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147.本性

 パーティを終えた私たちはそれぞれ王宮の部屋に案内されて休むことになった。私はやはりその中でも最も上等そうな部屋に通されたわけだけれど、元々王宮の成金趣味に良い印象を持っていなかったのもあって豪華過ぎてまったく寛げる気がしない。


 そして部屋も気になるけれど、もっと気になるのが一緒に着いてきたミラさん。少し離れた場所で何故か使用人から色々と説明を受けている。


 彼女も私の不思議そうな視線に気付いたようで、こちらを振り向いてはにかんだ。


「アルメリア教の巫女として使徒様の身の回りのお世話するようミゲル陛下からご指示がありまして。ただ教会の仕事ならともかく、こちらに関しては経験がないのでこうして教わっているところなのです」


 階級までは知らないけれど、アムリアという家名がある以上彼女も貴族のはず。お世話をされる側なのに突然世話役を任されるなんて大変だ。別に私は自分のことは全部自分で出来るからお世話されなきゃ困るなんてこともないのに……。


 一生懸命教わっているミラさんの姿が、今もローザリアでマチルダの指導を受けているであろうフェリシアの姿と重なる。彼女は元気にしているだろうか……当初の休暇どころではなくなってしまったことを申し訳なく思う。


 視線を戻してソファーの背もたれに体重を預ける。


(それにしてもプロポーズ勝負ねぇ……)


 何やら向こうにも事情がありそうな雰囲気ではあったけれど、ミゲル陛下がどれほど優秀であったとしてもハッキリいって勝負にならないと思う。それだけクリスが私のことを愛して理解しようとしてくれているし、私もそんな彼のことを愛しているのだから。


 現時点でミゲル陛下には特別魅力を感じてもいないし、いくら大国でお金があったところで私にはどうでもいい。こんな状態から巻き返すなんて不可能に近いだろう。


 戦争を回避するためとはいえ、こんなところで結婚も出来ないまま一年を無駄に過ごさないといけないのか……。


(……うん?)


 そのままなんとなく正面に飾られているミゲル陛下の肖像画を見上げたところ、何ともいえない違和感を覚えた。私はさっきまで眺めていたミラさんたちに視線を戻す……がその様子に特に変わったところはない。


(視線……? それにこの魔力の反応……)


 もちろん照明などの室内の魔道具が日常的に稼働しているので、そこから微弱な魔力を感じるのは普通のことではある。しかしそれでも目の前の肖像画から魔力を感じるのはおかしいと思う。


 試しに小さな『全てを見透かす波紋(クレアボヤンス)』を発動してみる。


 ――やはり肖像画の目の部分の後ろに何かがある。


(うーわ……これってつまりそういうことよねぇ……)


 どうやら魔道具を使ってこちらの様子を盗み見ているようだ。もしかしたらそれでもまだマシな方で、映像や写真で保存されて何か脅しの材料になったりする可能性だってある。ローザリアにそんな技術はないはずだけれど、それをそのままこの国に当てはめるのは危険だ。


 私は再度『全てを見透かす波紋(クレアボヤンス)』を発動する。それも今度は王宮を覆い尽くすほどの規模でだ。この部屋だけでなくクリスや騎士のみんな、特にレベッカとミーティアの部屋にもあったら嫌だから。


「ひゃあっ!? 今のは一体……」


 当然ミラさんが私の魔力に触れて声を上げている。


「気にしなくていいですよ」


 ただそれをわざわざ教える気はない。仮に彼女がこのことを一切知らないにしても内容的に教えられたところで気分が悪いだろう。


(どの部屋にもあるし、なんなら脱衣所の中にもあるじゃない! 悪趣味すぎる!)


 ……そう、本当に気分が悪い。


 一体なんだのだこれは。王宮に設置されていてミゲル陛下が知らないはずがないだろうし彼は変態か何かだろうか。恐ろしい勢いで好感度がマイナスに突入していく。


『バキン!』


 私はそれらの魔道具全てを足元から魔力を流して遠隔で『刺し貫く棘』(ピアッシングニードル)を発動して破壊してやる。一つたりとも残してやるものか。もしこれが私の想像と違っていたとしても知らぬ存ぜぬを貫いてやればいい。


「あら、何の音かしら……?」

「脱衣所の方からも聞こえましたね」


 反応を見る限り二人は変態魔道具の存在を知らないようで、そんな会話と共に物言いたげな視線をこちらに向けてくる。


 そりゃ誰から見ても怪しいだろうけれど、私はそれを何もなかったかのようにスルーしていく。


(これからは色々警戒しないといけなさそうね……夜這いとか……はぁ……)


 初日でこれは酷い……。碌でもない一年にしかならなさそうで、もはや溜め息しか出なかった。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




『……コンコン』


 皆が寝静まった深夜、私は小さなノックの音で目が醒めた。……まぁ実際のところは夜這いを警戒していたせいで熟睡には程遠かったというだけなのだけど。


 しかし扉の外からミラさんや衛兵が伺いを立ててくることもなく、ただノックが繰り返されている。


「誰……?」


「こんな時間に悪いが、少し話がある」


 不審に思いつつも私が問いかけるとちゃんと返事が来た。しかもその声は……。


(クリス……?)


 私がドアを開けるとそこには見慣れた顔が。ここには衛兵がいたはずなのにと辺りを見回すと、横の壁に座り込んでいた。


「眠ってもらっただけだ。安心してくれ」


「そ、そう……」


 私が何を考えていたのかを読んだらしくそう説明してくれるけれど、そう簡単に人を殺すなんて思ってないよ流石に……。


「えぇと、とりあえず中に?」


「いや……流石にミゲルが怒りそうだから場所を変えよう」


 そう言われて庭園の見えるテラスまで連れてこられた。豪華過ぎる気がする庭園も月明りに照らされれば少しは落ち着いた雰囲気になるもので、唯一聞こえてくる梟の鳴き声がそれを更に引き立たせている。


 過去に来たことがあるらしいとはいえ、こんなに広い王宮を迷わず進めるのは凄い。ただここまで来る間に人に出会わなかったのが不思議な感じだった。


 テラスの縁に手を掛けたクリスが月を背にして振り返る。


「さて、落ち着いて聞いてもらいたいのだが……」


 そんなに言いづらいことなのだろうか、何やら歯切れが悪い。


「その……卿はミゲルを選んだ方が良いのではないだろうか……」


 そうしてようやく出てきた言葉は――――私の思いも寄らないものだった。




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