ファンタジれないぼくの日常
ファンタジれないぼくらの日常
いま僕は空を飛んだ。
大きく手を広げてすごい速さで、まるで走るように飛んだ。
周囲には驚いた顔の有象無象達。
その中で飛びきり驚いた顔でこちらをみてる彼女を見つけて、僕は自分の才能に酔いしれた。
大それた事は出来なくたって必ず魔法はあるんだって、ずっと古い本を読み漁った甲斐もあるってもんだ。
彼女の隣に立つあいつが、必死の形相で僕に向かって叫びながら走り出すのが見える。
そうだ、羨ましいだろう。こんなことお前には出来やしないんだ。追いかけたって無駄だぞ。
そうして浸る優越感と一緒にくる天地の無い不快なめまい。まぁ魔法の代償としては仕方ないだろう。
それよりもあいつに勝てる力が手に入ったんだ。後はどうやって彼女をあいつから救い出すか。思わずほくそ笑んでしまう。
勝者の余裕があふれ出す僕はもう一度愛しい彼女を見て、恐怖で立ちすくむその姿をとらえる。
まぁ魔法なんて一般人からしたら恐怖以外何物でもないだろう。今度からは隠れて発動させるとしよう。
そうして勝者の憐れみを敗者に浴びせようと視線を移して、ずっと小さい頃からの腐れ縁の中でさえ一度もみたこともない形相で叫ぶあいつが僕を世界に叩きつけた。
そうして消えた景色のすぐ後。
これも魔法の代償だったのか無音だった世界に僕の名を呼ぶあいつの声が大きく響いた。
次に僕の目が映したのは白い天井。消毒臭が鼻をついて顔をしかめてしまうが、何より全身が痛くて動ける気がしない。
目玉だけ何とかスライドさせると、心配そうにこちらを見る彼女とすぐそばに手を置いて張りつめた顔を見せるあいつ。
どれだけ殴り合ったって見たことがなかったあいつの涙がボロボロ安売りされているのをみて、僕は勝者として為すことがわかったんだ。
今、ここに宣言してやろう。しっかり聞けよお前このやろう。
「ぼくの負けだよ」
しわしわに掠れた声を絞り出して、僕は魔法使いを卒業することにした。