43.住まい
「あ~~! 失敗した!!」
王都から帰還した私は、宿の自室でここ最近の自らの行いを悔やみ倒していた。レッドドラゴンが出現したと聞いてから頭の中がそれ一色になってしまい、冷静になるまでの間に数々の失態を犯してしまっていたのだ。
「現場までの道中も走りながらずっと殺すことしか考えてなかったとか、控えめに言ってもヤバいでしょ私……」
そして実物を見つけてしまった時にそれが最高潮に達した。人の形をしていないものを反射的に狩り尽くしたせいで結果的にあの王太子を助けてしまったけれど、周囲の状況など本当に何も見えていなかった。
あっけなく死んでしまったレッドドラゴンにやり場のない怒りをぶつけるところもあの場にいた全員に見られてしまったし、興奮冷めやらぬままに王太子に話しかけられ、自ら正体を明かすような真似までしてしまった。
それに気づいたところで折角少し冷静になれたというのに、王太子の言葉にイラッときて、更に外野の売り言葉に買い言葉でヒートアップして、最終的に脅迫にまで発展してしまった。
「もう完全に頭がイカレた女じゃないの……」
そのあまりの傍若無人ぶりに頭を抱える。
関わらないように言ったのに、すぐに王宮からギルドに遣いが来てイラついたのも今思えば酷い八つ当たりだ。そりゃそうだ、向こうからしたら放っておけるわけがない。ドラゴンよりヤバい女がうろついているのを放っておく国家など存在しない。
そうやって城に呼ばれた私は謁見の間に入る頃にはもう戦々恐々としていた。不敬アンド不敬で死刑まで行く可能性もゼロではなかったのだから。もちろんそのまま殺されるようなタマではないけれど、お尋ね者になって生まれ育ったこの国に居場所がなくなってしまうのは避けたかった。
しかしそんな物騒なことばかり考えていた私の頭の中とは裏腹に、国王陛下はとても親身に接してくれた。一度捨てた家名を拾い上げ、再びそれを堂々と名乗るきっかけを与えてくれたのだ。王妃様にいたっては私の身の上話を聞いて本気で同情してくれていたように思う。
それだけでなく、私が街の人たちとの関係を大切にしているのを考慮したうえで共に国と民を守る方法まで示してくれた。私を騎士団に入れるのとは別の形で取り込もうとしているのは明白だったけれど、あれであれば私としては大きな不満はない。
そんななので私の中では陛下も王妃様も良い人だという印象しかなかった。私が力を振りかざし、傍若無人な態度さえ取らなければ程良い関係でいられるのではないだろうか。
小さい頃から家族以外の貴族を警戒して生きてきたというのに、結局あっけなく貴族に取り込まれることを受け入れてしまっている。戦わずして平穏を得られるとはもう思っていないし、大切なものが周りに増えてしまったのだから考えが変わるのも仕方がない。ずっと昔のままではいられないのが現実だ。
室内をうろうろするのをやめてベッドに仰向けに寝転がる。
(でもこれからどうしようか……)
レッドドラゴンへの復讐を終えて少し気が抜けてしまったのは確かだ。ずっと張り詰めていた糸がぷつりと切れたような感覚が、これまで自分が大きな焦燥感を無自覚に腹に抱えていたことを物語っていた。
元はレッドドラゴンの情報を得るために始めたハンター業も陛下と約束してしまったので辞める気はないとはいえ、何かもう少し短期的な目標が欲しいところだ。
ベッドに寝転がりながらぐるりと周囲を見回す。目に留まったのは褒美のお金の詰まった大きくて豪華な見た目の木箱だった。
(――そうだ!)
晴れて貴族の身分に戻ってきたのだ。身の回りの環境を貴族らしく整えるのも良いかもしれない。幸いお金は沢山ある。
「はっ……お風呂だ! お風呂が欲しい! ゆっくり入れるお風呂付きの自分の家だ!」
この都市に住み始めた当時は諦めざるを得なかったお風呂、それが今なら手に入るかもしれないと気付いて一気に色めきだった私はベッドから飛び起き、不動産屋を探しに宿から飛び出した。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
これまであまり立ち入ってこなかったエルグランツの北東区画にある空き家の前で、不動産屋の男性がこちらに振り返る。
「こちらはいかがでしょう?」
エリスさんから教えてもらった不動産屋さんに「そこまで大きくなくてもいいから貴族が住めるような土地や物件はないか」と聞いて案内されてきたのだ。
「お、おぉ~?」
(……お化け屋敷かな?)
門の外側から見上げたその建物は二階建ての立派なお屋敷だった。……ただ、どう見ても管理はしていませんと言わんばかりに人の背丈ほどもある草が生い茂り、蔦が屋敷の外壁を覆っている。
「これはまた随分と野生的な……」
「こちらは過去に病で一族が亡くなられ、取り潰しになった男爵様のお屋敷になります。お貴族様はみな自分の理想のものでないと納得なさらないことが殆どで、既存の建物を使わずに取り壊してしまいます。ですので我々もここ北東区画の建物の管理はしないのが一般的なのです」
「あぁ、そういう……」
貴族ではあっても絶妙に貧乏性である私としては中古物件でまったく問題なかったのだけれど、そういう事情であれば納得するしかない。
(まぁ見るだけ見てみようか……)
聞けば北東区画で空いている土地は今はここだけらしい。折角住むならエルグランツが良いし、貴族が平民街に住むと変な目で見られそうなのでそれも避けたい。となると現状この場所しか選択肢はない。
「中を見てみても?」
「そのまま使われるのですか!?」
不動産屋さんの今の説明を聞いていなかったのかと言いたげな反応にちょっとイラッとする。しかし自分も貴族らしくないとは思っているのだから彼を責めてはいけない。
「私はその予定だったのよ」
「そ、そうですか……。かしこまりました」
彼はそう言いながらもちゃんと持っていた鍵束で門を開けてくれる。しかし門から奥へはすぐには進めない。伸び放題の草が行く手を阻んでいるからだ。
まぁそれも門を開ける前からわかっていたこと。剣で大まかに刈り取りながら玄関へと進んでいく。
ふと視線を感じて後ろを振り返ると、不動産屋さんが戸惑いの目でこちらを見ていた。彼はそもそも敷地内に入る想定をしていなかったので草を刈る道具なんて何も持っておらず、見ていることしか出来ないのだろう。ならもう気にしても仕方がない。
しばらくザクザクと豪快な音をさせながら進んでいると、ようやく屋敷の玄関ドアが見えてきた。不動産屋さんに開けてもらって中に入ってみると、玄関ホールの正面には階段があり吹き抜けになっていた。さすがに埃っぽいものの、外観に比べればそこまで荒れ果てた感じはしなかった。
「思ってたよりも綺麗ね。家具もそのままなの?」
人の姿の見えない屋敷の中に私の声が反響する。
「はい。男爵様はお金で爵位を購入した、いわゆる成金貴族というものでした。こちらを建てて移り住んだ矢先に一族全員が病で倒れ、そのまま亡くなられましたので、建物や家具自体は比較的新しいものです。経緯が経緯ですので少々いわくつきと言えなくもないですが……」
「少々、ねぇ……」
見上げれば二階の大きな窓から差し込む光に照らされて、玄関ホールに舞い上がった細かな埃がゆらゆらと煌いていた。
それを眺めながら、効果はないとわかってはいても抵抗の魔法を全開にする私。訳のわからない病気で死ぬのは流石に嫌だ。
「お陰様で今日まで泥棒にも入られず、状態を保てております!」
不動産屋さんが私が何か言いげなことに慌てて良くわからないフォローを入れてくる。元々保つ気もなかったくせに保てているとはこれ如何に……。
「それで、お風呂はどこ?」
「へっ……? お風呂ですか? 確か寝室の近くに備え付けられていたと記憶しておりますが……」
個人的に最も重要な部分であるお風呂を目指してホールの階段を上っていく。そのまま案内されながら左手の廊下の奥の方の部屋に入る。そこは見た感じ脱衣所のようだった。
室内には扉が右手前にひとつ、奥の左右にひとつずつ。手前のはトイレ、奥の片方は寝室に繋がっていた。ではもう片方がお風呂ということなのだろう。
(おぉ……!)
扉の向こう側は白い陶器のバスタブがぽつんと置かれているだけとかではなく、浴室全体が大理石で出来た立派なお風呂になっていた。亡くなった男爵は古代ローマ人か日本人だったんじゃないかとすら思えるほどの気合の入りようだ。
「湯沸かしの魔道具まで……!」
湯船の壁際には魔道具まで設置されていた。別の場所で沸かしたお湯を風呂まで運ぶのではなく、この場で薪を使わずに湯船の水を適温まで温めることが出来るというものだ。これは故郷の屋敷にもあったのでよく覚えている。
魔道具だからとても高価な物のはずだ。これほどの本格的な浴室にこんなものまで揃えているとは、男爵はお風呂に関してはクローヴェル家以上に拘りを持っていたようだ。
(え、ここめちゃくちゃ良くない?)
これなら私がわざわざイチから考えて建てても大して変わらない気がする。この広さだと壊すのも建てるのも時間が掛かるだろうし、無駄が多いように思えてきた。
(いやいや、落ち着け……)
既にかなり購入に気持ちが傾いているけれど、勢いで購入してから後で致命的な欠陥でも見つかったら大変だ。他の部屋も全て確認してからでも何も遅くはない。
「他の部屋も案内してもらえる?」
結局その後も寝室や応接室、遊戯室、書斎、食堂、屋根裏の使用人部屋、厨房なども見て回る――が、幸いにも何もおかしなところなど見当たらない。
(うん、もうここでいいや!)
整えるのにそれなりに時間は掛かるだろうけれど、やることが増えて丁度いい気がする。
「ここにするわ。契約書類は今持ってる?」
「は!? あ、はい! こちらになります!」
私はその場でさらっと記入してしまう。これで良いのだ、こういうものはフィーリングだ。私程度の頭ではウンウン悩んだところで特に何か変わったりはしないだろう。
「明日にでも改めてお店にお金は持って行くわ。ありがとう」
「畏まりました。ご購入ありがとうございます!」
中を見ると言った時はだいぶ戸惑った顔をしていた彼も、いざ購入が決まると凄く良い顔で対応してくれる。そりゃそうか。
とにかくこれで新しい住まいと念願のお風呂をゲットしたわけだ。これからが楽しみすぎてワクワクしてきた。
不動産屋さんを玄関まで見送って屋敷の鍵を受け取り、そのままお互い上機嫌で別れた。独りだと元々人通りの少ない北東区域にある屋敷の中はとても静かだった。
「さてと……」
まだ昼前なので早速住めるように屋敷を整えていこう。とりあえず通りからの見てくれが悪すぎるので草刈から始めようか。
ショートソードを低く構えて『幻影の刃』を伸ばして薙ぎ払う。背の高い草を大雑把にでも刈らないと、どんな庭かもわからない。
周囲に人の目もないことを良いことに、さっき玄関への道を切り開いた時よりも大胆にバッサバッサと刈り取っていく。お陰でとてもスムーズに進んでいく反面、多少問題もあった。
最初の犠牲者はベンチだった。目視出来る柱や像、背の高い植木などは避けられるけれど、完全に埋もれていたベンチには気付けなくて脚を見事に切断してしまったのだ。
外にも植木鉢、裏手に放置されていた桶や物干し竿などもいくつかお亡くなりになってしまった。彼らは必要な犠牲だったのだと己に言い聞かせておくことにする。
そうやってしばらく無心で草刈りを続け、お昼時になる頃にはひとまず敷地内を一通り見渡せる程度には綺麗になった。昔の屋敷の庭には到底及ばないまでも、それでも十分な広さだった。
「ガーデニングも楽しそうだな~。いいね、お楽しみが増えてきた!」
街での暮らしは好きだ。しかし宿暮らしである以上どうしても周囲に合わせる必要があった。樹海の中のように好き勝手出来る場所がなかったので、屋敷を購入したことでそういう場所が出来たのはとても嬉しい。
「よし、次は中行くか中!」
気分が乗ってきて勢いよく玄関ホールに入るが、舞い上がる埃を見てスッと冷静になる。
まずは何をする必要があるのかを落ち着いて把握するところから始めないといけなさそうだ。
「とりあえず埃っぽいから換気からかな……。屋敷中の窓開けるだけでも結構な手間だけど仕方ないか」
ひとまず沢山のドアを片っ端から開けて回る。カーテンも閉めっぱなしだったので薄暗かった部屋に光が届くようになり、置かれている家具の色合いなども良く見えるようになった。
「家具も木製の物はいいけど、布製の物、特にベッドは流石にそのまま使うのは嫌だな……。他にも単純に趣味が合わない物とかもあるし、ちゃんと揃えないといけないわね」
とはいえ住人はまだ私一人なのだ。本当に必要な物以外は追々でいいだろう。屋敷内を一周し、また玄関ホールに戻ってくる。
「次は掃除なんだけど、普通に掃き掃除、拭き掃除してたらとんでもなく時間が掛かりそうね……。ここはひとつアレを試してみようか」
『洗い流し』
私は両手を前にかざし、最大出力で洗浄の魔法を使ってみる。
目の前に出現した水の塊は六畳一間ぐらいのサイズだった。すぐに水は消えて、水に触れた部分だけが不自然なほど綺麗になっている。
「ん~……最大出力でもこんなものかぁ……」
屋敷全部包み込めたらいいなとか思ったけどそう都合良くはいかないらしい。人ひとりを綺麗にする以上に出力を強めて使ったことがなかったので、ちょっとした発見だった。 しかしそれでも数打てば何とかなるだろう。
『魔法でお掃除大作戦』開幕である。
各部屋を片っ端から洗浄していく。一部屋だけでも何度も使うので流石に自分でもちょっと心配になったけれど、結局魔力切れの兆候は出ないまま、何とか日が沈む前に終えることが出来た。特に広い玄関ホールと応接室、食堂はとても大変だった。
それと、軽い物を巻き込んでしまうと魔法の水流に揉まれてその場から動かしてしまうので注意が必要だとわかった。高級そうな花瓶やお皿がその身を犠牲にして私に教えてくれた。
とりあえず今日のところはこんなものだろうか。明日はいらない家具などを運び出したいけれど、ちょっと一人では大変そうだ。
「……そうだ! ギルドに依頼出してみよう!」
我ながら名案だ。それなりに大変な肉体労働ではあるけれど『猫探し』よりはマシな依頼だという自信もある。
(ぬふふふ……遂に出す側になっちゃった!)
そうと決まれば善は急げだ。また屋敷中を走り回り、きちんと戸締りをしてからハンターギルドへと向かった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
ギルドはその日の依頼を報告し、一息ついているハンターたちで溢れていた。
「あ、お~い! レオナ~!」
入って早々、離れたテーブルからこちらに手を振る赤いポニーテールの女性の姿が目に入った。エイミーだ。同じテーブルにダリアと、多分同じパーティの男性二人が座っている。
エイミーに誘われるまま、テーブルへと近づいていく。にっかりと笑う彼女に釣られてこちらまで口元が緩んでしまう。
「やっほ~エイミー! それにダリアも! ――で、そちらの二人が残りのパーティの人だよね? 初めまして」
「……お前が『いばら姫』か。この前はウチのが迷惑掛けてすまなかったな。俺は『鋼の男』のマーカス、お察しの通りこのパーティのリーダーをやっている」
マーカスと名乗った男性は全身を分厚い金属鎧で覆った巨漢だった。この世界でここまで重武装の人間なんてこれまで見たことがない。特注だろうか。
今は兜を脱いでテーブルに置いていて、ツルツルの坊主頭を堂々と晒している。立派な茶色の髭を蓄えた、落ち着いていて渋い感じの人だ。声もとても低い。
「僕はアルフレッド。あまり好きじゃないけど『最高の中衛』って呼ばれてる。あの『いばら姫』に会えるなんて光栄だね、よろしく」
「ええ、よろしく」
こちらのアルフレッドと名乗った男性は猫背で目が隠れそうな茶髪に黒い瞳の大人しそうな人だ。マーカスさんと違って革製の装備だし、失礼ながら全体的にとても地味な印象を受ける。
でもダリア以外はゴリゴリの前衛っぽいので、二つ名的にもきっとパーティ内の連携を支える優秀な人なのだろう。
「聞いたわよレオナ、やっぱりレッドドラゴンを倒したんだって? その功績でS級になったらしいじゃないの、おめでとう!」
ダリアには珍しく少し興奮気味に祝ってくれる。
「あはは……ありがと。あの時は恥ずかしいところを見せちゃったわね」
実際はギルドを飛び出してからも色々やらかしているけれど、恥でしかないのでこの場では黙っていよう。
「すっげーよな! あいつらの言った通りだったし」
「あいつら?」
「ほれ、アッチ」
エイミーが指刺した方向、ちょうど逆サイドのテーブルでアクセルとユノさんが手を振っていた。……そういえば私の事情を知っているハンターなんて彼らくらいだった。私も軽く手を振って彼らに応える。
「なるほどね?」
「で、今日はどうしたの? まさかこんな時間から依頼受ける気?」
「あ、ううん違うの。ちょっと明日人手が欲しくて、依頼を出してみようかなって」
私がちょっと得意げになりながらそう答えると、ダリアは意外そうに眼を丸くした。
「貴女が依頼を出すの? どんな?」
「屋敷を買ったんだけど、まだ住める状態じゃなくてね。残されてる家具の運び出しとかそういうの、一人じゃ大変だから手伝ってもらおうと思って」
『屋敷!?』
女性陣が揃って声を上げる。その横でマーカスさんが片方の眉を持ち上げて興味深そうにニヤリと笑っている。
「ほぅ、S級ともなると屋敷まで買えるのか」
「凄いよね、お貴族様の仲間入りしてるんでしょ?」
アルフレッドさんも穏やかに頷いている。
「すっげーな! ……そうだ、明日はオフだしアタシ手伝ってやろーか!? どんな屋敷買ったのか見てみてえし!」
「あ、ホント? 凄く助かる! ちゃんと報酬も出すし、お昼もご馳走するわよ!」
「やりぃ! お前らはどうする?」
「私はこの人とデートだからパス」
「……そういうことだ」
ダリアもマーカスさんもどちらも落ち着いた人なだけあって、サラッとそう返事をされたことに面食らってしまう。失礼だから口には出さないけれど、マーカスさんにはデートという単語が全く似合っていない。
二人が付き合っているなんて初めて聞いた。――というか年齢的にもう結婚してるのかもしれない。仲のよろしいことで。
「今日初対面でいきなり屋敷にお邪魔するのもな……。本当に手が足りないなら行ってもいいけど……」
「あぁもう、お前はいつもハッキリしねぇなぁ……。コイツはともかく、知り合いの方が都合良いってんならアッチも誘ってみたらどうだ?」
ハンターとしてだけではなく素の性格的にも気配りの人らしいアルフレッドさん。そんな彼に呆れながらエイミーはまたアクセルたちの方を親指で示した。
「そうね、試しに聞いてくるわ。ちょっと待っててね、エイミー」
「あいよー!」
一旦離れてアクセルたちのテーブルへと向かう。私が近寄ってきたことに気付いた二人は笑顔で出迎えてくれる。
「よう! S級おめでとさん!」
「おめでと~!」
「ふふ、ありがと。『鋼牙』の人たちと知り合いだったのね、ちょっとびっくりしちゃった」
「たまたまだけどな」
「きっかけもレオナさんだしね~」
聞けばレッドドラゴンの出現を知ったあの日、私のことで話をしたのが知り合うきっかけだったそうだ。あの時アクセルたちもギルドに居たらしい。全然気づかなかった……。
「まぁそれはいいとして、明日って空いてない?」
「特にこれといって予定は入ってないぜ。普通に依頼受けるだけだし」
「なら良かったら手伝ってくれないかしら?」
「何をすればいいの?」
「買ったばっかりの屋敷のお片付け。ちゃんと報酬も出すし、お昼もご馳走するわ」
「屋敷!? S級半端ねえな……」
「すごーい!」
みんな素直に驚いてくれているけれど、こうも立て続けに驚かれているとなんだか自慢して回っているようで、ちょっと微妙な気分だ……。
「……どうかな?」
「俺は構わないぜ。ユノもいいだろ?」
「うん、行ってみたい!」
「ありがと! 助かる!」
これで三人ゲットだ。どうせなら後一人くらい欲しいところだし、アルフレッドさんに頼んでしまおうか。
『カランカラーン』
するとそこにギルドの扉の鐘の音が響いた。反射的に視線を向けると、魔物の素材を荷物からはみ出させながら歩く長身の青年が入ってきていた。
私は丁度良いとばかりに彼に駆け寄っていく。
「ねぇ、カイル!」
「わっ!? レオナさん!? どうしたんですか?」
私に気付いていなかったようで、大きく驚いて荷物の中身がガチャガチャと音を立てている。
「明日暇? 暇よね?」
「今依頼が終わりましたから、暇は暇ですけど……」
「よーし、労働力ゲット!」
「えぇ~!?」
こうして無事、明日の片づけメンバーが集まった。
もちろんちゃんとカイルにも説明をして納得はしてもらった。どこぞのハズレ依頼とは違うのだよ。




