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70. 職人の町

 再びゼキラムの町にやってきたイチカは、眠気をこらえて朝食が食べられそうな店を探していく。シオンはイチカのリュックを背負ってくれたまま、一度家に帰って荷物を置いてくるからと言って途中で別れた。


 イチカが最小限の荷物だけ持ってウロウロと町を歩いていくと、小さな屋台のような店がいくつも並んでいる場所に行き着いた。ここなら美味しい朝食を見つけられそう!と期待が高まる。どうやらそこは朝市のようなものらしく、多くの地元の人達が楽しそうに店を見て歩いている。イチカもまた、お祭りに来た時のようにワクワクしながら一つ一つ店を見て回った。


 その中で特に美味しそうなパンを売っているお店を発見し、つい欲張ってたくさん買い込んでしまった。ほくほくしながらパンパンに膨れた紙袋を抱え、イチカは引き続き他の店も覗いていった。


 一通り見終えたところで満足して引き返し、シオンと別れた辺りまでのんびりと歩いて戻ると、すでにそこには彼が立って待っていた。


「イチカ、何か店、見つかったか?」

「うん。朝食にパンを買ったよ。シオンが好きそうなのも買っておいたからよかったら食べて。」

「優しいな、イチカ。」


 シオンは当たり前のように手を伸ばし、いつもなら頭に載せることの多いその手を優しく頬に添えた。イチカはビクッとして身を引き、触れた頬に自分の手を当ててシオンを見る。


「ちょっと!突然何!?」

「いや別に。嬉しいなと思ってさ。」

「・・・シオン!」

「あはは!怖い顔!ほら、とりあえずうちに来いよ。今後どうするかは朝飯を食べながら決めよう。」


 そう言ってイチカのパンを勝手に取り上げ、先に歩き始めた。イチカは軽くその後ろ姿を睨みながら、結局素直についていく。



 十分ほど歩くと、二階建ての、やはりここも壁が白いアパートのようになっている建物にたどり着いた。開放されている大きな玄関を通り抜け奥にある階段を登ると、そこから見える廊下に紺色のドアがいくつか並んでいた。一番奥のドアを開け、シオンが先に部屋に入る。


「どうぞ。狭いけど。」

「お邪魔します。」


 イチカが部屋に入ると、そこには大きめのベッドと二人用のダイニングテーブルセットだけが置いてあった。シオンの仮の部屋としてはこれで十分なのだろう。水やお湯などは一階の共同スペースで使えるようになっているらしい。


「ここは寝泊まりするだけだから何もないけど。あ、イチカのリュックは奥に置いてあるから。」

「ありがとう。じゃあ朝食食べる?」

「ああ。」


 外気で冷たくなったコートを脱ぎ、ダイニングテーブルでパンを食べながら、イチカはこの三ヶ月の間のシオンの仕事について質問をしていった。


「ねえ、シオンはこの町でどんな仕事をしていたの?」

シオンはさっさとパンを食べ終わり、大きな瓶に入った水をグラスに入れ、イチカにも手渡した。

「例の男性の情報が欲しくて、最初は彼と情報を探してただけだったんだけど。ここにも商会の支店があってさ、俺指名でこの地域の領主から依頼が入ったんだ。」

イチカはシオンが入れてくれた水を飲む。

「ふうん。どんな依頼だったの?」


 シオンは途端に渋い顔になる。


「爆発事件の調査。」

「え!?怖い、何それ!」


 ついグラスを握る手に力が入る。


「ここの隣の町にあるかなり裕福な商会長の家で、ちょうど三ヶ月前に爆発騒ぎがあったらしい。ただの爆発じゃなくてそのまま火災に繋がって、しかもその隙に大量の宝石が盗まれた。」

「それってつまり盗難の為に爆発を起こしたってこと?」

「たぶんな。ずいぶん面倒なことをするとは思ったが、そうしてもいいと思えるくらいの宝石がその家にあったってことだな。」

「宝石商か何かだったの?」


 シオンは立ち上がってグラスを片付け始めた。


「いや。その商会長の奥方が宝石が好きで、別棟に特別室を作ってコレクションしていたらしい。自分で吹聴してたみたいだから、まあ狙われても仕方なかったんだろうけど。」

「ああ、自慢したかったのね。」


 イチカは宝石など一つも持っていないので狙われる心配は皆無だが、結婚した時にもらったネックレスと結婚指輪だけは、この世界に持って来れたら良かったのにとふと思う。


「ま、何にせよ大きな事件だったし、その時に使われてた爆発を招いた装置がちょっと特殊でさ。それを元にこの町を調べるようにってことで俺に連絡が来たんだよ。」

「特殊?」

「時計を使って、ある一定の時間になると火がついて爆発する仕組みだったみたいだな。」


(それって、時限爆弾みたいなものってこと?しかもアナログな・・・)


「それはまた、すごいものが見つかったのね!でもその装置だって爆発したはずのに、よくそんな細かいところまでわかったね?」

「別の家でも見つかったんだよ、それが。」

「え!?」


 イチカは驚いて、思わず立っているシオンの顔を見つめた。彼はなぜか面白そうに笑っている。


「すごい変な顔!まあでも驚くのもわかるよ。何らかの原因でたまたま装置が作動しなかったみたいで、それを見つけた家主が大騒ぎして発覚したんだ。もう例の事件が起きた後だったからね。町の警護をしている領主直属の兵士、まあいわゆる憲兵だな、彼らが調査をした結果、時計を使って爆発を起こす装置だってわかったらしい。」

「そうなんだ・・・それってもしかしてこの町の職人が作ったってこと?」


 シオンが壁に寄りかかって腕を組み、ニヤッと笑う。


「そういうこと。それで俺はこの町の職人を調べてる。宝石を盗んだ奴らもまだ捕まってないし、それに・・・もしかしたら例の組織も関わっているかもしれないんだ。」

「ビビカナの時の!?」

「ああ。」


 イチカはいきなり立ち上がってシオンに近づいた。


「おお、何だよ突然!?」

「私もその仕事に関わりたい!」

「駄目だ。」

「どうして!?」

「爆発に巻き込まれるかもしれないんだぞ?しかももし例の組織が絡んでるなら、またお前が巻き込まれるかもしれない。今回は俺が信頼する登録者も何人か助っ人で来ているし、イチカは大人しくしてるんだ。」


 その言葉にイチカは瞬時に真顔になる。


「シオン。私達、相棒じゃなかったの?」

「イチカ?」

「どうしていつまでもそう過保護なの?前と違って危険なことを率先してやるとは言ってない。でも私にできることだってあるはずでしょ?三ヶ月だったけど魔女としての力もつけてきた。身を守る札もきちんとしたものを作れるようになったわ。どうしてそんなにまだ甘やかそうとするの!?」


 イチカは真っ直ぐシオンの目を見て、できるだけ冷静に話をしようと頑張ったが、少しずつ怒りが湧き起こってきて、最後はつい声を荒げてしまった。


「イチカ・・・でも今回は本当に危ないんだ。俺はイチカを絶対に傷つけたくない。爆発が起きたら俺だってそう簡単に助けられないんだぞ?」


 シオンの宥めるような物言いにイチカはさらに怒りが増す。


「そう。それなら私は勝手にやるわ。」


 そう言って部屋の奥に置いてあった自分のリュックを背負い、脱いだコートを掴んで、黙って部屋を出て行こうとした。


「ちょっと待てって!イチカ!?」

「しばらく会いません。」

「え!?嘘だろ・・・」


 シオンはイチカが本気で出て行こうとしていることに気づき、慌ててドアの前に立ち塞がった。


「行くなよ。」


 真剣な顔、その目にはイチカの知りたくないあの気持ちも見え隠れしている。


「そこを退いて。」

「嫌だ。ずっと一緒にいるって約束しただろ!」

「この町にはいるわ。それで十分でしょ。」

「イチカ!!」

「キャッ!?」


 狭い玄関で壁にリュックが当たり動けずにいると、シオンはイチカの頭の後ろと腰に手を回し、いつものハグとは全く違う抱きしめ方でイチカを包み込んだ。彼の熱を直に感じるその抱擁に、イチカは動揺を隠し切れない。


「やだ、何してるの!?こんなの嫌!離して!!」

「嫌だ。絶対に離さない。」

「シオン、やめて・・・」

「俺は」

「それ以上言わないで!!」


 シオンはイチカの必死な声にようやく動きを止めた。


「どうして、何も言わせてくれないんだ。」

「私は聞きたくないの。何も知りたくない。彼を裏切りたくない。」

「・・・」

「離して。」


 シオンはゆっくりとイチカを解放し、ドアに寄りかかるようにして立つ。


「私達は親友で相棒だけど、こんな状態ならしばらくはそれをお休みしたい。そこを通して。」

「イチカ!!」

「早く!!」


 シオンは黙ってドアの前から移動し、イチカもまた何も言わないままドアを開けて外に出た。


 階段をおりて外に出ると、追いつかれないうちにと早足で町の人々の中に紛れていく。シオンの熱がまだ残る体を一秒でも早く冷やしてしまいたくて、イチカは場所も考えずひたすら前に進んでいった。


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