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20. 相棒の名前

「ねえ、ちょっといつまで引っ張ってるのよ!?」

「美味しそうな匂いが届かない所まで!」

「・・・そこまで食い意地は張ってないわよ。」

「どうだか。」

「・・・」


 イチカは今、リュックも取られてズルズルと腕を引っ張られ、屋敷から離れている最中である。どうもシオンには『美味しい食べ物の魅力に抗えない少女』の烙印を押されてしまったようだ。


「わかった!もう逃げないから離して!歩きにくいのよ。」


 諦めた声でシオンにお願いすると、ようやく彼が足を止めた。不思議そうな顔でイチカの方を見る。


「それって、俺の相棒になってくれるってこと?」

「・・・何でそんなに私がいいのかさっぱりわからないけど。まあ・・・悪い奴じゃないってわかったから・・・少しの間なら、いいわよ。」


 シオンの表情が一気に明るくなる。リュックをイチカに返し、満面の笑顔で小指を差し出した。


「じゃあ、約束。」

「え?」

「悪い魔女は小指で約束するんだろ?はい、約束!」

「・・・わかった。」


 イチカは小指を絡ませ、指切りをする。


「あ、それといつまで経っても呼んでくれないけど、俺はシオン!呼び捨てでいいから、名前で呼べよ。『あなた』なんて言われても誰?って思っちゃうからさ。」

「・・・似てるのよね。」

「え?」

「何でもない。わかったわ、シオン。」


 シオンはほっとしたように頷くと、少し先にある店に寄りたいと言って歩き出した。


(シオン、て名前が「しょう」に少し似てるんだよね・・・)


 シオンの後ろをゆっくりと歩いているイチカは、今自分がどんな顔をしているのか指摘されなくて本当によかったと、心から思っていた。




 シオンはそれからしばらく町の中を歩いていくと、とある店に立ち寄った。そこで旅に必要なものを揃えたいと言って、イチカを連れて店内に入る。どうやらこの町から山を越える旅行者が多いらしく、この店では旅に必要なあらゆるものを扱っているのだそうだ。


「へえ、いろんな商品があるのね、ここにも。」


 以前、夫と一緒にキャンプをしようということになった時、アウトドアグッズを豊富に扱っているお店に行ったことを思い出す。その時はテントから焚き火台から調理器具まで、見ているだけでワクワクするような商品がズラッと並べられていた。


 ここは売っている商品はもちろん違うが、あの時と同じワクワクする気持ちをイチカに思い出させてくれるようなお店だった。棚にも床にもぎっしりと旅に必要なあらゆる商品が置いてある。


 シオンはまずリュックを選び、それ以外の細々したものは店内の籠に入れながら買い物を続けていた。


「欲しいものがあったら言えよ。相棒なんだし遠慮はいらない。」

「ここからどこに向かうかによるかな。山は越えるの?」

「いや、イチカが最初に向かっていた大きな町に向かう。あそこには支店があるし、まずは登録してもらわないと。」


 驚くほど軽いカップを手にしながら、イチカは頷いた。ただ、登録をすることに一つ不安があった。


「ねえ、名前ってやっぱり偽名は駄目、だよね?」

「ん?ああ、別に構わない。むしろそうした方がいいかもな。」

「え!?いいの?」


 シオンがイチカの手からカップを取り上げ、自分の持っている籠に入れた。どうやら買ってくれるらしい。


「ああ。きちんとその能力や技術を持つ者であるという証明書を発行するから、それさえ持っていれば問題ない。犯罪歴とかあるやつは刺青を入れられるからそれで確認できるし、捕まってないやつは似顔絵で一応確認が入るから、その辺りは緩いんだ。」

「そっか。『イチカ』はそのままで、姓は・・・『アオキ』で。」


 イチカは懐かしいその名前を、少し照れながら使ってみる。結婚当初は苗字が変わったことをとても新鮮に感じ、そして彼の奥さんになったんだと、幸せな気持ちになったことを思い出す。


「またそんな顔・・・わかった、その名前でいいよ。とにかくまずは登録!ちなみに複数人で常に業務を行う場合には別途グループ名を登録して行動していくことになる。信頼と実績がポイントになって、ランクが上がれば報酬も上がるからさ。俺達も相棒として・・・」

「それはまた追々ということで!」

「何でだよ!今回だってなかなか連携が取れてただろ?」

「一歩ずつ進みましょうよ、何事も。それが人間関係ででうまくいく秘訣じゃない?」

「十六歳のくせに達観してやがる・・・」


 イチカは小さくて軽い調理器具セットもちゃっかりシオンの籠に入れ、ニヤニヤしながらその場を離れて別の棚を見にいく。シオンは今籠の中に入った物は何だと確かめているようだ。


(とりあえず次の町で仕事をしてみよう。どんな仕事があるのかわからないけど、地道に、できることからやってみないとね!)


 ちょっとだけ旅を楽しみつつ、将来を見据えて準備も怠らないようにしなければ!とイチカは気を引き締めていた。



 少しして、買い物を終えたシオンから、先ほどのカップと調理器具セットを受け取る。


「シオン、ありがとう。」

「おう!・・・いいな、相棒って感じだ!」

「えー、何それ?」


 少しだけ打ち解けた彼と、今度は森ではなく街道を使って、新しい町を目指しイチカは歩き始めた。


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