休日の朝
甘々な話となります。
ハピエン、ご都合主義なお話の為、ご理解下さい。
「ん…?」
カーテンから漏れ出る朝日を感じ、ルドは目を開けた。
薄暗い部屋の中で天蓋付きのベッドに寝ていた。
見慣れない部屋だなと思ったが時間が経つにつれて頭がはっきりとし、思い出してきた。
「そうだ、今は実家だ」
普段ルドは主であるティタンの屋敷にて住み込みで働いている。
今日は休みだったので、母の様子を見がてら昨夜から帰ってきていたのだ。
まだ早い時間なので、庭に出て柔軟や素振りをする。
同じ時間に屋敷では主と双子の弟が揃って鍛錬を行なっているはずだ。
騎士として日課の鍛錬は欠かせない。
「坊ちゃまおはようございます。早起きですね」
声をかけたのはメイド長のアンネだ。
「坊ちゃまはそろそろ卒業したいですね。少し恥ずかしい」
「ならば早くお嫁さんを見せてくださいな、坊ちゃまの良い話を皆早く聞きたくてうずうずしてるのですよ」
ルドは苦笑し、汗を拭う。
「耳が痛いですね。ずっと騎士として邁進して来たので、この年になってもそういう話はさっぱりです」
「あらまぁ。そうは言いつつも縁談の話は来てるじゃないですか。その方々と会うのもいいかもしれませんよ?」
「そうですね…」
あまり乗り気にはなれない。
主であるティタンが大恋愛の末に結婚したのだ。
間近であのような成功例を知ると、なかなか釣書に手が伸びづらい。
「坊ちゃまの主であらせられるティタン様もご結婚なされたのですから、ぜひルド様とライカ様の良き話を期待していますわ。ささっ、朝食が出来ましたのでお越し下さい。湯も用意出来てますので、先に湯浴みをしてから食堂へ来てくださいね」
双子の弟ライカも独身なので、心配なのも、まぁわかる。
少し申し訳なく思うが、仕方ない
「えぇ、すぐ行きます」
浴室へ向かい汗まみれのシャツを脱いだ。
頭からお湯を被り、髪と体を洗って汗を流していく。
赤髪からはポタポタと水が垂れ、鍛え抜かれた体に滴り落ちていく。
「母が待ってるな…」
ルドは身支度を自分で行なう。
そこまで身分が高いわけではないし、感覚的にも庶民に近いので誰かに体を見られたりするのは単純に恥ずかしい。
タオルで髪を拭き、水が垂れない程度に火魔法で乾かしていった。
暑いシェスタ国で育ったルドは若干の火魔法なら使える。
白いシャツと黒のスラックスを身に着け、食堂へ向かった。
「おはよう、ルド。昨夜は良く眠れましたか?」
「おはようございます母上、ぐっすりと休めました。アンネや他の皆がいつも部屋の準備をしてくれてるのでありがたいです」
ルド達の休日は不規則だ。
それなのにこのように毎回準備がされてる事から、常に気を配ってもらえてるのがわかる。
「あなたはここの当主なんだから、いつ帰ってきてもいいように完璧にするなんて当たり前よ。ライカにももっと顔を出すように言って頂戴」
「伝えておきます」
ルドとライカの父リチャードは、随分前に亡くなっている。
違法薬物の取締で押し入った際に部下を庇い殉職した。
だが、あろうことか捕らえた者達が、
「首謀者はリチャードだ。あいつは自分の手柄の為に俺達を売ったんだ!裏切られたから殺したんだよ」
と証言したため、ルド達家族は捕らえられてしまった。
全くの出鱈目だし、ルド達は父親を信じていた。
投獄され、しばし経つと冤罪にて釈放されたが世間の目は冷たい。
そんな中二人を拾ってくれたのはティタンだ。
シェスタ国に交流で来ていた際に鍛錬として剣を交わしていた事で、気にかけていたそうだ。
冤罪を晴らしてくれたのもアドガルム王家だ。
陥れたのはリチャードの同僚で、やっかみで行なった事だそう。
以来ルドとライカはティタンを主とし敬い、忠誠を誓っている。
「おや?そちらのメイドは初めて見ますね」
食事を始める前、メイド達の列の端にいる見慣れない女性に気付く。
「最近入った子なのよ。仲良くしてあげてね?」
「お名前は?」
話しかけられた少女はビックリしているようだ。
「トワです」
(トワ…か。シェスタにいた時の家名と似てるな)
初々しい反応に、ルドはある人を思い出す。
主の妻ミューズの専属メイドをしている、チェルシーのことだ。
最初会った時はぎこちなく他人行儀だったが、今は同僚であるマオと一緒になってライカをからかう程図太くなっている。
感情豊かでハキハキとした可愛らしい女性だ。
自然とその事が思い出され、笑みを浮かべてしまう。
「トワ、これからよろしくお願いします」
当主であるルドに笑顔でそう言われ、真っ赤になる。
「あらまぁルドの笑う顔なんて久しぶりに見たわ。トワを気に入ったの?」
「俺だって人間です。笑う時は笑います」
別な女性を考えてたとはなかなか言いづらい。
それからは母の一方的な話を聞き、黙々と食事を続けた。
子どもいると実感しますが、親ってめっちゃ心配します。