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114.グラシアール

 昼食を済ませた者たちが再び仕事に取り掛かり出す頃、私はグラシアールの街へと繰り出した。すぐにイェラ村に向かうことになるのだし、事が済むまでは今くらいしか見て回る時間がなさそうだったからだ。


 ひとりで適当にぶらぶらしようと思ったらレベッカに見つかったので、ミーティアも連れて三人でだ。


「やっぱりどこにいてもレオナ様は注目の的ですね……」

「男性だけじゃなくて女性まで見る目が違うもんね……」


「……騎士団の制服が珍しいんでしょ、きっと」


 そんなことをしみじみと語られても私は反応に困る。


「みんな明らかに私とミーティアじゃなくてレオナ様を見てるのに何言ってるんですか……」

「でもレオナ様のコートとか確かにカッコいいし目を引くよね」


「ん、ミーティアも着てみる?」


 私でも羽織るだけでしっかりとは着ていない、その大きな黒のコートをミーティアに掛けると、背の低い彼女の小さな身体は膝下まですっぽり隠れてしまった。


「うわっ……大きい! しかも結構重いこれ!」

「あははははは! ミーティア全然似合ってないよ!」


「チッ……ガキがうるせぇなぁ……」


 二人が面白がっているところに、横を通りすがった男性グループの内の一人がぼそっと不満をもらした。


 私はその不満に特にケチをつける気もなく、何となく声がした方向にチラリと振り向き――


(んんっ!?)


 ――そして二度見した。


「な、てめぇ……!?」

「あああぁぁぁ!」

「嘘だろオイ……」


 同時に向こうも私に気付いたようで、こちらを指差しながら驚愕している。


「ゴレアンたちじゃない! 何でここに?」


 私がハンターになった初日にぶっ飛ばした三人組がこんなところにいたのだ。ここに着いたばかりの時に馬車の中から見えたのは気のせいではなかったらしい。


「てめぇこそ何でここに……」


「……私? 私は騎士団の任務で来てるのよ。知った顔がいるのはありがたいわ、ちょっと話に付き合いなさい。話すのは――ハンターギルドで良いか、案内しなさいよ」


 私はミーティアからコートを返してもらって、彼らの前でヒラヒラと揺らしてみせる。


「何勝手に決めてんだコラ!」

「こっちにも都合ってもんがあんだよ……」

「俺たちゃ依頼で忙しいんだっての!」


「この時間に街をぶらついてる奴が依頼受けて動いてるわけないでしょうが」


「ぐっ……」


 図星だったようで、言葉に詰まる三人組。そのままこちらに背を向けて何やら相談を始めた。


「くそ……やりづれぇなオイ……」

「何だか知らねぇけど、さっさと終わらせようぜ……」

「ぜってぇ逃げらんねぇんだからそれがいい……」


 まぁ聴力強化で聞こえてるんだけど。


「……話はついた? ほら案内してよ」


 三人は視線を交わし合い、観念したように大きく溜め息を吐いた。


「ったく……わかったよ」




 彼らに案内されてやってきたグラシアールのハンターギルドは、その街の規模もあって支部とは思えないほど大きかった。


『ガランガラン』


 私たちが入ろうとすると、やはりエルグランツのように扉に付けられたベルが大きな音を立てた。


 こちらでも建物に入ってきた人間に、依頼もせずに駄弁っているハンターたちからの視線が集中するのは同じのようだ。


「おいおいゴレアン、お前がそんな美人連れてるとか何事だよ!」

「俺にも紹介しろ!」


「うるせぇ! 俺だって好きで一緒にいるわけじゃねえんだよ!」


 早速遠くのテーブルから冷やかしが飛んでくる。


 ゴレアンたちはそれらに言い返しながら適当なテーブルを探し、私に座るよう手で示した。流石にこの場の六人全員で一つのテーブルを囲うのは無理なので、ゴレアンと私だけが対面で座り、お互いの連れはその両脇に立つ形になる。


「随分仲が良さそうね、いつからこっちに来てるの?」


「……あ? だいたい半年くらい前だな」


「コイツが賭けで盛大にスッちまったもんだから、少しでも稼ぎの良い場所にってんでこっちに来たんだよ」


「てめっ、オラータン! 余計なことまで言うんじゃねえ!」


「どうせ言わなきゃならなくなるんだろうから良いだろ別に……」


 以前私に背中を蹴られた赤茶色の髪の大男はゴレアンに睨まれるが、それに対してやれやれといった感じで返事をしている。


「はぁ……アンタらしいわ……」


 ハンターでなければやっていることは本当にただのチンピラだ。やはりオフの日の彼らの行動なんて碌でもなかった。


 私の反応を見てゴレアンは不快そうに鼻を鳴らしている。


「別に俺らのことを知りたいんじゃねえんだろ? 何が聞きてえんだよ」


「そうね、私が知りたいのはこの領地のこと……と言えばいいのかしら? 魔物の数とか、ここ以外の町や集落の状況といった情報が欲しいの」


「……そういやさっき騎士団の任務とか言ってたな。てめぇらも魔物狩りか」


「そういうこと。――で? どんな感じなの?」


 私の問いかけを受けたゴレアンはテーブルに視線を落とし、眉を顰めながら話し始めた。


「確かにてめぇらが派遣されてくるのも納得できるくらいには多いな。今はまだ季節的に動きやすいだけマシだが、冬場はそりゃもう酷えもんだった。雪が溶けても冬の間に受けた傷やらで今まで通りの生活が送れていない一般人が増えてる。他のハンターの奴らも言ってるが、年々魔物の数が増えてっからこのままだとヤベエんじゃねえかな」


 ただでさえ数が多いのに雪深い中で戦うとなると一般人の負担は相当なものだろう。そんな集落の状況を語るゴレアンの表情はとても思い詰めているように見えた。後ろ二人も浮かない顔をしている。


 私自身は彼らのことはデリカシーもないのであまり好きではない。けれど実は彼らもハンター以外の人間には結構人気があり、慕われていたりする。


 特に地方の住民に対しては面倒見が良いらしく年寄りにも優しいのだとか。私が訪れる前のイルヘンの村にも来ていたようで、村人たちから初めて聞かされた時には私も本気で驚いたものだ。


 ……まぁ純粋に見た目がアレだからあの女の子たちには怖がられてたけど。


 なので腕前に関しては平凡であっても、私は彼らをハンターとしてとても評価している。だから今話していることについても疑ったりはしない。


「ありがとう、状況の悪さが良くわかったわ」


「いいのかよ? そんなに簡単に俺の話を鵜呑みにしちまってよ……」


「何言ってるのよ、個人的な好き嫌いはともかく、ハンターとしては私も認めているつもりよ。信用するに決まってるわ」


 意外だったのか、三人とも目を見開いて固まってしまった。それを見てレベッカとミーティアがくすくすと笑い、はっとした三人が今度は赤くなりながら居心地悪そうにしている。照れてやんの。


「騎士団としてはこれから手分けして各地の町や村を中心に魔物を狩っていく予定よ。だから住民たちの身の安全はとりあえず確保出来るはず。そのぶんギルドでの依頼の数が減ると思うけど、臨時で素材の持ち込み数に応じてギルドから報酬を出すことになっているから、ハンターはハンターでしっかり周囲の魔物を減らして頂戴」


「……わかった。でもよ、てめぇはいつまでもここに残る訳じゃねえんだろ?」

「帰ったらまた元通りになるんじゃねえのか?」


(うっ……)


 結構鋭いところを突いてくるではないか。


 邪魔な貴族を排除し終わってもすぐに騎士が増やせるかというと微妙なところだ。仮に騎士になると言ってくれる者が現れてもまずは鍛えるところから始めないといけない。


「騎士を増やせるよう貴族に呼び掛けて回る予定ではあるけど、すぐに問題解消とはいかないかもしれないわ。落ち着くまでは私も何度か来ることになるかもね……」


「……まぁ、お貴族様はお貴族様で頑張ってくれや。とりあえず住民を見捨てるんじゃなけりゃ文句はねぇよ」


「えぇ、勿論よ。アンタたちも精々怪我しないように頑張りなさい」


「俺たちだってこれでもB級に上がってんだ! んなヘマなんてするかよ!」


「あら、おめでとう」


「ちっ……調子狂うぜ」


 私は素直に祝福したというのに、嫌そうに立ち上がったゴレアンはそのまま依頼の貼りだされた掲示板の方へと歩き出した。


「あ……おい!?」

「ちょ、待てって!」


「もう充分だろ。つえぇんだからさっさと狩って連中救ってこいや。……俺らは俺らで出来ることをやるだけだからよ」


「……そうね、ありがとう」


 あちらがやる気を出しているというのにゆっくりしていられない。


 こちらも立ちあがってギルドから出ていく。


 私たちは騎士、アイツらはハンター、職も居場所も違えど目指すものは何も変わらない。


 そんな当たり前のことが、この時は不思議とそれがとても頼もしく、心地良いものに感じられた。



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