口は災いのもと
聞くに耐えない。
まさにそんな話だ。
人を悪く言うのはとても醜い。
悪意のある嘘なら尚更だ。
往来でよくここまでペラペラと飽きることなく話せるものだ。
途中から防音の魔法を周囲とチェルシーに掛けておいた。
別な事を考えているようだから良いだろう、聞かせる価値もない話だし。
しかし、他所様のメイドの悪口をよくこんなに言えたものだ。
どれ程嫌いな相手でもここまで出るはずないだろう。
捏造にも程がある。
ルドは信じないが、もし信じてしまう者が居たら言われた方は仕事を失う。
主の信用が無くなっての解雇なら紹介状も書かれず、次の雇用先も見つからず下手したら街を彷徨う羽目になる。
一時の快楽の為に人を陥れるなんて、言語道断だ。
「よく、わかりました」
大きく頷き、チェルシーに掛けていた魔法だけ解く。
口汚い話は終わりだと。
「あなた方は大嘘つきの大罪人だと」
それはとても低く、冷たい声だった。
何やら考え事をしていたら、聞こえてきたのはルドの声。
セクシーとも言える、珍しく感情の乗った声だった。
自分に向けられたら泣いちゃうけど。
ほらぁ、三人とも気を失いそうな程青褪めてるよ。
「俺は嘘が嫌いです。人を貶める嘘は殺してやりたいほど嫌いです。嘘によって父は罪人とされ、裏切られ、殺されたからです」
ハッとする。
そう言えば二人には深い事情があるとだけマオに教えてもらった事があった。
その為に故郷にいられなくなったと。
「他にも似たような形であなた方が陥れた者がいるかもしれないので、この件は然るべきところに報告させてもらいます。それと…」
チェルシーを抱き寄せてはっきりと言い切った。
「あなた方が散々嘘の悪口を言っていたチェルシーですが、俺の婚約者です。なのであなた方をけして許しませんから」
驚きに目を見開く三人を後に、ルドはチェルシーの手を引いて通りに出る。
辻馬車があるところまで、何も話さず歩き出した。
チェルシーは先に馬車に乗せられ、ルドが御者に行き先を告げるのと代金の支払いをしてくれた。
今日で一体いくら使わせてしまったのだろうか。
「お金、払いますよ」
ルドが馬車に乗ってきたのでそう伝える。
「気にしなくて大丈夫ですよ、俺が乗りたかったので」
「そればかりではなく、カフェとかお土産とか、あたしばかり払ってもらったんじゃ不公平ですわ」
「そちらも俺が払いたかったからいいんです、楽しかったです」
ようやくルドは笑顔を見せてくれた。
良かったわ。
「お土産と言えば収納魔法。あれ使えるなら最初から重い荷物ずっと持ちっぱなししなくても良かったのじゃないでしょうか?重かったですよね」
最初から使えばいいのにと気づく。
あたしは魔法を使えないからその存在を忘れるけど、ルドが忘れるとは思えない。
「好きな女の子の前では力あるところを見せたいじゃないですか」
無自覚でそういう可愛いことを言わないで頂きたい。
あと女の子って年じゃないから、普通に照れるわ!
何でも誇張して話せるって、ある意味語彙力が凄いですね。
火のない所に煙は立たぬ、とは申しますが、焚火ばりに立たさせられることもしばしばあるような気がします。
噂通り滅茶苦茶だった人もいれば、優しい人もおりました。