42.ヘンリーの娘(国王陛下視点)
クリストファーの父親である国王アンドリュー視点、全一話です。
討伐から無事帰還した息子の様子がどうもおかしい。
レッドドラゴンの死体という、大抵の人間が一生に一度見られるかどうかというものを目にした王都の民の盛り上がりとは対称的な、思い悩んでいると言わんばかりの神妙な顔つきをしていた。
何かあったのかと心配したのだが、ざっくりと今回の報告を済ませたかと思えば「後程、重要なご報告が御座います」とだけ告げて部屋に戻ってしまった。
今回の戦いで親しい者が死んでしまったのだろうか。仮にそうだとしてもその者の分まで勝利を喜び、誇るものだと教えてきたはずなのだが。
気になって被害状況を確認してみたが、直属の部下である特務騎士団の人間は全員生還していた。そもそもそこまで多くの死者を出したわけでもないようだ。
何故あそこまで浮かない顔をしているのか、私にはわからなかった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
その晩、本人の希望で私と妻、宰相、騎士団総長と息子の五人だけが一室に集まった。
「では聞こう。討伐で何が起こった? 何故そのような顔をしている?」
時間が経って、あれから更に気分が沈んでいる様子の息子に問いかける。
少しの間を置いて、その見るからに重そうな口がゆっくりと開かれていく――。
「単刀直入に申し上げますと、今回の討伐は失敗に終わりました」
「何!? しかし現にレッドドラゴンの死体を持ち帰っているではないか!?」
「……はい。ですが、我々特務騎士団とフェルゼン騎士団の戦力だけでは仕留めるところまで至れませんでした。あれは我々が崩壊する直前に、ある者が一人で倒したものなのです」
「一人で!? その仰り方ですと、騎士団の者ではないということですか!?」
この場の殆どの者が目を剥いて言葉を失っている中、騎士団総長が前のめりになって喰い付いている。当然だ、騎士団での討伐が失敗したというのだから必死にもなるだろう。
「……あぁ。その者は『いばら姫』という二つ名を持つハンターだった」
生憎ハンターについて詳しくはなく、聞かされたところで二つ名的に女性なのだろうという程度の理解しか出来ない。それは他も同じようで、大きな反応を示す者はこの場には誰も居ない。
「ハンターということはつまり、新しく設けられた取り決めが功を奏したということでしょうか?」
すると宰相が興味深そうに息子に問いかけた。
新しい取り決め――確か『火竜事件』を踏まえ、強力な魔物を相手にする際には従来の戦力に加えて周辺の騎士団やハンターギルドからも人員を集めてより確実に討伐しようというものだったか。宰相がその辺りを担当していたので、少しだけ声に喜色が混じっているのは恐らくそういうことなのだろう。
だが今回の場合、実際に戦ったのは特務騎士団と現地のフェルゼン騎士団のみで、ロートレック騎士団やハンターギルドの討伐隊の到着は間に合わなかったと報告を受けたはずだが……。
「そのような解釈も出来なくはないが、彼女は恐らく独断でレッドドラゴンの元までやってきていたと見ている」
「何故そう思う?」
「彼女はレッドドラゴンに強い復讐心を抱いておりました。周囲と協力するなど考えてもいなかったでしょう」
「いや……それも何故其方が知っておるのだ? 初めて会ったのではないのか?」
普段ならばもっと客観的に淡々と話せるはずの息子には珍しく目線のずれた答えが返ってきて首を傾げてしまう。情報の距離感がまるでバラバラなのだ。そこまで心情を把握できる間柄にありながら、何故独断云々の部分は曖昧になってしまっているのか。
「それが…………彼女『いばら姫』の正体は、十年前の『火竜事件』で亡くなったバーグマン伯爵の一人娘、レナ・クローヴェルだったのです」
『……ッ!?』
「なんだと!? ヘンリーの娘が生きていたのか!? それは確かか!?」
前バーグマン伯爵であったヘンリー・クローヴェルは、先代が亡くなって若くして領主を継ぎ、領地を次々と発展させていった遣り手だった。領地の名産のワインの味がみるみる洗練されていったのも記憶に新しい。
私は実際にその伯爵の娘と会ったことはないが、ヘンリーが王宮を訪れた際には毎度のように娘のことを天使だと褒めちぎっていたので、そういう意味ではとても印象に残っている。
「私は一度彼女と会ったことがあります、間違いありません。容姿だけでなく、少ない会話の中にもそれを裏付けられるものがありました」
「それならば殿下、何故その者を連れ帰ってこなかったのですか?」
……そう、これまでずっと感じていたその疑問を私よりも先に宰相が息子に投げかけた。
「本人に断られた。『放っといて』『もう関わらないで』と」
それでも納得がいかないのだろう、宰相は眉を顰めている。
「殿下相手に随分な態度ですな……。しかし無理を言えば連れて来られたのではありませんか?」
私の考えを続けて代弁してくれた宰相の言葉を、息子は鼻で笑う。
「……まさか。レッドドラゴンを一刀のもとに切り捨て、同時に周囲の大量のブラックハウンドたちまでをも一瞬で殲滅してみせた彼女相手にそのような態度など取れるはずがない。その後の対応を誤りかけて、我々も危うく骨も残らないほどに燃やし尽くされるところだったのだぞ」
そして自虐的にそう吐き捨てた。ヘンリーの娘とやらのその驚くべき言動に皆言葉も出ない様子だ。
一国の王太子とそれの率いる騎士団相手にそのような態度を取るということは、全てを敵に回したところで何の障害にもならないほど実力に差があるか、もしくは頭がおかしいかのどちらかなのだから。
「その娘は確か、学園で貴方と同じ学年になるはずだったのでしょう? シェーラは私よりも季節一つ分だけ先に出産していたもの。同い年なのに何故そこまで強いのかしら?」
「王族として魔力量に恵まれ、幼少期から鍛えてきた私よりも強いのですから、それだけ魔力が多いと考えるのが自然ではあります。しかしあれだけの力を出すとなると一体どれほどの魔力量になるのか……まるで想像もつきませんが……」
それは確かに最もシンプルな答えではあるのだが、ヘンリーもその妻も貴族として優秀ではあったものの、魔力に関しては特別秀でた者ではなかったはずだ。その娘が王族をも軽く上回る魔力量を有しているなど俄には信じ難い。
「今の話を聞く限りでは既に総長である私は勿論、恐れながら……陛下よりも実力は上なのではないでしょうか? レッドドラゴンを一撃でなど到底信じられませんが……」
国王として確かに私もドラゴンを討伐はしたが、一撃というのは総長の言う通り無理がある。だがもし話が本当なのであれば私など比較にもならないほどに強いのは間違いないだろう。
馬鹿真面目な息子がこのような場で嘘を吐くとは考え難い。それに騎士たちも現場での様子を見ているだろうから、疑うこと自体にあまり意味がないように思える。
いくら信じ難くとも、ここは無理矢理にでもそう納得しておいた方が良さそうだ。
「まだ若いのだから、これから更に強くなるのだろう? そのような者を野放しにしておくわけにはいかん。取り込むか、最低でも敵対しないような関係を築かねばならん」
「そうです! それ程の力を持つ者など下手をすれば人類の敵にすら成り得る! 早急に首に縄を付けなければ!」
「彼女はそのような危険な思想の持ち主ではない!」
私と宰相の当然の懸念を、息子は強く否定する。
「……先程燃やし尽くされかけたと仰っていた割には、やけに肩を持ちますな、殿下」
「ぐっ……!」
宰相に痛いところを突かれた息子は言葉に詰まる。客観的な視点が欠けていることや、今の否定を見ればそう判断されても無理はない。まぁそれについては以前から言われている話があるので、わざわざ確認する必要はないだろう。
「彼女はこれまでの十年間、貴族に助けを求めたことは一度もなかった。それはつまり貴族社会に未練がなく、平民として過ごすことに不満を抱いていないということを意味している。そこに無理に干渉しにいくのは……」
「わかっている、無理はしない。そのような相手に無理など出来るか」
だが直接会って話をしないことには向こうの考えもわからないではないか。放置した結果、他国に取り込まれてしまっては目も当てられないことになる。
「あのヘンリーの娘だ、私も純粋に興味がある。ハンターならばギルドに顔を出すだろう、エルグランツのギルド本部まで遣いを出せ。すぐにだ」
少々恐ろしくもあるが、どのような者が来るのか今から楽しみだ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
息子の帰還から約半月後、ようやくその日がやってきた。
件の娘が今まさにこの謁見の間に居て、目の前で跪いている。
「面を上げよ」
私の言葉を宰相が繰り返し、娘が顔を上げる。
話には聞いていたが、その顔はとても美しいものだった。何よりもその眼が良い。深い赤の瞳が真っすぐにこちらを見据えており、その芯の強さが見て取れる。
(アナタ。彼女、シェーラの面影があるわ! やっぱり本当みたい。あぁ……懐かしいわ……!)
妻が扇子で口元を隠しながら、小声で母親の面影を見たと伝えてくる。ちょうど私もあの瞳にヘンリーの顔を思い浮かべていたところだ。
「其方が『いばら姫』か」
「御招集に応じ参りました、A級ハンターのレオナと申します。御尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じます」
「わざわざ呼びつけたのだ、堅苦しいのはなしにしよう。直答を許す」
今の挨拶を見る限り無いとは思うが、息子に対するものと同様の無礼な態度を取られ、それを咎めなければならない流れにはしたくない。
「此度のレッドドラゴン討伐において輝かしい貢献をしたとの報告があった。よって、其方にはそれに相応しい褒美をと考えている」
「光栄に存じます」
「まず其方をS級ハンターと認め、男爵位を与える。家名を持たぬ平民であった其方も、今後はレオナ・クローヴェルと名乗るが良い」
「……ッ!?」
ここでようやくその落ち着き払った態度に変化があった。目を見開き、息を呑んでいる。
「――其方はあのヘンリーの娘なのだろう? ならばその家名を捨てる必要はなかろう」
「過分なるご配慮、痛み入ります」
そう言って頭を下げる直前の彼女の目は、懐かしむように細められていた。どうやら貴族というものに一切の未練がないはずはないという私の判断は間違っていなかったようだ。密かに胸を撫でおろした。
「うむ、では次だ。爵位とは別に何か褒美を与えねばな。其方の希望を聞こう」
「これ以上頂戴するわけには……」
「そうはいかぬ。それでは民に示しがつかないではないか」
S級ハンターは国に認められたという証、一般市民からすれば成功の象徴だ。それが大したものは得られないと認識されては誰も目指そうと思わなくなってしまう。
「そういうものですか……。参考までに、この国にもう一人いるというS級ハンターの方は何を希望されたのでしょうか?」
「――む? ……ヴィルヘルムか。あれは確か魔法研究所に自分の理想の部屋を希望していたな」
奴はハンターの活動を通して自らの研究の実験を行っていた魔法研究の虫だ。その噂を聞きつけて接触してみると既に一定の成果を上げていたので打診したところ、それまでの生活では資金面での苦労が多かったようで喜んで喰い付いてきた。
研究によって何か便利な魔法や魔道具が出来るのだから仕方がないのだが、その研究費は結構な負担になっているのは事実だ。出来れば負担の少ないものだと嬉しいが……。
「では私もお金にしたいと存じます。これから貴族を名乗る以上、何かと物入りかと思われますので」
「いいだろう。ヴィルヘルムと違って一括でまとまった額にするが、それで良いな?」
「畏れ入ります」
「うむ。ひとまず報酬については以上だ」
そしてこれからが本番だ。彼女の人間としての本質を見抜き、適切な対応でこちらに引き込まなければならない。
「ここからは私個人の興味によるものだ。其方が十年前に『火竜事件』に巻き込まれてからこれまで何をしてきたのか、何故そこまで強くなったのか、聞かせてくれるか?」
私の言葉に彼女は明らかに話すべきかどうか躊躇い、悩んでいる。十年間助けを求めてこなかったのにも何か理由があるのだろう。
少しの沈黙の後、彼女は意を決した様子で、その半生を語り出した。
理由はわからないが、子供の頃から規格外の魔力を持っていたこと。
戦いとは縁のない平穏な生活を送るために、それを隠して生きていたこと。
『火竜事件』によって両親を亡くし、樹海を彷徨い自身も死に掛けたこと。
そこで出会った老人に助けられ、成人まで戦う術と生きる術を学んだこと。
その日々の中でドラゴンに復讐するだけでなく、同じように理不尽に苦しむ人々を助けることを誓い、今日までハンターとして活動してきたこと。
そして最後に復讐の相手が出現したと聞いて暴走していたと彼女は自ら認め、息子に無礼な態度を取ったことを謝罪してきた。
静かに語られたそれらはとても十代の令嬢が経験するようなものではなかった。本人に自覚があるのかはわからないが、孤独な日常を埋めるように身近な人々に安らぎを求めているその様は、傍から見れば痛ましいとすら思えた。
周囲の者も絶句している。横に座る妻など両親が彼女を守ろうと力を尽くしていた話あたりから必死に泣くのを堪えているくらいだ。彼女の母親と親交が深かったおかげで情の入り方が普通ではない。
「……よく話してくれた、礼を言う。其方の生き様はとても美しく、好ましいものだ」
こちらの好意的な反応に彼女も少しほっとしているようだ。
そもそも国王である私が簡単に個人の話を信用するなど本来あってはならないのだが、今回はあまりに珍しいケースであり、情報源が限られているうえに大半が息子からのものである以上信じない訳にもいかない。
そうなると後は私と妻の直感に頼るしかない。そして今の話の内容にも、それを話す彼女の様子にも、不自然な点は見当たらなかった。妻の様子を見るに、あちらも感想は同じだと思われる。
「其方の話を疑う気はないが、念の為この場で魔力量を測らせてくれるか?」
「家庭教師から魔法を学ぶ際に魔道具を二つも壊しております。今回もまず間違いなく壊れると予想されますが、よろしいのですか?」
「構わん。今ここで其方の話に説得力が増すことには魔道具以上の価値がある」
それがわかりさえすれば残りは全て鵜呑みにしても構わないくらいだ。
「畏まりました」
すぐさま魔力測定用の魔道具が運ばれてくる。彼女の進言により、それは少し我々より遠めの位置に置かれている。
「では、破片にご注意下さい」
彼女が魔道具に手を触れた瞬間、部屋の中が目も眩むほどの光に包まれる。
「ぬおっ!?」
『おおっ!?』
思わず情けない声が漏れるが、それも周囲のどよめきにかき消されてしまう。
『パリーーーン!』
あまりの眩しさに目を閉じていると、彼女の言葉通り魔道具の割れる音が響いた。瞼の皮膚越しに尚届いていた光が収まって目を開けはしたものの、まだ視界がチカチカしていて目の前の様子はわからない。
「子供の頃は徐々に明るくなっていったのですが、今ではもう一瞬のことでしたね……」
そう語る彼女の声色には魔道具が壊れたことに関しての動揺は一切含まれていない。壊れて当たり前だという感覚でいたのは間違いないようだ。
ようやく視界がまともになって確認することが出来た光景は、想像と一切違わないものだった。
「……なるほど、良くわかった。其方の話一切を信じよう」
隣の妻に目をやれば、頷き返してくる。実際に目の前で魔道具を破壊して見せたのだ、もはや疑いようもあるまい。
彼女は元の位置に戻り、後ろで壊れた魔道具の片づけが行われながら話は続く。
「私としては、騎士団に入って皆と共に魔物と戦って欲しい気持ちはある。だが、其方は既に出来た縁を大事にしたいという思いが強いだろうし、其方ほどの戦力を騎士団に縛り付けるのも有効ではないのかもしれぬ」
「陛下……」
「そこでだ、其方には引き続きS級ハンターとして民を守ってもらいたい。ただ、そうだな……月に数日で良い、騎士団で騎士たちに稽古をつけてくれぬか? その際に騎士団に集まる王国各地の情報を渡そう。騎士団が動く段階ではない案件でも、フットワークの軽いハンターであれば直接民を救うことが出来るだろう。もちろん報酬も出す」
騎士団に籍を置かずに、騎士団の仕事をいくつか受け持ってもらう。これならば彼女を拘束し過ぎず、彼女の意志で民を守ってくれるはずだ。日頃から情報を伝え、連絡を取り合う関係に慣れてくれれば、重大な危機の際に協力を取り付けるのも容易になるだろう。
すぐにでも取り込みたい気持ちは勿論あるが焦ってはいけない。息子の件もあるのだから慎重にこの娘との距離を測り、縮めていかなければならない。
信用を失って彼女がこの国を見限ってしまえば、我々にはもう力づくで引き留めることすら叶わないのだから――。
「私のような者へのそこまでの御配慮、感謝の言葉も御座いません」
「その辺りの細かい内容については追って遣いを出そう。其方の今後の活躍に期待する、レオナ・クローヴェル女男爵。――以上だ」
「畏まりました。失礼致します」
息子からあれだけ物騒な話を聞かされていただけあって不安の多い顔合わせだったが、結果的にはまずまずの形で終われたのではないだろうか。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
その日の晩、妻と息子との三人で話し合いをする場を設けた。
「クリス、あの子を逃がしちゃダメよ!」
「母上!?」
「確か昔文官が言っていた、パーティで挨拶して惚けていた相手というのは彼女なのでしょう? ずっと想い続けてきたのが彼女だったのではなくて?」
――そう、息子はこれまで結婚どころか婚約者を決めることすらも頑なに拒んできた。男色家なのかと疑ったりもしたが、それは本人が否定している。息子のこれまでの交友関係を全て洗った結果、彼女のことを気に入っていたというのは間違いなかった。
既に亡くなっているのだからと別の相手を宛がおうとしても、とにかくあまりにも頑なだった為、卒業から十年――つまり二十五までに覚悟を決めなければ王位継承権についても弟に譲るように言っていたほどだ。
「あんなに純粋で真っすぐなイイ娘はそう居ないわよ! もちろん性格だけじゃない、見た目も母親似でとっても美しくて、十年間貴族社会から離れていてもちゃんと覚えているくらい躾けられているし、更に魔力まで多くて、誰も敵わないくらい強いだなんて! 他の貴族に取られたら承知しませんからね!」
妻は彼女のことをいたく気に入ったようだ。だが無理もない、私も実際に会ってみて嫌な感情は一切抱かなかったのだから。
見た目も、その心根も、生き様もとても好ましかった。エルグランツの民にとても人気があるというのも頷ける。そんな想い人が生きていたとあれば、親としては応援してやりたいのも当然だろう。
今こそハンターあがりの女男爵とはいえ元は伯爵令嬢だ、学園には通っていなくとも、あの美貌と魔力量があれば周囲を納得させるのもそう難しいことではない。
「お前にもまだその気はあるのだろう?」
息子が帰還した日、やけに彼女の肩を持っていたのはそういう理由のはずだ。
「父上まで……。しかし、あの日のやり取りで俺は恐らく嫌われてしまいました……」
否定はしないくせになんと弱気なのだろうか……。これでは先が思いやられる。
「それについては暴走していたとあちらも認めていただろう。何より王族ともあろうものが一度嫌われたぐらいで諦めてどうする……。彼女は軟派な男嫌いで有名だそうだが、それはつまり堅実な男であれば可能性はあるということだ」
少なくとも息子はそのような軟派な男ではないはずだ。むしろ馬鹿真面目と言っても良いほどなのだから、積極的に行くくらいで丁度良いだろう。
「間違っても権力で強引に迫ろうとするなよ? 貴族であることを捨てられる人物なのだから、そういうのを一番嫌がるはずだ。相手が相手だ、殺されるぞ」
ここまでアドバイスしても息子はまだ自信なさげな様子だ。
「まったく……。表向きにはドラゴンを討伐したことにはなっているが、実際はまだなのだ。彼女を射止めるのはもちろんだが、しっかりと鍛えて次の大物に備えておけよ」
「ドラゴンより彼女の方がよほど大物よねぇ? 一体どうなるのかしらねぇ、うふふふ……」
妻は息子が結婚を拒み続けたまま二十五歳を迎えるのではと心配していただけあって、ようやく希望が持ててとても嬉しそうにしている。
まぁ私には上手くいったとしても彼女の尻に敷かれる未来しか見えないのだが、こいつはどうも頼りないからそれで丁度いいだろう。
遂に息子は頭を抱え込んでしまった。
そうだ、若いのだから今の内に存分に悩んでおけ。
……頑張るがいい、息子よ。




