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151.自由を求めて

 ティルテだけでは運動にならなかったのでその後も戦う相手を探すも、相変わらず名乗り出る者が出てくる気配はない。これだけ本人が希望しているのだから、変に畏れ多いみたいなことを言わずに相手してくれたっていいじゃないか。


 何も上手くいかないことにイライラが募ってきた私は禁じ手を使うことにした。


「魔力なしで私に勝てた者は使徒の護衛として重用しようではないか! 我こそはという者はいないのか!?」


 ――そう、自ら使徒という立場を利用したのだ。


 そんなに崇めたいなら崇めさせてやる。私を私として見る気のない相手に期待するのは止めだ。


「では俺が!」「私こそが!」「こいつらよりも俺の方が強い!」


 皮肉なことに効果は絶大で続々と名乗りを上げる騎士たち。嘘を吐くつもりはないけれど、重用してあげる気もない私はそれを次々と叩き潰していく――。


 大国とはいえティルテの件でわかるように出世に強さはあまり重視されていないらしく、そんな環境では己を磨くモチベーションも特別高くは保てないのだろう、魔物相手であれば充分ではあるものの、やはり飛び抜けて強い相手は出てこない。


 ローザリアは小国ながらも騎士の技量に関しては目を見張るものがあるのだなと実感させられる。まぁアンドリュー陛下は各国の王の中ではだいぶ脳筋寄りらしいし……。


 いつもなら相手の動きの悪さを説教するところだけれど、してやる義理もない。


 挑んでくる相手がいなくなり、更に崇めてくるようになった騎士たち。そんな彼らの視線に気付かない振りをして私は部屋に戻った。気分は晴れてはいないけど、ひとまず身体を動かした実感は得られたのだから良しとする。




 その日の晩、夕食や入浴も済ませて後は寝るだけとなったのだけど、また明日から楽しくない日常が戻ってくるのかと憂鬱になってしまう。


(騎士団に顔を出しても結局気晴らしにはならなかったもんなぁ……)


 このままでは抑圧されるストレスで病んでしまいそうだ、何か手を打たないと……。


 一番手軽な発散方法はおしゃべりだろうか。でも一番身近なミラさんですらキャッチボールにならず、私の質問攻めみたいな形になってしまう。少し突っ込んだ質問も「使徒様にお聞かせするようなものでは御座いません」といって教えてもらえない。やはり女神の使徒という立場が邪魔をしてくる。


 ならもう私を女神の使徒だと認識していない相手と話すしかない。でも王宮の人間はもちろん、王都の平民たちにも面が割れている可能性が高い。元々フィデリオ港で一切隠していなかったというのもあるし、レベッカが「他人の記憶に残りすぎです」と呆れていたので、もしバレてしまえば大騒ぎになるだろう。ていうかそもそも大人しく外を出歩かせてくれるとも思えない。


(……そうだ!)


 それなら見た目を変えて、こっそり出歩いてしまえば良いのではないか。金髪も赤い瞳も、なんなら性別すらも変えてしまえば私だと気付かれることはないのでは。


 生憎手元にはクリスが使っていたような変装の魔道具はないけれど、あの日の晩に仕組みは教えてもらっているので私なら強引に再現できないだろうか。


(確か身体の周りに膜を作ってそこになりたい姿を投影させるのよね……)


 魔力を身体に貼りつけてイメージを固めていく――が、この場では自分の姿が確認出来ないと気付いて慌てて化粧台の前に移動する。


「ぶっ……!」


 そして鏡越しに自分を見て噴き出してしまう。


 そこにはどこかの誰かさんと瓜二つの姿が映っていたのだ。髪も瞳の色も違う男性というだけで無意識のうちに彼の姿を思い浮かべてしまっていた。


 その事実だけで可笑しいのに、服装に関して何も考えていなかったせいで女性用の寝間着のままになってしまっているのだから余計に面白い。


「んふふふふ……でもクリスの姿でうろつくのも良くないわよね。誰を参考にさせてもらおうかな~」


 まだ実際に何も行動に移せていないのに、既にとても楽しんでいる自分がいる。やっぱり王宮で大人しくしているのは性に合っていないのだというのが良くわかる。


 色々と準備が足りていないので結局変装する姿を考えるだけで終わってしまったけれど、これからの生活が少しだけでも楽しくなれそうな予感に満たされ、この日は気持ちよく眠りにつくことが出来た。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




「よーし、こんなものね!」


 あれから使用人の一人にミラさんには内緒で男物の平民の服と外套を調達してもらい、皆が寝静まった中でようやく納得のいく形にまで作り上げた。


 目の前の鏡にはすらりとした茶髪の男性が佇んでいる。


「さすがお父様ね! 若い頃もカッコいいわ!」


 一応元の金髪はこの国では目立ってしまうので茶髪にしておいたけれど、我ながら惚れ惚れする出来だ。お父様の凛々しさ、優しさ、包容力がこれでもかと表現出来ている。……親馬鹿ならぬ娘馬鹿だろうか。


 今回の男装の基準に選んだお父様に関しては、実家の屋敷にあったお爺様がまだ生きておられた若い頃の写真を参考にした。


 身近な騎士たちでは迷惑が掛かりそうだし、もともと私はお母様似で目元ぐらいしかお父様とは似ていなかったので丁度良かったのだ。あと純粋にお父様の見た目になれるってなんだか嬉しいし。


「よーし、じゃあ早速街に繰り出して――おっとっと!」


 テンションも最高潮に達し意気込みんだまでは良かったものの、勢いよく動いたせいでイメージした姿が崩れてしまった。これまでただ立っていただけだったので気付かなかったけれど、自身の動きに同調させるには思っていた以上に細かくイメージし続けなければならないようだ。


 改めて腕を振り回してみれば、明らかに投影されたイメージが遅れて動いている。しかも脇などこれまで見えていなかった部分がぼやけて雑になっているのにも気付いてしまった。


「この辺りを補助してくれる魔道具のありがたみを痛感するわね……」


 しかし変装の魔道具が欲しいなんて要求をしてしまうと怪しいにも程がある。現物を入手するのはどう考えても無理なので、私は魔道具なしでこれを乗り越えなければならない。


 飛翔の魔法の時と同じように手探りで、間違いなくあの時以上に苦労することになるだろう。しかし決して不可能ではないはずだ。


 私は私でいられるための努力は惜しまない。惜しみたくない。


「絶対外を出歩けるようになってやるんだから! 待ってなさいよ~!」


 こうして静かな夜の孤独な魔法の修行が始まった――。




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