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18. 大きなお屋敷と怖い噂⑤

 そしてその夜。屋敷に住む者たちが寝静まった午前二時頃。


 イチカは仮眠を取った万全の状態で、少し前から準備をして二階の廊下に待機していた。さすがにネグリジェというわけにもいかず、いつでも動けるよう私服に着替えて柱の影に潜んでいる。


 大きいガラスのランプは危ないので、今は蝋燭が入った小さめのランタンを一つ持っている。あまり明るくはないが無いよりはましだ。


 誰かが接近するまでは光でばれないように火はつけていない。魔女の力だろうが神の力だろうが火は勝手には着かないので、マッチを借りてある。


(電気が無い生活にもだいぶ慣れたとは言え、やっぱり不便よねえ・・・)


 イチカはいつでも蝋燭に着火できるよう準備して、あとはじっと何かが起こるのを待った。


 何が起こるかわからない状況に緊張はしていたが、絶対原因を突き止めてみせる!という変な使命感のお陰でアドレナリンがガンガン出ているのか、怖さは全く感じなかった。



 さらに十五分位そこでじっと待っていると、何やら階下から物音が聞こえてきた。


 コツ、ズッ、コツ、コツ・・・


 廊下を誰かが歩く音だ。だがもう使用人達は全員寝ている時間帯だし、シオンやウォーレスは二階の部屋で就寝中だ。だとしたら・・・


(音が近づいてきているってことは、階段を上がっているのかしら。よし、マッチは準備万端!いつでも来い!)


 手にマッチを握りしめた状態で緊張して待っていると、ふわっと左の肩に何かが触れる気配がして、さーっと血の気が引いた。


(嘘?今後ろに誰かいるってこと!?本当に幽霊?嫌だ怖くて振り向けないんですけど!?)


 イチカは震えながらも意を決してゆっくり左後ろを振り返ってみた―――



「よお。こんな遅い時間に何してるんだ?」


 そこには、小声のシオンが小さな蝋燭を手に、イチカの後ろにしゃがんでいる姿があった。


「・・・ちょっと!驚かさないでよ!!もう、今大事なところなんだから。その蝋燭の火も消して!」


 心底焦った自分の恥ずかしさを紛らわせつつ、突然現れたシオンに怒りを向けて火を消させた。シオンがふっ、と息を吹きかけて火を消すと、辺りに少し蝋燭の匂いが漂う。


「まさかお前も潜んでいるとは・・・」

「しっ!誰かが上に上がってきてるの!」

「あ、本当だ。」


 そしてそのまま暗闇の中で、音が近づいてくるのを二人でじりじりと待つ。


 コツ、ズッ、コツ、ズッ、コツ、ゴン!


 最後の、それまで聞こえてこなかった鈍い音は、明らかに二階で聞こえた音だった。イチカはスッと立ち上がり、マッチで蝋燭に火をつけて近くを照らした。ついでにシオンの蝋燭にも火を着ける。


「ん・・・?うわっ、あんた何してんだ!?」


 かなり薄暗い光に照らされた二階の廊下には、太く大きな棒を引き摺って歩く、真っ黒な女性の姿があった。


「うう、ああ・・・」


 言葉にならない呻き声を発しながら、その女性はまだ上へ進もうとしている。シオンが蝋燭をイチカに手渡し、慌ててその棒を奪おうとすると、彼女は髪を振り乱して暴れだした。


「うあああああ!あああああ!!」


 叫び声が屋敷中に響き、その声で目を覚ました使用人達が、ランプや蝋燭を手に二階に降りてきた。彼らの部屋はどうやら屋根裏の方にあるらしい。


 あれほど重そうな棒を軽く振り回す姿はどう見ても異様だった。それでも本気を出したシオンにどうにか押さえつけられて、女性は泣きながら地面に臥せってしまった。


「ああ、サラ・・・」


 最初に彼女に近寄ってきたのは、一階から上がってきたテレンスだった。


「イチカ、彼女がメイド長のサラだ。とにかく今はどこかの部屋に寝かせよう。俺が連れていくから、彼女をしばらく見張っててくれ。」

「うん、わかった。」

「テレンス、後でウォーレスと一緒に話がしたい。いいか?」

「・・・はい、かしこまりました。」


 憔悴した様子のテレンスは、何もかも諦めたという表情で、部屋から出てきたウォーレスの側に近寄っていった。シオンはサラをゆっくりと立たせると、腕を支えながらとりあえず空いている二階の部屋へと連れていった。イチカはその後を追う。


 空いていた部屋のベッドに彼女を寝かせると、後は頼んだと言ってシオンは部屋を出ていった。


 イチカは、月明かりと蝋燭の光で微かに見える彼女のやつれた頬を見ながら、小さくため息をついた。シオンの蝋燭の火は騒ぎの中で消えていたので、今はランタンの蝋燭の光だけが揺らめいている。


 数分そこでじっと座って彼女を見ていると、小さなノックの音が聞こえて、ドアの方を見る。


「お客様・・・失礼します。」


 それは昼間に話をしたあのベテランのメイドだった。ランプを持って入ってきた彼女の表情は暗い。


「もう少し近くに来てもらえます?・・・それで、何か私に話があるのかしら?」

「はい・・・あの、私・・・」

「彼女の狙いはあなただったの?」

「え!?」


 イチカはサラの顔を見た。


「あなたがテレンスさんとどういう関係なのかは知りませんけど、サラさんがあなた達の関係を疑ったのは間違いないと思いますよ。」

「やはり・・・そうだったんですね。」



 実はシオンと話をした後、イチカは他のメイド達にも探りを入れていた。最初に話をした若いメイド繋がりで他のメイド達とも仲良くなり、すっかり打ち解けて話すうちに、このベテランメイドとテレンスのあってはならない噂話にまでたどり着いたのだった。


(やっぱり女性はどの世界でも、噂話が好きよね・・・)


 そして今夜、もしかしたら彼女を襲いに行くのではないかと踏んで二階で隠れて待っていた、のだが・・・



「でもどうしてサラさんが魔女の呪いをかけていることをあなたが知っていたんですか?」

「テレンスさんから、そういう本を最近隠し持っていると聞いていたんです。様子もおかしかったし、幽霊騒ぎも起きて、もしかしてと・・・」

「なるほど。」

「でもまさか直接襲いに来るなんて・・・」


 イチカは念のためサラが起きていないか確認した。どうやらかなり深く眠っているようだ。


「魔女の力も経験も無い人が、本の知識だけの儀式でどうこうできるわけないですから。呪いをかけてはみたものの失敗して、彼女の思いだけが分離して幽霊のように歩き回ってたみたいです。結局あなたを呪うことができなかったので、思い余って直接危害を加えようとしたんでしょうね。」


 彼女は俯いて黙り込んだ。


「とにかく、あなたは彼女から離れていた方がいいです。少なくとも今夜は。鍵を閉めて、外に出ないようにしていてください。いいですね?」

「はい、わかりました・・・。」


 小さな声で返事をしたそのメイドは、青い顔のまま部屋に戻っていった。そして再び、部屋には薄暗さと静寂が訪れた。


 イチカは窓の外に浮かぶ月を見ながら、哀しい女性の想いに心を寄せつつ、その夜はそのままそこで静かな夜を過ごすことになった。


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