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97.理解者

 三日間の休養で無事復活を果たし、手紙を出した相手がこちらに到着するのを待つ。その間シャルロット殿下とは話の場にもう一人呼ぶことの了承をいただいた以外には特に会話もなく、いつも通りに授業が進んでいく。


 勉強時間は確実に減っているのについていけているのは、授業のスピードが少しゆっくりになったからだろう。気を遣わせてしまっていて申し訳ない気分だ。


 ――そして倒れた日から約二週間後、ようやく話を聞いてもらうための場が整った。





「ご機嫌麗しゅう、シャルロット殿下。ご無沙汰しております」


「お久しぶりです、ブリジット様」


 当然顔見知りであるブリジットが殿下と挨拶をする。それは一見何でもない光景のはずなのに、こちらが予想していたものとは少し違っていた。


 殿下の顔が赤くなっていて、ちょっとだけ落ち着きが失われているのだ。ブリジットに向けるその瞳は尊敬の眼差しと呼べるそれで、これまでになく輝いている。


(これってもしかして……)


 殿下自身もとても優秀で冷静な才女なのだから、『女傑』とまで呼ばれているブリジットにちょっとした憧れを持っていても不思議ではない。やはり殿下と言えど年頃の少女だということだろう。


 私としてはブリジットが好かれているのは素直に嬉しいし、殿下の普段とは違う様子も見れて内心ちょっとほっこりしている。


「――レオナ」


 そうやって少し口元がにやついていたところにブリジットが声を掛けてきた。


「何かしら?」


「大切な話があると手紙にはあったのだけど……?」


「えぇ、とても大切な話。……今までで一番のね」


「……そう。楽しみだわ」


 表情を引き締めて答える私を見て満足そうに微笑むブリジット。きっと彼女にとっては不安よりも私のことを知れる喜びの方が大きいのだろう。




 席について使用人がお茶の用意だけをして退室していく。これでこのシャルロット殿下の私室には私たち三人だけになった。


「最初に一言だけ。私が今からする話を信じるも信じないも全てお任せします。理解が難しいであろうことは私も重々承知しておりますので。……ただ信じなくても構いませんが、絶対に他言しないで下さいませ。悪意を持って広めようとするのであれば、たとえ王族であろうと容赦はしません」


 殿下は訝し気な顔をしているけれど、ブリジットは私の本気度を察してか真剣そのものだ。


「言ったらどうするわけ? 一国の姫君相手に何が出来るのよ」


 その後に続く言葉をわかっていて、敢えて挑発しているのだろう。「本当にそれを口にするつもりか」と圧を掛けてくる殿下。もちろんそんなものに怯みはしない。


「不慮の事故でも何でも容易いことです」


「はぁ!?」

「――殿下」


 反発する殿下に珍しく割り込むブリジット。やはり彼女に対しては殿下も素直な態度を取るようで、すぐに冷静さを取り戻して言葉の続きを待っている。


「このような警告をするのは親友である私に対しても初めてのことです。彼女は本気ですから、それだけは絶対にお止めください。信じられなければただ黙っていれば済むだけの話です」


「……わかったわよ」


 相手がブリジットなので殿下も渋々納得してくれたようだ。しっかり理解してくれているブリジットに私は目でお礼を言って話を続ける。


 まずは今回この場を設けるきっかけになった殿下の嫁入りの話からだ。




「――なので私は殿下の味方であることを証明するために、これまで誰にも話して来なかった秘密を話すことにしました」


 これまでは墓まで持っていくつもりでいたそれを今から口にするのだ。果たして信じてもらえるだろうか。


 先程ああは言ったけれど、殿下に信じてもらえなかったら結構ショックかもしれない。……それは私が殿下を心配する気持ちも伝わっていないということでもあるのだから。


「私には…………別の人間の記憶があるのです。その人物の名前は井野原 麗緒奈」


「は……?」

「……ッ!?」


「七歳の時にそれを思い出しました。あくまで記憶があるというだけで身体も精神もレナ・クローヴェルのものであることには変わりありませんが、それによって価値観や物事の判断基準にいくらか影響があったのは確かです。なので私はこの記憶を前世のものと扱うことにしました」


「貴女……何を言って……」


「前はどこの国の人間だったの? ローザリア? フレーゼ?」


 殿下が戸惑いを隠せていない一方でブリジットは冷静に質問を投げ掛けてくる。驚いていない訳ではないけれど、疑うだけ無駄だとわかっているのだろう。


「全く別の世界よ。魔法がない代わりに様々な物が発展している世界の、貴族でも何でもない一般人。私の国ではお風呂なんて誰だって日常的に入るような当たり前のものだったわ」


「は? お風呂? 魔法のない別の世界って一体……」


「……なるほどね」


 わざわざお風呂を話題に出したことでブリジットはすぐさま私のお風呂周りの知識や商品のアイディアの出所を察したようだ。大きく頷いている。


「なるほどって……ブリジット様はこんな突拍子もない話を、何故そこまですんなりと呑み込めるのですか!?」


 私の取り扱っている商品について詳しくないであろう殿下は理解出来ないことの連続で狼狽え、ブリジットに詰め寄っている。しかしブリジットはそれでも一切揺らがず至って冷静だった。


「それだけ付き合いが長いものですから。小さい頃から感じていた違和感が今の説明だけで埋まっていくのです。初めて会った時から大人びて落ち着いて映っていたのも、それでいて貴族らしくない言動が見受けられたのも……」


 貴族でもなんでもない大人を相手していたのだから、当時から賢かったブリジットが違和感を覚えていないはずがなかった。……まぁそれも今では前世の年齢に追い付いてしまっているので、もうその辺りの精神年齢のアドバンテージは無いに等しいのだけれど。


「名前を変えたのもただ一文字付け加えたのではなく、前世の名前に戻したということなのね?」


「……ご名答。それまでの価値観が変わって『レナは確かに一度死んだ』と言ったでしょう? この記憶も含め、全てありのままに生きようと決めたからよ」


 ブリジットは当然だと言わんばかりに頷いている。再会した時に言った言葉もちゃんと覚えていてくれたようで私も何だか嬉しい。


「でも今の話と、殿下の味方というのはどういう繋がりがあるの?」


「まだ記憶の世界の話しかしていないわ。私個人の話はこれからよ」


 もう一度頷いて、また私の話に集中しようと姿勢を正すブリジット。そんな彼女を見て殿下も慌ててそれに続く。


「前世の私は雰囲気こそ違うけれど、今の私に負けず劣らずの美人だったの。この世界でいう学園に通う間にも沢山の男子生徒から告白されたわ」


 声には出さないけれど、眉を(ひそ)めて「自分で言うな」という顔をする殿下。


「……でも誰も私の内面なんて見てくれない。多感な年頃の人間が大勢いる学園の中では、たとえ交際を断り続けていたとしても、私を取り巻く人間関係はこちらの意思に反してグチャグチャになっていったわ。次第に私はそれを恐れて極力人と関わらないように、目立たないように生きるようになった。魔法も身分による権力もない、非力な一般人の女性に出来ることは限られていたから……」


 しかしそんな表情も話が進むにつれ、どんどん曇り始めていく。最終的に二人は押し黙ったまま、視線を自らの手元にじっと落として動かなくなってしまった。


「それでも浮気で姿をくらませた父親なんて居なくても、母と弟との生活は貧しいながらも幸せだった。育ててくれた母に恩返しするために卒業後に働きに出て家計を支えようと努力もした。……でもそれは結局叶わなかったの」


「どうして……?」


「力づくで言うことを聞かせようとしてくるナンパ男から逃げる途中で、私は事故によって命を落としたからです。……ちょうど今の私と同じくらいの年齢ですね」


「そんな……!」


 自分でもあんまりだと思う最期に、殿下は弾かれたように顔を上げた。同情してくれたことを嬉しく思いながら力無く微笑み返す。


「私は死ぬ間際に男性に振り回された人生と理不尽さに憤り、お母さんに恩返しが出来なかったことを嘆き、幸せな恋愛や幸せな家庭というものを羨んだ。神様に生まれ変わったら理不尽とは無縁の人生をと願ったら、何故かこの世界でこれらの記憶を取り戻した……というわけです」


 一通り私の前世の人生を説明を終えると、部屋の中は静まり返っていた。


「それでもまさかこの世界でも両親を失うことになるとは思いませんでしたが……。今も前世で出来なかったことと、お母様と交わした最後の約束を叶えるために私は生きているのです」


「最後の約束……?」


「『生きて。そして幸せになってね』……です」


 殿下が弱々しい声で尋ねてくるも、また俯いてしまった。


 そこにブリジットの鼻をすする音が聞こえてくる。


「レオナは今、全力で人生をやり直しているのね……」


「……そう。自分を押し込めずに積極的に人と関わること、内面まで愛してくれる理想の男性を見つけて幸せな家庭を築くこと、この力で理不尽に泣く人の味方になり盾になること……どれも私は妥協したくないの」


「うっ……ぅぅ……」


 ブリジットは両手で顔を覆って静かに泣き出してしまった。


 全てを理解して泣いてくれる彼女は、やはり私にとってかけがえのない親友だ。……ホント、私には勿体ないくらい。


 私はその様子を不安気な顔で眺めていた殿下の方に向き直る。


「――殿下。私も周囲に家族以外で信用出来る相手がいないまま命を落としました。ですから今の殿下の不安なお気持ちは痛いほど理解出来るつもりです」


 今の自分と重ね合わせてくれたのだろう、殿下は黙って頷いてくれている。


「私の前世の失敗は、人との関りを恐れて自らの殻に閉じこもり、人を遠ざけて、自分の理解者を……信用出来る相手を作らなかったことだと私なりに考えております」


 麗緒奈の記憶を得てから今に至るまでの間に何度も振り返った。どうすれば前世がより良いものになっただろう、どうすれば良かっただろう、と――。


 それで私が出した結論は結局「人ひとりに出来ることには限界がある」というものだった。最初はどれだけ不安でも、どれだけ信用出来なくても、自分以外の誰かの力を借りることを躊躇していてはいけないのだと。


 私は席を立ち、殿下の席の手前で跪く。


「……ですから殿下、私を貴女様の理解者として信用してください。そうすることが、その命の、その心の、幾分の救いになると……私はそう確信しております」


 私はこの目の前の孤独に揺れる少女の力になりたい。あの辛さを知っておきながら、これを見て見ぬ振りなど出来るわけがない。


 跪いたまま反応を待っていると、横から椅子を引く音が聞こえ、続けてスッスッという衣擦れの音がテーブルを回って私の隣にまでやってくる。


「私も理解者として肩を並ばせて頂きたく存じます。全霊で殿下のお力となることを今ここで誓いましょう」


 ブリジットが私に並んで跪いたのだ。今まで泣いていたせいで鼻声になっているのはこの際気にしないようにするとして、信用出来る相手は多い方が良いに決まっている。ブリジットなら百人力だ。


 ちらりと隣を見るとちょうど目が合い、泣き腫らした顔で微笑んでくれた。私もそんな優しい彼女に微笑み返す。


「……りがとう」


 弱々しい声にはっとして二人して顔を上げると、そこには大粒の涙を浮かべながら泣くのを必死に堪えている殿下の姿があった。


「本当に……ありがとう……」


 崩れ落ちそうになる殿下を私が立ちあがり抱きしめると、彼女は胸の中で声を抑えながら静かに泣き続けた。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 殿下が泣き止むまでしばらく待って、落ち着いたところで話を再開する。具体的に何か出来ることはないか相談しようという流れになったのだ。


「……ねぇレオナ、早速ひとつ提案があるのだけど」


「何かしら?」


「向こうの国でちょっと暴れてみない?」

『えぇっ!?』


 そのブリジットらしくない乱暴な提案に私も殿下も目を剥いて驚いてしまう。


「……どういうこと?」


「結婚式でのパフォーマンスとでも称して向こうの騎士団の人間を全員叩きのめして、殿下には強い味方がいるのだとアピールしたらどうかしら?」


「それは良い考えかも!」


 圧倒的な力の差を見せつけて国が容易く滅ぶのだということを心の底から思い知らせてやれば、確かに殿下を雑に扱ったり、ましてや害したりなど出来なくなるはずだ。


 それにしても今のブリジットはとても意地悪な顔をしている。殿下のためであるのは間違いないけれど、本人も絶対楽しんで言っていると思う。


「ちょちょちょ……ちょっと待って! 騎士団全員だなんて本気で言っているの!?」


 正気かと言わんばかりに慌てて突っ込みを入れてくる殿下。


「出来ると思いますよ。手加減しないといけないので少々手間が掛かりますが」


「……あら、殿下はレオナの強さをご存じないのですか? 本気を出せばこの国の全ての人間が束になっても敵いませんよ」


「私の魔力は特別ですので」


 殿下は理解が追い付かないようで絶句している。


「……ねぇレオナ、その魔力は前世と何か関係があるの?」


「ううん……わからないわ。七歳の晴れた日に雷に打たれて記憶を得た数日後に、家庭教師と初めて魔力を測った時にはもうこんな感じだったの。前世はそもそも魔法が存在していなかったから繋がりも見えないし……」


「晴れた日の雷ねぇ……」


 やはり話を聞いただけではいまいちピンと来ないのだろう、ブリジットは首を傾げてスッキリしていなさそうな顔をしている。私も彼女が疑わないにしても何となくこんな感じのリアクションになるのではと思ってはいた。


「……本当よ? あの頃屋敷で働いていた使用人なら全員知っているわ」


「別に嘘だなんて言ってないわよ……」


「――――『アルメリアの雷』」


『えっ?』


 それまで絶句したままだった殿下がぼそりと呟いた。


「何ですかそれは……?」


 珍しくブリジットも知らない言葉のようだ。


「アルメリア教の経典に記されている言葉よ。フレーゼ王国に留学した時にアルメリア教の総本山とされる場所で原本を見せてもらったの。この国のアルメリア教は色々と簡略化されているみたいだから色々と新鮮だったわ」


 なるほど、アルメリア教に敬虔な国でしか知られていない言葉のようだ。


「その言葉の意味は何なのですか?」


「確か……『邪悪を打ち払う女神の使徒を選ぶ聖なる雷』だったはず……」


 説明する側、説明された側、そのどちらもが微妙な顔をしてこちらを見てくる。


「女神の使徒ぉ……?」


 私もいきなり降って湧いた仰々しい単語に変な声が出る。二人はそんな私のリアクションに脱力している。


「当の本人はこんな調子ですが、あの魔力を考えると何だか否定しづらいですね……」


「私はまだその力を見たことはないけれど、もし本当だったらフレーゼ王国が黙っていないわよ……」


 私たちの間に何とも言えない微妙な空気が流れ始めたところで、ブリジットが慌てて「パン」と手を打った。


「と、とにかく一旦この話は置いておきましょう! ……殿下、残りの学園生活は少しでも理解者を増やせるよう努めて下さいませ」


「え、えぇ……やってみるわ」


 思考を止めたブリジットはこの話を切り上げ、殿下も慌ててそれに乗っかっていく。私も賛成だ。考えたところで今ここで何かわかるはずもないだろうし。


「今日は二人とも本当にありがとう……」


「殿下の味方ですもの、当然のことです。殿下がよろしければ私のことはレオナと呼び捨てて下さって結構ですよ?」


 彼女が受け入れてくれたことが嬉しくてつい調子に乗ってそんな提案をしてみると、隣から上品な笑い声が聞こえてきた。


「では私もブリジットと呼んでいただこうかしら。――如何ですか、殿下?」


 憧れの人からもそう言われて顔を綻ばせる殿下。


「ありがとう、レオナ、ブリジット。……私のこともプライベートな場ではシャルと呼んで頂戴。家族は皆そう呼んでくれるわ」


「えぇ、喜んで。……シャル」


 そう名前を呼んでみせた時の彼女の笑顔は、年相応の可愛らしい少女のものだった。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 その後ブリジットがもう少し話がしたいというので寮の自室まで来てもらった。しかし部屋に案内した途端、彼女は不満そうに周囲を見回している。


「レオナが住むにしては狭い部屋ねぇ……。もう将来の義理の両親にも義妹にも認められているのだから、王宮に部屋を与えられても良い気がするのだけど……」


「あはは……」


 エルグランツの屋敷に比べれば明らかに狭いので言いたいことはわかる。でもそれはどちらかというとプロポーズを絶対受けると決めたわけではないと公言している私の方に原因があると思う。


 マチルダがお茶を淹れてくれて、一息ついたところで本題に入る。


「それで、シャル抜きで話したいことって?」


「そうそう! 身の安全の確保についてもうひとつ案があるの。私では出来ないことだけど、レオナの足を少し引っ張ってしまうから確認を取りたくてね」


 彼女に出来ないことで、しかも足を引っ張るのを気にしているだなんてとても珍しい。俄然興味が湧いた私はテーブルに身を乗り出してブリジットに尋ねる。


「なになに? 足を引っ張られるなんて思わないから気にしないで。私に出来ることなら何でもしてあげたいもの!」


「ありがとう。特別な魔道具をサプライズでプレゼントしてみるのはどうかしら?」


 私の好意的な姿勢を見てほっとした様子のブリジットがそう提案してくれる。確かにブリジットは魔道具の製造には関われないので私じゃないと出来ないことだ。その為に魔道具の商品を作り出す手を止めてしまうのを気にしたということか。


「サプライズプレゼント! 面白そう! それでどんな魔道具を考えてるの?」


「魔力を籠めると身を守る魔法が発動する機能と、それが発動したことを知らせる機能を持つもの。そしてそれを受け取る機能を持ったもの。この二種類よ」


「それってつまり……」


「そう、何か危険が迫った時にはレオナが気付いて助けに来てくれるようなお守りがあれば、慣れない土地でもとても心強いと思うの」


 それは確かに心強いはず。実際に使用する機会がなくても精神的な孤独感が薄れるという意味だけでとても価値がある。さっき話していた大暴れ計画も合わせれば、向こうでの過ごしやすさは段違いだと思う。


「凄いわブリジット! シャルも絶対喜んでくれると思う!」


「うふふ、良かった。で、それなんだけど……」


「うん? どうしたの?」


 ブリジットには珍しく顔を赤らめてもじもじしている。何これ超可愛いんだけど。


 私も何を言い出すのかとドキドキしながら続きを待つ。


「その……私の分も一緒に作って欲しいなって……」


「あはははははははは! ブリジット可愛い~! あはははははは!」


 まるで愛の告白をするようないじらしい彼女が可愛くて、可笑しくて、我慢出来なかった。私にお腹を抱えて笑われて、みるみる彼女の白い肌が赤くなっていく。むくれた彼女もこれがまたとても可愛いのだ。


「もうっ! こんなの欲しいに決まってるでしょう!?」


「わかったわかった! 二人ぶんね、任せておいて!」




 顔を真っ赤にしてそう主張する彼女に応えるべく、私は翌日すぐに魔法研究所のダードリー卿の元へと向かった。新たな注文に嫌な顔をする彼には殿下の為だと言ってゴリ押してやる。


 研究室を出ていこうとすると背後から自身の研究が遠のいた彼の悔しそうな声が聞こえてきたが、私は当然それを聞き流す。


 ブリジットとシャルの笑顔の為なら私は手段を選ばないのだ。




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