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12. 必要なのは用心棒?

 その店のオムレツは絶品だった。香ばしい焼き立てパンもついてきてイチカの喜びはさらに膨れ上がった。どれも思わずうめいてしまうほど美味しく、特にオムレツは前の人生でも何度かチャレンジしたが、こんなにふわふわに仕上がったことは一度もなかった。


(今度もう一回チャレンジしてみよう!)


 変な対抗心を燃やしているうちに、つい昔の癖で手を合わせて「ご馳走様でした」と言ってしまった。


「・・・何それ?おまじない?」


 シオンには怪訝な顔をされたが、何でもないですと言ってお水を飲んで誤魔化した。




「おじさーん、おいくら?」


 奥の方に声をかけると、今度は奥さんらしき明るい表情の女性がやってきて、支払いを済ませた。


「最高のオムレツとパンでした!」

「そうだろう?またおいで!」

「はい!あ、あとお水って分けてもらうことできますか?」

「いいよ!裏に井戸があるから、好きなだけ持っていきな!」

「ありがとうございます!」


 そんなやりとりをシオンはただじっと見つめていた。



 外に出て井戸で水をもらい、振り返ると再び彼が立ち塞がった。


「で、これからどうするの?」

「あなたにお話する必要はありません。」

「女の子の一人旅なんて無謀だろ?俺は結構役に立つと思うけどな〜。」

「それよりさっきの女性がまたフラフラしてるって言って怒りますよ。早く帰ったらどうですか?」

「ああ、大丈夫大丈夫。あんなのいつものことだから。俺なんかいなくても本当は平気なんだって。あ、それともやきもち?」


 イチカは冷たい目でシオンを睨む。


「なんでたいして知りもしないあなたのためにやきもちを妬かなきゃいけないんですか。くだらないこと言ってないで早く離れてください。」

「えー、絶対俺が必要になるって!ねえ、どの町まで旅するつもり?お勧めはねえ・・・」


 ため息をつくのも勿体無いと、イチカはむしろ息を大きく吸って歩き出した。後ろについてくる気配を無視しながら先に進む。



 次の目的地はとりあえず隣の町。そこでなんとか彼を振り切って、町以外の場所に一旦逃げたほうがいいかな、とイチカは考える。そんな彼女の考えを知ってか知らずか、シオンが楽しそうに声を掛ける。


「あ、そういえば隣の町って結構今荒れてるらしいよ?最近あの町を管理している領主が世代交代して、だいぶ治安が悪くなってる。やっぱりこういう時こそ、用心棒が必要じゃない?」

「いえ、自分の身は自分で守れますから。」

「強情だな!」

「あなたこそしつこいですね!」


 そこからしばらくはお互い黙ったまま、少し距離を離して歩き続けた。




 そして村を出て再びさっきの街道にたどり着いた時、そこを通りかかった豪華な馬車の中から、女性の声が聞こえた。


「シオン?シオンじゃないの!」


 馬車についている小さな窓が開き、貴族であろう女性の顔が覗いていた。シオンは足を止め、少し道の端に寄った馬車に近寄っていく。


「これはミレイナ様、ご無沙汰しております。」

「シオンに会えるなんてついているわ。さっきレオンに会ったらまた逃げたって怒っていたわよ?」

「いいんですよ。彼ももう一人前なんです。僕がいなくてもできることの方が多い。少し突き放した方がいいんですよ。」

「まあ、そんなこと言って、あなたがフラフラしたいだけなんじゃないの?」

「これは手厳しい!」

「・・・あら、あの子、だいぶ先に行ってしまったみたいだけどいいの?あなたの連れじゃないのかしら?」

「あっ!」


 シオンが気づいた時には、もうイチカはかなり先まで進んでいた。姿が見えるうちに追いつかないとと思い、馬車を見上げる。


「シオン、行きなさいな。私の方はまた連絡するわ。あなた近々どこかの支店に顔を出すのでしょう?近場には全て連絡取るから、気にせずあの子を追いかけて。この辺りを一人で歩かせるなんて危ないわ。」

「ありがとうございます。では、失礼いたします。」


 そしてシオンは自慢の足で、彼女の後を追っていった。




 イチカはその頃、街道から逸れて森の中に隠れていた。シオンをやり過ごしてから街道沿いを進むか、このまま森を抜けて別の町に行くか、地図を開いて頭を悩ませる。


(この森を抜けると・・・大きい町はないけど、ウェステルっていう小さな町がありそうだよね。その町からだと山は越えなきゃいけないけど道はいくつか繋がってるみたいだし、他の場所にも行きやすそう。とりあえずここに行ってみるか!)


 イチカは決意して立ち上がり、地図とコンパスを持って森の中を歩き出した。




 しばらく歩いていくと、小さな川が流れている場所に行き着いた。地図には載っていないほど細い川なのか、それとも迷ったのかと不安になったが、結局自分の勘を信じることにして前に進んでいく。


 罠の掛け方や鳥の締め方、獣の血抜きの仕方などは教わってきたが、できればやりたくはない。基本は保存食である干し肉を食べつつ、必要な野菜や果物などは森から少しずつ頂いて進もうと決めている。そのためイチカは無駄な動きをして体力を消耗しすぎないよう、道を選んでゆっくり歩いていった。



 二時間近く歩いてようやく森を抜けようとしたその時、目の前の細い街道で何やら揉め事が起きていた。


 ガラの悪そうな男達が数人、幌のついた馬車の前で何やら騒いでいる。馬車に乗っている男性は小さいナイフを振り回しながら、男性を引き摺り下ろそうとしている男達を威嚇していた。


「おい、早くその荷物を寄越せ!!いいから降りろ!!」

「お願いです、やめてください!これを奪われたら私達家族はもうこの冬を越せません!!どうか見逃してください!!」


(え、何、強盗!?しかも荷物って、あの幌の中の箱全部奪う気なの?)


「お前の事情なんぞ知らねえよ。ほら、そんな小ちゃいナイフなんか役に立たねえから怪我する前に早く降りろよ!」


 男達は長い棒や大きなナイフか短剣のようなものを持ち、ニヤニヤしながら馬車の男性を脅していた。



(うーん、どうしよう。札はあっても経験がない。とりあえず自衛しながらあの人に何とかして札を渡さないと!)


 イチカはリュックを下ろして少し離れた藪の中に隠し、守りの札を二枚握りしめたまま飛び出した。



「何してるんですか?」


 笑顔で近寄ってくる少女に、男達は全員毒気を抜かれたかのようにぽかんとしている。笑顔を絶やさないまま馬車の上の男性に近寄り、「お兄さん、これあげますね。しっかり握っててください!」と言いながら、ハート型の札をその手の中に握らせた。


「おい、何してる?何を渡した!?」


 強盗一味の一人がそれに気づいて近寄り、イチカの肩を掴んだ、と思ったその瞬間。


「うわあああああぁっ・・・!?」


 その男は森の奥へ吹き飛ばされていく。必然的に彼の叫び声も遠くに消えていった。


「な、何をした!!」


 もう一人の男もイチカに触れそうになった途端吹き飛んでしまい、それを見た残りの男達は恐れをなしたのか、散り散りになり逃げていく。


「はあ。よかった。一人にしか効果がなかったらどうしようかと思った!防御しかできないってのも不安よね・・・」

「あの・・・」


 イチカがその遠慮がちな声に気がつき振り返ると、馬車の上の男性が涙目になりながら札をイチカに差し出していた。


「これ、お返しします。あの、ありがとうございました!でもちょっとこれは怖いんで結構です!すみませんすみません!!」


 そう言って何度も何度も頭を下げながら、幌馬車はあっという間に遠くに走り去っていってしまった。



「・・・何それ!?私が悪者みたいじゃない!!」

「まあ、あれを見たらそりゃビビるわな。」

「・・・」

「俺間違ってたわ。お前に必要なのは用心棒じゃなくて常識を教える人間だな!」


 振り返るとそこには、やはりシオンが立っていた。


(もうだめだ。本当どうしてくれようこの人!!)


 イチカは目も合わさず、茂みの中に隠したリュックを取りに、一旦森に戻った。


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