大好きな人
良い職場っていいですね。
「で、昨日は誰が首謀者?」
翌朝になって逃げようとした三人を引き止めた。
今日は仕事なのでミューズ様が起きる前にはっきりさせないと間に合わなくなる。
幸い三人とも早起きだし、大概庭で鍛錬だの散歩だのしているからすぐ捕まえられた。
「せーので指差ししなさい。せーの!」
ルドは二人を。
マオはライカを。
ライカはマオを。
予想通り過ぎて、笑えちゃう。
「さてルド。どんな経緯だったの?」
一番嘘をつかなそうなルドから行こう。
「まず街に行く頃にライカから通信が来ました。チェルシーも街に買い物に行っている、良い機会だから二人で回ったらどうだと行きそうなお店を大体教えて貰いました。会った頃には買い物が終わってて残念でしたが、荷物持ちくらいは出来て良かったです。
教えた報酬にその日の内に告白することと言われました」
こいつら通信石って物でしょっちゅうやり取りしてるけど、魔力のないあたしは使えないし持ってないし、本当にズルい!
「その後はマオからも通信が来て、チェルシーは甘いものが好きだからお店に行って自由に食べさせると幸せな笑顔が見られますよとアドバイスを受けまして。報酬は告白の返事をあなたに秘密で教えて欲しいと言われたのです。ダメだとは思ったのですが…」
本当に幸せそうに食べる姿が可愛すぎて約束を反故に出来なかった、と俯いてしまった。
嘘つきのマオに嘘を言うことも出来ないものね。
うん、ルドってそういう人。
「はい、ではライカ。何故そんなことした?あのパーティはお前か?」
マオよりは話し下手なライカを選ぶ。
こちらの方がまだ手短に話すからだ。
言葉が荒いって?
ミューズ様の元に行くのに遅れるわけにいかないから焦ってるのよ!
早く制裁を下すために事実確認しなきゃ!
「いやぁもちろん二人を応援するためにな。街に行っても会えなかったら意味ないだろ。行きそうなところを事前に教えられたからデートも出来たんだ。感謝しろ」
あれも計算だったのね。
悔しいけれど、運命って思ったのに。
「パーティは、皆の希望だ。お前自分の噂知らなかっただろう?俺は付き合ったのわかったら即教えろって脅されてたんだ、嘘ついたら飯抜きって」
あんな過酷な訓練をする成人男子のご飯を抜くって、さすがに可哀想になるわね。
でも首謀者っぽくないわ。
「で、マオ。全部話してくれる?」
「いいですよ」
さらりと言うマオは全く悪びれていないわ。
「前述の通り、ルドとライカの通信後に僕が通信したです。甘いものが好きだから付き合ってあげてほしいと、その後は仕事だし通信を切ろうかなとはしたのですが、うっかりして切り忘れたです」
「?!」
「ホントうっかりうっかりで。こちらの音声だけは切っていたのですが、その後僕はティタン様と共にお仕事をしなければならず忙しくて。今日は調子が良いというミューズ様を執務室に誘い、三人で傾聴…いえいえ仕事に励んでいたのですよ」
「おい、吊り目」
殴ろうとするが、全く当たらない。
「何やら甘い会話を聞いたような気がして、紅茶も進んだのです。今度僕がお礼にあの店でご馳走します」
「メニュー全部奢りでも詫びには足りないわよ」
捕まえたと思ったらするりと逃げられた。
「ルドがお土産を買ってる際に通信が改めて来たので告白の返事は直接教えて貰ったのです。祝杯の準備となりました。
その後何やら不穏な空気を察してミューズ様にはお部屋に戻って頂こうとお送りしてたのです。
帰ってくると僕の通信石を預けていたティタン様が険しい顔をしていました、不思議な事もあるのです」
あの三人の事ね。
ティタン様が注意してくれるのは有り難い。
「その後はまぁ祝杯の準備で忙しかったので知らないです。それくらいしかしてないので、チェルシーが怒るような事は何もないと思うのですが?」
「怒ることが有りすぎて怒る気力もなくなったわ」
朝からの疲れに座り込んでしまいそうだ。
盗み聞きしておいて、悪びれもしないなんて、さすがマオ。
「からかうにしても度を越してるのよあなた達…一体あたしが何したって言うの?」
「大親友なので、精一杯お祝いしたかったです」
悪気のない言葉。
またご冗談を。
「僕は生まれも育ちも酷く、生きるために人を殺したです。ルドもライカも父親が罪人とされ投獄され、拷問も受けたです」
初めて聞いたし凄く重い話だし、これから仕事なのに今言う事なの?
「そんな僕達に普通に接してくれたのはチェルシーが最初だったのです。今屋敷の者達と仲良くなれてるのはチェルシーのおかげです。皆と僕達を繋いでくれた大切な人なので、頑張ろうと思ったです」
そうだったかしら?
お喋りだったことは覚えているけど、皆を巻き込んで話してただけじゃない?
「なので式も張り切るので覚悟するですよ。では僕達仕事なので行くです。ルド、ライカ、走れ!」
その言葉をきっかけに脱兎の勢いで走って逃げられた。
説教を受けたくなかったのであろう。
「余計なことは二度とするなーー!!」
ルドは押さえられても二人は聞く気が無さそうだ。
後でミューズ様にお願いしなくては。
ティタン様にも話せばきっと抑え込めるわよね、この屋敷の主がなのだから。