表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/160

23. 素性不明のシオン

 強盗未遂に遭遇した後は、特に何事も無く目的の家に到着した。そこは日本でもよく見かける一軒家ほどの大きさの家で、シオンがノックをすると、四十代後半位の優しそうな女性がドアを開けてくれた。


「やあ、カーラ!ハリスはいる?」

「あらシオンじゃない!久しぶりね!ハリスなら店の方にいるわよ。今日はどうしたの?」


 笑顔の素敵なカーラという女性が少し驚いたような表情でこちらを見ている。


「悪いんだけど、俺達二人を二、三日ここに泊めてもらえないかと思ってさ。」

「いいけど、こちらのお嬢さんは?」


 イチカは一歩前に進んで丁寧に挨拶をした。


「初めまして。イチカ・アオキと言います。シオンさんの、仕事仲間?みたいなものです。」

「何でそこ曖昧なんだよ!」


 二人のやりとりがおかしかったのか、少しにやけながらカーラがイチカに近づいた。


「まあ、そうなの!?シオンが誰かと組んで仕事なんて、びっくり!!へえ、そう、そうなの!」

「・・・何か勘ぐってるみたいだけどたぶんその予想は外れてる。彼女は俺の相棒なんだ。今この町は危ないし、カーラの所なら安心だからさ。頼むよ。」


(普通の家って感じだけど、何か安全だって言える理由があるのかしら?)


 イチカは少し不思議に思い、失礼にならない程度に家の中を覗いてみた。玄関から先の廊下には窓からの日差しが十分に入り、ハーブのドライフラワーが壁に飾ってあるような、至って普通の家にしか見えない。


「いいわよもちろん!じゃあ上の部屋を使って。子供達の部屋が二部屋あるから。」

「え?お子さんのお部屋を使っちゃっていいんですか?」

「もう独立して家にはいないの。だから今は空き部屋なのよ。遠慮しないで使ってちょうだい!諸々の費用はシオンをうちの店でタダ働きさせて徴収するから気にしなくていいわ!」


 シオンは顔を顰めた。

「おいおい、相変わらず人使いが荒いな!」


 カーラはシオンをほぼ無視してイチカの手を取り、家の中に引き入れた。少し中に入るだけで、優しい家庭らしい雰囲気とハーブの香りが漂い、イチカの緊張した気持ちをすうっと和らげてくれた。


「さあさ、入って入って!シオンのことは気にしなくていいのよ。女同士でゆっくりお話ししましょう?」

「はい!」


 玄関先で意気投合した女性二人は、ニコニコしながら中に入っていく。シオンはその様子を少しだけ嬉しそうに眺めてから、後をついて中に入った。




 廊下から白い木のドアを開けリビングに入ると、目の前には部屋いっぱいに見えるほどの大きなソファーが鎮座していた。ソファーの上にはパッチワークで作ったようなカラフルで温かい色合いの大きな布が掛けられ、いくつものクッションがそこを占領していた。


 壁にはおそらく子ども達が小さい頃に描いたであろう絵が何枚か飾ってあり、昔はここで子ども達と一緒に和気あいあいと寛いでいたんだろうなあ、と思わせるような部屋だった。


(私は子どもはいなかったけど・・・なんかいいなあ、こういうの。ほっこりする・・・)


 イチカがカーラに勧められてそこに座ると、当たり前のようにシオンが隣に座る。


「ちょっと、こんなに広いんだから少し離れてよ。」

「何でだよ?相棒なんだから一番近くにいるべきだろ?」

「・・・暑いじゃない。」

「それもまた相棒っぽくていいんじゃないか?」

「はあー。全く意味がわからない。」


 ぐったりしているイチカの様子をあらあらと言いながら笑って見てから、カーラは奥の方へ引っ込んでしまった。シオンはご機嫌で、持っていた自分の水で喉を潤していた。イチカは少し横にずれてシオンとの距離をあけた。


「ねえ、シオンって何者なの?」

「ゲホッ、え、今さら?」

「だってずいぶん知り合いが多いみたいだし、商会にもかなり関わってそうな雰囲気だし。さっきの男達のことも・・・よく見てなかったけど、あっさり倒してたから。何者なのかなって。」


 シオンが一瞬悲しい目をした気がしたが、すぐにおどけたような笑顔を見せた。


「何者でもないよ。ただのシオン。あ、年齢は二十三歳。思い出したくない過去はできるだけ振り返らない性格なんだ。仕事は割と何でも請け負うよ、困っている人の助けになるならね。」


 何かを明らかに隠されているのは感じたが、イチカはそれ以上追求するのをやめた。


(いい大人なんだし、隠し事の一つや二つ、お互いにあって当然よね)


「そう。わかった。」

「お?これで納得するんだ!もっと色々聞かれるかと思ったのに!」

「いいの。お互い色々あるってことでいいんじゃない?私は今のシオンを知っていればそれでいいわ。」

「・・・それ、結構な殺し文句だと思うんだけど。」

「え?」

「いや、何でもない。」


 イチカは小さい声で呟いたシオンの声が聞き取れず、変な顔をしたまま彼の横顔を見ていた。



 少しして、カーラが何やら嬉しそうに、大きなトレーを持ってリビングに戻ってきた。その途端、ふんわりと甘い香りが部屋中に広がる。


「いい匂い!」

思わずイチカが声に出してしまうと、カーラがイチカに微笑んだ。

「でしょう?自慢の手作りクッキーなの。ぜひ食べてみて!今焼きたてなのよ。あ、お茶もどうぞ!」


 カーラがローテーブルの上に置いた可愛らしい花柄のお皿から、イチカは早速一枚のクッキーを手に取った。まだかなり熱さが残っていて、落とさないようにと焦りながら指先で冷ましていく。


 少し冷えたところでひと口頬張ると、手作りならではの香ばしさとナッツの香りが口いっぱいに広がって、イチカの顔はたちまちほころんでいった。


「むふふ、おいひい・・・」

「あらあら、本当に美味しそうに食べてくれるのね!嬉しいわ。」


 カーラの顔も喜びで満ちていく。


「そうだ!二、三日滞在するなら作り方教えましょうか?うちの子二人とも、料理とかお菓子作りとか全然興味なくてつまらなかったのよ。どう?一緒に作ってみる?」

「え、いいんですか?ぜひ!!」


 二人の女性がどんどん仲良くなっていく様子をちょっとだけ拗ねた様子でシオンが見ていた。


「あーあ。こういう時はやっぱり女同士だよなあ。まあ、じゃあここにいる間は俺はハリスと出掛けてくるか!」


 頭の後ろに両手を組んで、ソファーの背もたれに寄りかかったまま寂しそうに語るシオンは、もうすでに別のことに気を取られているように、イチカには感じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ