強してから見ろ。それから次回作のアイデア出すなよ。カノエヴォの完結もしてねぇし、設定もガバガバなんだから。「キリが良いトコまで書かせて」だ? どうせ明日も書くんだろ。

 ……あ、危険度の最大値は20です。


では、またいつか分からない次回で。


脳がバグってる作者、ズーマ

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