19. 結末、そして旅立ちの時
「イチカ!おい、イチカ、起きろ!」
(うーん、もう朝?もうちょっと・・・寝かせて・・・)
「おい!イチカ!朝食の最高級ベーコン俺が全部食べきってもいいのか?」
「だめ!」
「食い意地の張ったやつめ・・・」
すっかり目を覚ましたイチカは、シオンの冷たい視線など気にならないほど自分の置かれた状況に心底驚いていた。
「どこ、ここ!?」
「え?俺の部屋。」
「なんで!?」
「イチカの部屋でサラが暴れたから。」
「はああ!?」
謎情報が大量に押し寄せてきてイチカはベッドから飛び起きた。眩しい朝の日差しがイチカの顔を直撃し、思わず顔を顰める。その眩しさから逃げるようにベッドを降りて自分の服装を確認した。
(ああ、ネグリジェじゃなくてよかった!)
昨日潜んでいた時のままの服装だったようで一安心したが、それよりも今聞いた話が気になって、すぐにシオンを質問責めにした。
「いったいあの後何があったの?どういうこと?いつの間に・・・もしかしてあなたがここに私を運んだの!?」
「わかったわかった!全部説明するから落ち着けって。ほらベッドに座っていいから。」
シオンに宥められ、深呼吸をして無理やり気持ちを落ち着かせてからベッドの端に腰掛けた。
「で、何があったの?」
「昨夜、というより明け方だな。あの後サラが起き出して暴れたんだ。外も明るくなってたし俺達ももう大丈夫と何の根拠もなく思ってたんだが、どうやら寝かされていた部屋でも他の部屋でもかなり暴れたみたいで、後で見たらどの部屋もグチャグチャになってた。音で気づいてウォーレス達と二階に上がった時にはもうお前の部屋が凄いことになってた。だからとりあえず俺が、椅子で寝ていたお前を無事だった俺の部屋まで運んで寝かせたってわけ。」
起きた出来事にも、そんな事態になっても目を覚さなかった自分にも衝撃を受け、イチカは青ざめた。
(確かに私、一度深く寝ちゃうと地震でも起きなかったけどさあ・・・)
「そうだったんだ・・・彼女、あのメイドを探していたのかしら。」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。屋根裏の方には行かなかったからわからないんだ。今はテレンスが医者を呼んで、薬を飲ませたようでぐっすり寝てるよ。ウォーレスは近所の魔女に対処法を聞いてくるってさっき出かけていった。」
「そう・・・ごめんなさい、役に立たなくて。」
イチカは素直に謝った。寝不足だったとはいえ、不甲斐ない自分に腹が立つ。
「バカ言うな!お前のせいじゃない!むしろ眠っていたから彼女からの攻撃を受けなかったのかもしれない。彼女のターゲットにならなかったのは奇跡だよ。俺の方こそ危ない状態の彼女と二人きりにするなんて間違ってた。悪かった。」
シオンが深く頭を下げて謝った。その姿に、イチカは少しだけ心が動く。
(いい奴じゃん。何だかちょっと見直した!)
「いいよ、もう。お互い悪かったってことでこの話は終わりにしよう。それより、もうこの件は解決ってことでいいのかな?」
「ああ。テレンスがメイドの一人と、まあその、良くない関係になっていたことがサラにバレて、彼女がよく知りもしない魔女の呪いをかけようとした。そのせいで彼女の影みたいなもの分離して、それをみんなが幽霊だと思っていたってことだな。」
「全く、最低な旦那ね。私だったら呪いなんて面倒なことせず、とっとと身ぐるみはがして家から叩き出してやるわよ。」
「・・・ずいぶん現実味がある言い方だな。」
「だから言ったでしょ、色々事情があるのよ。」
「・・・お前いくつだっけ?」
「十六歳。」
「嘘だろ!?」
「何よ、見えるでしょ?十六歳に!」
「・・・」
イチカはとにかく自分の部屋の様子を確認するため、すぐにシオンの部屋を出た。部屋はかなり荒らされていたが、荷物は無事だったようでほっと胸を撫で下ろす。
お湯をもらって顔を洗ってから階下に降り、食堂で噂の最高級ベーコンとスクランブルエッグ、カリカリに焼いたトーストを堪能した。
食事を終えて部屋に戻ろうとしたイチカをちょうど外から帰ってきたウォーレスが呼び止め、応接室に案内された。中に入るとシオンがすでにソファーに座っていた。
「イチカさん、昨日はうちの使用人達が大変迷惑をかけましたね。申し訳なかった。」
イチカは明らかに身分が上の方から謝罪を受けたことに動揺し、手をヒラヒラさせながらそれを止めた。
「いえ、お気になさらないでください!勝手に来て、突然滞在させてもらった身ですから、何があっても自己責任です。それよりも私が変に探ってしまったせいで逆にご迷惑をお掛けしたんじゃないかと心配で・・・」
ウォーレスは不安そうなイチカの顔を見て笑う。
「ははは、シオンに調べてくれと依頼したのは私です。迷惑なわけはない。真実がわかってむしろ安心しました。あなたのおかげです。ありがとう!」
「いえそんな!私なんて迷惑かけただけのようで・・・」
シオンが立ち上がってイチカの肩に手を置いた。
「お前は俺の相棒なんだから、やるべきことをやってくれただけだろ?ウォーレスもそれはよくわかってるから気にするな。」
イチカは肩に置かれた手をそっと払いのけて、ウォーレスに笑顔を向けた。
「それならいいんです。あの、二日間大変お世話になりました。それと、最高の食事を、ありがとうございました!!」
イチカが深々と頭を下げてお礼を言うと、ウォーレスは思わず噴き出してしまった。
「ぷっ、アッハッハッハ!!君は本当に変わった女の子だね!もしシオンに愛想を尽かしたらいつでも遊びにいらっしゃい。もっと良い仕事を探してあげるよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます!じゃあ早速・・・」
シオンがイチカの後ろから両肩をがっしり掴んで後ろに引き寄せた。
「ダメだダメだ、俺の相棒だぞ!全く、食べ物が美味いからってお前も釣られるんじゃない!さあ、行くぞ!!」
「あ、ちょっと!メイヤー様、ありがとうございました!お邪魔しました!!」
イチカは引きずられるようにして部屋に戻り、リュックをシオンに抱えられたまま、ズルズルと引っ張られてその屋敷を後にした。




