22. 商人の町ビビカナ②
「だから、どうしてそうなるんだよ!」
「だって私はこれから基本一人で生きていかなきゃいけないのよ?あなたに頼ってばかりはいられないの。」
「状況を考えろよ!こんな時に一人で宿に泊まったりなんてしたら、誰にどう狙われるかわかったもんじゃないんだぞ!」
「だから新しい札を作って対処するって言ってるじゃない!」
「それが一番不安なんだよ・・・」
三人は無事、ビビカナの町に到着した。が、到着したところで、宿泊先を巡ってイチカとシオンが揉め始めた。
「おいおい、いつもこんな調子なのか?」
「・・・まあ。」
「へえ。お前がねえ・・・。」
「・・・」
ケーシーの面白がっている顔にイライラしたシオンが、彼の帽子の鍔をグッと下げた。
「おわっ!何だよ怒るなよ。そんなに大人気ないお前が見られてむしろ俺は嬉しいよ。・・・なあ、イチカさん、と言ったっけ?」
「はい!」
突然話を振られて驚いたイチカは、思わず姿勢を正して返事をした。ケーシーは帽子を被り直し、微笑みながら語る。
「この町は今本当に危険なんだ。あんたの気持ちもわかるが、この町にいる間だけは、こいつの言うことを聞いてやってくれないか?」
「・・・わかりました。」
大人しくケーシーの言うことを聞いたイチカに、シオンが情けない顔で不満を漏らす。
「何でケーシーの言うことは素直に聞くんだ・・・」
「あなたみたいに頭ごなしに、命令する様に言わないからよ。」
「・・・そんなつもりはなかったけど、悪かったよ。」
はははと楽しそうに笑うケーシーのお陰でその場は少し和み、シオンとは一旦和解した。ケーシーはまだ先の町に向かうとのことだったので、丁寧にお礼を言ってそこでお別れした。
そして再びシオンと二人きりになり、イチカは彼の少し後ろについて町の中に入っていく。
この揉め事は、町に到着するなり「お前は俺と一緒に商会の関係者の家に宿泊しろ」とシオンに上から目線で言われたことが発端だった。彼とは年齢は違っても対等な関係でいたいと願うイチカは、どうしてもその言い方をそのままにしておくことができなかった。
危険な町であることは重々承知しているので最終的には彼の指示に従うつもりではいたが、こうして態度に表さないと彼と相棒としての信頼は築いていけないと考え、今回はあえて彼に喧嘩をふっかけたのだ。
そして、彼がさっきのイチカの言葉を真剣に考えてくれているのは、その後ろ姿から伝わってきた。
「イチカ。」
「何?」
「俺はお前と信頼しあえる相棒同士になりたいと思ってる。だけどやっぱり女性だし、年下だし、守らなきゃならないって思いもあるんだ。」
「うん。」
シオンが立ち止まって振り返った。イチカも歩みを止め、少し上を見上げる。
「だけどさっきの喧嘩で、それだけじゃ駄目なんだってわかった。少なくともイチカとは。」
「そうだね。」
「だから今後もお前とは喧嘩しながらも遠慮はしないでやっていきたい。上からものを言うんじゃなく、きちんと相談する。その代わり本当に危ない時はまず俺の話を聞いてほしい。」
「わかった。ちゃんとシオンの意見を尊重する。」
ようやくシオンに笑顔が戻った。今までのちょっと気を遣った感じの笑みではなく、仲間として、相棒としての信頼を感じる表情だった。
「じゃあ、まずは宿泊先に行くか。」
「うん。よろしく!」
「おう!」
そしてビビカナという大きな町の中心部に、二人は足を踏み入れていった。
「すごい・・・本当に大きい町なのね・・・!」
ビビカナの中心部は、人混みで溢れかえっていた。馬車が何台も行き交うことができるほどの広い道と、しっかりとした大きな建物が連なるように並んでいる街並みは圧巻だった。シオンと出会ったあの町では可愛らしい花々が町の景色を彩っていたが、この町では様々な絵の入った趣向を凝らした木の看板が、町の華やかさをより引き立てている。
「王都から遠いこの辺りでは、一番大きい町だからな。王国北部一帯の商売の拠点になっているし、人の出入りも多い。その分昼間はちょっとした盗みを働く奴が割と出歩いてる。気をつけろよ。」
「わかった。」
(治安の悪い外国に海外旅行に行くような感覚ね)
ついリュックを強く握ってしまうが、背中の方を切り裂かれでもしたらひとたまりもない。宿泊先に着いたら小さくて盗まれても困らない荷物だけ持ち歩くようにしよう、とイチカは心に誓った。
二人は大きな通りから少しそれて、少しずつ閑静な住宅街が広がる場所に移動した。
「この先にしばらくお世話になる人の家がある。登録してすぐに町を離れてもいいんだが、少しだけ状況を確認しておきたいこともあるんだ。ここに数日滞在して、その人の家で・・・待っていてもらうことはできるか?」
彼が慎重に選んだ言葉から、イチカへの気遣いが伝わってきて、思わず笑顔が浮かんだ。
「もちろん!私もあまり目立つことはしたくないから、ここで新しい札でも作って大人しくしてるわ。」
「そうか・・・よかった。何かあったら必ず相談する。」
「うん、お願い。」
シオンもほっとしたように微笑みを浮かべ、さらに先へと歩き出した。
しばらく歩いて行くと、人通りがめっきり少なくなり、素朴な家々が並ぶ地域に差し掛かった。イチカがその静かな街並みをキョロキョロと見回していた時、それは突然起こった。
「おい、そこのお二人さん。ずいぶん大きな荷物を持ってるけど、それ何が入ってるのかなあ?」
すぐ先の道の角から唐突に知らない人から声をかけられる。イチカが驚いて立ち止まると、そこには三人の屈強そうな男性が、壁に寄りかかるようにして立っているのが見えた。
(怖い感じの人達ね。治安が悪いって本当だったんだ・・・)
ニヤニヤとしながら寄ってくる三十代前後の男達に、シオンは眉一つ動かさない。無表情な彼を見たことが無かったイチカは、少し不思議な感覚でその姿を見ていた。
「イチカ、リュック持ってて。」
「う、うん。大丈夫?」
「ああ。」
よくわからないままにシオンのリュックを持たされ、イチカは少し離れた場所に移動した。その間にシオンはあっさりと三人に取り囲まれていたようで、ハラハラしながら様子を窺う。よく見ると、男達は何やらナイフのようなものをちらつかせているようだ。
(一対三はまずいんじゃない!?向こうも結構ないい体格してるし、武器も持ってそう・・・大丈夫かしら?)
ビクビクしながら見ていると、シオンが少し動いたような気がして、怖くなり思わず目を瞑る。
「グフッ!!」
「ウワアア!?」
「グハッ・・・」
するとほぼ同時に三人の苦しそうな呻き声が聞こえ、驚いて目を開けた。するとそこには、何事も無かったかのように立っているシオンと、その周りでお腹や頭を抱えて倒れている三人の男達の姿があった。
「何・・・何があったの!?」
リュックを抱えてオロオロしていると、シオンが男達の一人を跨いでこちらに戻ってきた。
「リュック重かっただろ、ありがとな。」
「え!?あ、うん、大丈夫・・・。」
「じゃあ行くか。」
「・・・」
イチカからリュックを受け取り何事も無かったかのように歩き出すシオンの後ろを、倒れた男性達をチラッと見てからイチカは急いでついていった。




