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27. 二人で出来ること

 その日はだいぶ夜も更けてきたので、四人の話し合いはまた明日に持ち越し、今日は解散!ということになった。



 そしてその後イチカは、嬉しいことにお風呂を使わせてもらえることになった。久々のお風呂にテンションも上がる。


 この町では水路が他の町よりもかなりしっかりと整備されていて、水は各家庭に常時流れ込む場所がある。さらにその水は使用後に下水道のような場所に流れ落ちるようになっているらしく、イチカは文明の発達していないこの世界で、人々が知恵を絞って生きていく素晴らしさを実感していた。ただ、もう少し貧しい人達が住む地域では、各家庭にまではそうした設備は入っていないそうだ。


 そんなわけでこの家では薪で風呂を沸かして入ることができるようで、イチカは本当に久しぶりにじっくりとお風呂に浸かり、大満足のほかほか状態で部屋に戻った。



 部屋に入りタオルで髪を乾かしていると、ノックと共にシオンの「今いいか?」という小さな声が聞こえてきた。


「開いてるわよー。どうぞー。」

と風呂上がりの気の抜けた声で答えると、シオンがドアをゆっくりと開けた。


 だが入ってくるなり彼はなぜか硬直してしまい、イチカは顔の前でヒラヒラと手を振りつつ声をかけた。


「おーい、シオン、どうしたのー?」

「・・・何でもない。」


 シオンは無表情のままイチカから目を逸らし、一つしかない椅子を机から引き出して座った。


「なあ、イチカ。俺はさ、お前を恐ろしいことに巻き込みたくて相棒を願い出たわけじゃないんだ。だけどさっきのハリスの言葉がなんかこう身に沁みたっていうか、今は俺、真剣にお前と相棒としての仕事がしたいって思うようになってる。」

「・・・そっか。」


 彼のその言葉はイチカの胸にストレートに届く。次に目を合わせた時にはすでに仕事モードに入ったシオンがそこにいた。


「だからお前のその力、特殊な方じゃなく、気配を読み取る力や勘の強さの方を生かしてやってほしいことがある。」

「わかった。私これでも森で育ってきた野生児なんだから、そういうのはぜひ任せて!」

「野生児・・・」

「そこはそれ以上広げなくていいわよ!」


 シオンはコホンと一つ咳払いをして、椅子から立ち上がった。


「明日からしばらく、俺とハリスの仕事を手伝ってほしい。でもお前はそれなりに見た目は美少女だから、囮みたいになって誘拐されでもしたら困るんだ。だからしばらくお前には少年の格好に変装してもらって、一緒に動こう。」

「それなりにって・・・中身は違うって言いたいのね。」


(シオンには言えないけど、さっきも実際誘拐されそうになったし、仕方ないか・・・)


「そうそう、さっきお前が誘拐されかけたって話も、もうカーラに聞いたから。」

「げっ!?」

「何だよその声!」

「・・・反省はしております。」


 シオンが顔をぐっとイチカの近くに寄せた。近くで見ると思っていたより美しい顔立ちで、イチカは少し戸惑う。


「な、何?近いわよ!」

「次そんな無茶したら四六時中くっついていることになるからな。覚悟しろよ。」


(何その発言!?嫌です迷惑です困ります!)


「ううう、わかったわよ。とにかく少年の格好をして、無茶をしなければいいのね?」


 シオンは満足したように笑顔になり、イチカから離れた。


「そういうこと。怪しい場所や不審な人物を察知するのは得意だろ?明日から早速町に出て一緒に調べよう。服は俺が明日の午前中に用意する。昼飯前には外に出よう。あ、それから商会への登録も済ませるか。」

「うん。」


 そして一瞬の沈黙の後、イチカの肩に掛かっていたタオルをスッと引き抜き、頭に被せてわしゃわしゃと髪を拭き始めた。


「ちょっと!やめてよ、子どもじゃないんだから!」

「・・・そうだな。もう、子どもじゃないよな。」


 シオンは手を止め、タオルで前が見えない状態のイチカを置いて「おやすみ」と言いながら素早く部屋を出ていった。


「もう、何あれ・・・」


 イチカはグチャグチャになってしまった髪をブラシで梳かし、再びタオルで丁寧に水気を取っていった。




 翌朝、パンを焼いてハムとレタスとチーズを挟んだ簡単な朝食を済ませてから、イチカはたまっていた洗濯をしたり荷物の整理をしたりして過ごした。カラッと晴れた空の下で洗濯物を干して汗をかいた体に、心地良い風が吹いて少しだけ暑さが和らぐ。


 そうこうしているうちに昼近くになり、シオンが大きな紙袋を抱えて帰ってきた。二人でリビングに入り、立ったまま話をする。


「はいこれ、今日からの服。あと、帽子も。」

「ありがとう。」


 紙袋を受け取って中を見ると、地味な色合いの服がいくつかと、少し大きめのキャスケット帽っぽい帽子が入っていた。その帽子を手に取って広げていると、あの日、シオンと初めて会った時のことをふと思い出す。


「・・・懐かしいな。」


 どうやらシオンも同じことを考えていたようだ。帽子を見つめるその瞳は優しさのこもったものだった。


「そうね。あの時はまだ血が出てたのにシオンが帽子を被せてきて参ったわよ。」

「若かったんだよ。悪かったって。」

「いいわよ、昔のことだし。あ、少年ぽくするなら、髪も切った方がいいかな?」


 シオンは驚いたような顔でまじまじとイチカを見つめる。


「いや、それはいくらなんでも本格的にやりすぎだろ!?髪は女性にとっては大事なものなんだから、無理に切らなくていい!まとめて帽子の中にしまっとけよ!」


 なぜかシオンは少し怒っているような顔で帽子をイチカから取り上げ、あの日のようにぐっと頭に被せた。


「ちょっと!もう、乱暴なんだから!」

「とにかく髪は大事にしろ。じゃ、着替えてこいよ。準備できたら出かける。」

「・・・もう!わかりました。ちょっと待ってて。」


 イチカは帽子を一旦脱いでシオンに渡し、部屋に戻って早速着替えた。部屋には姿見などは無かったので、リュックの中から鏡を取り出し、机に立てかけて髪をまとめ、服装を確認する。少し短めのサロペット風の服と、ダボっとしたシャツがあったのでそれを中に合わせた。紙袋の中には短めのズボンも入っていたので、これはまた別の日用にと、袋ごとリュックのそばに置く。


「いいね、男の子に見えるじゃない。これで帽子を被ったら完璧ね!」


 イチカは自分の姿に満足して部屋を出ると、シオンが待っているリビングに入る。どう?と言いながら服装を見せると、彼はぽかんとした表情でイチカを見て黙ってしまった。


「え?何かおかしい?少年ぽくないかな?」

「・・・いや、なんか俺、別の扉が開きそう・・・」

「はい?」

「いや何でもない。とにかく行くぞ。ほら、帽子。」


 シオンが先ほどの帽子をイチカに投げて、ソファーから立ち上がった。イチカは上手にそれをキャッチすると、目深に被って頷く。


 かくして少年イチカといつものシオンは、昼時に近い時間の混雑した町に、意気揚々と繰り出していった。


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