89.贈り物
今回の事件で私は領主一家以外のバーグマン領の貴族たちからも認知され、一目置かれるようになった。それと同時にクローヴェル商会の方も、食糧の支援をしたことや、これまで水は川頼りだった小さな村々にも井戸を作る手伝いをしたことなどが伝わり、平民たちの間での評判も更に良くなったようだ。
それだけならとても喜ばしいことなのだけれど、いつの間にか商会の従業員たちが私の活動を『いばらの加護』と呼び、それを商会の外の人間への別れの挨拶として「いばらの加護がありますように」といった風に使い出すようになっていた。
次第に商会の従業員がイルヘンの村人たちのようになってきて、何やら宗教団体のような様相を呈してきた。私を崇拝されても困るのだけれど、みんなとても活き活きしているので止めろとは言いづらい。既にアルメリア教があるんだからそっちで良いじゃないか。
これをブリジットに相談しても笑い飛ばされただけで全く問題とは見てもらえず、むしろもっとやれと言われる始末だ。彼女が言うのだからそこまで大したことではないのだろうけれど、心のモヤモヤが晴れることはなかった。
とまぁ私個人の感情はともかく、周囲は上手く行っているのは確かだ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
早いものであれから半年が過ぎ、私は二十二歳になろうとしている。
あれからハロルドとマール様はあっという間に結婚してしまい、マール様が王都にやってきて一緒に暮らすようになった。新婚の二人のための新居は新しく建てるのは待っていられないと言って既存の屋敷に引っ越したそうだ。
マール様のスピード感には、これまで私が耳にしてきた一般的な貴族像というものは通用しないらしい。やっぱり貴族にも色んな人がいるみたい。
彼女は王都にやって来てからというもの、訓練の様子を欠かさず見学しているそう。そしてお昼の休憩時間では持参したお弁当をハロルドと仲良く一緒に食べて帰っていくのだとか。
そのあまりの仲睦まじさを他の既婚の騎士たちが羨み、自分の奥さんに頼み込んだらしく、同じようにお弁当持参で見学するご夫人が急増し始めたという。
これには毎度見学の許可を出していた殿下もやっていられないと、遂には夫婦同伴であれば事前の許可なしで見学しても良いというルールが追加されてしまった。
女性が集まれば自然とそこはお喋りの場になる。ほぼ毎日来ているマール様を中心とした王都に住む貴族女性の社交の場の出来上がりだ。私も少し顔を出してみると、そこには自分の夫に惚気るご夫人たちで溢れていて皆とても楽しそうだった。
しかも何やらマール様はそこで私の売り出しているシャンプー等を恋愛成就のアイテムとして宣伝しているらしく、奥様方から未婚のご令嬢へと凄まじいスピードでそれが広まっていった。実際使い出してから半月もしないうちに出会いから婚約まで行ってしまったのだから説得力も凄いのだろう。
私が毎月王都に向かうのに合わせて商会から人を寄越してもらい、そういった貴族女性にまとめて販売する場を設けてみると、それらは飛ぶように売れていった。そうしたお陰でようやく私にも王都の貴族女性との繋がりが出来始めてきている。
最初はすぐ地元を離れてしまい、あちらで宣伝が出来なかったとマール様に謝られてしまっていたけれど、この前の事件でバーグマン領の貴族とは顔繋ぎも出来たし、まさか王都でこんなにも広めてくれるとは思っていなかったので、私としては計画以上の成果を得られて十二分に満足している。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
王都での訓練指導の後、いつも通り殿下の待つ部屋へと向かった。入室すると、殿下が執務机に向かって何か書類仕事をしているのが見えた。
「――む、終わったか?」
「はい。今回の訓練も無事、終了致しました」
私の姿を認めた殿下は立ち上がり、こちらにソファーに座るよう促しながら、自らもその対面に腰を下ろした。同時に部屋に一人だけ待機していた侍従らしき男性が殿下からの目配せを受けて退室していく。二人きりで話がしたいということなのだろうか。
「ご苦労だった。俺がいち団長の立場になった頃からは考えられないくらいに賑やかになったな……」
今まで全く人が居なかった見学席にご夫人たちが集まって、訓練中の夫に声援を飛ばしたり、それに応えるように騎士たちが声を出して気合を入れて挑んでくるので、確かに私が初めて来た時とはまるで雰囲気が違う。
レベッカ曰く、私が来たことでも大きく変わったらしいので、それよりも前の様子を知っている殿下からすればそれはもう物凄い差なのだろう。
「最初はどうなることかと思いましたが、蓋を開けてみれば良い方向に作用しているようですね。未婚の騎士たちが歯ぎしりをしながら訓練に臨んでいるのは少し可哀想ですが……」
こちらの素直な感想に殿下はくつくつと笑っている。
「彼らがお相手探しに前向きになってくれるなら良いことじゃないか。それに今は女性たちの間では恋愛成就の品が話題になっているのだろう? これから結婚の機運が高まっていきそうじゃないか」
「そうかもしれませんね」
殿下も既に私の商会で取り扱っている商品については把握しているようだ。彼の言う通り、きっとこれからしばらく夜会は盛況になることだろう。騎士たちには是非ともそこで良いお相手を見つけて欲しいものだ。
「それはそうと、今月は特に君に頼みたい任務というのは無いのだ。堂々と一緒に過ごせる時間が作れなくて残念だよ……」
「あら、そうなのですね……」
殿下はわかり易くしょんぼりしている。夜会以降、私に対する気持ちを隠さなくなっていて、今も心から残念がっているのが伝わってくる。私としても色々と語り合えるあの時間は楽しいので素直に残念だ。
なら堂々と普段からデートしろよと思われるかもしれないけれど、殿下の方から私の生活を尊重し、他の男性が近づき辛くならないよう気を遣って下さっているのだ。
私に愛される為に本当に正々堂々と挑んでくる彼にはある種尊敬の念まで覚える。普通ならこちらに気付かれないように裏でライバルに妨害工作などしそうなものだけれど、「それは無いな」と思わせるぐらいには真っすぐに、私だけを見てくれている。
「ただ今日は少しだけ、いつもとは違うのだ」
すると殿下が少し楽しげに立ち上がり、執務机の向こう側からひとつの木箱を抱えて戻ってきた。木箱といっても豪華な装飾が施されていて結構な大きさだ。縦と高さが二十センチ、横は四十センチ弱はあるだろうか。
またソファーに座った殿下は、私たちの間にあるローテーブルの端にその木箱を置いた。
「……何ですかこれは?」
「まぁもう少しだけ待ってくれ」
何が入っているのか全く想像が付かなくてまじまじと木箱を眺めている私と、その様子を眺める殿下という構図で、お互い無言のまま二十秒くらい経過したところでドアがノックされた。
「――失礼します」
先程出て行った侍従が帰ってきたようだ。彼がお茶の準備をしてきたというのは押してきたカートに乗せられている物を見れば一目瞭然だった。そのまま手際よくお茶を淹れてくれて、二人の前のローテーブルに並んでいく。途端にとても良い香りがこちらまで漂ってくる。
そして次に目の前に出されたお皿を見て私は驚愕する。
「わぁ! イチゴのタルト! ……どうしてこれを!?」
「イチゴが好きだと聞いてね、誕生日のお祝いとして用意させたのだ」
それはどう見ても私が月イチで楽しみにしているお店のタルトだった。きっとこれはただの偶然ではなく、このお店のタルトを贔屓にしていることを承知の上で用意してくれたのだろう。
もちろん贔屓にしているだけあって食べ慣れているものではある。しかし私がこれを好きだということを調べてくれたという事実と、私の誕生日を祝うためにわざわざ用意してくれたという喜びの前ではそんなことは些細なものだった。
「その様子だと、喜んでもらえたみたいだな」
「えぇ、とても嬉しいです!」
両手を合わせて喜ぶこちらの反応を見て殿下も顔を綻ばせている。
「まだ夕食前だが君と一緒に食べたくてな。さぁ、いただこうか」
フォークでサクッと切り取って一口頬張ると、瑞々しいイチゴの甘味と酸味がカスタードクリームによってまろやかに包まれ、タルト生地のバターの風味と合わさって――――
(ん~~~~おいしい~!)
運動後の空きっ腹に大好物のお菓子を食べるという犯罪的な幸せを感じながらじっくりと味わっていると、向かいからくつくつと笑い声が聞こえてきた。
「幸せそうに食べるというのは本当らしいな……。君のそんな顔は初めて見たよ」
「むぐっ!?」
人が夢中で味わっているところに完全な不意打ちを食らい、色々隙だらけだったことにようやく気付く。ていうか誰だ、そんなことを殿下に教えたのは……。
恥ずかしくて仕方がなかった私は口の中のものを慌てて飲み込む。
「お、お恥ずかしい限りです……」
「そんなことはないさ。むしろもっと見せて欲しいくらいだよ」
殿下はまた少し意地悪な顔をして私が食べる様子を観察しようとしている。
(た、食べづらい……)
隙だらけのアホ面を見られたくはないけれど、ただ淡々と食べるのも、殿下に期待されているのを躱すのも何か抵抗がある。
どうしたら良いかわからず、完全に食べる手が止まってしまう。
「――む、お気に召さなかったか?」
「いえ、そんなことは……」
殿下ならこちらの食が進まない理由ぐらいわかっているだろうに。とてもわざとらしい。
「……ふむ、ではこうしよう」
『洗い流し』
突然、自身のフォークに洗浄の魔法を使う殿下。その突飛な行動に混乱する私。
「はい、あ~ん……」
(……はぁ!?)
なんと綺麗になったフォークでザクッと突き刺して一口大のタルトを私に差し出してきたではないか。
まさかあちらから『あ~ん』してくるなんて普通思わないだろう。殿下はやっぱり意地悪な顔をしていて、私がどうするのかを凄く楽しそうに観察している。
わざわざ魔法を使ってまでして私の反応が見たいのか。ダンスの時もそうだったけれど、大人しい顔をしておいて結構意地悪で子供っぽい人だなというのがわかってきた気がする。
しかし相手は王太子、ここまでされてしまっては私には断ることは出来ないだろう。それが嫌ならアホ面を見られても気にせずに自分の分を食べておくべきだったのだ。
(ええい! 腹をくくれ!)
私は意を決して差し出されたタルトに食い付いた。その様子を見て殿下は声こそ出さないけれど、嬉しそうに笑っている。
「美味しいか?」
「……はい」
そう返事はするものの、恥ずかしすぎて味などわかるわけがない。目を逸らし、一生懸命口を動かしてさっさと飲み込んで殿下を睨み付けた。
するとてっきりその様子を観察されていると思っていたのに、予想とは違う光景が私の目に飛び込んできた。
殿下が顔を真っ赤にして自身の持つフォークを見つめていたのだ。
その目は戸惑いを隠しきれておらず、動揺がこちらにまで伝わってくる。
(あ~~!! その後のことまで考えてなかったな!?)
これは私との間接キスを意識してしまってどうするか悩んでいる顔だ、間違いない。これは仕返しをする絶好のチャンスではないか。
私は腕を組んで「その後はどうなさるおつもりですか?」と言わんばかりにニヤつきながらその様子を眺め返してやる。こちらの視線に気付いた殿下は目を逸らして咳払いをしている。
(さぁどうする……?)
ここまで私にガッツリと見られながら食べるとは考えにくいし、流石にまた魔法で綺麗にするだろうか。
『シュバババ』
するとなんと殿下は私の予想を裏切って、異様に素早い動きでザクリとタルトを切って頬張ってしまった。
(あ~~~~!!!!)
見た、私は見たぞ。職権乱用だ。王太子の地位を使って私にタルトを食べさせて、間接キスを強行したぞ。
殿下は耳まで真っ赤にして下を向き、更に私の視線から顔を背けながら口をもぐもぐと動かしている。
「ここのタルト美味しいですよね~?」
「あぁ……絶品だ」
私が皮肉を込めてそう問いかけると、ごくりと飲み込んだ殿下はそう小声で返してきた。観察される側の気持ちがわかったかこの野郎。
その後はお互いぎくしゃくしながら食べ終えた私たち。侍従がお皿を片付け、ローテーブルの端に新しく淹れられたお茶が置かれる。
「よし、次はこちらだ」
そしてその空いたスペースに先程の木箱を置いた。
「タルトだけでなく、これも誕生日祝いなのですか?」
殿下は頷いて、私に木箱を開けるよう促してくる。
私は恐るおそる手を掛けてカチャリと箱を開ける。
中に入っていたのは金色の装飾が輝く手甲――ガントレットだった。それを取り出して両手で抱えると、殿下が空の木箱をまたローテーブルのお茶等とは反対側の端へと動かした。
「手甲……ですよね?」
「そうだ。君が今付けている手甲を作ったと自慢していたエルグランツの鍛冶屋に作らせたものだ」
作ってもらったのはA級に上がった直後で有名になったばかりの頃だ。よほど嬉しかったのだろうか、私の知らないところで自慢にしていたらしい。
(でも何で手甲なんだろう……?)
贈り物なら普通はアクセサリーとかそういった類ではないのか。それらを強請っているとかそういうつもりはなくて、素直に手甲を選んだ理由が気になる。
「本来ならば贈る側の髪や瞳の色を使ったアクセサリーが定番なのだが……」
内心首を傾げていた私が疑問を投げかける前にあちらから説明を始めてくれた。
「君の場合はまだ婚約してはいないし、俺がそういう物を贈って君が身に付けていると他の貴族男性への威嚇と捉えられてしまうからな。なので君が日頃から身に付けている物の中で、贈り物にしても差し支えなさそうな物を選んだわけだ」
「なるほど、そういうことですか……」
殿下は私の結婚相手探しの邪魔をしないように贈り物を考えてくれたようだ。
彼の髪や瞳の色を使用した銀や青のアクセサリーを身に付けていると『彼女は俺の物だ』というメッセージが周囲に伝わってしまう。それでは私のお相手探しに支障が出ると判断して避けてくれたらしい。
どこまでも私のことを考えてくれながら、正々堂々と挑んでくるその気持ちをとてもありがたく思う。現状の私たちの関係性のうえで最高の贈り物と言えるだろう。
「殿下の深いお心遣いを感じます。……とても、嬉しいです」
「気に入ってもらえて良かった。是非付けているところを見せてくれないか?」
私は頷いて今付けている手甲を外す。そして右手にすっぽりと嵌めて、腕の内側にあるベルトを締めていく。こうやってじっくり見てみるととても美しい手甲だ。
黒地に金色の装飾が散りばめられており、品のある豪華さが感じられる。そして前腕の部分には茨をかたどった装飾が施されていて、私の為に作られたというのが一目でわかる。全体的に女性的というか滑らかな流線型をしているが所々にシャープなカッコよさがある。そのサイズもあって、下手なアクセサリーなどよりよほどお金も掛かっていると思う。
私が付け終わったのを見て、殿下は優しい笑みを浮かべる。
「うん、やはり美しい。君の剣が黒地に金なので、違和感のないようにと思ったのだが正解だったな。とても似合っているよ」
まさか剣のデザインまで意識してくれていたとは……。私が喜ぶように考えて作られた、とても贅沢な品だなとしみじみ思う。この剣は両親が贈ってくれた私の宝物だ。この手甲もきっと同じように思い入れのある宝物になってくれることだろう。
「ありがとうございます。本当に綺麗……」
私が手甲を撫でていると、殿下が立ち上がった。
「さて、今日のところはこんなものだ。まだまだこれからも宜しく頼むぞ」
「はい! 素敵な贈り物を頂戴しまして、ありがとうございます。今後もお役に立てますよう精進して参りますので、よろしくお願い致します!」
さっき言っていた通り、まだ婚約者でもないのにここまでの品をいただいたのだから、しっかりと感謝の意を伝えておかなければ。
立ち上がり、深く頭を下げる。
そうして顔を上げた私に殿下も満足そうに頷いた。
殿下と別れて廊下に出れば日はすっかり暮れてしまっていた。秋も深まってきたし、今日はいつもよりも殿下とお喋りしている時間が長かったので当然と言えば当然だ。
騎士団の入り口に向かって歩いていると、その途中でレベッカとミーティアがまだ残ってベンチで何やら話しているのが目に入った。
「二人共まだ帰ってなかったの?」
『レオナ様!』
私が話し掛けると、二人は顔を綻ばせてこちらに振り返った。
「私たちもA組に入れたからにはしっかり連携が取れないといけないねって話してたんです」
「ウィリアムやハロルドには負けていられませんから!」
彼女たちの言う通り、二人も今回の訓練で念願のA組入りを果たした。そしてすぐに組まされたので、いくら幼馴染の二人といえど連携が上手く行かなかったのが悔しかったようだ。
「やる気があるのは感心だけど、もう夜は冷える季節なんだから無理しちゃダメよ?」
そう言い切ったタイミングで冷たい風が私たちの間を吹き抜ける。おぉ寒い……私も風邪をひかないように魔法で周囲の空気を温めておこう。
「うぅ……そ、そうですね……。レオナ様がまた来られるまで時間がありますし、それまでにしっかり練習しておきます」
「うんうん、そうしておきなさい」
「……ところで、その脇に抱えている木箱は何ですか?」
「あ、ほらミーティア見て! 手甲が変わってる! それの箱じゃないかしら?」
「本当だ、何だか格好良くなってる! 色合い的に剣とお揃いなんですね!」
「あ、気付いた? 二人とも流石ねぇ……」
ミーティアが身体を斜めにし、私が左脇に抱えている木箱を覗き込むようにして尋ねてきたかと思えば、すぐにレベッカが手甲に気付いてしまった。
これだけ大きい物を抱えていて気付かないはずがないというのはいいとして、やはり見る人が見ればすぐにわかってしまうようだ。これが銀と青のアクセサリーだったなら、きっとあっという間にそれに込められた意味も察してしまうのだろう。殿下の気遣いのありがたみを痛感する。
「じゃあこれは殿下から贈られたんですね? レオナ様が訓練後に会う人って殿下くらいですし」
「そこまでわかっちゃうんだ……。そうよ、誕生日のお祝いにってイチゴのタルトと一緒にいただいたの」
「おぉ~……! 敢えて一目見ただけでは殿下からだとわからない物を贈って下さったのですね。タルトも例のお店のでしょう? 凄く大切にしてくれているのが伝わってきて、とても素敵ですね!」
隣のミーティアもしみじみと頷いている。レベッカはこれが殿下から贈られたものだとわかっただけで、その意図まで簡単に汲み取ってしまった。この二人は状況的に仕方ないけれど、今後は簡単に殿下からの贈り物だと悟られないようにしないといけなさそうだ。
「というかレオナ様の誕生日だったんですね! レベッカ、どこかのお店でご飯食べてお祝いしない?」
「うんうん! レオナ様行きましょう!」
「わ~ありがとう~!」
殿下だけでなく二人からも祝ってもらえるなんて、なんて私は幸せ者なのだろうか。
二人のお陰で先程の殿下との時間も合わせて今年の誕生日はとても充実した時間を過ごすことが出来た。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
レベッカたちとも別れ、機嫌良く訓練の期間中にいつも宿泊している王都内の宿に戻ってくる。部屋の明かりを点け、着替えるために武器やポーチの付いたベルトなどの装備を外していく。
「――あら?」
そして手甲を外してテーブルに置こうとしたところ、あることに気付いた。よくよく見てみると、手甲の裏側に銀の細工と青い宝石があしらわれた王家の紋章が刻まれていたのだ。
それは身に付けていれば絶対に人の目には触れない場所――私だけが気付けるメッセージ。
あの時説明してくれたように私の結婚相手探しを邪魔したくはない、尊重したいという気持ちは本心なのだろう。ただその一方で、それでも本当は『俺のものだ』と主張したくて仕方がないという気持ちがこのメッセージには込められているように思う。
そんな彼のささやかな独占欲やいじらしさが垣間見えて、つい頬が緩んでしまう。
「ほんと、可愛い人ね……」
殿下が私のことを理解しようとしてくれているように、私の方も殿下への理解が深まっていっていることが、とても心地良く感じられた夜だった。




