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健診で伸びた寿命

作者: 糸田 すみれ

封を切って、ぐんぐんななめ読みして行くと、「要再検査」という文字で、全身がフリーズした。しばらくその場から動けず、カレンダーを見る。

何故よりにもよって年も押し詰まった、十二月二十六日に、がん検診の結果が届くのだろう。どの病院も明日から当分の間は閉まっているじゃあないか。

困難はつきものでも、この展開では自分を保つことが出来ない。

「検便の結果、陽性でしたので、再検査をお勧めします。ポリープが出来ている可能性もありますので、早期対応を心がけましょう」とかなんとか、そういった内容の文面と理解出来たのは我ながら立派だった。

大腸がん検診の検査結果が陽性だった事を報告出来る人が、私には自分自身しかいないというこの事実。

苦しみは自分が何者であるかを教えてくれる。

夫はすでにこの世を去り、私の家族はしっぽのある子どもが二人いるだけだ(普通の人は、私の子供を戌と猫と呼ぶようだ)

生前の夫は画家であり、古い生き方を好む芸術家であったが、戌と猫を超溺愛する縁で結婚した。

時を経て、夫は自分の描く絵の世界に入りこんでしまい、この世に還ってこれなくなった。

元々現世にいても、天上での暮らしを好む人だったので、ある日突然、天高く舞い上がって逝った。

時折天を見上げて、色々とわが身に起こった事を報告しても、空はどこまでも青く、透き通っているだけだ。


がん検診を受けるのは、毎年十二月初旬がマイルールである。

気持ちは十代でも、寄る年波には勝てず、五十代ともなれば、お正月に何かしらの楽しみがあれば、心はホッコリする。

「もういくつ寝るとお正月」のメロディを口ずさみ、「貴方は健康です」という証明書が来るのを楽しみに毎年毎年、年を越していた。

人生一度きりがポリシーで、楽しく毎日を過ごしたい。その点に於いては、割と色んな人から共感してもらえていたので、これでいいのだと思っていた。

まさかその人気を集めるポリシーが、裏目に出ようとは思わなかったので。

仲良しわん友さんにこの事を打ち明けてみると、「いきんで切れた時に、血が混じって、陽性反応が出る時があるから、そんなに心配することはないんじゃないの?」

と慰められたのか、相手にされなかったのか分からないけれど、生来白黒はっきりさせたい性格のため、病院を受診しようと決断した。ただし病院が開くのは一週間後。その間時が止まる事になった。

何をしても居心地が悪く、美しい月や星を見ても出るのはため息ばかりで、すぐにカーテンを閉めてしまう。いつの間にか顔はこわばりはじめ、せっかくのおせちも砂を噛むようだった。

という所で、二人のしっぽのある子供達の出番が来た。不安な夜が来た時、二人揃って私のお布団に潜り込んでくる。親子三人、川の字になって寝る。

ていうか、二人ともぎゅうぎゅう迫って来るので、有難いやら苦しいやらで、中々寝付けなかったのだけれど、温かく柔らかい毛皮が寄り添ってくれるので、明日を迎える事が出来た。動物は可愛がりましょう。


年が明けて念押しに検便を受けたのだが、検査結果はやっぱり陽性だったので、精密検査を受けた結果、大腸ポリープと診断された。

思い当たるのがリバウンド。思い起こせば一年前、意を決して、ダイエットに励み、5キロ痩せられたのに気をよくしたのが甘かった。

 「これくらい」「まだまだ大丈夫」と巨大なアイスパフェを週に1~2回ほど食し、幸せを満喫していたのだが、私の体内は大丈夫ではなかった。

担当医から一泊二日の入院を勧められたが、丁重にお断りし、日帰り手術で事なきを終えた。

その日の夜、絶食と言われていたのにも関わらず、自宅でおかゆさんを食べたおかげでぐっすり眠れた。


つくづく健康診断を受けるべきだと大口を開けて言いたい。放置していたら、がん化していたそうだ。幸いにも生検の結果、がん細胞は見つからず、ただの大腸ポリープだった。

白黒つけるのは、勇気がいりますが、最悪の事を考えて、最善の事をしましょう。

健康診断・がん検診は毎年きちんと受けましょう。貴方の大事な人の為に。


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