13. 小さな魔女と仮の相棒
イチカはリュックを背負うと、もう一度森に逃げ込もうとしたところをシオンに捕まえられてしまった。
「はーなーしーてー!!」
「なんでそんなに頑なに拒絶するんだ?旅するなら一人より二人だろ?」
リュックを掴んだまま離さないシオンを睨み、イチカははあぁと大きなため息をついた。
「もう、何なんですかいったい!私は一人で旅をしたいんです。いつまでつきまとう気ですか!?」
「だから、俺と仕事をするって言ってくれるまで。」
「・・・仕事って何ですか?」
「色々だよ。俺は比較的何でも請け負うから。そこにお前のその野生の勘と、とんでもない力を持つあの魔女の札があれば百人力だよな!」
「そんな期限のない仕事受けられません。」
「相棒になってくれって言ってるんだからそりゃ一個の仕事で終わりってことはないだろ?」
「相棒?あなたと!?『お前』なんて言う人となんて無理に決まってます!」
「それはさ、なんていうかほら、イチカに愛着が湧いているっていうか・・・まあ硬いこと言わずに!」
イチカはジロっとシオンを睨むと、心身共に疲れ切った彼女は木を背にして座り込んだ。大きな木の根元は少し湿ってひんやりしていた。
「はあ。もう疲れた。あなたと話してても埒が明かない。あなたは絶対諦めないし私もあなたと一緒なんてお断り。・・・やっぱりここは大人のあなたが身を引くべきでは?」
「俺はお前の中身が子どもだなんて信じてないよ。これまでの言動も、さっきの・・・涙も。絶対に年齢、誤魔化してるだろ?」
(何でこの人こんなに執着してくるのかな・・・どうにかして離れないと・・・)
イチカのそんな考えもお見通しなのか、彼女の隣に座ってシオンが追い込みにかかる。
「いいじゃん、ちょっと背が高い男がいると高い所のものを取るのに便利だし、あんな恐ろしい札使わなくても俺がそれなりに対処できる。口喧嘩したいならいつでも買うし、地図がなくてもあちこち案内できる。ほら、便利に俺を使ってみてよ。それでだめなら次の町で一緒に過ごしてから別れる。どう?」
イチカの顔を覗き込むようにして魅力的な提案をしてくるシオンに、ついに白旗を揚げた。
「わかったわよ。でもやっぱり無理って判断したら、本当に次の町でお別れすると約束して。」
「わかった。約束だ。」
シオンが拳を突き出す。イチカはその拳を優しく払って小指を突き出した。
「小指出して。」
「え?」
「いいから早く。」
「こう?」
イチカはその小指に自分の小指を絡ませて日本語で歌う。
『指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った!』
「こわっ!!何か変な呪文かけたのか!?お前悪い魔女か?悪い魔女なのか!?」
「そうよ、だから約束は守って。その代わり私もあなたを信頼できると判断したらちゃんと考える。それでいい?」
「お、おう。」
シオンは自分の小指を何度も眺めながら「何の呪いをかけたんだ!?」と不安がっていた。
森を出て、先ほど馬車が襲われていた道に戻る。シオンが横に立つと、イチカは自分が小さくなったような錯覚に陥った。
「背、高いのね。」
「ん?ああ、そうだな。お前と四年前に会った時よりだいぶ伸びたから。そういうイチカは相変わらず小さいな!」
イチカより二十センチ以上は背の高いシオンの手で、帽子の上から頭をグリグリと撫でられる。
「ちょっとやめてよ!今は友達でも相棒でもないんだから。あと子どもじゃないんでしょ、私は。」
「あれ、結構根に持ってる?大丈夫だって、見た目は可憐な美少女だからさ。」
「それはどうも。中身も負けてないけど。」
「そう?まあいいや。このまま行くとウェステルだな。あそこは商会の支店は無いけど知り合いは住んでる。旅の支度も最低限できそうな店もあるから、ちょうどいいかな。」
イチカは地図をリュックのポケットにしまうと、帽子を直してシオンの横を歩く。彼はかなり足は速いはずだが、イチカに歩幅を合わせてくれているらしい。
「お、俺の案内に任せてくれる気になった?」
「だって道を知っている人がいるなら地図を見るなんて無駄じゃない?無駄なことをして体力を奪われたくないの。」
「ごもっとも。じゃ行きますか、小さな魔女さん?」
「はいはい、今だけの相棒さん。」
二人はそのまましばらく、黙々とウェステルという町までの道を歩き続けた。
一時間ほど歩くと、低い木の柵で囲われた町らしき場所に到着した。のどかな農村地帯に少し店が並んでいるような小さな町だったが、大きな荷物を背負っている人はそれなりに歩いているようだ。その向こうには大きな山々が連なっているのが見える。
「ここがウェステル?」
「そう。小さいけど良い町だよ。山の向こうに行く人達の最後の町にもなるから、案外店もあるしね。さて、だいぶ日も傾いてきたし、今夜は知り合いの家に泊めてもらうか。」
「え?そんな急に泊まりたいなんて言って迷惑じゃない?」
「大丈夫だって!イチカは心配性だな。ま、だめでも宿はたぶん空いてるよ。ほら行くぞ!」
(おかしい、私一人の旅の予定が、なんでこの男のペースに巻き込まれてるんだろう?)
イチカは重い頭を抱えながら、中身だけは年下の、嬉しそうに歩く彼の後を追いかけた。




