25.薬草採集
結局ダニエルさんの奥さんのカーラさんの腰が良くなるまで一週間掛かった。しかしそれを長いと思うこともなく、お店は連日盛況で夢中で働いていた。
明日から復帰するらしく、世話になったからと今日はお店まで挨拶に来てくれた。初めて会ったカーラさんはダニエルさんと同じ白髪で眼鏡を掛けた肝っ玉お婆ちゃんといった印象の人だった。
「レオナちゃん、本当にありがとうねぇ!」
カーラさんがニコニコしながら、そのふくよかな身体で優しく抱きしめてくれる。魚屋さんらしい潮の香りの奥にこの人本来の柔らかな香りがする。
「ううん、私も楽しかったから気にしないで」
「ウチの人も『頼もしいのが手伝ってくれてるから心配すんな』って言ってたから、お陰でゆっくり治すのに専念できたわ!」
「へぇ~……そんなこと言ってくれてたんだ?」
カーラさんと一緒にニヤニヤしながら、ダニエルさんに視線を移す。
「馬鹿野郎! 余計なことを言うんじゃねえ……!」
すると恥ずかしかったのか、そっぽを向かれてしまった。短髪で隠しきれていない耳は真っ赤だ。ツンデレか。
「家じゃもう褒めっぱなしよぉ、珍しいこともあるもんだわ。だからアタシも会いたくて仕方なかったの! ほんと聞いた通りの美人さん!」
勝手にダニエルさんのことを必要なことしか喋らない寡黙なタイプだと思っていたけれど、実際は全然違うようだ。家で動けないカーラさんにその日あったことをしっかり報告しているダニエルさんがかわいい。
「カーラッ!!」
「はいはい。そんな訳でだいぶお世話になっちゃったからね、もし何か困ったことがあったら何でも相談してね?」
「うん、ありがとう。――ダニエルさんも」
「……ありがとな。またいつでも顔見せに来な」
「うん、またね」
カーラさんが元気よく、ダニエルさんが照れくさそうに小さく手を振って見送ってくれるのに応えながら、私はその場を後にした。
やっぱり手伝うと決めて良かった。仲の良い夫婦を見てほっこりと胸が温かくなる。
私の守りたい、私の求める平穏というのはこういうものなのだ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「さて、D級の依頼は……と」
無事ダニエルさんの所の手伝いも終わったので、D級の依頼にも手を出すべく今朝も掲示板の前に来ている。
『農作業の手伝い』『家畜の世話』『害獣駆除』『薬草採集』
D級の依頼内容はざっとこんな感じだ。
町の中と違って人々の仕事が農業や酪農系に偏っているからだろうか、『農作業の手伝い』だけで何件もある。全体の依頼の数そのものは大して変わらないものの、依頼名のバリエーションに関してはあまり多くはなさそうだ。
見た感じE級との大きな違いは魔物と遭遇する可能性があるところだろう。とはいえまだ討伐を主目的としている依頼が存在していないあたり、魔物との戦闘を極力させないように配慮しているのが伝わってくる。
(今日のところはのんびり出来そうな『薬草採集』にしておこうかな~)
いつも通り依頼書を手にカウンターまで足を運ぶ。
「おはよう、モカさん。今日はこれね」
「おはようございま~す! 『薬草採集』ですね! 南門近くのレイチェルさんの工房で話を聞いてきてくださいね。はい、そこまでの地図とサイン用紙」
「ん、ありがと。最近は特にコメントはないのね」
「へっ?」
私の何気ない感想がモカさん的には意外だったようで、きょとんとしてしまった。
「あぁ……最初こそ心配してたんですけど、これまでの実績を見たり評判を耳にしていると、もうその必要もないかなって……」
「評判?」
「高い屋根の上にも一瞬で登るだとか、大きな荷物を軽々と運ぶだとか、酒場で男の人相手に腕相撲して負けなしだとか……とにかく色々ですね」
「あ~、なるほど……」
初日のゴリラたちのいざこざに加えてこんな話が流れてくれば、そりゃもう大丈夫だと判断されてもおかしくはなかった。
「今ではお嬢と呼ばれ慕われていて、男たちを従えて裏社会への進出を目論んでいるとか……」
「コラコラ……」
誰だそんなこと言った奴は。さすが噂、本人の与り知らないところで訳のわからないものまで流れそうだ。注意しておかないと……。
「そんな訳なのでもう新人さんだからと心配はしてません! 思う存分頑張ってきてくださいね!」
「わかった。じゃあ薬草根こそぎ採って来るわね!」
「あぁぁ……! ほどほどでお願いします!」
ちょっとした冗談でも面白い反応を返してくれるのでつい揶揄ってしまう。モカさんが親しみやす過ぎるのが悪いのだ。
そうしておろおろしているモカさんに手を振りながらギルドを後にした。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
依頼主の工房は南門から少し東に入った所にあった。
中に入ると色とりどりの薬品の入った薬瓶が沢山並んでおり、カウンターの奥には大量の資料や、秤、鍋、すり鉢、フラスコといった調合に使う道具が置かれたテーブルが見える。部屋の匂いも若干の青臭さにケミカルな匂いが混じっている感じだ。
(薬草を取り扱う工房だから薬屋さんってことでいいのかな? この世界では珍しいね)
屋敷の頃に風邪を引いた時に出てきたのは錠剤ではなく何かをすり潰した粉末だったり、煎じたものだったりと、とにかく苦くて不味くて、それでいて効き目があるのかイマイチわからないようなものばかりだった。
私のお婆様も早くに病気で亡くなったと聞いているし、この世界だと魔法で怪我が治せてしまうせいで内科だとかお薬だとかそっち方面はあまり発展していない。
以前川の水を飲んでお腹を壊したように細菌とかそういうものには『抵抗』の魔法は効かないみたいなので、私も変な病気にならないよう日頃から気を付けないといけない。
「ごめんくださーい!」
「……はいはーい」
工房の更に奥からフラフラと出てきたのは白衣を着て、眼鏡をかけた三十代くらいの女性だ。その緑色のボサボサの長い髪は後ろで適当に一つに纏められている。
「ギルドの依頼を受けてきたんだけど……レイチェルさんの工房であってる?」
「あ~助かるわ~。材料がなくなりそうでね、このままだと研究ほっぽって自分で採りにいかないといけなくてさ~」
否定もしないので恐らくレイチェルであろうその人物はごそごそとテーブルの下を漁り、取り出した大きな背負い籠をドンとカウンターに乱暴に置いた。
適当に置きすぎて倒れそうになったのを私が慌てて支える。
「薬草って何をどのくらい採ってくればいいの?」
「アルマナの葉を採れるだけ採ってきて~。採った分は全部買い取るから! 生命力が凄くて、すぐ生えてくるから何も遠慮はしなくていいよ。見分け方とかの説明は要る?」
「アルマナの葉なら知ってるから大丈夫よ」
この世界の植生は前世と同じでありながら少しだけオリジナルっぽい物があった。何故それがこの世界固有だと断言出来るのかというと、それが魔力を含んでいる植物だからだ。今回採集するものはその内の一つ。
「いいね、話が早くて助かる~! じゃ、行ってらっしゃ~い」
レイチェルはそれだけ言って、またすぐに工房の奥に引っ込んでしまった。
気安い雰囲気ではあるけれど、やっぱり仕事や研究が第一って感じであまり他人に興味がないのだろうというのが今のやり取りだけでも凄く伝わってくる。
「それじゃ行きますか……」
それがちょっぴり寂しく感じられたけれど、世の中には色んな人がいるのだから仕方ない。
私は背負い籠の肩紐を掴んで工房の出口へと向かった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「あ~……なんだか街の外は久しぶりね」
南門を出てすぐ目の前に広がる空と畑を眺めながら大きく伸びをする。門番の人や傍を通る町を出入りする人たちに凄く見られているけれど、それはもう気にしない。
(流石に畑の横には生えてないわよね、ちょっと移動しないとかな)
まっすぐ続いている街道の向こうに木々が見えるので、そのあたりを目指して歩き出す。
南の街道は港に続いているだけあって人通りも多く、視界も開けているので危険はまずないと言っていい。荷物の中には昼食も入っているので気分は完全にピクニックだ。
鼻歌を歌いながら畑ばかりの街道を突き進む。次第に興が乗ってきて鼻歌では飽き足らずに歌い始める。曲は配達の時に一緒になった人たちに教えてもらった労働歌だ。
――そう、これはピクニックではなくれっきとした労働なのだ。
「お嬢ちゃん、随分とご機嫌じゃねえか!」
日焼けした口髭が立派なおじさんに突然後ろから話し掛けられてびっくりする。ちょうど同じ方向へ向かう旅の商人さんに歌を聞かれていたようだ。
「まぁね! こんなに天気が良くて気持ちの良い日なんだから楽しまないと!」
自分で言ってて何だか開き直ってきたので構わず歌い続ける。その様子を見て商人さんもからからと笑っている。
「若けぇのにわかってんな! 辛気臭え面してたら運も逃げちまうってもんだ! どれ、俺も……」
するとおじさんまで私にかぶせて歌い出したではないか。
「なんだお前ら楽しそうだな! 俺も混ぜろよ!」
「歌だけじゃ味気ないだろ! 俺の演奏も聞け!」
そうしているとあれよあれよという間に人が集まってきて、歌に混じったり、楽器を演奏したりとそれぞれが思い思いに楽しみ始めた。ただ歌っていただけなのに、いつの間にか騒がしい集団の出来上がりだ。
この人と人との距離の近さは私は嫌いじゃない。壁を作らずに、みんなで一緒に楽しむことに抵抗がないといえばいいのか、遠慮しがちな日本人にはない気質だ。
一人でいるのが嫌いな訳ではないけれど、面倒事を回避するために極力人と関わらずに過ごしていた前世の私にとって、こうやって一緒に笑って騒げる土壌があることはありがたかった。居心地がいいし、とても自然体でいられる。
まぁ前世では同じように立ち回れなかったのは仕方ない。こうやって積極的に人と関われているのは私のこの力のお陰だからだ。
(飲み会の帰り道でも同じようなこと考えてたっけ……)
自分でもよく分からない力だけど、あって良かったと心から思う。
人に関わりにいく余裕を私に与えてくれたこの力を――。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
音楽と共に歌って踊る騒がしい集団は問題なく街道を進み、ついに私の目的地の林までたどり着いた。
「あっ、私この辺りで薬草探さないとだから! またね~!」
「う~い!」「またな~!」
私が抜けたからといって解散はしないようで、愉快な集団はそのまま街道を進んでいく。
(まさかずっとあの調子で行くのかな……?)
彼らの私にとっては異常なまでのそのノリの良さに思わず笑いが込み上げてくる。
「――さ、仕事仕事っと!」
私は籠をしっかりと背負い直し、口角が上がりっぱなしの頬を両手で軽く叩いて気合を入れ直した。
林の中には予想通り目的の薬草がモッサリと生えていて、これ以上探し回る必要がなくて採集はとても捗った。
しばらく夢中で作業しつつ、ふと集中が切れたところで籠を覗き込んでこれまでの成果を確認する。
「六割くらいか……結構いいペースなんじゃない?」
ふと上を見上げれば木々の間から太陽が高い位置に見える。いつの間にかお昼になっていたようだ、そろそろ休憩にしても良いだろう。
どうせなら景色の良い所にしようと斜面になっている林を上っていく。
木々が途切れた先、開けた丘の頂上付近に出ると、ちょうど北側に一面の畑と遠目に町が見える絶景が広がっていた。
「おぉ~いい眺め!」
ただ周囲の草が伸び放題だったので、それらから顔を覗かせている大岩の上へと飛び移る。岩の表面が日に焼かれて少し熱いけれど、今から草刈をするのも面倒なので我慢して座り込んだ。
「ん~気持ちいい風!」
周囲の背の高い草が風に揺れ、波のような音を奏でている。眼下に広がる畑に植えられている作物の葉もそれに合わせて揺れている。
『洗い流し』
前に伸ばした両手が洗浄の魔法の水に包まれ、ほんの数秒で汚れと共に綺麗さっぱり消えてなくなってしまう。
(ほんと便利な魔法よねコレ。考えた人天才だわ……)
教えてくれたお師匠様いわく、何でも騎士が遠征する際の衛生面の問題を解消するために考案されたものなのだとか。遠征どころか日常シーンでも物凄く使い勝手が良いので私も使い倒している。
早速荷物を漁って出発前に売店で買っておいたホットドッグを包みから取り出して頬張った。腸詰にトマトソースの酸味やマスタードの辛味が絶妙にマッチしていて、そこに炒められたキャベツやタマネギ、そしてパンの甘みが合わさってシンプルながらにとても複雑なハーモニーを奏でている。
「ん~美味しい! このマスタードが良いのよね~」
ぼんやりと景色を眺めながら、お昼ご飯をゆっくりと味わう。
雲が青空をゆっくりと動いてゆくなか、耳に入って来るのは風に吹かれる草木のさざ波のような音と小鳥の鳴き声だけだ。
「はぁ……街での生活も良いけど、こういうのんびりしたのも良いなぁ……。自然の中でスローライフな生活っていうのもアリかも」
あの樹海の中で五年も過ごしてきたのだ、ぶっちゃけどんな場所でも暮らしていける自信はある。
「――まぁそれはいつでも出来るし今はいいか。少なくともアイツを倒すまではハンターでいないとだし」
食べ終えて岩の上に仰向けに寝転がってみる。とても気持ちが良いけれど、ほんの十秒ほどでやめてすぐに立ち上がった。
「ちょっと天気が良すぎるかも……日焼けしそう。ちゃっちゃと終わらせちゃうか」
岩から飛び降り、背負い籠を回収して坂を下りていく。
日光を遮るものが一切なかった先程の場所とは違い、林の中は木々の間から程良く光が差し込んでいて明るく、風が吹き抜けているのでとても過ごしやすい。
「次はあっちの方で集めようかな。――うん?」
すると突然前方の茂みからガサガサと音がした。
何かと思い身構えていると、茶色い物体が飛び出してきて猛然と私に向かって突進してきた。それは二本の大きな牙を生やした大型犬くらいのサイズの猪の魔物だった。
(グレートファングボアか、なーんだ……)
私がその姿を認めた瞬間、ソレは突進のポーズのまま動かなくなる。
地面から伸びる二本の鋭利な針状の岩に、その心臓と脳を同時に貫かれたからだ。
その棘は『刺し貫く棘』という私が最も基本的な攻撃魔法という位置づけで考えだした魔法のもの。
ホルガー先生が使っていたポピュラーな魔法である『火球』は燃え移ると後始末が面倒になる場合があるし、ゲームなんかでよく見る風の刃的な魔法はどうやったら風で対象を切り裂けるのか結局イメージが出来なかったので、最終的にこういう形の魔法になった。
位置やタイミングをしっかり計る必要があるし、周囲にちゃんとした地面や石畳が必要であるという制限もあるけれど、直接魔力を流して操作するだけの簡単な魔法だ。
足から魔力を流してしまえば予備動作なしで視界の外から攻撃出来るため、非常に奇襲性が高く避けられにくい魔法になっている。
私は動かなくなった猪の身体を剣で割き、魔石を取り出す。取り出してしまえばもうこの魔物に用はない。
「魔物じゃなくて普通の猪だったら晩御飯になったのにねぇ……」
この世界には創造神とされている女神アルメリアを信仰する、『アルメリア教』という一神教のみが存在している。それはざっくり言うと『魔物は敵、人間は人間同士仲良くね』といった内容である。
その教義では人類の敵である魔物の肉を食すと肉体が汚されると言われており、魔物を食べることは禁忌とされている。実際のところはどうなのか知らないけれど、野生動物もそれを本能的に知っているのか、魔物の肉は一切食べないので割と説得力がある。
死体は放っておけば跡形もなく消えていく。急ぎで処理するなら燃やしてしまってもいい。
素材を剥ぎ取った場合はそれにも定期的に魔力を流さないと同様に消えていくらしい。なので維持出来ない平民にはあまり縁がなく、素材は貴族に卸す商人にさっさと売りつける物という認識のようだ。まぁこのグレートファングボアの場合は魔石以外の素材は二束三文にしかならないけど。
魔石や素材を何かに利用すること自体は禁止されていないが、特に毛皮や鱗などを衣服に大量に使用して身に纏うのは暗黙の了解として避けられている。装飾品として少量に留めておく程度なら特に何も言われないようだ。
私自身は特別敬虔な教徒でもなく、日々の礼拝や巡礼といったものは一切しない。それでも一応食前のお祈りなどは両親から教わってきているので、せめて禁忌とされていることくらいはしないようにしている。
思わぬ邪魔が入ったけれど、それ以降は平和そのもので大体三時前くらいには籠いっぱいのアルマナの葉が集まった。
このまま帰っても少し早かったのでしばらく周囲を探索していると、今度は魔物ではない野ウサギを見つけた。酒場に持ち込んで何かしらの夕飯になってもらうとしよう。
籠が重くて邪魔なので街に戻ってきた私はすぐさま工房へと向かった。
相変わらず奥に引っ込んでいたレイチェルさんを呼んで籠を手渡すと、よろけながら大きな秤に乗った籠にザァァと中身を入れ替え始めた。
(あ、そっか。枚数じゃなくて重さで計算するのね。でも随分適当な気もするけど、それでいいのかしら……)
「そのアルマナの葉って何に使うの?」
「これ? これはポーションの材料だよ」
「ポーションって名前は知ってるけど、どんな物かはよく知らないや」
ゲームなら回復アイテムだけど、この世界ではどういう扱いだろうか。
「ハンターなのに知らないの? 傷にぶっかければゆっくりだけど治っていく優れものだよ。まぁ作るのに手間も時間も費用も掛かるからお値段はかなりするけどね。でも命の値段だと思えば安いもんでしょ」
「そうなんだ。私、傷は魔法で治せるからさ」
「あちゃ~! 治癒の魔法が使えるんじゃレオナちゃんはお得意様にはなってくれないか~……」
魔力を含む植物を扱うだけあってレイチェルさんも魔法の知識があるようだ。そしてお師匠様からも教わっていなかった理由が良くわかった。魔力の残量を一切気にせず治癒の魔法を連発出来る私には全く必要のない代物だったからだ。
「何かごめん……」
「いいのいいの! その分こういう仕事でこきつ……役に立ってもらうから!」
ところどころ休憩を挟みつつ、ようやく全ての中身を移し終えたレイチェルさんは満足げな顔で頷いている。私が籠を持った方がもっと早く終わったんじゃないだろうか。
「――うん、見たところ採ってくるものを間違えてたり枝や小石も混じってないから大丈夫そうだね。丁寧な仕事してくれる人は好きよ~」
「ど、どうも……」
「じゃあこれサインね。ミスもなくきっちり採ってきてくれた分の代金、報酬に上乗せするように書いておいたから。君みたいな子なら大歓迎だからまたよろしくね! え~と……」
「……レオナ」
「レオナちゃんね、覚えた! じゃ、お疲れ様~」
今度は手を振りながら、もう片方の手で籠を引きずって奥に引っ込んでいった。毎回吸い込まれるように入っていくものだから、工房の奥がどうなっているのか少し気になってしまう。
私以外だれも居なくなった店を見回すと、薬瓶の下に値札がついている棚を見つけた。どうやら取り扱っている商品のディスプレイのようだ。
(うげっ……たっか……!)
そこには私の宿代数年分にもなる値段が付けられていた。
(命の値段として考えればまぁ妥当なんだろうけど……これじゃ一番欲しいであろう人たちも簡単には手が出せないだろうなぁ……)
思わぬ所でハンターの厳しい現実を見せられてしまった。パーティ云々の話でモカさんが怒っていたのも無理はない。
怪我をしたらすぐには治らない。私もお師匠様も治癒の魔法で傷を癒していたので感覚が麻痺していたけれど、平民からしてみればそれが普通だ。
日々魔物と戦い続けるハンターは一般人レベルだと本当に大変な職業なのだと改めて思い知らされた気分だった。
その後酒場に処理したウサギ肉を持ち込んだら、オーブン焼きとして出てきたのでワインと一緒にありがたくいただいた。
やっぱり魔物なんかより動物の方が好きだ、美味しいし。




