《バタースコッチパイの作り方》【3】
「……………長い」
俺がベッドに横たわってから、もう1時間は経過したのに、一向に医者が来る気配がない、一体なにをしているんだ、予定よりも30分遅れるなんて。
…いや、もしかして俺忘れられてる。
そ、そんなわけないか、大人しく待っておこう。
「しかし…暇だな、ダンスしたいけど、病室だしな、まず怪我してるしな
と言うか…誰かお見舞いぐらいこいよ!!なんで誰も来ないんだよ!!」
もしかして俺、そんなに嫌われてる、それとも連絡がまだ通ってないのか…うん、そう思っておこう。
別に友達が少ないとか、俺が仲間だと思ってるだけとか、別にそう言うのじゃないし、連絡通っってないだけだし。
そう…考えておこう。
「………………」
しかし、暇だ、本当に暇、誰も来ないし、何もできない。
仕事中は入院してぇ、とか言ってたが、実際入院したら暇すぎて仕方がない、さっきから時計の針を見ても、なんも楽しくない。
なにが大きな古時計だ。
話す相手も自分しかいない、もう自分でボケて自分でツッコもうかな。
「…なにが楽しいんだそれ、なにもできない、いや本を読むことぐらいはできるか」
丁度つまらなそうな本が30冊ぐらいある事だし、そんな本でも読んで時間を潰そ。
「さて、何を読も…」
俺は本棚に手を伸ばそうとしたが、絶妙に届きそうで届かない場所に、その本棚があって全然本が取れない。
なんだこれ、新手の嫌がらせか、俺に本すら読ませてくれないのか。
「…うぅ!!うぅ!!ダメだ、全然届かない、もういいや魔法使お《グラビティー》」
俺が魔法で本を引き寄せると、1冊の本が勢いよく俺の顔面に激突する。
「アベック!!
痛てて、魔法すら上手く使えなくなってる、だけど本はゲットした
タイトルは…『別世界の挑戦」?」
俺は暇潰し感覚にその本を開いた。
その本はまずなぜこの本を書こうと思ったのか、筆者の実体験を元に書かれていた。
『時々おかしな夢を見る、奇妙な建築物が並ぶ世界で、見たこともない食べ物を見る夢を、それを疑問に生きていた』
「…いや、もう少し生きる理由あるだろ」
『そこで私は夢の解析に入る事になった、まず夢というものは曖昧であり、なぜ見るのはわかっていない
1番有力なのは、寝ている間に記憶を整理しており、その整理が夢だという説
ならば、夢に出てくるあの街はなんなんだ、記憶の整理はなんの関係がある』
「…夢ね」
『まず夢の世界には魔法がなかった、そして能力もない、魔物も居ない、完全に我々の住む世界とは違う………』
と、こんな感じで夢についてツラツラと書いてある、そして最終的に別の世界があるのでは、という話になった。
この世界には龍やエルフなどの、多種多様な生命体がいる、だがそれが存在しない世界もあるのではないか、とこの作者は言いたいらしい。
「…あるんじゃない、知らんけど」
『その世界はある事の証明がしたいと考えた私は…』
「別世界ね…」
別の世界に関してはあるのではないか、とまことしやかに囁かれている、俺もあったら良いなぁ程度に考えている。
別の世界か、つもり所の異世界だが、向こうから見たらこっちが異世界なのか?どっちでも良いか。
『別世界を証明するには、自分がその世界に行けば良い、そう考えた私は研究を進めた
まず、別世界がどこにあるかだ、この世界にあるのか、もしくは地底にあるのか、それとも空にあるのか
それとも全く別の所にあるのか、逆に身近なとこにあるのか、私には全く検討がつかない、だがそんな事研究すればわかる』
「この人研究しかしてないな」
俺はそう思いながらページを捲る。
『まず地底を掘ったが、見つかったのは石油で私が求める物ではなかった
そして空を調べるために気球を開発し、調べ尽くしたが、見つかったのは神々が住む土地《楽園》跡地のみだった』
「…この人、地味にすごい事してないか」
『どう研究しても、私が求める結果は出てこない、まず私は何の研究をしていたんだ、と言うか石油でもう食べていけるし研究者なんてしなくてもいいんじゃないか
………うん、やめた、別の世界なんてあるわけねぇ』
「は?ここまで読んだのにこれで終わりかよ…いやまだページはある、多分そのページに…」
『 《バタースコッチパイの作り方》
1.バイ生地を型にセットし オーブンを175度にセットします
2. ブラウンバターを作ります。
鍋の真ん中にバターを置き中火にかけて溶かします。
3. バターが溶けたら中弱火〜中火にし時より揺すりつつ加熱をし……』
「…なんだこれ」
何かの間違いと思い、その先のページをまくるが全部バタースコッチパイの作り方レシピしか載ってなかった。
俺研究者の本を読んでるんだよな。
「…何がしたいんだこの人、結局バタースコッチパイ作っただけじゃん」
まじでなんだったんだこれ。
俺はそう思いながら次の本に手を出そうとしたが、なんか次の本もこれと同じ匂いがしたのでやめた。
「…寝よ」
トントン
眠くなってきたし、本を閉まって寝ようと思った所で、ドアを叩く音が外側から聞こえ『失礼します』と言う女性の声と共にドアが開いた。
タイミング悪いな。
「すみません遅れました」
中に入って来たのは、白い衣服を着る看護師だった、あ、よかった本当に忘れられたわけじゃなくて。
「定期検診を行いますね」
「あぁ、お願いします」
俺はパイの作り方本を適当に机の上に置き、体が動く程度で起き上がる。