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74. 事件の調査

 準備を終えると、二人は早速昨日の事件現場に向かった。


 現地は大変な騒ぎになっており、この町の憲兵達がそれ以上野次馬や近くを通る人々が近づけないよう、ロープを張って監視している。そしてその内側には、飛び散った破片と一部が燃えてしまった家が無惨にそこに残されていた。


「酷い・・・」

「ああ。ここはこの辺りにいくつもある食料品店を経営してる商会長の家だな。門の付近を爆破してるだけじゃなく家の近くに油も撒いてあったらしいから、火をつける気満々だったんだろう。」

「最低ね!!」


 イチカは険しい表情になりその家をじっと見つめた。シオンはそんなイチカの肩に手を載せて頷く。


「ああ。盗まれたものが何かまではまだ知らないが、何人もの男達が火事の時に目撃されているらしい。いずれ確実に捕まえるよ。ここの兵士達はしっかりしてるし、俺達とも協力体制はできてるから安心しろ。」

「そう。うん、わかった。」


 そうしてその場を離れたイチカ達は、すぐ近くにある酒場を訪れる。昨夜テオニタスと楽しく飲んだ店だが、爆発騒ぎの衝撃が大きすぎて、楽しかった記憶も朧げだ。


 そこからさらに記憶を遡りどうにか道を思い出したイチカは、無事下宿先の建物にたどり着いた。



「ここだわ!よかった!!」

「イチカ、手を繋いで。」

「ええ?どうして!?」

「あいつがいると厄介だから。」

「・・・」


 シオンが差し出した手を仕方ないというように軽く掴み、「じゃあ行くよ!」と言って部屋に向かった。


 だが結局そこでは誰にも会うことはなく、部屋を片付け掃除をして、リュックをまたシオンに持ってもらって外に出た。


「じゃあ、お世話になった工房にご挨拶に行ってくるわ。」

「一緒に行くよ。」

「ありがとう。」



 そうして二人はベンの工房に向かい、そこでシオンが今最も出会いたくない人物と遭遇する。


「あ!」

「ああ、昨日の・・・」

「なんだ、知り合いか?」


 シオンとテオニタスとベンがお互いを確認し合い、イチカは密かにため息をついた。とりあえず目的を果たそうと、イチカは気を取り直してベンに話しかけた。


「ベンさん!セイナさんはいらっしゃいますか?私、今日ここを離れることになって、ご挨拶と今日までのお金をお支払いしたくて。」

「ああ、ちょっと待っててくれ。呼んでくるよ。」


 そうしてその場にはあの冷たい目のシオンと笑顔を浮かべるテオニタス、そして困った顔のイチカが残された。テオニタスはシオンの視線などものともせず、イチカににこやかに微笑みかける。


「イチカ、昨日はありがとう。命の恩人に何か少しでもお礼がしたいんだが、今日夜は空いているかな?」

「あの・・・」

「イチカは忙しい。あんたと遊んでいる暇は無いよ。」


 シオンが当然のようにイチカの言葉を遮って勝手に返事をする。テオニタスは挑戦的な笑みを口元に浮かべてシオンに問いかけた。


「あなたには関係無いことだと思うんだけど。それともやっぱり彼女の恋人なのか?」


 シオンはイチカに寄り添うように立って言う。


「それ以上に深い関係だよ。」

「ちょっとシオン!?違うでしょ!!・・・あの、テオニタスさん。」

「テオでいいよ。」

「テオ・・・は昔飼ってた猫の名前なのでちょっと・・・」


 テオニタスは目を丸くする。


「そうなんだ!いい名前を付けたね。でもいいね、尚更テオって呼んでよ。君の猫にならいつでもなってあげるよ。」

「おい!」

「あの!とにかく私はその、誰ともそういう関係にはならないつもりなので、お誘いはありがたいですが今後はお断りします。とにかくテオニタスさんがご無事で良かったです。」


 テオニタスは残念そうな表情で微かな笑みを浮かべる。そこにベンとセイナがやってきた。


「お待たせしたな。」

「イチカさん!もう出ていってしまうのね、寂しいわ。お金はこの金額で。いつでも困った時はここへいらっしゃいね。」

「はい、じゃあこれ・・・。ありがとうございます!今回は本当に助かりました。」


 イチカは書かれていた金額を支払い、頭を下げた。


「いいのよ!じゃあ、私はこれで!」


 そう言って彼女はすぐに奥に戻っていってしまった。ベンはそれを見送ると、シオンの方を向いて不思議そうな顔で話しかけた。


「それで、そこのお兄さんは何の用だい?」

「いえ、俺は彼女の連れっていうだけで・・・ああ、でもこちらの工房を見ていてちょっと気になったのですが、もしかしてこれ、見覚えありませんか?」


 シオンはそう言ってポケットから小さな何かを取り出してベンに見せた。それは金属を組み合わせた何らかの装置の一部で、小さいながらもかなり精巧に作られているようにイチカには見えた。


「これは・・・俺のでは無いが、弟子の誰かが作ったものかもしれないな。」

「本当ですか!?」


 シオンが色めき立つ。その様子をテオニタスが興味深そうに見つめていた。


「ああ。俺がだいぶ前に作った装置の部品に似てるからな。だが昔は大勢弟子を受け入れてたから、誰とはわからん。名前を覚えないうちに辞めてった奴もいるしな。」


 テオニタスがここで口を挟む。


「お弟子さんって、みんなこの町にいるんですか?」

「ああ、ほとんどはこの町で自分の工房を持って働いている。だがそうだな、一人だけ隣の町に行ったって話を聞いたが・・・どうも賭け事が好きな奴でな。あいつは腕は良かったが、その悪癖だけが足を引っ張ってた。あれじゃあ職人としてやっていけなかっただろうなあ。」


 そう言って悲しそうに首を振っている彼を見ながら、イチカはテオニタスのさっきの質問に違和感を感じていた。


(何だろう、何か気になるけど、それが何かはよくわからない・・・)


「そのお弟子さんの名前は覚えていらっしゃいますか?」

シオンが丁寧に尋ねる。

「いや、すまん。だがまだ職人の仕事をしているなら、もしかしたらこの時期ここに来ているかもしれんな。今週と来週は、技術を披露し合って商会に売り込むための展示会がこの町のあちこちで開かれてるから。」


 イチカはああ!と声をあげる。


「だから宿が埋まっているんですね!」

「そうなんだ。展示会はいくつかに分かれて開かれてるが、この手の商品はたぶん中心部じゃなくこの近くの集会所にあるんじゃないかな。」

「そうですか!貴重な情報をありがとうございます!」


 シオンはベンからの情報を受け、早速そこに行ってみようとイチカに声をかけた。


「うん、じゃあ行こうか。ベンさん、数日でしたが本当にお世話になりました!」

「ああ。また何かあればいつでも来たらいい。」

「はい!」


 笑顔で別れを告げ、先にシオンが、その後ろからイチカが工房の外に出る。するとなぜかテオニタスも外に出てきた。


「イチカ!」


 その声に反射的に振り返ると、テオニタスが片手でイチカの首の後ろを抱え、額にキスをして、あのえくぼのある笑顔を見せた。


「何してるんですか!?」

「好きだよ。また会おうね。」


 二人が呆然としている間に、彼はスルッとその場を離脱し、工房の先の角を曲がってあっという間に姿を消した。


「・・・あいつ!!」


 シオンが剣に手をかけ始めたのを見てイチカは慌ててそれを止めた。


(あの人、本当に困る・・・もう極力会わないようにしよう!)


 どうにかシオンを宥めた後、二人はベンに教えてもらった集会場に向かった。ベンの工房からさほど離れていないその場所は、二階建ての、やはり白い壁で囲まれた少し大きな建物だった。中に入るとガヤガヤと人々が話している声が聞こえてくる。


 そこには二十人ほどの職人らしき男性達、そしてその倍ほどの商人らしき男女が集まり、持ち寄った様々な商品や開発した部品のようなものを紹介している様子が見られた。


「盛況だな。」

「そうね。」

「気になる奴はいるか?」


 イチカはぐるっと周りを見渡し、首を振る。


「よくわからないわ、人が多すぎて。じっくり見て回ってもいい?」

「ああ。じゃあ中を回ってみよう。」


 そうして二人は商品の紹介をしている職人達を一人一人確認しながら歩いていくことにした。どの商品もイチカには見ただけで何に使う物なのかさっぱりわからなかったが、精巧に作られていることだけは理解できた。



 そしてふと、ある男性に目が留まる。


(何だろう、この感じ・・・他の職人さんと違う何かがある気がする!)


「イチカ?」

シオンがイチカの変化に気づいて小さな声で呼びかけてくる。

「そこの髪の短いつり目の男性が気になる。」

「赤っぽい髪の?」

「そう。」

「わかった。」


 シオンはそれ以上詳細を聞くこともなく、自然な形でその男性に近寄っていく。そしてチラッと手元にあった商品を見て、すぐにその場を離れた。


「イチカ、外に出よう。」


 その指示に従い集会所の外に出る。


「どうしたの?」

「あいつの持ってた部品らしきものは、たぶん古い物だな。」

「え?どうしてそんなことがわかるの?」

「自分の商品のはずなのにまともに触ってもいないし、たいして紹介してもいなかった。他の職人が作った似たようなものも見てみたけど、どう見ても周りのものより大きくて、品質が劣っているように見えたよ。実際商人達の関心も引けてなかったみたいだしな。」

「なるほどね。」

「この町にいて不自然にならないように、とりあえず展示会には参加した、っていう感じなのかもな。とにかく俺の感じた違和感はそれだな。」

「そう・・・」


 イチカは俯いて暫し考え込む。


「彼の手・・・手がね、日々新しい商品を開発しようと頑張っている職人さん達の手とは違った気がするの。何というか、周りの人達と比べて綺麗すぎるのかな?私はそんな違和感しか感じなかったけど、シオンはどう思う?」


 顔を上げるとそこには、優しく微笑む彼の目がイチカを見つめていた。胸が高鳴ってしまうのを無理やり変な顔で誤魔化す。


「何だよその顔!?まあいいや。よし、二人の意見が合致したんだから、あいつを追ってみるしかないな。」

「うん、そうね!」


 そして二人は目当ての男性を徹底的に調べるため、近くのベンチに座ってヒソヒソと今後の計画を話し合っていった。


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