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28.志す理由(アクセル視点)

 鉱山の外に出ると日が暮れていたが、そのまま休むことなくアジェの町まで戻った俺たち。


 宿屋の夫婦は俺たちの帰還をとても喜んでくれた。そこから知らせが近隣の住人に伝わってゆき、最終的に町全体が湧き立って至るところで宴が繰り広げられた。


 その宴は朝まで続き、俺たちはあまり睡眠も取れないまま、その足でまた鉱山に入って住人と共に蜘蛛の魔石回収と死体の処理をしていく。その間ずっと当たり障りのない内容でしか俺たちは会話をしていない。


 俺も、恐らくユノもレオナに聞きたいことが沢山ある。レオナも表情こそ変わらないものの、どこか諦めの入った雰囲気を纏っているように思えた。


 結局俺たちがまともに会話したのは帰りの馬車での野営地、行きに鴨を獲った湖のほとりだった。


 焚き火を囲っている三人の間に流れる沈黙を俺から破った。


「今までずっと実力を隠していたんだな、レオナ」


「えぇ、それが私が固定パーティを組まないもうひとつの理由だもの」


 レオナは目の前の焚き火から視線を外さずに、淡々と答えた。


「弱い奴らとは組みたくないってか?」


「……いいえ。今貴方たちが腹に抱えている感情を、抱かせない方法がわからないからよ。同時に、全く抱かない人を養ってあげるような我慢強さも私には無いわ」


 腹に抱えている感情――力量の差を見せつけられた惨めさや嫉妬の感情ということだろうか。それを開き直って着いて来られるのも嫌だと。


「なら何故、臨時パーティを組もうと思った?」


「それは最初に話したでしょう? 他のハンターと交流を持ちたいっていう気持ちはあったからよ。だから実力を知られないように過ごすのがベストだと考えただけ」


「俺たちと組んで満足できたか?」


「概ねはね。でもハンターになった理由とかはまだ聞けていないのよね」


「そうだな、まだ話してない。だが隠し事をしている得体の知れない相手にわざわざ話す気もない。聞きたければまずお前が何者なのかを話してからだ」


 再び沈黙が流れる――。


 向こうの返事をただ待つだけで、こちらからは何も喋らない。ユノも聞いてはいるだろうが特に喋り出すような気配はない。


 レオナは石に座って前かがみで両膝に肘をついた姿勢で焚き火を真っすぐ見つめている。話すかどうかを考えているようだったが、突然ふぅと息を吐いて上体を起こして伸びをした。


「――いいわ、力も少し見られちゃってるしね」


(……少し?)


 些細な言葉ひとつに胸の奥がざわつく。俺は一体何と話をしようとしているのだろうか。


「私はね、貴族の生まれで何故か子供の頃から魔力量がとてつもなく多いの」


「魔力が?」


「えぇ。魔法っていうのは使えば使うほど、魔力量も出力も成長するものなの。魔力量が多ければ回復する量も多いから、そのぶん沢山使える。だから魔力量が多いっていうのは物凄いアドバンテージになるの。魔法を使う人が少ない平民には馴染みがないかもしれないけれど」


「あぁ、初めて聞いたな」


 A級のハンターには魔法を使える者もいるとは聞くが、実際に見たのも今回が初めてだったくらいだ、細かい魔法や魔力の話など全く知らなかった。


 貴族だったことにも驚いていないわけじゃない。ただ全体的な所作や雰囲気が平民らしくはないなとは思っていたので逆に納得がいったくらいだ。


「私の魔力量は自身でも把握しきれないくらいに多いから、真面目に訓練していけば成人する頃には魔法を当たり前に使ってきた大人の貴族ですら相手にならないくらい強くなれるって言われたわ。それと同時に、その魔力が国にバレたら手厚く保護されて、魔物狩りに駆り出されるようになるとも」


「それだけ強くなれるなら、確かに欲しがるだろうな」


「……でも私は嫌だった。ただ平穏に両親と一緒に過ごしたかったから、魔力量を隠して生きていくことにしたの。まぁこの外見だから、面倒事には対処出来るように鍛えてはいたけどね」


 そう言われて彼女がギルドにやってきた初日を思い出す。――なるほど、女性には女性なりの、美人には美人なりの苦労があるということか。


「途中までは何事もなく過ごせていたの。でもあの日、どうしようもない程強力な魔物に襲われて、両親は私を護るために死んだ。周りの人も沢山死んだわ」


「それって、もしかして『火竜事件』か……?」


「……よく知ってるわね」


「ここ最近で大勢犠牲者が出た事件なんて他にないしな。それにどうせ幼かったとはいえ人並み以上には強かったんだろ? それでも敵わない相手となると火竜――レッドドラゴンしか浮かばなかった」


 あの事件を人から聞いた時には、逃げ場のないその状況を想像し戦慄したくらいだ。それを実際に体験した人間が目の前にいるという衝撃は凄まじい。


 俺の考察は正しかったようで、レオナは嫌悪感を前面に打ち出しながら頷いている。


「でも生き残ったからってそれで終わりじゃなかった。山道の下は未知の樹海、それをたった一人で彷徨ってた。途中からフォレストウルフに狙われて、対抗手段も持たないまま、日中は歩き回って夜は一睡も出来ない日々が続いたわ」


 フォレストウルフはとにかくしつこい狼の魔物だ。俺たちなら夜は交代で眠れるし、襲われないまま無視して奴らの縄張りから去れば良いだけなのでそこまで脅威ではない。


 しかし広大な樹海を行く宛てもないまま彷徨い、一人で休むことも出来ない状況となれば、それはもう地獄としか言いようがない。


「お前よく生きてたな……」


「実際、今のお師匠様に助けられなかったら死んでたわね」


「……は? あんな所に人がいたのか!?」


「えぇ、樹海に長年住んでる変わり者のお爺さんがね。その人の元で五年間、戦闘技術や生きるための知識を学んで、成人してから晴れてハンターとしてデビューしたってわけ」


「はぁ~……」


 いくら魔力が多いとはいえ、そこいらの少女が経験するような生き方ではない。作り話であって欲しいとさえ思う。


「私は両親の命を奪った、あの理不尽を忘れない。あんなものをもう他の人にも味わわせたくない。だから私はレッドドラゴンを殺すためにハンターをしているのよ」


 俺を真っすぐ見つめるその瞳。その力強い意志の籠った視線が今の話を疑うことを許さなかった。


「――とまぁここまで話しておいてなんだけど、他のハンターと交流を持ちたいっていうのとは直接は関係ないか……。話したくないならもうそれでもいいわ」


「……いや、そちらみたいにスケールのでかい話ではないけど、話すよ」


 ここまで語らせておいて自分が話さないなど筋が通らない。そんな卑怯な人間になどなりたくはない。


「俺たちの故郷はギルドもないような山奥の村でな、そういう所では魔物討伐っていうのは基本自分たちでやるもんなんだよ。手に負えない時だけギルドに依頼する感じだな」


「えぇ、依頼書を見てても大体そういう感じなのは伝わってくるわね」


「だろ? 年寄りと女子供以外は討伐に駆り出される。当然危険と隣り合わせなもんだから、被害は相応に出るんだ」


 レオナは静かに頷く。


 ユノは……俺がこれから言うことを想像して目を伏せている。


「俺たちがハンターになったのは、親しかった友人が魔物にやられて死んだのがきっかけだ。そいつはユノの兄貴でな、俺も知らされた時は悲しかった。『何であいつが死ななきゃいけなかったんだ?』ってな」


 レオナがユノの方をちらりと見たのがわかる。魔物に家族を奪われる辛さを知っている彼女であれば、ユノの心境もより深く理解出来るだろう。


「それからは年齢的に討伐に参加させてもらえなかった俺も、『これ以上村人に被害を出したくない』って魔物を倒すことを第一に考えて鍛え始めた。でも同時にこうも思ったんだ。『この村以外でも大変な目に遭っている人がいるんじゃないか?』って――」


 それ自体は本当に思い付きだった。でも村の大人たちが話していたのを聞いたり、やってきたハンターに直接話を聞いたりして魔物被害にあっている場所が他にもあることを知った。


「もちろん、故郷の村を守りたいって気持ちは嘘じゃない。ただ、故郷以外にももっと沢山の人を護ることが出来るんじゃないかって一度思ったら、もう止められなかったんだ」


 当然周囲の大人は反対した。将来村を守る人間が減ることになるからだ。必死に説得し、引退したら村に戻ってくることも約束して何とか許しを得たのだ。


「村を出てハンターになるって言ったら、ユノも付いてくるって言いだしてな。こいつ、陰で隠れて弓の練習してやがったんだよ。かっけーだろ?」


 レオナは微笑ましいものを見るような目でユノを見ている。一方のユノは恥ずかしいのか、俯いていてその表情はわからない。


「そんなこんなで無事ハンターになって活動してる訳だ。今回だってアジェの人たちに日常が戻ってきたことを嬉しく思うよ」


 だから俺たちはレオナと根っこは同じはずだ。なのに何故、さっきまであんなにイライラしていたのだろうか。彼女に助けられた俺は感謝しなければならない立場ではないのか。


「――すまなかった」


「どうしたの? 急に……」


「いや……町の人が助かったのならそれでいいと思ったら、さっきまでイライラしてたのが恥ずかしくなってきてな……。お前に助けてもらえなかったら、そもそも命がなかったっていうのによ」


「それだけの熱意があったからだと思う。真剣だったからこそ、馬鹿にされたように感じてしまったのよ。……こちらこそごめんなさい」


 レオナも眉を下げながら微笑み、そして謝罪の言葉を口にしてくれた。


「冷静に分析されるのも、それはそれで恥ずかしいなオイ……。ちなみにここだけの話、あれで実力のどの程度まで出してたんだ?」


「使ったのは『憑依』と『身体強化』だけだし、出力で言っても全力の三割いってないくらいかな」


「さっ!? ……はぁ~かなわねぇな……」


 あの凄まじい戦いが、まさかの全力の四分の一程度だったとは……。本当にレッドドラゴンを殺すだけの実力を持っているとみて間違いないだろう。


 あの理不尽に対抗出来るほどの力を持った彼女が人々を守ろうとしてくれているのだ、心強いにも程がある。


「内緒にしておいてよね。貴族に知られると面倒なんだから」


「もうガンガン魔物と戦ってるのに、相変わらず騎士団は嫌なのか?」


「戦うのはもう仕方ないけど、それ以外は好きにしたいのよ。城で護衛とかさせられたら堅苦しいうえに退屈じゃないの。それなら市場でお魚売ってる方が絶対楽しいわ」


「何となく言いたいことは伝わったが、魚ってなんだよそれ……」


 勧誘した時にも言っていたように下の階級の依頼も受けるだとか、今みたいに貴族に近づきたくない、関わりたくないだとか、本当に金や地位に関しては興味がないようだ。


「…………んなざい」


「ん?」

「え?」


「ごべんなざい~!」


 ここまで一切喋っていなかったユノが、ここにきて突然泣き出してしまい混乱する俺たち。


「おっおい!?」

「ど、どうしたの……?」


「うえぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 意味がわからず二人してオロオロしていた俺たちでは、泣きじゃくるユノを宥めるのに結構な時間が掛かってしまった……。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




「――つまり、俺がレオナに取られるんじゃないかって不安になってたって? お前なぁ~……」


「だってぇ~! 美人だし、スタイル良いし、強いし、気配りも出来るし、料理だって出来るし。前にここでレオナさんのおっぱい見て鼻の下伸ばしてたじゃないのよ~!」


「お前……っ! それは……!」


 何とか隠し通せたと思ったらしっかりバレていた。地面に穴を掘って埋まりたい気分だ。レオナも頭を抱えている。


 するとレオナはすっと立ち上がり、ユノの前まで移動して屈み込んだ。そしてユノの両肩に手を置いて真っすぐに語り掛け始めた。


「……いい? ユノさん。私は貴方からアクセルを奪うような真似なんて絶対しないわ。特別好みでもないし、何より浮気するような男は殺したいほど嫌いなの。……だから安心して?」


 何故か俺は突然バッサリと両断されてしまう。そう説明しながらこちらを睨む目が鋭すぎて、どこがとは言わないが縮み上がってしまう。一体俺が何をしたっていうんだ……。


「……本当?」

「超本当」


 食い気味に答えるくらいには本当らしいぞ、良かったなユノ……。


「ありがとう、そしてごめんなさい……。勝手に嫉妬して、助けられたのにお礼も言わない。今回の私、本当に良い所ないや……」


 肩に両手を置いたまま、これまでを振り返って小さくなっているユノの言葉を首を振って否定するレオナ。


「そんなことない。女王がいるのを事前に察知出来ずに二人を危険に晒したのは私の責任。嫉妬だって……私もちょっと迂闊だった所も今思えばあったし……。だから、ユノさんだけが責任を感じる必要はないわ」


「あれだけのサイズの奴が動いてたら音の違いでわかるだろ? つまりあいつはそれまで微動だにしてなかったんだ。しかも他にも大量の蜘蛛がいたとなればわからなくたって当然だ。それに俺たちが糸に捕まらないくらい強けりゃ問題なかったんだし。――とまぁ、各自色々反省点はあるだろうけど、結局誰が悪いとかじゃねぇよ」


「……そうね。反省合戦はもう終わりにしましょう」


「うん……」


 ひとまずユノも含めて無事全員が和解出来たことに胸を撫でおろした。




「それで、ものは相談なんだが……俺たちに魔法を教えてくれないか? やっぱり強くないと出来ないことがあるって今回で痛感したから、その為に何でも試してみたいんだ」


 俺の要望を受けたレオナは視線を落とし、しばらく黙って考え続けた。その目は至って真剣だ。


 そして十数秒の沈黙ののち、顔を上げて真っすぐこちらを向いた。


「まず前提として、魔法は平民にはそう軽々と教えて良いものじゃないの。そのうえで三つ、私に約束してくれるなら教えてもいいわ」


「……聞かせてくれ」


 彼女は指折り数えて説明していく。


「一つ目――私から教わったと誰にも言わないこと。変に噂になって希望者に押しかけて来られても困るし、貴族にも睨まれるから」


 これはとてもわかりやすい。俺としても必要以上にレオナに迷惑を掛けたくはない。


「二つ目――貴方たちから他人に教えるのは許さない。それがたとえ自分たちの子供であっても。私が貴方たちなら良いと判断したから教えるだけ」


 貴族にも睨まれると言っていたように、軽々と教えるなというのは貴族のルールなのだろう。自分の知らない所で広まっていくのは許さないということらしい。


「三つ目――魔法を使って悪事を働かない。当たり前よね? もし破ったら……」


「破ったら……?」


「私が責任を持って殺す。――何処に逃げようが、必ず」


「……ッ!」

「ひ……ッ!」


 ただ静かに、殺気の籠った目で睨まれる。


 あくまでこれはこの場での脅しだとは頭ではわかってはいるものの、その強烈な圧力にゴクリと喉が鳴る。


 ユノも直接睨まれてはいないはずだが、それでも小さな悲鳴を上げている。


「も、もちろんだ……」


 もともと約束を破る気なんて一切ないが、どう足掻いても勝てない相手に殺意を向けられるというのはもうこれっきりにしたいものだ。


「じゃあ早速教えるから、少し移動しましょう」


 そう言ってレオナは停められている馬車の方を見る。馬車の中では御者が寝ているはずだが、聞き耳を立てられる可能性を警戒しているようだ。


「ユノさん、何してるの?」


「わ、私もいいの……?」


 俺とレオナが立ち上がり、歩きだしたのに何故かユノはまだ座ったまま戸惑っている。


「最初から『俺たち』『貴方たち』って話してたでしょ。今更仲間外れになんかしないわよ……」


「レオナさぁ~ん……」


「あぁもうほら、泣くなって……。二人で強くなっていこうぜ、な?」


「うん……!」


 俺がユノを励まし背中を押すその視界の端で、ほんの一瞬だけ、レオナがこれまでに見せたことのない寂しげな顔をしたのを俺は見逃さなかった。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 それからエルグランツに着くまで、俺たちはレオナから魔法の使い方を学んだ。


 魔法の大まかな種類、魔力の特徴、イメージの大切さ、魔力切れの注意点等、正直かなりの詰め込み授業だったとは思うが、何とかその日の晩のうちに一通り説明を受けた。そして残りの馬車の中で身体強化の魔法の使い方を小声で指導してもらって、何となくだが掴めそうな所まではいくことが出来た。


「後は日々の積み重ねよ。体調を崩さない程度に頑張りなさい」


「あぁ。既に頭がガンガンしてるが、ほどほどに頑張るわ」

「私も~……」


 実際に魔道具で計測もしていないし、ただの体感での話でしかないが、やはり魔力量に関してはそう多くはなさそうだ。


 まぁ元からあまり期待はしていなかったし、魔力が少ないなら少ないで使いどころをしっかりと定めれば良いだけだからそこまで悲観はしていない。


 エルグランツに着いた俺たちは真っ先にギルドへと向かった。




 そして依頼完了の報告と同時に、依頼の階級の訂正と報酬や評価点の追加を要求した。魔石の回収の際に女王の死体をアジェの住民にその目で確認してもらい、依頼主である町長からの嘆願書という形で証拠を持ち帰ってきたのだ。


 それを聞いた受付嬢のリアクションはそれはもう物凄かった……。頭を打たなかっただけ良かったと思う。


 なんでも普段レオナが一人で行動ばかりしているのを心配していて、今回俺たちとパーティを組んだことを喜んでいたようなのだ。それなのに依頼の方が難易度詐欺になってしまったという嘆きを、つい全身で表現してしまったらしい。


 心配していた受付嬢には悪いが、俺はレオナがこの依頼を受けることになったのは逆に幸運だったと思っている。でなければ他のハンターに犠牲者が出て、鉱山の再稼働も遅れていたに違いない。


 いくら適当だったとはいえ、最初に数ある依頼の中からこれを選んだのはユノなので褒めてやりたい。


「さて、報酬も受け取ったし、臨時パーティもこれて解散だな」


「えぇ。初めてだったけど、組んで良かったと思うわ」


「ほんと!? えへへ……嬉しいな!」


 嬉しそうに笑うユノの頭をつい撫でてしまう。


「これからも他の奴らと組んでみたりするのか?」


「そうね、一応その予定。組む相手が居なければソロでやるけど。今度こそはバレないように上手くやらないとね」


 レオナはそう言ってやる気に目を輝かせている。今回のことで何か少し吹っ切れたようだ。


「まぁお前なら余裕だろ」


「気が向いたら、また組んでね!」


「えぇ、また」


「じゃあな」


 俺たちは手を振ってレオナと別れた。


 色々あった濃い一週間だったが、それでも終わる時はあっけないものだ。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




「そういえば……」


「うん?」


 二人で宿に向かって歩いていると、ユノが突然なにかを思い出したように呟いた。


「最初は固定に入ってもらおうって下心ありで臨時パーティ組んでたのにね。いつの間にか勧誘のことすっかり忘れちゃってた」


「あぁ、確かにそういえばそうだったな……。もう今は腕前が違いすぎて組んでくれてありがとうって感じだよな」


「ほんとだねぇ……」


 まったく同じ認識だったことに、二人して苦笑いが零れた。


 そこでふと、坑道の入り口での戦闘の後、俺はレオナに礼を言っていたのを思い出す。「パーティなんだから当たり前でしょ?」と返されたアレだ。


 実はあの時から今と同じような気分になっていたのかもしれない。俺たちと固定パーティを組むような相手ではないと、無自覚ながらに頭の中で諦めがついていたせいで出たお礼だったのではないだろうか。


「なるほどなぁ……」


「え、急にどうしたの?」


「いや、世界は広いなって話。……それよりもだ、俺は今後また移り気を疑われることがないよう、心と体で理解してもらわないといけないように思うんだが?」


「……キャータスケテー」


「ハハハ、マテー」


 もう今は夕暮れ時、日の高さを理由に逃げるなんて出来ないぞ。一週間我慢したうえに一度死に掛けた男の愛の重さを思い知るがいい。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった良かったー!一時はどうなることかと思いました(;´・ω・) でも、ちゃんと腹を割って隠し事なく話をしたことで、すっかり信頼関係が築けたように思います! ユノちゃんの様子がおかしか…
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