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108.婦人会議

 クリスはやり残したこととやらを終わらせるためにと帰国後すぐに王宮を発った。どれだけ時間が掛かるのかまるで予想がつかないらしく、帰る時期は未定だそうだ。


 でも私はそこまで心配していない。あの人なら必ず終わらせて帰ってくると信じて疑っていないからだ。そして帰ってきた暁には正面から正々堂々とプロポーズしてくれるだろう。


 なのでこちらは引き続き自分に出来ることをして待つだけだ。ということで私の方は生活に特別変化はなく、騎士団で訓練しつつ勉強に精を出していた。




「お茶会ですか……」


「そうよぉ、それも大事なお仕事なの」


 そんなある日、私は王妃様に呼び出され、一緒にお茶会に出席するよう言い渡された。これまでお茶会と呼べるものはブリジットと一緒でしかしてこなかった私にとってそれは中々の鬼門だった。


「大丈夫よぉ! 今回参加するのは国内でも特に上位の貴族のみで、皆賢くてまともな友達ばかりだから貴女を悪く言うような人は一人もいないわ」


 私が浮かない顔をしているからか、王妃様はすぐさまフォローして励ましてくれる。王妃様のお墨付きなのだからそれは信用していいはずだ。何より断ることなんて初めから出来ないのだから是非もない。


「……わかりました。いつ頃になるのでしょうか?」


「一月後の予定よ。衣装の準備もだけど、前回の話題について記録がまとめてあるからそちらにも目を通しておいてね」


 その場は使用人から資料を手渡されたことでお開きになり、自室に戻った私は早速それに目を通してみる。


(うげっ……!)


 資料の内容は各領地の税収や農作物の取れ高、輸出入の額、他国の近況や流行、ハンターギルドへの依頼件数と達成状況、魔物の具体的な被害状況など多岐に渡り、どう見ても会議のようなもので私のイメージしているお茶会なんかより余程真面目なものだった。


 なんでも女性の視点だからこそ見えるものもあるということで、幅広い層の貴族女性の話を日頃のお茶会で取りまとめ、後に国王陛下や各地の領主、宰相殿たちの会議での材料にするのだとか。


(この話題についていけるようにならないといけないのかぁ……)


 少し気が遠くなったけれど、きっとこれくらいは王太子妃になれば当たり前なのだろう。私だって多少は勉強も進んできているのだし、王妃様もそのための訓練だと思って話を持ってきたのだろうから泣き言ばかり言ってはいられない。私に出来ることをやらないと。


 お茶会までの一か月間、私は受け取った資料よりも前の日付の物も貸してもらい、授業の際に講師と一緒に読み解きながら近年の傾向などを学んでいった。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 そして待ちに待った……と言えるほど歓迎はしていないお茶会の日が遂にやってきた。朝から緊張で胃が痛い。


 ここまで緊張したのは初めて陛下に謁見した時と、騎士の誓いを立てた時くらいではないだろうか。どちらも始まってしまえば案外すんなりといったので、案外私は本番に強いタイプなのかもしれない。今回もそうあって欲しいと切実に思う。


 王妃様から早めに来て出迎える側に立った方が気が楽だと助言を頂いたので、予定の時間よりも早くに会場の会議室へとやってきた。ほら、やっぱりお茶会じゃなくて会議じゃないか。


 中では使用人たちが慌ただしく準備をしていた。


「いらっしゃい! 言われた通り早めに来たわね」


「本日はよろしくお願い致します、王妃様」


 使用人に指示を出していた王妃様が私に気付いて嬉しそうに出迎えてくれる。


「講師からも頑張っていると聞いているから期待しているわ。……あぁそれと今日は私的なお茶会ではないけれど、私のことは名前で呼んで頂戴」


「よろしいのですか……?」


「私たちの関係をアピールしておきたいの。貴女のためにもなるはずよ」


「……そういうことでしたら。畏まりました、エレオノーラ様」


 それは恐らく今日の参加者の一人に対するメッセージなのだろうと予想がついた。私のためでもあるし、クリスのためでもあるのだから喜んで呼ばせて頂こう。


 席も身分や年齢からすれば私は一番遠くに座るのが筋なのだけれど、ちゃっかり王妃様の隣になっている。ここまでして下さっている王妃様に恥はかかせられない、しっかりしなければ……。


 一度緩みかけた緊張が新たなプレッシャーによってまた逆戻りしてしまう。そんな私を見て苦笑いを浮かべる王妃様と一緒に時間が来るのを待った。




「御機嫌よう。あら、今回はレオナさんも参加するのね」


「ヴィクトリア様、ご機嫌麗しゅう」


 そして時間の少し前に一人目の参加者がやってきた。ウェスター公爵夫人であるヴィクトリア・グラハム夫人だ。ほぼ毎月会っている、とても見知った顔に私もほっとする。


「こうやって貴女と並んでいるのを見ると、いよいよって感じね」


「そうなの、私も嬉しくてね」


 最も仲の良い友達と仰っているだけあって、すぐに王妃様の意図を理解したらしいヴィクトリア様。気安く笑い合っている二人を見ていつか私とブリジットもこのようなやり取りをすることになるのかとつい想像してしまう。それだけ傍から見ていても優雅で素敵な関係だった。


「ご機嫌麗しゅう、皆さま」


「大変ご無沙汰しております、マルグレーテ様」


 次に入ってきたのはマルグレーテ・ネフラン夫人、代替わりした現在のルデン侯爵夫人でブリジットのお母様でもある。


 ブリジットの結婚披露宴でお会いしていたけれど、あの時は仮面を付けて特務の騎士に扮していたので、こうやって挨拶するのは昔のお披露目パーティ以来になる。


 マルグレーテ様は私の姿を見て驚きに目を見開いて一瞬固まってしまった。


「娘からの手紙で知らされてはいたけれど、いざ会うとシェーラが帰ってきたのかと勘違いしてしまったわ……。今も変わらずあの子と仲良くしてくれてありがとう」


「いえ、こちらもお世話になりっぱなしですので……」


 頬に手を当てて少し恥ずかしげに席に着いたマルグレーテ様は真っすぐに感謝を示してくれる。気恥しくなった私は苦笑いをしながらブリジットのお姑さんにあたるヴィクトリア様に視線をやると、そちらも優しく笑い返してくれた。


「御機嫌よう。……あら、遅かったかしら」


「大丈夫よぉ、ヴァネッサ」


 次に入ってきたのは見た目も雰囲気も貫禄のあるヴァネッサ・カーディル夫人、現騎士団総長の奥様である。これまでの参加者は私からすれば親の世代にあたるけれど、このお方と最後の一人は更にもうひとつ上の世代になる。


 通いで指南役を務めていた頃は全く接点がなかったけれど、騎士の誓いを立てる際に初めてご挨拶して以降は度々お会いしている。総長の奥様だけあって普段から騎士たちを気に掛けていて、みんなの肝っ玉母ちゃん的な存在だ。


「いやだわ、私が最後だなんて……」


 眉間に皺を寄せながら最後に入ってきたのが、リヴェール公爵夫人であるデボラ・バーネット夫人だ。あのフェリシア様の祖母にあたる。初めてお会いするけれど、ヴァネッサ様とは対照的にとても細身で背の高いお方だった。


「お初にお目にかかります、リヴェール公爵夫人。レオナ・クローヴェルと申します。以後お見知りおきを」


 予定にはなかった私の存在にほんの少し驚いたデボラ様はその視線を王妃様に移した。私もそれを目の端で追いかけると王妃様は満面の笑みを浮かべており、それを見たデボラ様はやれやれといった感じで鼻から大きく溜め息を吐いた。


「そう……貴女が……。よろしくお願いするわ」


 王妃様から何かしらのメッセージを受け取ったデボラ様はそれ以上は何も言わずに席に着いた。これでお茶会の参加者六人が全員揃ったことになる。


 大きな長方形のテーブルの短い辺の上座から時計回りに、王妃様、デボラ様、ヴァネッサ様、マルグレーテ様、ヴィクトリア様、そして私。つまり私の正面にデボラ様が座る形になった。


「では始めましょうか」


 王妃様のその一言で一気に空気が引き締まる。顔見知りが多いとはいえ、その誰もが侯爵以上の名のある家を取り仕切るご夫人たち。そのプレッシャーは本物だ。


 そこへ使用人たちが緊張の面持ちで資料を配っていく。それは各自が持参した書類がまとめられたもので、毎年確認する項目については一目でわかるようになっていた。


「全体の税収については若干の減少のようね。……特にバーグマン領の値が落ち込んでいるようだけれど?」


 王妃様がマルグレーテ様へと視線を移す。


「去年の春に上流のパシュミナ湖に出現した大型の魔物によって川に毒のようなものが混ざったようで、気付かずにそれを利用した作物に悪影響が出たとのことです」


 私が退治したドラゴンゾンビ関連の話だろう。被害は最小限に抑えられたといっても流石に影響があったようだ。


「あぁ、そのような事件があったと報告があったわね。来年は問題なさそうかしら?」


 きっと王妃様もそれを忘れていた訳ではなく、他の領地にも周知させるために敢えて説明させたのだと思う。周りは優秀な人ばかりなのだから、私にわかるようなものは誰だってわかっているくらいに思っておかないと恥をかくのはこちらの方だ。


「はい。クローヴェル卿の御尽力によって被害は最小限に抑えられましたので」


 マルグレーテ様はにこやかな視線を向けてくれる。私はそれに頷いて自分に話せる内容で補足していく。


「農家の人間に被害は出てしまいましたが、農地自体は無事ですので大きな影響はないと思われます」


 私の発言に満足げに頷いた王妃様。その後も話は途切れることなく続いていく。


「……とはいえ他の領地でも全体的に減少傾向なのよね」


「去年は異常気象などはありませんでしたから、やはり魔物が原因ではないでしょうか? ルデン騎士団も樹海からの魔物の出現数が年々増加していまして対応に苦慮しております。反対側のベルモント伯爵領は大丈夫なのですか?」


 マルグレーテ様はヴィクトリア様へと問いかける。国の南から北東にかけては、この場ではウェスター公爵領の管轄になるからだ。


「ギルド全体への依頼数の増加を見るにその可能性は高いのだが、特に対応に困っているとの報告は受けていないな……。ディオールの街のギルドも数字を見る限りでは多くもなく例年通りといったところだ」


(あ、それってもしかして……)


「それについては、つい先日クリストファーから連絡があったわ」


「王太子殿下からですか……?」


 ここにいる誰もが、予期していなかった名前の登場に驚いている。もちろん私もだ。ヴィクトリア様も困惑した様子で王妃様に聞き返している。


「えぇ、ベルモント騎士団に樹海の浅い地域の定期的な魔物討伐の要請と、ギルドの報酬額に立地を考慮して上乗せする補助金の制定をするよう手紙に書いてあったの。……何でもこれまでディオールが無事だったのは、この子が定期的に魔物を退治してくれていたからなんですって」


 王妃様は呆れたようにこちらを見た。当然他の面々の視線も私に集まってくる。なんとも居心地の悪い中、私は説明を求められる。


「私がハンター活動を始めた当初から続けていたことなので、すぐに気付けず申し訳ございません……。ハンターの間ではディオールのギルドはその立地から依頼そのものだけでなく、それに付随する危険も多く割に合わないとされる人気のない場所でしたので、住民たちが困っているのを見るに見かねまして……」


 この場の人間には馴染みのない、ハンター目線での話を耳にしてヴィクトリア様は頭痛を堪えるように頭を抑えている。


「なるほど……だから王太子殿下は国から補助金を出して依頼に旨味を持たせ、他所の地域からハンターを集めろと仰っているのですね……」


 私がそんなヴィクトリア様を見て内心おろおろしていると、困った子を見るように王妃様が口を開いた。


「大丈夫よ、貴女を責めてはいないわ。数字と報告を鵜呑みにして現場の状況を把握出来ていなかったこちらの落ち度だもの。むしろ街を守ってくれていたことにお礼を言いたいくらい」


「エレオノーラ様……」


「王妃陛下の仰る通りよ。……それでは補助金についてはこの後早急に夫と共に関係部署と話を進めたいと存じます。ディオールだけでなく他のギルド支部の現状も調査・勘案し、エルグランツのギルド本部ばかりにハンターが集中しないよう調整しなくては」


「ええ、そうして頂戴。既に国王陛下からも承認は得ているわ」


「では残りのベルモント騎士団への要請は私が」


 ヴァネッサ様もさらりと名乗り出る。王国騎士団総長の妻だけあって騎士団関連の話は彼女が担当しているのだろう。


 多くの説明も必要なくスルスルと話が進んで行く。優秀な人は理解も行動も早いのだなと、そのやり取りを見ながら感じていた。


 それにしてもクリスは今ディオールにいるようだ。やり残したことを終わらせるためにといって王宮を出ていったので意味もなくそこにいるはずがない。ディオールと私を繋ぐもの、それはまず間違いなく樹海に住むお師匠様だろう。


(まさか自力でお師匠様に会いに行こうとしているの……?)


 私はこれまで様々な人に樹海でお師匠様に助けられ、鍛えられたことは伝えてきたものの、具体的な居場所を口したことは一度もない。当然クリスから尋ねられたこともない。


 ルデン侯爵領の街フュレムではなくディオールに目星をつけたあたりは流石だと思うけれど、それ以上の手掛かりが一切ない状態で見つけるのは相当難しいだろう。街の人たちだってお師匠様の味方だし、王太子が街を歩いているとなれば当然警戒する。協力を取り付けるなんて不可能だ。


 買い出しの際にばったり出くわすだとか、自力で年に数回だけ使う隠された道を偶然見つけ、それを地道に進んで行くぐらいしか可能性が見あたらない。


(あれ? でもディオールの現状に気付いて、さっきの連絡を寄越したのよね?)


 ただ樹海を捜索しているだけではそのような状況は見えてこないはずだ。警戒されずに街の人たちと話が出来ているということだろうか。なんだか良くわからなくなってきた……。


「要請といえば、私共の領地にも王国騎士団からの応援を要請したく存じます」


 私がひとり混乱している中、そこにデボラ様がずいと話題に入り込んだ。しかしそれを聞いた隣の席のヴァネッサ様は顔を顰めている。


「またなのですか……? いい加減、公爵領らしく自前の立派な騎士団を拵えてはいかがですか?」


「それがすぐに出来るのであれば苦労はしませんわ……」


「……でしょうね。送り出した騎士たちは現地での扱いに辟易しております。貴女がたが対処しなければならないのは魔物ではなく、領地の貴族たちではなくて?」


 ヴァネッサ様がうんざりした様子で仰っている内容については、私も騎士たちから聞いたことがある。北の方では平民はもちろん、魔物を相手にする騎士ですらも下に見られ、同じ貴族たちからの扱いが悪いのだという。


 そんな土地柄なので現地の貴族は騎士団に入りたがらず、人員不足に悩んでいるのだそうだ。それでいて領地は広く、冬は雪深いので応援に行く側もたまったものではない。


「まったく……送り出す人員を揃えるこちらの苦労も考えていただきたいものですわ。目を醒ませたのが貴女方ご夫婦だけだとは、これでは身体を張って訴えた御義父様が報われません」


 突然話に登場したお師匠様に私はハッとさせられる。『貴族嫌い』というあだ名はそんな北方の貴族たちによって付けられたものなのではないのか。


 一度その疑念が湧いた途端、確証を得られたわけでもないのに私の中にふつふつと怒りがこみ上げてきて止まらなくなってしまい、つい目の前の女性を見つめる眼に力が入る。


「一度正気になってしまえば周りは話の通じない者ばかり。実の息子の思想すら正すに至れていない現状では代替わりもいつになるのやら……」


 デボラ様は遠い目をしてそう溢した。その細い身体からは疲労だけでなく諦観までもが滲み出ており、それだけリヴェール公爵領周辺の状況が良くないことが伝わってくる。


 領地を持たず王都に住まわれているヴァネッサ様はともかく、ヴィクトリア様もマルグレーテ様も領地を先代と次期領主夫妻に任せてここに来ている。デボラ様だって年齢的にもう代替わりしていてもおかしくないはずなのにとは確かに思っていた。


(ヴァネッサ様が仰っているくらいだから、リヴェール公爵夫妻はまともな人物だと見て良いのかもしれないわね……)


 私はモヤモヤとした気持ちをグッと拳を握り込んで己の内に押し込め、目の前の二人の会話に耳を傾ける。


「数少ない騎士団員の負担が大きいため、ハンターを呼び込むために独自で領地からギルドへ補助金を出しているのです。ヴィクトリア様、先の話はこちらにも適応していただけますか?」


「えぇ、全てのギルド支部を対象にする予定なので安心して欲しい」


「……ありがとうございます。ですがそれでもハンターに全て頼れば良いとはなりません。数は有限ですし、ディオールを含む他の地域にも必要なのですから。ヴァネッサ様、どうかご協力お願い致します」


 デボラ様の静かで真摯なお願いにヴァネッサ様は折れたようだ、諦めの表情で深く息を吐いている。


「はぁ……わかりました、手配しましょう。そこに住む民のためですからね……。人数についてはあまり期待しないように」


「……感謝致します」


 リヴェール公爵領の大都市、グラシアールで活動するハンターはその補助金目当てで他の街には出てこないことで有名だ。移動も山を越えないとなので大変だし、依頼にも事欠かないのだからそれも当然かもしれない。


 それを気に喰わないハンターも一部いたりするけれど、ちゃんと活動して人の役に立っているのなら別にどこでも良いと私は思っている。ハンターとして活動していた時には詳しくは知らなかったけれど、実際それで領地としては助かっていたみたいだから間違ってはいなかった。


 領主夫妻から見た事情というのはとりあえずわかった。ただそれでもその理由については納得は出来そうもない。


 何をするにしても魔物が必ずどこかしらに影響を及ぼしてくる。暮らしを支える平民たちだけでなく、それらを護る騎士たちまで蔑ろにするなど、あちらの貴族は一体何を考えているのだろうか。私にはまるで理解出来ないし、分かり合える気がしない。


 とりあえず今回の件については話が纏まったようなので良かった。私はフェリシア様に睨まれているであろう状況で彼女の故郷の領地と関わり合いになりたくはない。応援に向かわせられる騎士たちには同情するけれど、是非頑張ってもらいたい。


「リヴェール領の税収はその領地の規模から見てもとても落ち込んでいるわ。騎士団の派遣などで魔物被害を抑えるだけでは足りない、増やす方向に働きかける必要があるの。デボラ、その辺りの対策も考えなさい。我々も可能な限り協力するつもりよ」


「……承知致しました」


 大変なのはわかっていても、王妃として言わなければならないという風に感じられる言葉にデボラ様は静かに頭を下げていた。




 それからも話題を変えつつ真面目な話し合いは続く。


 私から話に混ざれるものはあまり多くはなかったけれど、リリアーナ王国に行ってきたばかりなのを活かして、今後取引が増えると予想される中で、あちらの国で実際に目で見てこちらでも流行らせそうなものなどについて意見を出したりした。


 そしてそれら全てが終わると雰囲気は一気に緩くなり、会議から友人同士の気安いお茶会へと変化した。私は久しぶりにお会いしたマルグレーテ様との会話が弾み、ブリジットの話を交えながら楽しく過ごすことが出来た。


 しかしそんな中でもあまり会話に混じらず、静かに一人佇んでいるデボラ様の姿が印象的で、お茶会が終わってからもしばらく頭から離れることはなかった。



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