最果て
さざ波が立つ浜辺で彼女は海の方に体を向けていた。太陽はもう既に地平線の下に沈み切っていて、夜の海の奥からは闇が徐々に海岸に向かって空間を侵している。僕は彼女の後姿しか見えない。
しばらく経ってから、彼女は海との境界線沿いに歩き始めた。その足取りは重いのか軽いのか僕には判断がつかなかった。砂が足を下へ引きづりこむようにして正常な足取りを取らせてくれない。
不意に彼女が歩みを止めた。相変わらず彼女の後姿しか見えない。彼女の前に出る気も起きなかった。僕はただ急にここに連れてこられた。目の前にいる女性が誰なのかもわからない。それでも僕はこの場から逃げようとは思わなかった。なんだか彼女は僕のように思えてしまったからだ。
夜の帳はまだ向こう側にいる。
そして僅かな光が反対側から漏れ出していた。