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145.女神アルメリア

 ようやく目が慣れて視界に飛び込んできたのは一面の青空と雲。足元だけはあの遺跡を思わせる石の床で、見た感じ浮いているようだった。とても非現実的な光景なのでただの幻かもしれない。


「こっちだってば!」


 私がキョロキョロしていたので痺れをきらしたのか、声を荒げる女神。


 ――そう、目の前には見た目が十歳くらいで白いワンピースを着た金髪に金の瞳の少女が宙を漂っているのだ。ちんちくりんという言葉が似合っていて、とても崇められるような出で立ちではない。各地の女神像の方がよほど威厳があるではないか。


「あー! 今他人(ひと)を見てくれで判断したでしょ! そっちはいっつも内面を見ろって言ってるくせに!」


 しかもとても喧しい。頬を膨らませて子供のように怒っている。


「貴女が女神アルメリアなの?」


「そうよ! 他に誰がいるっていうのよ」


 小間使いか何かで、女神は別にいるんじゃないのかとか言ったらまた吠えそうだ。


「……まぁ良いわ、ひとまず期限には間に合いそうだし大目に見てあげる」


「期限って?」


「ん―……一言でいうなら世界が終る日?」


「えぇ!?」


 軽い口調でとんでもないことを言い出す彼女。ただ「間に合いそう」という言葉からして回避は出来るということで良いのだろうか。


「そのために私をここに呼び寄せたってこと? ていうかそもそも何でそんなことになるのよ……」


「それには深ぁ~~~い訳があってぇ……」


 女神は空中でしゃがみ込むように膝を折り曲げ、両手で自身の顎を支えるポーズで溜め息を吐いた。


「私はもともと世界の運営は管轄外だったんだけど、麗緒奈ちゃんの世界とか見てて凄く楽しそうだなって思ったから、これまでの仕事を放り投げて自分で世界を作ってやったの。創作に出てくるようなファンタジーな世界を目指して色々設定を考えたり、大変なところはコピペで済ませたりしてね~」


「は……?」


 こちらが考えていた以上にとんでもないことを言い出す女神。完全に職務放棄しているらしいが果たして大丈夫なのだろうか。


 しかもコピペには思い当たる節があった。言語や植生が前世とまったく同じなのはおかしいと前々から思っていたけれど、まさか女神の怠慢によるものだったとは……。


「そしたらランデルバースの奴が『お前に飼われる者たちが可哀想だ』とか言って、魔物関係の設定をいじった上でブラックボックス化しちゃったの! 魔物の殺意マシマシにされて戻せなくなっててさぁ……そのせいでもうじき魔物による人類根絶やし祭りが開催されそうなの」


 さっきのだけでも結構な衝撃だというのに、尚も酷い情報が滝のように流れてくる。


 ランデルバースというのはあの魔人が神と呼んでいた名前だ。そいつが嫌がらせで今の魔物のバランスを作り上げたらしい。魔人の退場の際の言葉を考えると他の神からもめちゃくちゃ嫌われているのではないだろうか……。


「だから私はそれに対処するために七歳の時に貴女に力を与えたの」


「なら何で私に麗緒奈の記憶まで一緒に与えたの?」


「私の代わりに世界を救ってもらう訳だから生きる目標があってガッツのある人になって欲しかったの。やっぱりこの世界を大事に想ってくれるようでないとね!」


「……逆に言えばそれだけのために?」


「そうよ?」


 ハッキリと言い切る女神。


(何よそれ……!)


 まるで人の人生をモノのように扱ってくれるではないか。使命を果たさせたいのであれば直接伝えれば良かったじゃないか。


 やり方がイチイチ回りくどくて悪趣味だと言わざるを得ない。


 こちらの心中を察したのか、不満そうに鼻を鳴らす女神。


「貴女は完全な麗緒奈の生まれ変わりではないけれど、記憶が人を形作る以上はレナであり麗緒奈でもあるのよ。私は役目を背負ってもらう代わりに後悔だらけの人生をやり直す機会と力を与えたつもり。実際『いばら姫』って持て囃されて、貴女もそれを利用しているじゃない」


「ぐっ……」


 気に入らないけれど、そんな契約をした覚えはないという点を除けば彼女の言っていることは正しい。力は使うけど役目は果たさないというのは筋が通らない。気に入らないけれど。


「わかったわよ、ちゃんと役目は果たすわ。……それでその世界が終わる日っていうのはいつなの?」


 私が渋々承諾するとまた底抜けに明るくて軽い女神に戻った。それがまたイラッとするけれど我慢するしかない。


「さっすがレオナちゃん、話がわかる~! それでえ~と……再来年の冬になるかな。まだあの魔人にやられそうになっちゃうくらいレオナちゃんは弱いから、その一年くらい前から私の下で修行に励んでもらう予定よ」


(再来年の冬……)


 今は私が二十三になったばかりで秋から冬に移り変わろうとしているところだ。全てが終わる頃には私は二十五になっているということである。


 そして二十五歳というキーワードにも覚えがある……クリスの王位継承の期限だ。それが目前に迫ってきていることを嫌でも自覚させられる。


 とはいえ私が修行に入るまでにまだ一年ある。クリスもプロポーズには自信があるようだし、それまでに終わらせてしまえば良い話だ。何も問題はない。


 ていうかやはり神目線では私は弱いのか……。


「でも今思えば直接使命くらいは伝えておくべきだったわね……。アルメリア教を作ったり、今巫女って言われてる子に話してみたりしたけどここまでたどり着くのに時間掛かっちゃったから。結局フレーゼに来るように軽~く精神誘導までしちゃったし。……あ、ちょっとだけね! ほんの先っちょだけ!」


 ローザリアから離れる際に何故フレーゼを選んだのか自分でもわからないでいたけれど、実際は女神の仕業だったのか。つくづく小賢しい真似を……。


「……ちなみに私が意地でもやらないって言ったらどうするつもりだったの?」


「その時は適当な他の人間に力を与えて無理矢理やらせるしかないかな~。こればっかりは私が直接やっちゃうと大問題になっちゃうんだ。でも急すぎて力を扱う下地もないだろうから、終わったら壊れて死んじゃうだろうね~」


 あっけらかんと話すその様子を見れば、人間と神とでの価値観の差がはっきりと伝わってくる。やはり目の前の相手とは言葉は通じても理解は出来なさそうだ。


「ありがとう。聞かなきゃ良かったわ……」


 私もこの女神は好きになれなさそうだよ、ランデルバース神。


 ――まぁ、間接的に両親を殺した貴方も大嫌いだけどね。




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