訓練
板とコンクリートで作られた迷路。ここに初めて来た時、ダリウスはそんな印象を受けた。ここは黒羊が所有する屋内訓練施設である。
ダリウスは併設された監視兼座学部屋にいた。防音装置が施されているため部屋にいるマーブと技術班の話し声がこだましている。
「監視カメラ、投影装置のチェック終わりました」マーブが髪をまとめながら言う。
この施設では、移動する標的にホログラムを投影できる。標的とホログラムのずれが極まれに発生するとはいえ、かなりリアルな訓練ができる。
「二人一組での閉所への突入、市街地での散発的な戦闘か」
ダリウスはスマートフォンで訓練内容を確認し、微かに心拍数が上がるのを感じた。
黒羊の基本的な戦闘発生地区は市街地や狭い場所になる。武装は拳銃からサブマシンガンになる。今回は敵が一般人に偽装していると考え、拳銃による訓練を主体とした。
監視部屋を出ると、二人を硬質な緊張感が包み込む。
ダリウスは保護メガネをし、拳銃を抜く。そのまま訓練の開始視点であるドアの前に行く。
「訓練も増やさないとだな」
「CIAの襲撃もありえますからね……まぁ逃げ回り、転げまわって、散発的な殺し合いを行うのも嫌いじゃないですが」マーブが朗らかで、凄みのある笑みを見せた。
強がりだとしても立派だとダリウスは思う。この赤毛の伊達男とは何年も共に働き、戦っていたが、本当にタフでマゾだ。睡眠不足と空腹の中、汗と便と尿でべちょべちょのオムツを履き、散発的に殺し合う。そんな経験を何度もしたはずなのに、嫌いじゃないと言えるのは素直に凄い。
「俺たちは殺せないさ」
ダリウスの言葉にマーブが神妙な顔をする。
「黒羊は武力行使が許されてないですもんね」
確かに武力行使は逃走時、緊急時だけと決まっている。だが、ダリウスが言いたかったのはそういう事ではないし、マーブもそれは分かっていた。
「分かっていればいいんだ、カウボーイ」ダリウスもおどけて返す。
「やりますか」マーブが言う。
ダリウスは拳銃を構え、相棒と目配せし、呼吸を合わせる。
指で突入のタイミングをカウントし、ゼロと同時に閃光手りゅう弾を隙間に投げ入れる。腹に響く破裂音が響いた瞬間、木でできた扉を蹴り飛ばし、突入する。
部屋に入る瞬間、マーブの動きの一つ一つが頭に流れ込んでくる。決められた形にはまり込むように身体が動き、収まっていく。
部屋に入る―ニキビ面の若い男が一人。その手には拳銃。肘に向けて連射。肘と腕を撃ちぬかれ、男は倒れる。そのまま部屋の奥へと進む。
銃声、火花、煙、それらが全て静寂の中に沈む。
お互いの死角を完璧にカバーしながら、標的を打ち倒していく。
黒羊は、月の訓練時間が決められており、その時間をクリアしないと部隊にいれないようになっている。むしろ、CIAとの戦いが予想される今は、訓練時間は増やされ、チェックも厳しくなる。
使用している拳銃は特殊なペイント弾が使用されており、反動や射撃時のマズルフラッシュなどは再現し、薬莢も出る。
訓練を終え、標的に当たったペイントを確認する。
訓練施設には、至る所に監視カメラが取り付けられており、映像と着弾位置からどのように射撃を行ったかを正確に確認できる。
ダリウスは、スマートフォンのアプリを起動し、一見カメラに見える画面を開く。そして、ペイントの一つを指さし、画面のピントを合わせる。すると、ピントが指とペイントに反応し、監視カメラの映像とその時の生体データが画面に表示される。射撃時の移動や、反動の吸収、実弾だった場合の当たり方なども確認できる。
「まぁまぁだな」ダリウスは指についたペイントを紙で拭いつつ、反省を行う。
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