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カノトキ巣食うは超進化恐竜  作者: ズーマ
第1章『血塗れの丸鋸』 第1編『芽生える殺意』
4/14

第3話「カミングアウト」

今更ですが、この作品は書き終えた日の次にくる昼12時に更新します。要は今は9/19 火曜の0:43ということです。眠い。


では、前回を見て、どうぞ。



追記:2024/9/19 改稿 ちょうど1年前だったんだ。

「そろそろ聞いて良いか? 俺を隠す理由について」

 ラズは大分俺に慣れてくれたらしく、自然な表情を浮かべてくれる。が、言動が落ち着いただけで、素で結構キツい性格しているらしい。

「騙すのが嫌なら言っても良いよ。ただするなら事情を理解した上でやって。ところで、この状況で何か気付くことは無い?」

「……女しかいない、ってことか?」

 簡単な話だ。俺だからバレるのがマズいワケではなく、男だからマズいんだ。俺の部屋には男の痕跡があったが、空き部屋になった。

「察しが良くて助かるよ。後で君の部屋に行くから、詳しい話はその時に」

「……躊躇無く苦手な男の部屋に入るのな」

 一応部屋に鍵はあるが。

「それは嫌味か? もう君は苦手じゃない」

「それにさっき襲わないって言ったじゃん」

「言ったな」

 隣に座ってるラズと会話しているのに、正面のジューンからの視線が怖い。さっき襲わないって約束をしたからだろうか。流石に反故にはしない。

「……ご生憎、俺には強姦の趣味は無いよ。てか日本じゃ犯罪だよ? 翌日の全国ニュースに出るよ?」

「ところで犯罪って何?」

「う~ん、規律違反って言えば良いかな? 殺人とか強盗とか偽札とか道交法とか、いろいろな犯罪が日本にはあったの。こっちには無い?」

 これは聞いておかないと。知らなかった、で斬首されたらたまったもんじゃない。

「治安は良いからね。問題が起きたら対処するのも私達の役目だから。迂闊に問題は起こせないよ」

「だろうね……」

 俺なんてラズの威圧だけでノックアウトしたし。

「さて、戻りますか……」


 至る自室。馴染みある4人で集まった。俺の姿は元に戻した。やはり慣れた身体は違う。

 お茶も菓子も無い。まぁ400人ならそこまで気を遣わなくても良いのだろうか。

「さて、何から話せば良いかな……」



~2ヶ月前・ラズ視点~


「え!? それってどういう……」

「俺にもワケが分からねぇんだよ……。あの野郎が全てを仕切っちまった。誰の意見も通す様なヤツじゃねぇのは分かるだろ?」

 彼は相当苛立ち、混乱している。それもそのはず。彼がこの世1番嫌いな者がその男だから。こんなこと、前代未聞だから。

「本当は俺も残ってここを防衛したいんだ」

「それは分かってるよ……」

「だから悪いが……この集落を任せる」

 突然告げられた、1週間後の長期遠征宣言。それも年齢不問の集落中の男性全員に徴兵の義務が課せられた。名目は超進化恐竜の討伐だが、実質的な集団自殺。けれああの男は逆らう者には決して容赦しない。例えそれが同族であっても、特殊能力の行使を惜しまない。彼の能力を前にしては敵わない。

 私も過去に身を以って味わった。以来、彼を見る度に恐れが勝ってしまう。

「……任せて。何があっても護ってみせる」

 私は彼に近づいて、強く抱きしめた。

「だから、必ず帰ってきてね。兄さん」

「あぁ。勿論だ、ラズ」

 そう言うと兄さんも抱き返してくれた。身を焦がす灼熱の炎の様に熱い心が伝わってくる。


 不安も残る中、私は商店に行った。喰堂があるといえども、やはり部屋に喰糧のストックは必要だ。

「よぉ、ラズ。奇遇だなぁ」

「!?」

 例の彼がいた。嫌だ、怖い、やめて……

「そんなにビビらなくても良いじゃんかぁ~っ」

「ちょっ……め……」

 さぞ当然の様に、肩を組む。思わず払ってしまった。

「へぇー……。拒むんだ」

「ち、違……」

「否定したな? ならまたできるよなぁ?」

「それは……めてください」

「へへっ、アイツが聞いたらどんな反応するかなー? まだ隠してるんだろ?」

 言えるはずがない。言えば兄さんは彼を殺そうとするだろう。彼が死ぬ分には……まぁ問題無い。そんなことより問題なのは、兄さんも代償性弱点だということ。苦しむのは私だけで良い。

 かと言って私自ら彼を殺すことはできない。それが分かった時点で彼は私を掌握するだろう。彼が特殊能力を公開した時から誰も逆らうことができなくなった。

「……俺が帰ってきた時には。言わなくても分かってくれるよな、ラズ?」

「……はい」

 生きている限り、逃げられない。敵は増えるばかりだ。


 一週間は長いようでもすぐに過ぎ去る。

「出発の時刻だ!! 総員、既定の配置につけ!!」

 人数分の確保ができなかったことと騎乗技術の問題から、遠征はサイクルではなく徒歩で行われる。人命を軽んじている。あまりに酷すぎる。

「……行ってくる。土産を期待しててくれ」

「…………」

 大丈夫だ。兄さんは強い。何度この場所を、人命を護ってくれたことか。泣いちゃダメだ、心配かけちゃダメだ。死ぬはずがないんだ。理屈じゃない。だって……。

「……誇れ、ラズ。お前は俺の妹なんだ」

 私の頭を撫で、それから目を見て言ってくれた。誰より信頼でき、熱く、誇れる優しい瞳。

「……はいっ!」

 溢れ出た涙は止められない。それでも私は落ち込まない。


 455人の去り行く男達の背中は、死に向かうものだ。訓練されていない一般人が超進化恐竜と出くわして勝てるワケが無い。

 事実、遠征開始からわずか1日で4割が消息不明になった。生死の確認を行う余裕すら無いのだ。そのほとんどが老人や幼子、病人、彼らを護ろうとした者だ。


「つくづく良いお兄さんを持ったね……羨ましいや」

「うん……」

「さ、泣き止んで。今日から忙しくなるよー」



 一連の事情を聞いたが、正直胸糞悪い。何なんだそのヤバいヤツは。会ってもいないのに嫌悪感を覚える。バグってる。

「……それから2ヶ月。誰もまだ帰ってきていない」

「道理で初対面の俺を殺そうとしたワケだ……。誰かを助けることもなく逃げ去ったと解釈されてもまぁ……分からんこともないな」

「その節は本当に悪かった。私に何かできることがあれば……」

「良いよ、気にすんな。俺も君達がいなけりゃ死んでたからな。貸し借り無しだ。それにそんなことがあったら確かにバレたら面倒だな。それにしても……相当慕われてたのな、その兄さん」

「彼は皆に優しかったからねー。私達もホントの兄の様に慕っていたし、彼も家族みたいに気遣ってくれたからね」

「君も彼に会えばきっと分かるよ」

 どうやら皆、彼が生きていることを疑っていないらしい。

「ところで……今日の会議ってのは何人ぐらい出席するんだ? 俺も行くならまだ正体は隠した方が良いのか?」

「最初はね。でもそこで明かして理解と意見を求めるつもり」

「出席予定の衛星は私達含めて9人だよー」

「衛星って?」

「訓練と実績を積み、戦闘員として積極的に外へ出ることを許された唯一の存在のことだよ。私達3人もそう。だからこそ湖畔に行けたワケだし。もし襲撃があれば戦うし、治安維持にも務めている。ここを拠点にカノトキで戦いたいならまず衛星になることが目標だな」

「普通はどのくらいかかるんだ?」

「そうだねー……まずは衛星に弟子入りして運動能力の強化訓練からがセオリーだけど、流羽君には必要無いんじゃないかな? それを抜きにして考えても……それこそトンデモ特殊能力を持ってる様な人が1ヶ月ぐらいかかるかな?」

「ジューンの言う通り、君は基本的な運動面で学ぶことは無いけれど、座学で超進化恐竜について学んだり、外硬殻を斬ったり、連携プレーを学んだり……そういったことは必要だと思うわ。君のやる気や結果次第だけれど、少なくとも半年から1年ってとこかしらね……」

「やっぱりそう上手くはことが進まないか……」

「進むと思ってた、ってことの方がよっぽど衝撃的」

【コンコン】

 玄関の扉をノックする音がした。俺の知ってる3人はここにいる。知らない人物なのは確定だが、誰が出るべきか迷った。

「これ……誰が出てもおかしくないか?」

 まだ隠す算段だったのに。男は論外なので女体化しても良いが、それもまた面倒なことになりそうだ。

 かと言ってここは俺の部屋。誰が出てもおかしい。

「そもそも……ここは空き部屋判定だし……」

「え……話通してないのか!?」

『…………』

「ウソやん……」

 結局、女体化流羽が出ることになった。

「……どちら様でしょうか?」

 そこにいたのは青髪の少女だった。髪型はショートカットで、清純で真面目な雰囲気を纏っている。

「てことは例の新人さんってことか……」

「?」

「どうやら見ない顔の人、それも美少女がいるとの噂を耳にしてね。片っ端から空き部屋を当たってみたら……私を知らない美少女を発見した訳だよ」

 うーん……美少女って思われるのは嬉しくも複雑な気持ちだな。それに普通に喰堂に行って衛星と喰事をしていたらそりゃ不自然だわな。

 そして私を知らない、ときた。てことは有名人。真っ先に思いついたのは衛星の1人説。

「もしかして衛星の方ですか?」

「正解」

「あ、グーズじゃーん。何かトラブルー?」

「ジューン……それにラズとクランも。そうか、ここにいたのか。特に用は無いが……例の新人さんを確認しておきたくてね。ところであなたの名前を聞いても?」

「私は碧月流羽へきづきるはね。よろしくね」

 女体化する時はこう名乗ることにした。読めなくもないしな。女性の名前に「流」は縁起が悪いらしいけれども。

「こちらこそよろしく頼むよ。あ、そう。これこれ」

 彼女は4つのネックレスを俺に渡した。グーズを首に掛けてるし、そう言えばラズ達も昨日は着けていた様な。

「なぁジューン、これは彼の分で良いのかい?」

「あぁ、そうだよ」

 飾りが1個だけ付いたネックレス。何だこれ。

「ねぇグーズ、今日暇だったりする?」

「あぁ、暇だね。たった今予定が済んだし」

「だったら彼女の『サイクル』を探してくれない? 彼、衛星志望なんだ」

「へぇ~……。ラズ、あなたが言うってことは相当期待できるって認識で良いかな?」

「現状はまだまだ未熟。勝てるワケがない」

「辛辣だねぇ……」

「私も着いて行っても良いかしら?」

 クランが同行を希望した。ワンチャン彼女の特殊能力が見れるかもしれない。

「あぁ、勿論良いよ。集合は10時で良いかな?」

 てことは1時間ぐらい間が空くワケだ。

 ……てか、勝手に展開が進んでるだけで俺自身の意見は言ってないんだが?

「……良いよ」

 どうやらサイクルってのは衛星になるのに必要そうな言い方だし、断ってまですべきことは無い。了承するか。

「またね」

【ガチャ】

「……で? サイクルってのは?」

「見たら分かるわ。とりあえず……女性の身体で外に出ることになるから、服を着替えた方が良い」

「男物以外の着替え持ってないけど」

『…………』

 沈黙ですか。容姿は美少女でも中身は俺だから当然だな。

「……目を閉じて、中を見ないなら1着だけ貸す」

「誓いまーす」


(胸キッツ……)

 絶対に、絶対に声に出してはいけない。もし声に出せば、問答無用でぶっ殺される。

 俺は今、目隠しを着けてラズの予備の戦闘服を着せられているのだが、流羽るはねとラズに一部体格差があって少し苦しい。身長と体格は「ほとんど」変わらない。

 戦闘服というだけあって軽くて動きやすく、それでいて硬い。機能性と防御力に長けている。オシャレとは言えないが。

「……目、開けて良いよ。どう?」

「胸元のボタン開けて良いですか?」

「喧嘩売ってる? 殺すよ?」

 めて。仕方ないので気付かれない程度に胸のサイズを調整した。これで大丈夫だ。

「何か持って行く物あるか?」

「とりあえず吸血鬼。あとは……その場で喰べられる喰料ね。現地調達は厳しいから」

「植物喰の超進化恐竜って狩れないのか?」

「は?」

 いや、「は?」って言われても。思ったことを率直に聞いただけなんだが?

「星6のサーモノプスがあれだけ強かったんでしょ? だったら植物喰超進化恐竜は絶滅するでしょ」

「確かに……」

 喰う者が進化して強くなり、喰われる者もそれに応じてやがて強くなる。カノトキでも地球でも変わらない自然の摂理らしい。

「私の部屋に干し肉があったはずよ……」

「ところでこのネックレスは持ってく?」

「好きにすれば良いよー。それは流羽君の実績を示す称号みたいな物だから」

「実績?」

「超進化恐竜狩りに参戦しました、ってこと。サーモノプスの骨から作ったんだよ」

「……要るのか?」

「要る。必携じゃないけど、無くしたら大罪よ」

「……マジか」

 サーモノプスの骨はそんなに大事なのか。


 吸血鬼、干し肉、水筒をリュックに詰めてとりあえず広場に来たのだが、集合場所を決めていなかったので10時になっても来る様子は無い。20分ほど待った。

 クランはスナイパーライフルを背中に掛けている。腰に提げたカバンに銃弾を入れているらしい。

「探しに行く?」

 青髪は目立つだろうし、そう難しくないだろう。何かトラブルが起こっているのだろうか。

「……どうやらその必要はなさそうね」

 彼女の視線の先には、こちらに走って向かって来ているグーズの姿があった。

「彼女、遅刻の常習犯なの。今更誰も気にしないけどね」

「それで準備が遅れても良いって言ったのな……」

「そうよ」

「ハァッ、ハァッ……待たせてごめん……」

 大分疲れた様子で、肩で息をしている。クランが差し出した水筒を乾かす勢いで飲んでいる。髪型がさっきと比べて少し荒れているのを察するに、寝ていたのかもしれない。最初の印象とは違ったものを感じるが、遅刻癖は俺と似てるな。

「良いわよ。急にこっちから頼んだことだし」

「でも……」

「良いから良いから。呼吸整えな?」

「ありがと……」

「ところで、サイクルってのは何? ラズは見れば分かるって言ってたけど」

「そうか、見たことないんだね……じゃあ少ししたら行こうか」

 サイクル=自転車ってことだから、乗り物だと思う……が、

「え? これが?」

「そう、彼らが『サイクル』だよ」

 他の建物から離れた厩舎にいたのは、間違いなく超進化恐竜。体高はサーモノプスよりデカいかも。それに数が多い。だが敵対している様子は無い。

「正しくはガリミムス、って言うんだ」


[ガリミムス]

○特殊能力……無し

○体長・体重……6m・300kg

○生息域……草原

○喰性……雑喰

○種族……オルニトミムス科

○繁殖……雌雄交配

○危険度……人間に危害を加えることはまず無いが、その規格外のスピードで衝突された場合を考慮し、星2

○身体的特徴……後脚と心臓の筋肉が非常に発達しており、カノトキ最速の陸上動物である。回復力や持続力も高く、休憩をほとんど必要としない。その分攻撃力は無い

○その他……刷込済み


「刷込ってのは?」

「私の特殊能力さ。『刷込テイム』。産まれて1週間以内の動物を使役できるんだ。ただし寿命が1ヶ月以上の動物でないと使役できない。使役権を他者に委託することもできるんだよ。それで衛星に懐いてるのさ」

「特殊能力や攻撃力は無いけれど、平地での逃走ではほとんど負け無しよ」

 ほとんど、ってのが引っ掛かる。けれどもスゴいのは理解した。

「最高時速は何キロぐらい?」

「そうだね……まぁ余裕で100は超えてるんじゃないかな?」

「速っ!! バグってるね……。……でもこれだけいたら私の分のサイクルもいたりしない?」

 恐らく30頭はいるな。正直少しうるさい。

「出来ないんだな、それが。主人からの委託が必要だから。主人が私じゃない個体がほとんど。主人が男性だった個体に関してはどうしようもないけど殺処分なんてできるはずもない。それに相性ってものがあるしね」

「何にせよ、地球で言うところの馬みたいなものね……」

 乗馬の経験は無いが、競馬なら実際何度も見に行った。もしこんな怪物が出走したらそれこそ独走状態エクリプスになるだろう。競走馬みたいに適性があるのだろうか。騎手も大変そうだ。

 あ、競馬は観るだけなら未成年でも問題無いからな。未成年の馬券の購入が違法なだけで。

「そのウマってのが何かはよく分からないけれど……まぁ近いモノがあった様で良かったよ」

 そう言うとグーズは厩舎改め竜舎から2頭のガリミムス、もといサイクルを出した。特殊能力って怖ぇ。超進化恐竜がマジで大人しい。気性難はいるのだろうか。2人がかりで手際良く竜装を終える。触っても大丈夫だそうだ。

「さてと……後ろに乗って」

「え……大丈夫?」

「何が?」

「振り落とされたりしない?」

「君が私にしがみ付けば大丈夫だろ?」

「そ、そうだね……」

 これは想定外。グーズは当然知らないが、俺の正体は男。それもきっと今日判明するし。それを知ってたらきっとこんな提案しないだろう。

 2人乗り用の鞍に乗って、グーズにしがみ付く。怖ぇ。せめてヘルメットをくれ。落竜しても中枢神経が無事なら再生できるはずだから。

「し、失礼します……」

「捕まったね? じゃ、行くよ!」


 数十分後、俺達は草原に辿り着いた。湖畔とは反対方向に向かったので俺からしたら未開の地。向こうは森林だったが、こっちは大草原だ。それを少し高い丘から見下ろしている。

 気を抜くとすぐに振り落とされそうになるので目を瞑り、必死にしがみ付いていた。よくこれでグーズは平気だな。降りた瞬間、疲労がドッと来る。

「そ、操縦していないのに疲れた……」

「そりゃあ初めてなら疲れるだろうね」

「それにしても……スゴい景色……」

 自然の景色も当然だが、大量の超進化恐竜が群れを成している。ほとんど植物喰だが、何頭か肉喰もいる。遠くから見ても満足できる。近くからでは無理だけど。

「マジでサバンナって感じだ……」

 サバンナよりタチ悪い動物達がいる世界だけど。

「クラン、地平線の向こうにはいる?」

「……いないね」

 ライフルのスコープを覗きながらそう答える。確かに肉眼で見る限り見えない。

「肉眼でも速いから砂埃で目立つよ。それが目隠しにもなって逃走に有利なんだ」

「移動するの?」

 正直、もうサイクルはこりごりだ。

「……少し北に行こう」


「よし、ここらで一旦休憩しようか」

 サイクルを探し求めて川の下流、三角州に着いた。俺がカノトキに来る前に降った雨で増水した川を渡るのは一苦労かつ危険ということで、引き返して別の方角に向かうことにした。

 近くでは植物喰超進化恐竜が水を飲んでいる。サイクルにも水を飲ませている。濁っていても水質にも問題なさそうだ。

「……え?」

 何だっけコレ。前にテレビで見た気が……もしかして。

 ……てことはヤバい。洒落にならない。急いで彼女らの所に向かう。

「どうかしたの、そんなに急いで?」

「ハァッ、ハァッ……。ここ……肉喰超進化恐竜の営巣地だ」

「何だって!? 巣はどこに!?」

「あっち! 肉喰超進化恐竜の足跡もあったし卵が喰べられてもいなかった。ハァッ、ハァッ……早く逃げない……と……」

【グルルルル……】

『…………』

「手遅れだ……よね? 逃げる? それとも?」

「いずれにせよ、速いから気を付けて」

 グーズは姿勢を低くして臨戦態勢の様子。クランもライフルを構えている。一応吸血鬼を構える。


[ エウストレプトスポンディルス ]

○特殊能力……詳細不明瞭

○体長・体重……6m・500kg

○生息域……三角州。基本は陸上生活

○喰性……肉喰。スカベンジャー

○種族……メガロサウルス科

○繁殖……雌雄交配

○危険度……スカベンジャーの為、被害の報告は少ない。だがスピードが速く、また――る為、一度追い駆けられると逃げ切るのは困難であることから星4

○身体的特徴……背骨がよく曲がる。後脚が強靭で蹴りやダッシュに長けている

○その他……川辺に営巣する


「襲ってくる様子は……ないんじゃ?」

「そうだろうね。スカベンジャーだから。私達が巣に近付いたから警戒してるんだろうね」

 ……もしかして俺が悪い?

「……スカベンジャーって?」

「死肉漁りがメイン、って認識で良いよ」

「なるほど。……もし戦うなら、私に期待しないでね」

「妖刀使いが謙遜かい?」

「外硬殻は斬れない」

「なるほど、ラズの言ってた通りだ。……なぁ2人共、提案があるんだ」

「何?」

「卵1個だけ盗んでサイクルで逃走ってのはどう? 産まれた個体なら刷込できるよ」

 一体どこの映画の3作目だよ。回収するまで群れで襲って来るだろ、めとけよ。研究費用は要らないよ。

 ……つっても相手はラプトルじゃないし何とか……ならない?

「悪い提案じゃないと思うけど……流石にコイツを相手に回収は難しいわよ?」

「もしかしてコイツ……サイクルの代わりになる?」

「体格的にも能力的にも他と比べればアドバンテージはあるよ。流石に俊敏性と操作性じゃ劣るけど、デバフにはならないさ」

「策ならあるけど……」

「クラン、策って?」

「1人が囮になって気を引き、また1人がサイクルで卵を回収するっていう策よ。私は威嚇射撃と、もしもの時に引き金を引く役」

「……私が囮をするよ」

「戦えないのに大丈夫?」

「私はサイクルに乗れない。それにある程度ダメージを受けても治せる」

「正気かい?」

「寧ろ勝気しかないね」

「はぁ……まぁ良っか。……よし、任せたよ! ファイト!」

 グーズにリュックを預け、サイクルに乗ったのを確認し、エウストレプトスポンディルスの注目を集める。

「こっちだぁぁぁっっっ!!!!」

 川原の石を投げつける。だが問題は1つ。薄々感じていたが、筋力が足りない。鍛えていた流羽りゅうはとは感覚も何もかも違う。肩の力が全然足りない。

「やっぱりデバフになるよなぁ……」

 いくら中身がゴリゴリの男でも、外見は華奢な女子。肉体的に差が生まれるのは避けられない。

 俺は特殊能力でその壁を壊せる……が、今は下手に全貌を明かすべきじゃない。

【グァァァオン!!!!】

「悪いが、単純で助かるよ……」

 まんまとエウストレプトスポンディルスは釣られた。

 正直、同情はする。自分の子供が狙われていたら敵意を向けても仕方ない。だがここは弱肉強喰の無法地帯。自分が生き残る為には他者の犠牲は付き物なのだ。そうして人類は地球の覇権を握った。俺が帰るための過程で、今日の出来事は役に立つ。

 そう、だから仕方がないんだ……!

流羽るはねさん! 捕ったよ!」

「OK!!」

「出番は無し、かぁ……」

 急いでサイクルに騎乗する。乗ってすぐに振り返ると……

【グワァァァァァァ…………】

 いつの間に現れた肉喰超進化恐竜の群れに襲われる巣と、ボロボロに傷付きながらも必死に追い払う、エウストレプトスポンディルスの母親の姿が映った。

 もし俺達がいなければ。隙を突かれることもなかったんじゃ。

 仕方が……ないんだ……。


 もう、俺達を追い駆ける者は……きっといない。


 悲痛な断末魔が響くより先に、俺達は草原に辿り着いた。夕暮れも近い。サイクルのスピードも落として草原を走っている。

「……ねぇ、グーズ」

「……何だい?」

「超進化恐竜に同情したことってある?」

「……あぁ、彼女に同情したかい?」

「あぁ。仕方なかったとはいえ、少しだけな」

「そっか……。サイクルにはいつもしてるけど、野生には無いかな」

「私もあまり無いけど……心が痛むことは悪ではないわよ」

「……俺が衛星になったらさ……俺が生きるためなら超進化恐竜は殺してもいい、そう思ってた」

「……うん」

「それは俺が1番大切だって思ってたからだ。でも彼女は子供の為に戦った。死を惜しまずに。彼女のなき声……耳から離れないと思う」

「他人を憂う気持ちも衛星は忘れちゃダメだよ。私達は護る立場だから」

「って寝てるし……」

「ホントだ……今日はお疲れ様。頑張ったね、流羽るはね君」


「おかえりーっ」

「おかえりなさい……って、収穫は?」

「出迎えありがとう。ラズ、ジューン。今日はサイクルいなくてね。代わりにエウストレプトスポンディルスの有精卵持って帰って来たんだ」

「……もうじき会話が始まるわ。とにかく、鞍上で爆睡してる彼女を起こして」

「ははは……。おーい、起っきろー!」

【ズズッ……】

「うわっ!?」

「おっはよー、よく眠れた?」

「ん~……? え、何でジューンがいるんだ?」

「もうすぐ例の会議だよ。着替えておいで、さぁホラ」

「う~……寝させろ~」


 部屋に戻ってシャワーを浴び、姿は変えず、ラズに借りた普段着を着て、男物の服はリュックに入れた。ラズ曰く、今からバラすらしい。

「さぁ、既に待たせてる。早く行くよ」

「悪ぃ悪ぃ、うっし! 行くか」

 シャワーで眠気は吹っ飛んだ。

「今日の会議の内容は?」

「……君の報告がメイン。他には特には」

「緊張するなー……」

 会議室は他の建物は独立しており、衛星以外の人物は入れないらしい。俺はラズと入るから問題無い。

「お待たせ、遅れて悪い」

「やぁ、君が例の新人かい?」

 そこにいたのはクラン、ジューン、グーズ、それにラズ含めて9人の女子。否、明らかに戦闘向きでない老婆が1人混じっている。マジで男はいないらしい。

 皆それぞれが独特のオーラを醸し出している。ラズの威圧に比べたらなんてことないが、圧を感じる。

「はい。碧月 流羽るはねといいます。よろしくお願いします」

「君の席はあそこ」

 示されたのは孤立した席。文字通り、即席感が否めない。正方形の1辺に3人が座ってるのに。しかもあっちは椅子が豪勢だ。差別だ!

「……失礼します」

「はっはっは! そんなに畏まらなくても、我々は取って喰ったりはしないさ。私はベラドンナ。よろしく」

 うわぁ陽だ。威風堂々だ。

「ところで君、何で女装してるんだい?」

「え?」

『!!!!』

 ラズ、クラン、ジューン、ベラドンナ、そしてグーズを除く4人全員が目を見張った。ラズは呆れて頭を抱えている。

「どうして……それを……」

「私の特殊能力の一部だよ。死者の生前の記憶を見れるんだ。生きた人間に初めて使えたよ」

「……そうだ。事情を話せば長いが……俺は男だ」

 そう言って徐々に姿を変える。そうしないと服が着替えられない。

「やっぱりか……」

「グーズは知ってたのか?」

「いや、君帰り道に素で話してたし。まさかとは思ったけどね」

「あ……」

 そういえば、ウトウトしながら「流羽君」って聞こえた様な。マジか。

「碧月流羽、お前に聞きたいことがある」

 名称不明Aが口を開いてゼロ距離まで接近してきた。獣の様にギラついた眼が滅茶苦茶に怖い。初対面のラズの様に、殺気立っている。これはラズの威圧と十分に張り合えるぞ?

「男の知り合い、もしくは仲間はいるか?」

「いない」

「そうか。ならお前は何者だ」

「彼ねー……」

「黙れ、ベラドンナ」

「へぃへぃ……」

「ベラドンナの言う通り、俺は元々住んでいた地球という世界で死んだ。カノトキの人間じゃない。だから俺は地球に戻らないといけない。そのために衛星になりたい」

「因果関係が不十分だ。その2つにどんな関係がある?」

 ここからは誰にも言っていない秘密の領域だ。

「俺が地球に戻る条件、それはとある超進化恐竜を殺すこと。だから衛星にならないといけない。両腕に丸鋸が生えた超進化恐竜を知ってるか」

「ソイツは……」

「アクロカントサウルス」

 例の老婆が初めて口を開いた。アクロカントサウルスってのが例の超進化恐竜か。

「他に比べれば情報不足じゃが、ゼロじゃない。世にも恐ろしい、斬ること特化した特殊能力を持つ十災じゃとな」

「テンサイ……?」

「超進化恐竜の上澄みの中の上澄み、危険度が15を超える僅か10頭の超進化恐竜の呼称じゃ。全ての超進化恐竜が個体名と二つ名を持っている。そして未だかつて、十災を殺した記録は無い」

「頭の中から抜け落ちた、ってことは?」

「失礼なガキじゃの。ワシは見聞きしたことを絶対に忘れん。そういう特殊能力じゃ」

「……残念だけど、流羽。この話は論外よ」

「ラズ! お前……」

「何? 「裏切った」とでも言いたい? 私は衛星になるのは協力しても、十災狩りには加担できない」

「何でだよ……」

「朝何の話をしたの? 男達が集って超進化恐竜に挑めども、数ヶ月経って1人も帰ってこなかった。そのうち全員が十災にやられたと思ってる?」

「そもそも、キミの全てが妄言でないという証拠は? ベラドンナと結託してボク達を陥れる可能性は?」

「どっちも無ぇよ! でも俺はホントに……」

「もう理不尽に巻き込まれるのは沢山なのよ。皆がそう思ってる。それがどこから来たのかも証明できない男に十災狩りに加担しろって言われて、誰が進んで協力できるのよ」

 もう誰が何を言ってるのか分からない。分からないほどに、皆想いが強いのだ。

【バンッ!!!!】

 ラズが思い切り机を叩いて立ち上がった。場の空気が凍り、底知れぬ怒りと情けなさに包まれる。

「碧月流羽、1つだけ聞かせて。あなたの要求を飲むことで多大な犠牲を出して、私達にはどんな恩恵がもたらされるのかしら?」

「それは……」

 考えていなかった。自分勝手にも程がある。

「出来ない要求は飲めない」

「お前は……俺の話を信じるのかよ」

「……信じてたら何? それが何になる?」

「…………」

 論点ズラしは無意味。冷静さを欠いているのは俺自身分かっている。

「……失望したよ、碧月流羽」

「あ?」

 めろ、マジでめろ。めろ!!

【バンッ!!】

「止めろ。次に手を出そうとしたら……ワタシは容赦なくお前を殺す」

「っ……」

「あなたにも譲れない事情がある。それは分かってる。でも、だからこそ、双方一歩も譲る気はない。あなたは説得するどころか手を出そうとした。まさしく、アリノケラトプスの鼻角ね。あなたがこれ以上何も言えない様なら、私は帰る」

「…………」

「……それじゃ」

 そう言い残すと、彼女は出て行った。

「……アリノ……何だって?」

 誰も口を開こうとしない。唯一、老婆だけが口を開く。

「アリノケラトプスの鼻角……結論が出ず、解決できない議題をいつまで話し合って意味が無い、という意味じゃ」

「おい、チェッカーさん!」

「そうかよ……」

「あ、ちょっ!」

 そう言うと俺は制止を振り切り、我を忘れて飛び出していた。


「やっちゃったよ……子供だねぇ……」

 しばらく重い空気が続いた。永遠の様に感じた。疑って決めつけて。ラズ以外の誰もが自分の事情を貫いた。その情けなさを実感している。

「……帰ろうか」

「そうだね……」

 皆続々と帰って行く。忘れ物が無いか、確認しないと。

「あっ……」

「どうしたの? クラン」

「アレ、流羽君の吸血鬼じゃない?」

「ホントだ……。武器を置いて出ていくとは底が知れるわ……」

「私、届けに行ってくる!」

「頼むよ、クラン!」

 先程まで晴れていた空が、いつの間にか雷雨になっている。予兆の無い悪天候。心当たりがある。

「ラズ……!」



【ガルルルル……】

 エウストレプトスポンディルスの母親を喰った肉喰超進化恐竜の群れは、人里近くに来ていた。

もう疲れたよパトラッシュ。


さて、次回がいよいよ、第一章第一編のラストでしょうね。きっと。

ラズの過去編もちょっとだけ出たし……。そういう表現ってどこからがライン越えなんでしょう。

そういえば書いてなかったな〜、と今回のあとがきに碧月流羽のデータでも書こうと思いましたが、パトラッシュが「寝ろ」と言います。


碧月へきづき流羽りゅうは

 年齢……18歳

 性別……男

 特殊能力……変幻自在

 身長/体重……175/65

 その他数値データ……詳細不明瞭

 誕生日……4/25

 死因……アクロカントサウルスによる失血死、以下詳細不明瞭

 武器……吸血鬼(妖刀)

 血液型……O型

 好きな物……自由、競馬(=血湧き肉躍ること。見る専)、『吸血鬼』

 嫌いな物……束縛、話の通じない奴

 その他……名前の由来は「流れる時代を羽ばたく」


まぁ、これはコピペですが。次回からは書いてないので面倒……ではないです。いつかは流羽るはねver.も書こうかな。ほぼ変わらないか。

さて、今回はかなりドタバタしましたね。次回は純粋なバトルになることを期待します。頑張れ未来の俺。

てか最初はエウストレプトスポンディルスではなくてデルタドロメウスの予定が、6年経った現在、植物食説を知って「はぁ?」ってなりました。ニワカがよ!ちゃんと調べて設定作れや!

ちなみに競馬ネタは自分も好きだからです。新参ニワカです。見に行ったことはないです。過去の伝説を「うおぉぉぉ!!!!」って見る人です、ハイ。知ってても面白いしね。あぁぁ、第2次競馬ブームの時代に産まれたかったよぉぉぉ……。オグリキャップ生で見たかったよぉぉぉ……。復活の有馬見たかったよぉぉぉ……。カサマツ行きてぇよぉぉぉ……。(九州住み)9月はGI無いし……。


ふぅ。ではまた次回、過去一スプラッタな回でお会いしましょう。


ズーマ

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