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146.最大のライバル

 結局女神とは十分程度しか話をせずに切り上げた。感覚が違いすぎて話が噛み合わないのは苦痛だ。


 気付くとあの空間から遺跡の石扉の前に戻ってきていて、クリスや騎士のみんな、ミゲル陛下やミラさんなど一緒に来ていた人たちが焦った様子で次々と集まってくる。


「大丈夫か!?」


「えぇ、問題ありません。女神と会って話をしてきただけですから」


『おおおぉ……!』


 焦った様子のクリスを安心させようと返事をしたものの、彼よりも周囲の反応の方が大きく、やはりまた祈りを捧げ始めている。


 そこにクリスを押しのけるようにミゲル陛下が詰め寄ってきた。


「それで女神からはどのようなお言葉を頂戴したのだ!?」


「別にありがたくもなんともない話ですが……」


 麗緒奈の記憶云々は置いておいて、このままだと再来年の冬に魔物に人類が滅ぼされることと、私がそれを防ぐ使命を負わされていること、そのために女神の下で一年の修行が必要であることを伝える。


 ついでにあの女神のろくでなしっぷりを披露してやろうかとも考えたけれど、深すぎるほどに信仰している人たちを幻滅させるのも何だか可哀想なのでやめることにした。




「なるほど……魔物とは他の神からの刺客だったのか。だがやはり女神は我々を見捨てなどしないのだとわかって安心した。其方を遣わせたもうた女神に更なる感謝を捧げなければ」


 一通り説明を受けたミゲル陛下もそう言いながらこの場にいない女神に祈り始めている。……まぁアレに祈りたければ勝手にすればいい。私はしないけど。


「――さて、使徒殿の到着からこれまで慌ただしく動いていたがこれでようやくひと段落した。王宮へ戻るとしよう。魔人からポルサトールを救ってくれたことへの礼と歓迎の宴を開かねばな」


 満足げなミゲル陛下はミラさんにも下山するように指示を出し、彼女と共に王宮に戻ることになった。


 正直宴なんかどうでも良いから早くローザリアに帰りたいのだけれど、面子にも関わるものだろうし無下には出来なさそうだ。まったくもって面倒くさい……。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 そしてパーティが開かれると、私はこの国の貴族からの挨拶とお祈り攻めに遭うことになった。


 急遽開かれたパーティのはずなのに、どんどん周辺地域から人が集まってきているようだ。始まってからも絶えず新たな参加者が現れては私の元へとやってくる。みんなの態度にも大した差はなく、拝まれたところでぶっちゃけ誰が誰かなんて全然覚えられる気がしない。仏像か何かになった気分だ。


「静まれ! これからミゲル陛下より重大な発表がある!」


 そんな人に囲まれ続けてげんなりしているところに、ミゲル陛下の側近の青い髪の男性の大きな声が響き渡った。フレーゼ騎士団の第一騎士団の団長で、自国で言うところのイボルグ殿のポジションである。


 衆人環視の中、ミゲル陛下が玉座から立ち上がってゆっくりとこちらへと歩いてくる。


「我、ミゲル・ヘリオラヴィナ・フレーゼは女神の使徒であるレオナ・クローヴェルに結婚を申し込む。この国の女王の座は其方にこそ相応しい。産まれこそ違えどこの国で反対する者などいるまい」

『おぉぉ……!』


 ミゲル陛下の宣言に大きな拍手が巻き起こる。彼の言うとおり、誰も異を唱える者はいない。


 ――あくまでこの国の人間では、だけど。


「……お断りします。私はローザリアに帰りますので」

「向こうでプロポーズをやり直さなければならないのでな」


 私は当然のこと、さりげなく隣にやってきていたクリスも毅然とした態度で陛下に告げる。


「つまり婚約はまだだということだろう、何も問題ないではないか」


 しかしミゲル陛下も動じない。


 沈黙の中、両者の睨み合いが続く――。


 お互い表情は冷静であっても両者の間には激しいまでの敵対心や対抗心が、まるで実際にバチバチと音を立てているかのように火花を散らしていた。


 十秒ほど経過しただろうか、突然ミゲル陛下が大きく息を吐いた。


「……ならば仕方あるまい、これはもう戦争しかないな」


 その単語が飛び出した途端、冷えていた空気が更にもう一段階張り詰める。


「――正気か?」


 クリスのその表情が一気に険しいものへと変わった。


 私を諦める気はないという意志、ローザリアの王族として誤った選択を取れないという重圧、そして敵意を向けてきているのが友人と称した相手であることの葛藤――おそらく彼の中では様々な感情が渦を巻いていることだろう。


「正気だとも、そして本気であればあるほど意味がある。……言っただろう? 彼女を迎え入れることに反対する者などいないと。我々はとうにその覚悟が出来ている」


 そんなクリスに追い打ちをかけるようにミゲル陛下は態度を崩さない。しかし周囲の騎士も身構えてはいるが襲ってくる気配もない。


 ――それは何故か。


 簡単な話だ、私がいるからに決まっている。たとえこちらが六人しかいなくても、抵抗されれば被害は免れられないと理解しているのだろう。


 ミゲル陛下が発した『本気であればあるほど意味がある』という言葉は、私が『虚杯』の民を助けるような人間であることを知ったうえで『本当に私に殺させるのか?』という脅しであるようにも思えた。


「……それで、引き出したい条件は?」


 ならばその裏には貴族らしい取引があるはず。戦争というのは最終手段であって本来はそこに至るまでの部分が重要なのだから。


 それに相変わらず状況的に有利なのはこちらの方。向こうが欲しがっている私自身が嫌がっていること、武力では圧勝であることを踏まえて、弱腰にならずに戦争以外で黙らせる道を探していくべきだ。


 ミゲル陛下は私の問いかけに困ったようにフッと笑っている。


「まったく……大国であるフレーゼにおいてこんなにも立場の弱い取引など産まれて初めてだよ……。こちらはプロポーズで勝負をする機会を要求したい。より相応しい言葉を贈れた方の勝ち――元々ローザリアで其方が周囲に言って回っていた内容そのままのはずだ」


 やはりそれだけ立場的に苦しいのだろう、思っていた以上に素直な要求が飛んできた。


「期日は其方が役目を果たして世界を救った日。そして女神の元での修行に入るまでの日をフレーゼで過ごしてもらうこと。……あまりにも関わってきた日数的にこちらが不利なのでな」


 提示された条件も特別おかしなところはない。


「……いいだろう、彼女に殺戮をさせるよりもずっと良い。条件を聞いたところで負ける気など一切しないからな」


 クリスも問題はないと判断したようだ。私の反応をちらりと見てからそのように言い放った。


「それでもやらなければならないことがある。……其方にならわかるだろう?」


「俺は俺で必死なのだ、わかりたくもない」


 そうそっけなく返すクリスだけれど、その表情は嫌というほどにわかっていると言わんばかりのものだった。




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